第31話 俺か、俺以外か
『この化け物がッ』
『……そう言われるのも慣れちゃいましたよ』
『や、やめ……』
ふと、俺はまた見慣れた映像を見ていた。そこにはフィオナと彼女を追い詰めるシエラが居た。
サリアの町の路地裏にフィオナは追い詰められている。その表情は恐怖で溢れていた。
そうか、これはフィオナがシエラを潰そうとして返り討ちにあった時のアニメシーンか。
結局、シエラはフィオナを見逃してあげるんだけどな。しかし、アニメのシエラは見ていて思うけど、眼が死んでる気がするような……
『……貴方を殺したら、どんな気分なんですかね』
『や、やめて、い、今までのことなら謝るから! ほ、本当にごめん』
『謝ったら蹴ったり、殴ったり、ガラスの瓶を投げたり、バザーの品を踏んだり、焼いたり、レイプさせようとしたのも全部無しにできるんですか?』
『ち、ちが』
シエラの手元には木の枝から作り出した、剣が握られていた。あれを一思いに振り下ろせばフィオナはすぐにでも死ぬことにはなるだそう。
しかし、シエラはそれを振り上げて……それを勢いよく振り下ろすこともなかった。
『不思議です。なんだか、どうでもいいような、許してもいいような気がしてしまいました』
『ご、ごめん』
『でも、やっぱり許せないです。もう、なんか……』
流石に可哀想すぎて……何も言えねぇ。いやさ、成り上がったり活躍したりするのは好きだったんだけど、偶にこういうのが出てくるから2クール目を見なかったんだよね。
『殺したい……もう、ミクスさんだって殺しちゃったし……1人も2人も変わりないですよね』
『ッ!!? み、ミクスを……こ、殺した?』
『はい。もう、人殺ししちゃいました。だから、今更、止まる必要もないんですよね。もう、私の選択肢には殺すっていうのが入っちゃったんです。だから、フィオナさんも……』
『あ、あなたぁ、なんで、笑ってるの?』
『あれ? おかしいですね……泣いてると思ってたのに、私、笑ってますか?』
シエラは笑っていた。顔では笑顔を浮かべているというのに、瞳からはポロポロと涙を流していた。
ただ、よく見ると顔には血が流れており、涙を混じっている。
アニメだと回想だったけど、シエラバザーで誰かに殴られたり、蹴られたりしてた時があったっけ。ステータスも高くなってたけど、優しい彼女は逆にステータスが高くなったことで相手に過剰防衛して怪我させてしまうことを恐れていたんだ。
だから、殴られた。
それで、彼女の感情がまた壊れてしまったのだ。
もうね、可哀想だし。今は愛想だって湧いてるしさ。あんな可愛い顔がこんな歪んでるのを見るのも辛い……
『……ねぇ、私泣いてますか? 笑ってますか?』
『あ、えと、あ。あ……あの、ご、ごめんなさぃ』
『なんで、今更そんなに謝るんですか? それって許さないと私が悪いんですか? ……何で私ばっかりこんな悩んでるんですか? 優しいから悩むんですか? お父さんとお母さんは優しい私が好きって言ってから、あれ? 優しい私が悪いんですか? それとも優しいのを長所と言った2人が悪いんですか?』
『ほ、本当に、ごめんなさい……、す、すいません……、本当にすいませんでしたぁ』
『……………………今更謝るなんて。卑怯者、卑怯者……卑怯卑怯卑怯、ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい』
激情をするシエラは、急に笑顔から怒りの表情に変わった。感情の起伏が信じられないほどに激しい。まるで怒りの炎が宿っているように涙も蒸発したように消えた。
『ずるいですよ……本当に……』
それだけ言ってシエラはそのまま背を向けて去っていった。フィオナはそれを呆然と見つめ、震えながら彼女が離れるのを待っていた。
◾️◾️
また、夢を見たな。アニメの時の映像だったけど、フィオナはやはりどうしようもない奴だったな。
シエラが可哀想だよ、本当にさ。
………もうさ、今のシエラが笑ってるのも感慨深いような気もするぜ。さっさと他国の王子でも良いから幸せにしてやってくれ。
アニメだと王子も良い印象だったみたいだし、彼女も王子なのに礼儀正しく公平に接したことに驚いて好印象だったみたいだし。
本当にさぁ、シエラは現時点でも苦労人だからな。バザーでも変なことにならないように今のうちは俺がコントロールできたらしたい所だな。
夢から覚めたので椅子から飛び起きて、今日の準備を始める。とは言ってもパンは1日目に全部売り切れてしまったし、予備を作っていたわけでもない。
だからこそ、今日はすることはないんだけど、シエラが野菜をまだ売り切れてないのでそれの手伝いだけでもやることにしようか。
「ミクスさん、おはようございます」
「お、もう起きてたのか」
「はい!」
シエラは今日も元気いっぱいのようだ。すでに身支度を整えている、寝癖もないし、目もぱっちりとしている。
これはかなり前から起きていた証だろうか。
「私今日は頑張っちゃいます! ミクスさんが昨日は売り切ってましたから、私も負けじと全部売れるように頑張ります!」
「そっか、勢いばっちりだな」
「はい! 黒髪とか青目とか言い訳してたら、フォローしてくれるミクスさんに申し訳ないですから! 超頑張ります!」
なんか、本当に健気な子だな。こんな性格良い女の子って会ったことがないだろうな。今後も会うことはないと思う。
なんか、俺もフォローしてあげたいって思う。不思議な魅力があるなぁ。
「俺も超頑張るぞ。フォローするからな」
「あ、ありがとうございます! いつもいつも、なんか頂いてばかりですいません」
「いや、シエラを手伝いたいのは俺の意志さ。フォローしたいって思える魅力がある自分を誇るべきだ」
「え、えへ。どうも……へへ」
照れてるのか。ニヤニヤしてるシエラも可愛いなぁ。こりゃ他国の王子も落ちるのも間違いなし。
「あの」
「ん?」
そんなシエラだが何か聞きづらいことでもあるのだろうか。少しだけ、意を決したようにこちらを見ている。
「ミクスさんって、結婚願望あるんですか?」
結婚願望……なぜ、そんなことを急に聞いてくるのだろうか。あぁ、最近ユルレが元許嫁とか言って迫ってくるから、それでかもしれない。
「いや、そこまではないかな」
「あ、え、で、でも、最近ちょっと湧いてきたって……ブラックちゃんとホワイトちゃんが言ってました」
「……あぁ」
そう言えば、最近、ブラックとホワイトの2匹の狐がイチャイチャしてたり、家族になるって聞いてたからそれでちょっと家族に興味が湧いてたな。
それでそれを、少し口に出してしまったからそれがシエラに伝わったのかな。魔物念話のスキルで魔物とも彼女は会話できるわけだし。
「まぁ、少しはね。最近、その2匹を見てたらどうにも。家族とか恋人とかも良いのかなと思ってさ。俺は魔物の声は聞こえないが、幸せそうなのは何となくわかるし」
「で、ですよね! 私も同じ気持ちでした!」
「あぁ、シエラも結婚とかは興味あったんだっけ」
「結婚願望強めです。1番くらいです。ミクスさんはどうですか! 1番ですか!?」
「いや、飲食店を出すのが夢だから。2番目くらいかな」
「私もよくよく考えたら、結婚願望は2番目くらいな気がします」
よくよく考えたら2番になるってどう言うことなんだろうか……? まぁ、深くは突っ込まないようにするべきかもしれん。
シエラはまだ15歳だからな。色んな考えが常に回っているのかもしれん。
「で、でも、私、好きな人と一緒になれたら幸せだと思います」
「うん、そうだな」
「あ、えと……好きな人と一緒になれたら幸せだと思います」
「ううん?」
何で同じことを2回言ってるのだろうか。これは何か意味があるのかな……?
まさかとは思うけど、俺に遠回しに好意をアピールしているのだろうか。いや、それはないか?
俺は恋愛には疎い。前世だと関係が深まったと思っていた女から急に連絡先ブロックされたり、一緒に部屋で酒飲んだらそんなつもりはないとか急に言われたりしたことあったし。
好意の基準が分からん。両親も好き好き言ってた割には両方不倫して離婚してたし。
だからなのだが、どうなんだろう。これは……いや、童貞の考えが正しいわけがあるまい。
「因みにだがシエラはどんな人が好きなんだ?」
「え、えっと……背が高くて、顔はかっこいい人」
うむ、俺だな。なんて冗談を言ってるわけにもいかんか。まぁ、ミクスというキャラは背は高いし、顔もかっこいい。
しかし、これではルディオも他国の王子も該当している。まだ他国の王子は出てきてないから、ルディオの可能性もある。
それにただ単に好きな異性のタイプを言っているに過ぎない可能性もあるだろう。
「他には、手先が器用で色んなことを知っていて、笑顔が素敵で……」
ふむ、これは俺かもしれん。笑顔が素敵かどうかは分からんがここは主観の問題だろう。
手先が器用と言ったら俺だし、色んなことを知っているのも俺だ。まぁ、前世の知識があるから、色々知ってないわけがないということもあるけど、
あれ、もしかしてシエラの好きな人って俺なんじゃないかな? あ、あれぇ?
これってもしかして、俺が好かれていたとかいう可能性も出てきたのかな? まぁ、確かに自分で言うのもアレだけどAランク冒険者で色々と出来ることも多い自負は多少なりともあるけど。
うーん、そうなのかな?
「ほ、他には……え、えと、自分にしかできないことを持ってて、唯一無二でかっこいいと言うか」
ほな、それ俺か……。錬金スキルで美味しいご飯とか作れるし、異世界の料理の知識から、珍しい料理も再現できる。
あれ、俺か?
シエラの好きな人もしかして俺なのかな?
「他には、白馬に乗ってるのが似合う人で、オーラも神々しくて、なんか他の男の人とは違うって思わせてくれて、見てるだけで心臓が飛び出そうなくらいドキドキする人で」
ほなそれ、俺とちゃうかー。
流石に白馬は似合わないし、似合うつもりもないし、乗るつもりもないし。オーラとか出ないし、流石にそんな盛った感じではないしな。
って言うか、流石にそれは他国の王子でも厳しいような……いや、行ける! 他国の王子なら行ける!!!
「それで、色んな武器を使いこなせて、冒険とかでも一緒にいて心強い人で……私の黒髪とか青目とか見てもまっすぐ接してくれる人で。その、私の見た目を恐れない人って、多分普通ではないって言うか、普通なら恐れてしまうと思うんですけど。むしろ褒めてくれたりする変わった人で……」
あれ、俺かな? なんかそれって俺っぽくない? 色んな武器を使えたりするし。見た目で変な反応とかしないし。前に髪とか綺麗って言ったことあるし。
あれ、やっぱり俺か? 俺なのかな? それだったらどうしようかな?
「他にある?」
「え、えと、なんか、Sランク冒険者も片手で瞬殺できるくらい強いって言うか!」
ほな、それ俺とちゃうかー。
流石にそれは俺ではない。うん、ルディオと言うSランク冒険者とは戦ったことあるけど満身創痍だったし。
「それで、他には料理得意な人がいいです。もう、なんか、料理得意な人って憧れあります!」
あれ、それ俺ちゃうんか? 俺の可能性ないか?
やっぱり俺なのかもしれない。くっ、シエラにまさか俺が好かれてしまうとはね……
今後の身の振り方を考えなくてはいけない。
「で、でも偶に面白くないギャグとか冗談を言ってドヤ顔してるところがあってもいいかもしれないです」
──ほな、それ俺とは絶対ちゃうな!!
なるほど、これは決定的だね!!
俺のギャグは面白いからな。自分で言うのもアレだけど、結構センスがいい気がするんだよね。
まぁ、ギャグの面白い面白くないは主観かもしれないけど。
だとしても俺のギャグとかは面白いと思う。
──なるほど、これは決定的だな。確かに決定的だ。
今ので彼女が俺に惚れているわけではないと断言できる。
流石にこれは違う。
今までの要素は色々と迷ってしまう箇所もあったけど、これだけは別だな。俺のギャグセンスは高くて、それでいて面白い!!
ここだけはハッキリしてる。風呂上がりの鏡のくもりくらいには!
はい、面白い〜!!
絶対に面白いね。これだけは俺の自信ある箇所なんだ。料理とギャグセンスは本当に自信がある。
前世の友達の山田くんは何とも言えない顔をしてたけど、彼は少数派の人間なんだろうさ。
『俺、トイレ行ってくるな』
『トイレにいっといれ』
『……はぁ?』
今思い出しても、これは傑作だったと思っていて。
ふっ、流石にシエラが俺を好きかもしれないと言うのは取り越し苦労か。まぁ、でも、本当に好きだったらどうするべきなんだろうか。
まぁ、シエラは顔は可愛いし、スタイルもいいし、性格もいいし。うーむ、でも、俺があんまり恋愛とか愛について詳しくないからな。
両親もあんな感じだったし。
あー、あんま気にしててもしょうがないだろうな。
「さて、野菜売りに行くか」
「あ、はい。全然スルーだなんて(くっ、こんな遠回しでしか言えない私がこれは悪いです!)」
「ん? スルー?」
「……スルーをするー、ってダジャレを思いつきました」
「ほほう? ちょっと面白いな」
「あ、面白いんですね。それを面白いと言うのも可愛いと思います!」
シエラも少しは面白くなってきたじゃないか。まぁ、別にシエラに面白さとかは求めてないけども。
ただ、結婚ねぇ……。
そう言えばユルレはなんで俺に言い寄ってきたのだろうか?
アニメの時だと、アニメ最終話くらいでは結婚して涙を浮かべながら、シエラに結婚報告するくらいだったんだけど。
俺はその先を知らないから、単純に泣けるほどに嬉しい出来事だったのかなって思っていたけど。
今の対応を見ているに少し違うのかもしれないな。
まぁ、そこまで深入りもしたくはないけど、軽く今度聞いてみようかな。丁度、バザーだし、またシエラの店でも見にくるだろ。




