第35話 好きなんだ……
私は激怒をした。ミクスさんにユルレとかいう女が頬にキスをしたからだ。
は? は?
いや、私、私だってしたいと思っていたのに……こっちは毎日、毎日、狐達の交わる声を聞かされても我慢してるのに……
なぜ、こんな……
「み、ミクスさん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……うん、ちょっと、びっくりした……。キスとかされたことないしさ……」
少しだけ、戸惑うミクスさん。こんなことで惚れてしまうような安易な人ではないと知っていますけど、
な、なんか意識してませんか!?
「み、ミクスさんって異性とキスとかって……」
「あ、うん。初めてだな……」
脳が破壊されるというのはこういう感覚なのでしょうか。初めてを取られて、好きな人に目の前でキスをされしまって
苛立ちと取られてしまうかもしれないという恐怖と、今までの幸せな記憶のフラッシュバックと全部が混ざり合ってイライラしてしまいます。
「わ、私だって」
ちょっとした焦りもあるんです。私がそんな所まで進めず足踏みをしていたのに、あっさりと越してしまうユルレが羨ましいです。
したい、キスしたい。
くっ、したいのに……。でも、このまま足踏みして遠慮をしてると本当にあの人に取られてしまうような気がしてしまいます。
それに、あの人でなくても別の人が急に出てきて取ってく可能性だってあります。
「あの……ミクスさん!」
「うん?」
「……その、ミエルの実を作るのは良いんですけど。その、種とか買いに一緒に……お出かけ……いや、で、デートとか行きませんか!」
「デート?」
よし、ちゃんとデートと言えました!! もう、こっちもなりふり構っていられないです!!
ミクスさんは素晴らしい人だから、貴族も囲おうとかしてくる可能性が大きいはずです。
こっちもそろそろ、恋愛を進展させないと!!
もう、なんだったらデートも終わり際に告白だってします!!! 断れたら……その時はその時で、もう一回告白してやります!!
って、いうかそろそろ一緒に暮らして、色々と我慢するのも限界になってます!! もう、襲ってしまいそうになる気もしてます!!
「で、デートか。まぁ、良いんだけど……」
「はい! デートです!」
「そ、そっか。お出かけ……」
「お出かけではなく、デートです!」
「あ、そう」
あれ、もしかしてこの子、俺のこと好きなのではないか? とミクスさんに思わせることができているような気がします!!
ミクスさん、ちょっと鈍感な所ありますし。これは私から今まで以上にグイグイ行かないと!!
ユルレ、私は貴方になんて絶対負けないですし。ミクスさんも渡しません。もう、2度キスとかさせません!
脳が破壊される感覚なんです!! あれは嫌いなんです!
よーし、これからはガンガンアピールします!
◾️◾️
ユルレにキスされた後に、シエラにデートに誘われてしまった。現在は宿屋の一室、シエラはベッドの上で何やら本を読んでいる。
時折、こちらをチラチラ見たりしている。目線が合うとニコニコしている。
俺は書斎で椅子に座り、今までを振り返っていた。そう、冷静に考えると俺はキスをされて、別の女の子からデートに誘われていると言う状況だ。
お、おいおい、落ち着け。どういうことだこれは? ユルレの場合は露骨な色仕掛けだろうけど、シエラにもデートに誘われるなんて。
デートと言われた時、最初はお出かけと言い間違えたのかと思った。
ほら、流石にシエラが俺とデートとかをしたいって思ってる訳がないと思っていたからさ。
ただ、先ほどわざわざ俺がお出かけ、と言ったのにわざわざデートであると訂正をしてきた。
顔を少し赤くして、照れて緊張しているような、体もモジモジしてた気がするし。
あ、あれぇ?
これって、流石に……俺のことが好きだからデートに誘ってきたんじゃないだろうか?
いや、流石に過剰すぎるのか? たかが1回デートに誘われたくらいで?
いや、でも、あの表情でデートに誘われて、何もないってことはないだろう。シエラって誰でもお出かけ誘うタイプじゃないし。
それに不本意に相手に誤解させるのも避けるから、デートとかわざわざ言い直したりもしない。
あれ……これって……デートをしたいってことなのかな?
って言うか、そもそもシエラって俺のこと好きなのかな? あれ、今思えばユルレが出てきてから嫉妬的な表情が多かった気がする。やけに結婚の話題とか反応してて、リアクションも大きかったし。
いや、そもそも本当に好きなのかな?
うーん。
そんなに好意を感じたことはな……あ、そう言えば前に
『好きな女の子のタイプってなんですか?』
って、何回も聞かれたことがあったな。あれ? この時はスルーしたけどこれって俺のことが好きなんじゃないかな?
でも、他にはそんな要素はなかった気がする。
あ、そう言えば……
『えへへ、可愛いとか言われると照れちゃいます。特にミクスさんには』
あれ? これってどう考えても好意があったパターンじゃないかな? これを流してた過去の俺ってどうかしてたんじゃ……
いやでも、ほら、そうじゃない可能性もあるからね。うん……
それに他には……あれ? そう言えば、ベッドで前昼寝してたら、気づいたら隣に来てて服とか胸板の匂いを嗅いだり、ボディタッチとかしてきてたし、ハグとかも俺が寝てると思ってしてたな。
この時は、人恋しいからしてると思ってたけど。
普通に彼女の好意と性欲の可能性出てきたかな?
『あぁ、良い匂い……はぁ、はぁ』
って言ってたし。あれ、人恋しいから、寝てるふりしてたけど。これって普通に好意持たれてて、スキンシップを我慢できなかっただけの可能性が出てきたかな?
いや、でも……これくらいじゃな好かれてるとは言えない。なんて、流石にこれ以上否定する材料がない気がしてきた。
うーん、もしかしなくてもシエラは俺のことが好きなのかな? って言うか、結構今思うと分かりやすい言動だったな。
いや、でもさ、俺って好意とかそう言うのが分からないから、気づかなかったのもしょうがないとも言えるような……。
「あ……えへ」
今もシエラが目があってニコニコしてるし。こう言うのって今までも何回もあったけど、全然好意に繋げたことなかったな。どうかしてるだろ、俺!!
てっきりシエラは高身長のイケメンの他国の王子とかが好きになるのだと、思ってたからさ。
だとしても気づけよ! 俺!!
しかし、ここで疑問なのは俺って好まれる要素ってあったかな。
あんまり大したことはしてない気がするけどな。救済の光で面倒を見て、後輩として接したり悩み相談聞いたり、美味しいパンご馳走したり、それくらいかもしれんけど。
ただ、これがシエラにとっては大きい経験だったのかもしれないな。
俺としては大したことはしてないと思っていたけどなぁ……。
「あの、ミクスさん! いきなりなんですけど、デート明日どうですか!」
「あ、うん」
グイグイ来るな。今までもアピールとかもしてたんだろうけど、ここに来てモロわかりやすくなっている。
これはユルレとのやりとりとか、キスのせいなのだろうか。
「よし! 気合い入れます! すごく楽しみです!! 私がリードします!」
「そ、そうか。俺もちゃんとオシャレしていくな」
ニコニコ笑顔。あ、やっぱりこの子可愛いな、さすがは主人公だ。魔力コントロールが上手なのは知ってるけど、嬉しさのあまりなのか、ホワホワした感じが全身から立ち昇っている。
……本当に俺のことが好きなのかもしれないな。
どうしたもんかな……。




