第32話 結婚のわけ
サリアバザー2日目。俺は既にパンを売り切ってしまっているがシエラはまだ野菜を売り切ってないので付きそうことに決めている。
手伝ってあげたいって思えるから本当に不思議だよな。
売店で一緒に待ちながら、時間が過ぎていく。
「ミクスさん。私もご飯作ってみました! 果物の詰め合わせです!!」
「ありがとう」
シエラがまかないをくれた。彼女の作る果物は全部無条件に美味しいし、栄養価も高い。バナナとかメロンがこれでもかと入っている。
「朝から頑張って作りました!」
「ほほう、いつの間に」
「種からスキルを使って育てただけなので、まぁそこまでの労力はないのですが」
いや、朝から始めて種から実を作ってそれを弁当に入れるってとんでもなく、すごいと思うけど。完全に常軌を逸している。
「やっぱり美味しいな」
「へへ、ど、どうも。毎日作ります! 毎日!!」
「そんなにはいいけど」
「いえ、毎日! 一生をかけて恩を返したいと思っています!」
そっかい、そんなに恩を返したいと思っているんだろうか。やはり義理堅いなシエラは。
しかし、この野菜とか果物は美味しいな。これが売れないのは正直意味がわからん。でも、良いものが売れないって言うのは案外普通なのかもしれん。
世界で1番美味しいラーメンが世界で1番売れるとは限らないように。シエラが良いのを作ったとしても、それを売ったとしても見た目の恐怖で売れないのか。
「あら、ミクス様ー! それとシエラさんも……」
丁度、食事をしているタイミングでユルレがやってきたぞ。交易祭にはシエラにも出て欲しいからな。
野菜買ってくれ。出来れば残り全部。しかし、ユルレが1人だけで来ているってことは、ルディオの案内は終わっているらしい。
貴族同士だと色々とあって大変だろうなぁ。やはり成りたくはない!!
「ユルレ。このシエラの野菜をぜひ買ってくれ」
「……えぇー、この野菜? ……でも、確かに出来がいいね。見た目はすごく良い」
「買わなくて良いです」
「いや、シエラ買ってもらえ」
シエラはユルレが苦手なんだよな。折角のお客様なのにちょっと嫌な顔をしているしな。
一方でユルレも凄く嫌な顔をしているしな。この2人仲良くなれそうにないんだけど大丈夫だろうかな。
アニメだと割と仲良く話してるような気がしていたんだけど。
「まぁ、折角だし僕は買うよ。そのリンゴ1個貰おうかな」
「はーい、どうぞ」
「……良い色だね、これ凄く高品質……ってかそもそもこんな量を冒険しながら育てるってどう言うこと?」
そう言いながら2人は売買を成立させた。ユルレはりんごを手に取り、ぐるりと見渡した後に一口実をかじった。
シャリシャリと咀嚼の音が響いた。
「…………美味しい。なにこれ? めっちゃ美味しんだけど!?」
ユルレはシエラの果物の美味しさに驚いているようだ。いや、分かるぞ。甘みも凄いし、鮮度も高いし、食感も良い。文句が出ないだろうさ。
普通の人間なら見た目が怖いから、食べて良いか不安とかが出るだろう。しかし、ユルレは純粋に良くも悪くも評価をする。
買った果物をすぐ口に運んだようだったし。
「美味しいな、これ……どうやって作ったの?」
「……まぁ、愛ですかね」
「全然本当のこと言うつもりないね。ただ、美味しい、凄く美味しい! これは凄いね」
「……ど、どうも」
シエラも褒められると素直に嬉しいのだろうか。フルーツには彼女も自信があったみたいだし、それが認められるとやはり心が動くのだろう。
「でも、売ってる人が気に入らないかな」
「あ、そうですか。お帰りはあちらです」
「口悪いなぁ。でも、これが美味しいのは本当。交易祭、君も出てよ」
「いや、別に」
「ミクス様も出るのに?」
「あ、やっぱり出ます。よくよく考えたら、出たいです」
交易祭にシエラが出ることが決定した。やはり、ユルレは果物を食べたら、シエラを祭に誘ってきたな。これ以上に良い品もそうそうないしな。
無事シエラも参戦が決定したね。
「さて、ミクス様。バザー終了まで時間があるし、僕とデートしようぜ」
「……はい、さっさと消えてください」
「シエラさんには何も言ってないぜ」
あ、また2人の仲が険悪になっている。しかし、この状況になったのはユルレがデートをしたいとか言い始めたからだ。
「ユルレ、少し聞きたいんだけど、なぜ俺と結婚したいんだ?」
「あら、あら? 変なことを聞くんだね。前に言ったよね?」
「いや、流石に違うってのは察しがつく」
「……まぁ、そうだね。うーん、まぁ、このままでもジリ貧とも思うからね。今日の夜、君の宿屋の部屋に行って良いかな?」
「ダメです、来ないでください」
シエラが俺の前に立って、腕でバツの印を作り出す。まぁ、シエラは警戒心が高いから知らない人がテリトリーに入ってくるのが好ましいと今は思えないのだろう。しかもそれが苦手な人となれば当然だ。
しかし、これはさっさと事情を聞いてしまった方が早いだろう。アニメの先の展開とか情報を俺は知らない。
「いや、ユルレの事情を聞いた方が色々と早い気がする」
「なるほど。さっさと聞いて断ってやりましょう」
流石はシエラ、適応が早いな。ユルレは少しだけ微笑むと背中を向けて歩き出す。
「それなら今日、バザー終了時間が過ぎた後に部屋に行くからね」
淡々とした口調で言っているが、その言葉には嘘偽りなく強い信念があるように思えた。彼女は本気で俺と結婚をしたいと思っているのかもしれない。しかし、それは好意とかではないだろうけど。
「それと一応、その売り出しものは全部買おうかな。あとで取りにいくからね」
去り際に、もう一言ユルレは放ちながら去っていった。シエラ喜べ、お前の植物は全て買い取られたぞ。
「ミクスさん、あんなのと結婚しないですよね?」
「あれ、買ってくれたのに厳しいね。結婚に関しては流石にしないさ。ただ、真の理由を聞かないと断っても、相手が納得しないかなと思ってさ」
「なるほど。さっさと断りましょう。お茶とかお茶菓子とかも必要ないでしょう、すぐ断って帰らせましょう」
シエラはさっさとユルレを帰らせたいようだ。
しかし、俺としては2人は仲良くして欲しいから、お茶菓子とかお茶を出したりするのもありかもしれん。
まぁ、それに一応は貴族様だしね。出しておくのが無難といえば無難なのだろう。
◾️◾️
バザーが終わり、宿屋で待っていると部屋をノックする音が聞こえた。扉を開けて、俺はユルレを出迎えた。
「どうも、お邪魔するね」
「どうぞ」
「……いらっしゃい」
シエラの嫌そうな顔はスルーするとして、ユルレを椅子に座らせた。部屋には机があるから、その上にお茶とパンの耳を揚げたラスクを置いておく。
「うわぁ、僕のために? ありがとー」
「いえ、それよりさっさと話を済ませましょう」
「そうだね。シエラさんも大分、怒ってるしね」
お茶を飲み、一息をついた後に彼女は意を決したように語り出した。
「あの」
「はい」
「このお茶おいしいね。こっちのラスクを食べてから、話でも良い?」
「どうぞ」
もぐもぐ、ごくごくと綺麗な咀嚼音と飲み込む音が聞こえた。その後に、再び意を決したように声を出した。
「まぁ、とにかく単刀直入に言うと……結婚したいって言うのは嘘なんだ」
「やったぁ!」
シエラがすごく喜んでる。ベッドの上で座っていた彼女は喜んでいる。え、俺が結婚しなくてそんなに嬉しいのかな。
友達とかが先に結婚とかされるのが嫌なタイプなのかな。
「それはそれとして、ミクスさんの時間を奪ったり、好きとか言ってたり言い寄ったのは許せません!」
と思ったら急に怒り出したんだけど……シエラは感情豊かだなぁ。




