第43話 お姉ちゃん?
唐突に俺とシエラの前に現れたシエラのそっくりさん。
「シエラのお姉さん……ではないのか?」
「……私捨てられてましたので、姉とかがいたのかどうかは分からないのですが……あの、貴方は姉ですか? 妹ですか?」
シエラがそう聞くとシエラのそっくりさんは、ため息を吐いた。おお、ちょっとがっかりした顔も似てる。
「妾が誰か、察しはつく気がするがの。姉でも妹でもない」
「え、まさか私の母親ですか? それならそれで私を捨てたので殴りたいのですが」
「違うの。妾は母親ではない」
母親でも姉でも妹でもない。となると誰なのだろうか。
「はて? となると誰なのでしょうか? 双子?」
「違うのぉ」
シエラは全く検討もつかないようだ。うーん、まさかとは思うけど災厄の魔女とかじゃないよな?
「災厄の魔女……なのか?」
「……クク、男、よくぞ見抜いた。妾はリーネ、災厄の魔女と言われた者じゃ」
──まさか、災厄の魔女だったとは
「そうでしたか……ミクスさん、この人と私似てますよね?」
「まぁ、似てるな」
「そうですか、やっぱり災厄の魔女の再来とか散々言われてましたが……正しかったのですね。本当に私は災厄の魔女にそっくりだったんですね」
しみじみと災厄の魔女リーネを見ながらシエラは呟いた。まぁ、シエラからしたら複雑な気分だろうな。
自身とは関連がなく、ただ勝手に関連づけられていたと思っていたら本当に似ていたのだからな。ただ、この人が本当に厄災の魔女であるのかというのは分からないけど。
ただ、魔族が最近になって現れたのを見ると本物であると仮定した方がいいだろうさ。
しかし、気になるのはアニメだとこの人は出てこなった。少なくとも、アニメの1クールでは出てこなった。
「あの、災厄の魔女さんが私に何の用なんですか?」
「……そうじゃの。噂を聞きつけて、足をわざわざ運んだと言っておこうかの」
「……確かにミクスさんはかなり有名ですからね。まぁ、そんなミクスさんと一緒にいる私の噂も広まったということですか」
「魔族との噂も相まって余計に大きかったと言っておこうか。それで、来たというわけじゃ」
なるほどね。アニメだとこの時点ではここまで大きく噂になっていたわけじゃないし。
アニメだと交易祭くらいまでが内容だった気がするな。そこで少し手柄を立てたりしてたし。
もしかしたら、2クール目くらいになったらこうやってシエラの噂を聞きつけてやってきたのかもしれないな。
「なるほど。それで実力も確かめようとしてたと……まぁ、いきなり襲ってきたのはあまり良い気分ではないですが……今回は目を瞑ります」
「ほほう? 随分と寛大じゃの」
「デート中なので気分が良いので」
「……その男はお主の恋人か?」
「はい! そうです!」
シエラが自信満々に言うと、厄災の魔女が信じられないと言う顔でこちらを見た。そして、その瞳には疑いの感情が混じっていた。
「……そうか。利害の一致で連んでいるのかと思っていたが。恋人か……せいぜい裏切られないように注意するんじゃの」
「ミクスさんはそんなことしません。失礼ですね」
「……どうかの? 油断させておいて、後ろから剣で斬ろうとするかもしれんぞ?」
「ミクスさんはそんなことしません! 私のダーリンを悪く言わないでください!」
「……だ、ダーリン?」
あら、厄災の魔女が大分戸惑っていらっしゃる。これはあれかな、俺も誤解を解いた方がいいかもしれない。
「俺はシエラを刺さないからさ」
「ほう? しかし、お主も変わっておるの? 厄災の魔女の噂を聞いたことくらいあるじゃろ。世界を滅ぼすために数多の生命を奪ったと言われる魔女であると」
「いや、シエラはそう言うことをしないから。今まで一緒にいたけど、世界を滅ぼすとかしないし、善行とか積んでるしさ」
「もう結婚するつもりで付き合ってるので、あまり不仲にさせる様なことを言わないでくれますか?」
あれ、結婚とかのつもりで付き合ってるわけじゃないんだけど。いや、最終的にはそうなる可能性もあるかもだけど。
やはりシエラは気が早いな。
「……信じられん。信じられん。妾は復活してから多少の町や村を歩いたが、良い顔などされんかったぞ。ほぼ同じ顔つき、こんな対応が変わるはずがない。お主、その男に魅了の薬とか使っておるのか?」
「魅了の薬!? そんなのがあるんですか! 欲しいです!」
「い、いや、知らんが……まぁ、妾の母は持っておったかもな」
災厄の魔女さん的には俺がシエラを騙しているか、シエラが何かしらの手法で俺を洗脳しているかのどちらからしい。
「……まぁ良い、妾として気になったのは力のみじゃからの」
「私の力? まぁ、まだまだ発展途上ですが……なぜ力を気にしてるのですか?」
「……それは妾が世界を滅ぼすためじゃ」
ん? 世界を滅ぼす……世界を滅ぼすと言ったのか?
シエラも流石に聞き間違いと思ったのが、目を見開きもう一度聞いた。
「えっと、世界を滅ぼすって言いました? 流石に聞き間違いですよね?」
「いや、世界を滅ぼすと言った。妾は災厄の魔女じゃぞ? 世界を滅ぼす、人間を根絶やしにし、魔族を塵すら残さず全て消す」
「……そうですか。一応冗談なのか、本当なのか判断がつかないので何もしませんが。もし、ミクスさんに手をだした場合は私が貴方を滅ぼします」
ビリビリとシエラの魔力の高まりが、俺にも伝わってくる。そして、この魔力を向けられたとしても災厄の魔女リーネは特に恐怖を感じている様子がない。
しかし、なぜと疑問を持っていた様だ。
「分からぬ、なぜ憎しみを持っておらぬ? 持つはずじゃろ?」
「……憎しみはあります。今でも私をいじめて虐げた人を全て葬ってしまいたいと思うほどには。しかし、私には今、それよりも大事な人がいます」
「……」
「ミクスさんです。だから、世界を滅ぼしはしません。私を虐げた人はもう関わりすら持ちたくないですし、次に何かしてくる様なら後悔させるほどの報復をしますが……世界すら滅ぼすことはしません」
「共感も興味もわかぬな……まぁ良いわ。魔王よりは強いが、妾よりは弱いことが分かったからのぉ。せいぜい、魔族と人間で争い、互いに消耗するが良い」
災厄の魔女リーネは無表情で、それだけ伝えるとローブを被り後ろ姿を見せた。なんか、悪い人ではない気がするんだよな。
シエラに似てるからそう思うだけかもしれないけどさ。
「あの」
「…………なんじゃ? 男」
「折角だし、ご飯とか食べないか?」
「……いらぬ。酔狂な男じゃの。黒髪に青目の存在に対し、その様に声をかけるとは。そんなに女体でも欲しいか?」
「いや、そう言うわけじゃないけど。ほら、俺の彼女にそっくりだから気になっただけなんだけど」
「……いらぬ。情など沸かせようとしても無駄じゃ」
こちらを見向きもせず、魔女は背を向けて歩いて行った。その後ろ姿を見送るとシエラと俺は顔を見合わせた。
「あの人、大丈夫かな?」
「なんて言うか、あの人はミクスさんに出会わなかった私。そんな印象を受けました」
「そうなのか。俺にはそこら辺は分からないけど、あのリーネという人は悪い人ではない気がしたな。災厄の魔女とか言ってたけど、魔族とかの様な禍々しい魔力もなかったからな」
よく見ると、彼女が立っていた場所には綺麗な花が沢山咲いていた。シエラと似た様な力を持っているってことは、深い関係があるのかもな。
まぁ、今聞いても教えてくれなそうだけど。しかし、俺達から離れていきながら、たまに振り返ってチラチラこちらを見る限り、何か思うことはあるのかもしれないな。
「あの人が最終的にどうするかは知りませんが……私、もっと強くなりますね。世界はどうでもいいですけど、ミクスさんを守ります!」
「ありがと。ただ、俺もシエラを守れる様にしないとな」
厄災の魔女。多分、また会う時はあるだろうから、その時は食事でも一緒にして話とか聞いてみてもいいかもしれない。
魔族とかシエラとリーネがいたら余裕どころの話じゃなさそうだし。




