第34話 化けの皮
「なんだよ! この魔力は……!!」
空気が死んだと思ったら、ユルレが大声を上げながらシエラを目視した。俺としてはよく分からないのだが……
「ミクス様は何も感じてないの!? なに、ぽけーとしてるの!? まさか、僕だけに魔力を向けてるの!? この量をピンポイントで流すとかどんな魔力操作してんの!?」
「はて? 何のことでしょうか? ミクスさん、この人急に騒ぎ出し始めましたけど」
シエラは、うん? どうしたの? みたいな顔をしている。う、うん? これはどっちだ?
ユルレが嘘をついているのか、それともシエラが魔力を向けてるけど嘘をついているのか。
どっちなのか。
まぁ、俺としては長く付き合いのあるシエラを信じるけどさ。
「ユルレ、ふざけてる場合じゃないぞ。それよりも結婚の件だがまずは断らせて貰う」
「ええー、信じてもらえないのに、断られるのかー!! ってか、何この魔力は……これもう魔王じゃないの? ってか、シエラちゃんも最近まで冒険者ランク低かったとか聞いたけど……まぁ、悪い人には見えないし……いや、性格は悪そうか」
「んー?」
「なにその、この人意味わからないこと言ってるみたいな顔……ミクス様、この人絶対性格悪いよ。シエラさんと結婚とかもやめた方がいいよ」
「おいこら」
シエラがギラギラした瞳をユルレに向けている。この2人はどうやら、仲が悪いようだ。
しかし、それはそれとしてユルレはこのままって訳にも行かないだろ。
「ただ、このままって言うのも寝覚めが悪い。とはいえ、俺も結婚する気はない。だから、協力すると言ってもそういう方向性以外だな」
「ええ! 協力してくれるの! ありがとー! ただ、これと言って案がないからなぁ。正直、結婚してくれるのが1番手っ取り早いんだけど……」
「結婚……それは流石にな」
そのユルレの結婚相手っていうのはアニメでは出てこなかった。どんな人なのかは知らないけど、どうにかして破綻させたい。
だとするなら、どんな案があるのだろうか。
色々考えたが確かに代理の結婚相手を立てるっていうのが手っ取り早いというのはある。
適当に相手を追い出して、ある程度時間が経ったら消えるっていうのが良い手であるのは間違いない。
「個人的には婚約とかもしたくないけど……」
「僕としてはお父様にミクス様を気に入ってもらって、どう考えてもミクス様の方が格上ってなって貰う計画だったからなぁ」
「ユルレの父親に他の相手がいいとか言ったのか?」
「言ったけど、そのヴァニッシュがお気に入りらしいんだ。あ、なんかヴァニッシュのスキャンダルとかない? そういうのでも良さそう」
スキャンダル……
「あ……」
そのヴァニッシュが食べていたとか言う、黒い塊。あれって、確か【魔の宝玉】って名前の代物かもしれない。
人間の魔力量やステータスを上げて、魔族化させる薬だ。それを持っているっていうのが分かればユルレの父親を幻滅させることが出来るかもしれない。
っていうか、そんな危険な薬持ってるのが分かったら婚約も破綻だろ。
「ミクス様何か思いついた?」
「……ユルレ。確か、黒い塊食べたって言ってたよな?」
「あ、うん」
「……それなら、ユルレの結婚自体が完全に吹き飛ぶかもしれない」
「え、本当?」
ただ、具体的にどうやってその薬を持っていると認めさせるかだけど。それにそもそも、魔の宝玉は世間一般には認知されてないし。
貴族の中でも噂程度らしいからな。
「ユルレ。父親には結婚について今なんて言ってるんだ? もうするって言ってるのか?」
「いや。ミクス様がタイプだから結婚したくないって言ってる」
「おい、俺を巻き込みすぎだろ。勝手に名前出すな」
「てへぺろ」
うぜぇ、こいつ……。シエラもこいつうぜぇ、って顔をしている。
「シエラ俺も同じ気持ちだ」
「え!? わ、私と同じ……それって。それって!!(結婚ですか!?)」
シエラが急にすごい笑顔になってる、うーん、これは可愛いなぁ。ニコニコしてて、俺隣にひょっこり陣取ってるし。なんだか、懐かれてるのは分かるから可愛いなぁ。
さて、ユルレに関してはどうするかな。魔の宝玉を持っているのならどう考えてもその婚約者は悪役だろう。
魔族になったら、破壊活動とか殺人とか普通に倫理から外れたことをアニメでもしてたしね。
ってことは、ユルレって結婚したらどうなってたんだろう。これはあんまり考えない方がいいんだろうけども。
「……どうするかな」
確か、魔族って色んな人間に宝玉をあげるけど。渡すときの口説き文句は毎回力を与えるとか、願いを叶えるとか、魔族になってしまうのは伏せるんだよな。
そして、宝玉を食べるとすぐに魔族となってしまう。そのヴァニッシュもとっくに魔族になってるけど、人間に化けているとかだろう。
さて、その婚約者をどうやってユルレと結婚させないかだけど。
確か……変身、変体などの化けている姿を真実に戻す薬があった気がする。えっと、アニメでは登場とかはしてなかったけども……。
【アンリミテッド・ロスターナ】の本にそんな薬の名前があった気がする。俺はこの人の本を買ってからずっと読み込んでいる。
この人の本が1番分かりやすく錬金について載っている。
「あった。【ミエルーバの薬】」
「え? なになに? ミクス様これ何?」
「これはミクスさんがよく読んでいる本ですね! 私は全部わかってます」
「ミクス様、この子、彼女ヅラ腹立たない?」
なんかギスギスしている2人、取り敢えず一旦無視して薬について解説をしようか。
「これは【ミエルの実】から作ることができる薬。嘘の姿、虚像の影から真実を表すことができる薬って書いてあるな」
「へぇー、そんなのがあるんだ。これを使うと……ヴァニッシュの化けの皮が剥がれるってこと?」
「あぁ、多分十中八九そいつは魔族……正確には魔族になった人間だろうからな」
「マジ……? やっぱり魔族だったんだ。魔力も異質だし、雰囲気もやばそうだったんよね……」
多分、これを使えば魔族の姿に戻すことができる。この本には魔族の変身などにも効果があると書いてあるし。
「ミクス様って、そういう薬も作れるんだ……! めっちゃすごいじゃん。ただ、その著者聞いたことないけど大丈夫?」
「大丈夫だ。【アンリミテッド・ロスターナ】は俺が知る限り、最も優秀な錬金スキル使いだ。この人の本は有名ではないが、あれば絶対に買うようにしてる」
「へぇ。ミクス様がいうならそうなのかな」
ユルレの疑問に答えていると、シエラが少しだけ疑問が浮かんだように首を傾げていた。
「シエラ、どうした?」
「【アンリミテッド・ロスターナ】。どこかで聞いたことあるような気が……いえ、すいません。気のせいだったのかもしれません。多分、前にミクスさんに少しだけ名前を聞いたことがあるのかも」
「なるほどな」
確かに、シエラにはいろいろな話をしているからどこかで話したことがあるのかもしれないな。
「シエラ、この薬の材料は【ミエルの実】なんだ。結構量がいるみたいでさ。スキルで栽培を頼みたい」
「勿論です。これでミクスさんが結婚とかをしなくて済むなら!」
「おお、ありがとう」
シエラは任せろ! と言った表情でやる気満々をアピールしている。いやー、協力的なのはありがたいね。
「2人ともありがとうね。僕のために……あ、そうだ。もし、ヴァニッシュと婚約無くなったらさ、僕と結婚しちゃおうよ!! 嫌ならやめてもいいからさ。気楽にどんどん結婚とかしちゃおうよ!!」
「勘違いするな。結婚はしない。ユルレ、お前貴族が結婚したらそう簡単に逃げられないのを知ってて、嫌だったらやめていいとか言ってただろ」
「……っち」
舌打ちしたよ。この小娘……。まぁ、ただ、婚約者候補になって家に行った時点で面倒なことに今後も巻き込まれるのは確定だろう。
婚約者候補とかいう名義で行くとかしたら後戻りできなそう。
「あーあ、貴族の事情を知ってる人と結婚したら色々と楽だけど、そんな人はそもそも結婚とかしてくれないよねぇ。このジレンマなんとかならないかな」
「無理なんじゃないかな」
「ほらー! ミクスさんが貴方みたいな人と結婚とかするわけないんですよ! さっさと現実見てください!」
「……こいつ」
シエラが急に元気になったな。今度はまた可愛らしいニコニコな笑顔を向けている。
いつものように可愛いなぁ。
さて、結婚自体は薬で吹き飛ばすことができるだろう。しかし、問題なのは魔族とかいう200年前の空想の存在が完全に事実となってしまうので。
絶対大事になるってことだろうな。大事で済めば良いくらいかもしれない。まぁ、その辺の処理はユルレの家にお任せすれば良いのかな?
正直、俺は知らん。
「ユルレ。父親に言って今度家で、ヴァニッシュとお茶したいとか言っといてくれ」
「分かった! ミクス様もくるよね?」
「行くけど、俺が行くのは伏せておいてくれ」
「勿論! 油断させておきたいからね!」
魔の宝玉食ってるってことは魔族なのは確定だろうね。しかし、まだ貴族内でも噂にしかなってないのが危ないよな……。
この国大丈夫かな?
「取り敢えず、根回しは頼むな。多分、そのまま戦闘にもなる」
「分かった。色々本当にありがとうね。ミクス様。こんなに優秀な人っていないからさ正直ドキドキしゃってる。やっぱり僕って優秀な人が好きなんだよね! 本当に好きになっちゃったかも」
「そういうの良いから。父親に色々言っておいてな」
「はーい。あ、シエラさんもついでに、付いてきていいよ」
「ついで……私が? まぁ、行きますけど? 貴方みたいな人とミクスさんを少しでも一緒にしておきたくないので」
なんかキレてる気がするシエラ。あれ、そういえばアニメだとバザーで知り合いになったシエラがユルレの家に行くイベントがあったな。
……そんなつもりないけどアニメの展開通りになってるのが本当にすごいな。
あ、今回はブラックとホワイトを連れて行くか。あんまり外に出してあげられないことが多かったしな。それに最近は木の実を食べてるから、戦力にもなるだろう。
しかし、ユルレの婚約者に俺が勝てるかなぁ……? まぁ、シエラが居る時点で過剰戦力なのは分かりきってるけども。
まぁ、俺だけでも倒せるなら倒すけどね。強いからってシエラに任せておくってのも気がひけるからな。
「さて、段取り決まったな」
「うん。2人とも宜しくお願いします」
「……しょうがないですね」
シエラも頭を下げられると、仕方ないと思うようだ。しかし、嫌な顔はしたままである。
まぁ、今回の一件でもしかしたら仲良くなったりするかもしれないな。
「あ、これお礼ね」
急にそう言ってユルレに頬にキスされた。こいつ、ハニートラップとかも出来るのか!!
「誘惑しとくぜ! 言っておくけど、ファーストキスだからね? 結構ガチで狙ってるのだけアピールしてるんだー、それじゃ、またねー。また魔力向けられたくないから去るねー」
そう言って、ユルレはダッシュで部屋を出て行った。




