幕間 災厄の魔女
ユルレは定期的にここに訪れるようになった。なんて言うか、単純に俺とシエラが気に入っているらしい。
正直に言えば面倒だ。しかし、それ以上に俺も貴族からの誘いがすごく面倒になっている。
魔族の一件、あれはかなりの大事らしく。しかもそれを討伐したことで俺の名前が大分売れてしまったようだ。
えぇー。面倒……だけど、ユルレが色々と根回しをしてくれているのか、誘いも強引なのは来ない。
「いやー、感謝してよね。僕にさ、ついでにシエラさんの事も良く言っておいたんだから」
「あ、そうですか。帰ってもらっていいですか?」
「あ、うん。それでさ、ミクス様は今度暇? デートとか旅行とかしない? お泊まりとか一緒にしたいなって」
「……」
──びきびき
シエラの額に青筋が浮かんでいるような気がした。おい、ユルレ、恋人同士で住んでる場所に割り込んでくるんじゃなぁないよ。
「あのさ、俺達付き合ってるし。旅行とかはちょっと」
「あぁ、そっか」
「ミクスさん、ありがとうございます! さっさと帰ってくれますか?」
「それならシエラさんも一緒に来なよ。優秀な人は好きなんだ。僕のお父様も、ミクスさんとシエラさん両方迎え入れたらって言ってた」
「あの、私とミクスさんは貴族になるつもりはなく、普通に結婚して子供3人くらい儲けるつもりなのですが」
あ、シエラ、子供は3人くらいって決めてるんだ。あの、まだ付き合ってる段階なのに色々と早くないかな??
キスとか添い寝とかも付き合ってばかりなのに済ませてしまったし。あれ? 展開が早すぎるよね?
これでいいのか?
まぁ、遅ければいいとか言う問題でもないわけだし。どうでもいいのか。
それよりも問題なのは今後のこの世界の展開だ。
シエラが俺と付き合ってしまった以上、逆ハーレムはもう成り立たないだろう。
他国の王子とかも会う必要性がないんだよな。しかし、世界の危機的なのはまだあるわけだし。
ルディオとかは無視して、今後は魔族をどんどんぶちのめしていく流れで良いのかもしれない。
「それにしてもミクス様、外での評判すごいよ」
「そうなのか」
「うん、女性冒険者とかすっごい噂してる。Aランクで魔族を倒して、有望株だし。カッコいいとか、羨望がすごいぜ」
「へぇ」
「まぁ、リューゼン家と親密な関係って噂も流してるから、あんまり恋愛する人は居なそうだけど、ワンチャン狙ってるのが今後来るかもね」
いや、勝手に親密とか言われても困る。と言いたいけど、逆にそれがないと歯止めが効かないくらいに結婚とかが来てしまうんだよな。
結婚するつもりはないけども、そう言う噂は助かってはいるんだよね。
これって、益々国外逃亡するしかないんじゃないか? 噂が広まるのが早いし、このまま貴族と絡み無くすのは無理そう。
しかし、シエラと一緒に来てしまうと、多分原作崩壊して、世界が滅亡とかになるしな。
マジでユルレの家と婚約だけでもする必要性が……いや、俺には彼女がいるわけだしな。
「あ、シエラさんの噂もちょっと良くなってるよ」
「そうですか」
「よかったね」
「そうですか」
「僕の話には適当に話すよね」
「そうですね」
「でも、ミクス様の評価が上がって一緒にいるシエラさんも見直す流れになってるんだって」
「ミクスさん! ありがとうございます! 好きです!」
あ、うん、シエラもそんなに綺麗な瞳を向けてこなくてもいいんだけど。あのそこまでな人間でもないし、どちらかと言うと小物だしさ。
それにシエラの方が圧倒的に大物なんだからさ。
「ただ、厄災の魔女と関連づける人もが多いのも事実なんだよね。僕としては下らないけど。シエラさんも気になる?」
「私は彼氏と一緒で幸せなのであんまり」
「あ、そう」
厄災の魔女ねぇ。
この間の魔族との戦闘で思ったけど、話し方的に魔族の脅威であった存在みたいな感じだったから。
もしかしたら、良い人だった可能性があるのかな。
厄災の魔女ねぇ。少し調べてみるかな。
「あ、交易祭そろそろだから、2人とも出品お願いね」
「まぁ、良いですけど」
「俺はこの間と同じパンを出す」
「おおー、2人が出してくれるなら盛況間違いなしだね。特にミクス様のご飯系は本当に美味しいし、僕の家の料理人より美味しいんだよね。困っちゃうね」
まぁ、料理系統に関しては絶対の自信があると言っても過言じゃないけどね。さて、こうやって2人とずっと話していても悩みが増えていきそうだ。
少し体を動かして状況整理したりするのもありかもしれない。
冒険者として多少依頼とかをこなしていかないといけないからね。
「あれ、出かけるの?」
「シエラと冒険者としての責務を果たしにな」
「あら、依頼するんだ。僕も行こうかなー」
「来ないでください。夫婦水入らずなので」
「まだ夫婦じゃないでしょ、君たち」
ちょっと思ったんだけど……ユルレって意外と寂しんぼうなのかな。なんとなくだけど、シエラと相性が合う感じがするし。
シエラも生粋の寂しいのが苦手のタイプ。最近一緒に寝るときにグイグイ来るし。キス魔みたいになってるし。
俺の理性がすでに壊れそうなのは置いておこう。
「まぁ、僕も今はやることあるし。一旦、帰ろうかな」
「そうですか。どうぞどうぞ」
「そう言われると一緒にいたくなるなぁ」
宿屋の部屋から出て、ギルドに向かうことにした。流石にユルレはそこで帰って行った。
交易祭の準備は色々と忙しいようだ。やはり貴族は大変だな。
サリアの町は歩いただけで、噂されるようなった。こちらを見て色々と話してる冒険者が多そうだ。
しかし、それは前からだった。シエラの容姿を色々と言う冒険者が多かったが、今はどちらかと言うと俺の話が多い。
──空想とも思われていた魔族という存在が確認された。
──そして、それを討伐した冒険者がいる。
貴族でも見抜けなかった魔族の正体を暴いて、倒したという事実があまりに大きいのだ。
まぁ、シエラが色々と言われるのが少なくなったのは嬉しいんだけど。
「あ、ミクス様よ」
「かっこいいー」
「話しかけちゃおっかな」
う、聞こえるぞ。こんなふうに異性に言ってもらった事は少ないからな。しかし、こんな風に乙女漫画の逆ハーレム要因みたいに羨望の眼差しを向けられるとはね。
肩書きとかで人の評価とかって変わるんだな。
──ギルドでも、色々と言われたが取り敢えず、難なく依頼を受けることに成功した。
昨日来た時は、他の冒険者からの質問とか、他の貴族の執事とかからのパーティーの誘いとかが多すぎて依頼を受けることすらできなかった。
依頼は単純なモンスター討伐だ。
依頼を受けたら、すぐさま町の外に出た。なんだか、シエラと一緒にこんな風に単純な依頼を受けるのが久しぶりな気がした。
「なんだか、2人で依頼を受けるの久しぶりですね」
「俺もそう思っていたんだ。なんだか最近忙しかったからさ」
「そうですね。でも私は時間が過ぎるのがすごく早かったです。ミクスさんと一緒なのがすごく嬉しかったし、楽しかったですから!」
ニコニコな綺麗な笑顔のシエラ。こんな子が彼女だと思うと幸せな気分になるな。
「俺も楽しいさ」
「へへ! ただ、ミクスさん最近大変ですよね。私よりも目立ってるような気がします」
「……そうかな」
「えぇ、災厄の魔女とか常に言われるのが減った気がします。視線がミクスさんに集まってる気がします。ふふ、私の好きな人が正当な評価を受けるのは嬉しいですが、ミクスさんが大変そうなのは少し嫌です! だから、今日はマッサージしますよ! 任せてください!」
「ありがとう」
厄災の魔女なんて、こんな可愛い子がそんなわけないだろう。
全く……まぁ、その厄災の魔女本人も悪い人じゃなかった可能性もあるんだけどさ。
しかし、そうなると厄災の魔女がどういう人物だったのか気になるな。
その辺が明らかになったら、シエラの偏見とかも更に払拭ができる気がするし。
「ミクスさん」
「ん?」
「……誰かが見てます。いえ、町でも見てる人は多かったんですけど……この今見てる人は相当の実力者です」
え。誰かって……俺には全然わからないけど、シエラには分かるのか?
シエラはそう言って斜め後ろの方に振り返った。俺もそちらの方を向くと、草原に黒いローブを被ってる人物が立っている。
これは、前みたいに魔族なのかな。魔族が脅威に思って後をつけているとか……
「……あれ、人間か?」
「……遠くて分かりませんが……多分、人間です。魔力の感じがこの間のリューゼン家の魔族と違います。魔族の魔力はもうちょっとピリピリと禍々しい感じが混ざってますから」
「……そっか。人間でも実力者が多いのかもしれないな」
シエラが少し警戒してるな。それ相応の人物ってことなのだろうか?
──黒いローブの人物はこちらをジッと暫く見ていた。
「何か用事があるのかな?」
「……そうかもしれないですね」
こちらもじっと見てると、気が変わったのかゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。おっと、何か用事でもあるのか?
しかし、こんな奴アニメでは見たことないけど大丈夫かな?
シエラが警戒するって事はかなりの実力者なんだろうけど……
「ミクスさん、あの人、妙な感じがします」
「そうなのか」
シエラは警戒してる……
でも、なんだろう。この感じ……俺はあんまり警戒が湧かないって言うか。なんていうか。
──シエラと似てるような
黒いローブの人物はこちらにゆっくりと、歩み寄り続けた。そして、ある程度まで近づくと……
「……ほう、相当の魔力じゃな」
「……何者でしょうか?」
「何者か……。クク、お前にそう言われると複雑な気分ではないか」
そう言って黒ローブの人物は手を振り上げた。
──次の瞬間、地面から急に木が生えてきてシエラに向かっていった。
しかし、シエラはそれをあっさりと手で振り払った。流石シエラ、あっさりとアレに対応するとはな。
それと黒ローブ、何もない場所から大木を生やすって……シエラと似た能力だな。
なんとなく魔力の波長がシエラに似てたから悪い人ではないと思ったけど、襲ってくるなら話は別だな。
「ほう、やるな」
「……私と似たスキル……?」
「さぁ、どうかの?」
黒ローブの人物の発する声の感じからして……男ではない。ふてぶてしい感じではあるが、話し方は女の子って感じだな。
「クク、まさか、こんなことになるとはな。それに加えて、理解者すら手に入れたか……。まぁ、良い。噂以上なことがわかればな」
「……貴方、何者ですか?」
「さぁな。秘密じゃ。さて、そっちの男が……そうか。その男が……」
「顔くらい晒したらどうですか」
シエラの圧倒的な高ステータスから放たれた手刀。その風圧によって、フードが外れる。
「……シエラ」
俺は思わず、その顔を見てそう呟いてしまった。なぜなら、その顔はシエラにそっくりだったからだ。
黒い髪に、青い瞳。それだけではない、可愛らしい顔つき、長いまつ毛、筋が綺麗な鼻、綺麗な肌。
でも、シエラは今俺の目の前にいる……こ、これはどういうことだってばよ?
「ど、どういうことなんですか? これは……何者なんですか??」
──流石のシエラも自身と似た顔の子供が現れると混乱したようだ。
「さぁ、妾は何者か。分かるかのぉ?」
そう言ってシエラに似ている子は笑った。うん、俺の彼女に似て可愛いじゃないか。
ちょっと生意気そうな感じはするけど。
いや、待てよ……
「まさか」
「そっちの男は少し勘が良いようじゃ」
「シエラの……妹か?」
「……馬鹿か? お主? まぁ、良い」
妹じゃないって事は……お姉ちゃんとか!?
あれ、それともめっちゃ見た目若いけど、母親とかかな?
それだったら、お付き合いしてますとか挨拶したほうがいいかな?
ちょっとだけ、俺は悩んだ。




