第30話 結婚願望
絶大な魔力が場を支配していた。路地裏に立っていたフィオナ、その他の冒険者はその魔力の圧力に震えてしまっていた。
「だ、誰!?」
フィオナは振り返り、魔力の大元に注目する。そこには彼女がよく知る顔があった。
「シエラさん……? まさか、貴方なの……」
嘗ては同じパーティーで一緒に活動をしていたシエラだった。しかし、その魔力量はまるで別人。
嘗てはパーティーの役立たずとして、認識をしていたフィオナにとって今の彼女の魔力量は目を疑うものだった。
「なんて魔力、10倍とかそんな次元じゃ……」
以前の魔力との際に驚くフィオナだが、そんな彼女を無視してシエラは怒気をぶつけ続けていた。
「ミクスさんを……殺す……? そう言いましたか?」
「……ッ!? い、いや、そんなことは」
会話を聞かれていたことに焦りを抱いた。今のシエラは自身の手に余る存在であると流石のフィオナでも理解をしたからだ。
「では、先ほどのはなんなのですか」
「あ、あれは冗談でぇ……その」
微かな言動が死に直結してしまう異様な感覚、急激な焦りが湧いてきた。この言動だけでなく、今まで彼女にしてきた言動が頭の中をフラッシュバックした。
──不味い、まずいまずいまずい、
フィオナの心の中には焦りと恐怖で支配されていた。
「あ、あぁ。えと」
「その後ろの人たちに暗殺の依頼をしようと思っていたのでは?」
「そ、それは……その、違くてぇ」
フィオナが殺しを依頼しようと思っていた冒険者達は、シエラの膨大な魔力の前に気絶をしてしまっていた。
「な、ぜ、全員気絶してるのぉ……こ、この役立たずども……」
「それで、まさか、それをミクスさんに向けようとしていたとかはないんですよね? そうであったのなら……私も黙っておくわけにはいきません」
「……ご、ごめんなさい。も、もう2度と関わりません……ですので、許してくれない……でしょうか」
フィオナはその場に座り込んで、すぐさま頭を下げた。目の前にいる存在に対して、謝罪を示すしか生きる方法がないと分かったのだ。
下手な言い訳は逆効果。
微塵の嘘も許さず、更にそれを見抜いてしまうと思われるほどにシエラの瞳は深かった。
「……次、下手なことをしたら、絶対に殺す。覚えておいてください」
ドス黒く、怒りに包まれたシエラが最後にそう言った。そして、シエラはそれだけ言って背を向けてその場を去った。
「ば、化け物……」
フィオナはあまりの恐怖に座り込んで、最後に小さくそう呟いた。その言葉はシエラには届いていたが、シエラは何も聞こえないふりをして路地裏から消えた。
◾️◾️
シエラは何か用事があるらしい。先に俺だけが宿屋に戻ってきているが、いつ彼女は帰ってくるのだろうか。
彼女の好きな肉料理でも作って待っているけど、冷めないうちに帰ってくるといいけどな。
「コン」
「コンコン」
宿屋の中で飼っているブラックとホワイトは、俺がいてもお構いなしにイチャイチャしている。
「お前ら見てると、偶に家族とか結婚とか興味湧いてくるよ」
シエラの話だとこの2匹はもうラブラブで結婚するらしい。魔物念話のスキルでそういう事情も分かるんだなって思うとちょっと羨ましい。
動物と話してみたいってちょっと思っているからな。
しかし、この2匹をみてると結婚とかに俺が興味を持つとはね。これって、あれか、友達が結婚とかすると慌てて結婚したくなるとかだろうか。
「……結婚か。前に他の冒険者からお誘いあったな。誰かとご飯とかもありなのかな」
最近Aランクになったからだろうか。異性冒険者とか受付からのお誘いが少し多くなった気がする。
それにユルレからも誘いがきたわけだしね。まぁ、あれは貴族の厄介事も絡んでるから、絶対に断るからね。
でも、確かに誰かと一緒に生活するのって悪くないのかもしれない。シエラと一緒に過ごしてたら、楽しい気がするし。
このまま一緒にとか僅かに考えたけど、彼女は彼女の人生があるしな。
「コン」
「コン」
なんか、急に2匹がこっちを向いて、ヒソヒソ話してるような気がするけど。あれはカップルでイチャイチャしてるだけかな。
こいつら毎晩毎晩、うるさいからな。しかし、カップルならばそう言うのは仕方ないのかもしれない。だけど、シエラって毎日これを念話で聞いてて、どう言う気持ちなんだろうか。
そう思っている途中で宿屋の部屋が開いた。
「……帰りました!」
「おかえり、シエラ」
にっこりと笑ってシエラが帰宅をした。いつものように笑顔を浮かべているが、どこか笑顔がぎこちない気がする。
「どうした、何かあっただろ」
「え? あ、いや、なにも」
「いや何かあっただろ。顔がちょっと硬い気がするけど。まぁ、話したくないなら聞かないけどさ」
うむ、悩みくらいなら俺でも聞けるだろうしさ。今日のお肉は上手く焼けたからさ、せっかくなら美味しく食べてほしいという料理人の願いもある。
「……話してもいいんですか」
「勿論、話してみなさい。24時間でも聞くぜ?」
「あ、そんなに長くはないです」
「あ、ギャグのつもりで」
「あ、そうでしたか」
うむ、シエラにはまだまだ俺のギャグセンスの高さは理解できないようだな。これで笑って欲しかったのだけど。
「えと、私って最近ステータスがすごく上がってて……」
「おう、そうだな。確かにすごいよな」
「その、私って怖くないですかね? ば、化け物っていうか、益々厄災の魔女に近づいてたりしないかなって……」
「そうか」
なるほどな。確かにバザーでも言葉に発するのは魔力で脅したりしたが、視線とかで怯えている人もいた。
この世界だと本当に黒髪青目は怖がられているのだ。厄災の魔女って200年前くらいに存在したらしいから。
まだ恐怖が根付いてるのかな。
「化け物とも魔女とも思わないさ。俺は強くなったシエラを見て、成長が素直に嬉しかったさ。だってずっと仲間だったからさ」
「……」
「気にすると思うからさ。今日はずっと話聞くぜ?」
「……あ、ど、どうも、えへ。そんな風に言われると……」
これって、どうしたん話聞こか? 的なムーブなのだろうか。
まぁでも俺はそういうつもりとかはないけどさ。さっきは結婚とかを考えたけど、シエラは妹みたいな感じだしな。
シエラも流石に俺のことを恋愛対象とかとは思ってないだろう。まぁ、俺は恋愛とか詳しくないから知らんけど。
ここまで割とアニメ通り進んでるし、好きになるのも同じ人だろう。それにシエラと一緒に過ごしてるけど、告白とかされたことないからな。
もし、万が一に好きなら告白とかってしてくるもんだと思う。シエラって割とはっきり言うタイプだと思うし。
「その、もう少し話してもいいですか?」
「勿論さ」
もろちん!! って言う下ネタを言おうと思ったけど、あえて何も言わない俺だ。
「わ、私結婚とかしたいなって……すいません、こんな見た目なのにわがままな願望持ってて」
「我儘でもなんでもないと思うけど。まぁ、シエラはできると思うぞ。だって顔可愛いし」
「えへ、可愛いだなんて……」
「ほら、ルディオとかも気にしないだろうし」
「……あの人は悪い方ではないと思いますけど。その、もっと他にその」
へぇ、やっぱシエラのタイプとかがあるだろうか。
「私、年上が好きで……」
「あぁ、そうなのか」
そう言えば、他国の王子は年上だったか。
「手先とか器用な方とか素敵だなって。それと指も綺麗で、声音もかっこよくて、背も高くて」
他国王子って手先とか器用で、何でも出来るってやつだった気がする。まぁ、俺がアニメを見ている範囲ではあったけどね。
しかし、シエラも割と願望があるんだな。まぁ、俺も胸がでかい人がとか、前世の若い時は思ってたし。
相手に求めるのは当たり前だろうさ。
「戦闘も凄くて、自分だけの技術とかもあって、知識もたくさんあって、話も面白くて」
「お、おう」
そんなやついるかな……。いや、他国の王子なら全部該当している気がする。気がするだけで、本当に全部当てはまるのかどうかは知らん。
他国の王子はバザー終わった後の、交易祭で出てくるから登場時間はワンクールだとそこまでなんだよね。
他にも逆ハーレム要員は居るんだけど、そこまで1クールだと深掘りとかされてないしさ。
だから、全部を知っているわけではないのだ! まぁ、他国の王子だから大丈夫だろう。深掘りしたら想像を絶するスペックのはずだ。
「そっか。シエラの人生はきっとハッピーになると思うから。良い出会いがきっとあるさ」
「そうですね。確かに良い出会いは……ありますよね! ありがとうございます!!」
おっとシエラが大分、元気になったぞ。この子ってメンタルの回復力とかもすごいよな。
元が強いんだろうけど、俺が少し話しただけで明るくなれるわけだし。
「さ、ご飯食べよう」
「はい!」
◾️◾️
???「結婚願望が増えてきたらしいで」
???「アタシ達見て、結婚したくなってきたからチャンスね」
シエラ「遂に……私に最高のチャンスが」




