第28話 異世界クリームパン無双
ユルレとルディオが俺達の前にやってきた。やはりアニメの時と同じで2人はシエラの前に現れるんだな。
そう言えばこの2人は一応顔見知りで、更にはユルレのリューゼン家がこのバザーを取り仕切っているから、事前に挨拶を済ませてたんだっけな。
そのままバザーを案内してるっていうのもアニメ通りだ。
ちゃんとイベントが進行しているようだ。アニメの時だとルディオはシエラの野菜を買っていきながら、彼女を庇うような言動をしていたな。
具体的にはこのバザーでシエラの野菜を沢山買っていったり、逆に陰口とか悪口を言ってる人に対しては怒っていたりしてたし。
「シエラも店出してたのか」
「あ、はい」
「あと、名前モモタロウじゃなかったんだな」
「あ、はい。ちょっと急に名前聞かれて、あの時はびっくりしてて」
ルディオはようやくシエラの本名であると気付いたようだ。まぁ、シエラはかなり目立ってはいたから偽名がバレるのも時間の問題だったろうけども。
「そうか、いきなり聞いたらびっくりするよな! ミクスは偽名か?」
「あ、ミクスさんは本名です」
「そうか! オレも本名だ!」
ルディオってやっぱり、悪いやつではないよね。って、今見ていて思ったな。アニメ見ててもそう思ったしさ。
それはユルレも一緒だった。彼女は悪いやつではないし、なんなら良いやつですらある。まぁ、婚約とか言い出しているのは面倒だけどな。
そんな彼女は今、ジッと並んでいるパンを眺めている。ついでにルディオも気になっているようだ。
やはり貴族だから食事が気になるのかな。娯楽として楽しめるのってこの世界だと貴族とか、金持ち冒険者とかしかいないしさ。
「ミクス様はクリームパン……へぇ、食事を売ってるとは珍しい。1個貰おうかな」
「面白そうなことしてるじゃねぇか。1個貰うぜ」
シエラのためにも無碍には出来ないし、一応お客様でもある。笑顔で接客をしようか。ここで買ってもらって、ついでにシエラの野菜も勧めておこうかな。
「お買い上げありがとうございます、どうぞ」
「頂きまーす」
「ほう、お手並み拝見だな」
最初に食べたのはユルレだ。ゆっくりと口の中に入れて咀嚼をする。そして、数秒経ち、思いっきり目を見開いた。
「……なに、これ。すっごく美味しんだけどッ!?」
ふっ、当然と言えば当然だな。俺は料理にはこだわる男だからな。
「ミクスさんは料理上手ですから!」
「なんで、君が得意げにしてるのかは分からないけど。これすっごく美味しいよ。臭みとかないし……僕の家に来てもらったら量産して、領地内の都市の名産品とかにしたら、すっごく良いかもしれない……」
シエラは俺が料理上手であることを誇っているようだ。一方でユルレは感動しているような様子だ。
「これ美味しいな、びっくりだよ! 世界で1番と言っても過言じゃないかもしれないね。甘味も濃厚で、パンもふわふわ、僕の家の料理人でもここまでのは出来てないはずだよ。ルディオ様はどう思ってる?」
「こりゃ、すげぇな。とんでもない美味さだ!!!! 料理人としてオレの家で雇いたいくらいだ。こんな安値で売っていい代物ではないだろうな!」
お、おう。そんなに褒められると素直に嬉しいな。こちらとしても力を入れて作っているからさ。
「そんなに褒められると嬉しいですね。しかも貴族である2人に褒めてもらえるとなると余計に嬉しいです」
「……ミクスさん! 私も買います!」
横で商売をしていたはずのシエラも、買ってくれるようだ。朝も昨日も味見で沢山上げていたと思うけども。
しかし、買ってくれると言うのでパンを渡した。
「これはすっごく美味しいです!!! もうこれは、これなしだと生きていないくらいですね!! 食べてから暫くしたら、また食べたくなって落ち着かないようになってしまいそうです!!」
なんか、怪しい物を食べた時のセリフみたいになってるけど、彼女なりに美味しさを伝えたいのはよくわかった。
「ミクスさんのパンはもう美味しすぎて、毎日食べたいです!! 毎日!!」
「……もう、食べてないか?」
毎日、食べていると思うけど。昨日も、一昨日もパンを食べたり肉を食べたり、ジュースを食べたり、食べてばっかりな気がする。
「……あ、確かに。もう食べてましたね! 私って幸せ者ですね!」
「そう言ってくれるのは嬉しいよ」
「嬉しいですか! 貴族2人に褒められるのとどっちが嬉しいですか!」
「……まぁ、両方かな」
「くー、引き分けならよし!」
引き分けなら良いのか。こう言うのにちょっと張り合うシエラは正直可愛いと思う。素直って言うか、純粋って言うか。こう言う純粋な部分っていうのがすり減っていくのがアニメだった。
このバザーでもルディオとかが消えたら、石投げられたり、買った野菜にいちゃもんつけられたりしてたし。
「ミクス様、このパンはどうやって作ったの? 僕もルディオ様も美味しいご飯とかは食べ慣れてるのに、今までの中で1番美味しいんだもん。気になっちゃうよ」
「錬金スキルの抽出とかを上手く使いながら作るんだ。臭みを抽出したり、逆に旨味を調合したりになるかな」
「へぇー、そんな簡単に色々教えちゃうんだ。でも、それって出来る人だいぶ限られそうだね。それ出来る人を育てるのも時間かかるし……やっぱりミクス様に直接色々してもらう方が良さそうかな……思っていたより有望だし、換えが効かない……それで結婚はいつしよっか?」
──直後、大気が震えた気がした。
いや、完全に気のせいだった。一瞬だが、とんでもない圧力を感じた気がしたけど、辺りを見渡しても何も異変は起きていない。
「結婚とかは俺まだかなと」
「ええー、そうかな。やっぱり僕達は運命かなと……あぁ、これ以上はちょっとまずいかな」
ユルレが顔を青くしているのがわかった。よく見ると額に汗を滲ませながら、目線をあちこちに移動させている。
「お、おぉ、とんでもねぇ魔力だな……面白い次元じゃねぇぞこれは」
「あ、そ、そうですね。ルディオ様、あ、えとミクス様、僕達はこの辺で。でも、また来るからね」
そう言って2人は去っていった。サリアバザーの案内をユルレはしているらしいから、ずっと一部に止まって置けないだろうし。
しかし、シエラの野菜を薦めようと思ったのだがそんな暇がなかったな。まぁ、また来ると言ってたしその時に渡せば良いだろうか。
「よし、ようやく去ってくれましたね!」
「シエラ嬉しそうだな」
「い、いえ。嬉しいとかではなくて……緊張してて、ほら、貴族様ですし。それよりミクスさんと2人きりの方が全然良いです!」
なるほどね。確かにあの2人は貴族様だ。緊張してしまっても、無理はないだろう。
「それより、私達は私達で一生懸命売りましょう!」
「そうだな」
シエラは元気いっぱいって感じだな。さっきから通行人に驚かれたり、侮蔑の視線を向けられたりもしているのに凛としている。
「黒髪青目の野菜とか誰が買う──ッ!?」
まぁ、そういう失礼なやつには俺が魔力を向けてびびらせてやってるんだけどね。
魔力ってオーラとも似てるから、相手に向けてびびらせることもできるんだよね。これを応用してモンスターをよって来させないようにする技術とかもあるらしい。
まぁ、今回はピンポイントで魔力を向けて立ち去ってもらってるけどね。しかし、これはやり過ぎるとそもそもお客が来なくなってしまってるので、あくまでも失礼な人だけだ。
シエラの黒髪青目、俺は怖くないがこの世界だと俺が異端なのである。宗教とか、伝承とかで怖がっている人がいるのもしょうがないのかもしれない。
だが、それでも実際にシエラを見て差別的な言動をするのは許容範囲ではない。怖がるくらいなら良いが、わざわざ言葉に出す必要がないだろう。
全く……うちのシエラに可哀想な事を言うんじゃないぜ。
しかし、シエラのステータスアップの木の実はちょくちょくだが食べてるからだろうか。魔力がだいぶ上がっているな。
あの冒険者相当ビビってたな。
「……(ミクスさんが庇ってくれました。なんて嬉しい。これは熱い視線を送らざるを得ません!!)」
シエラがジッとこちらを見てるけど、これはいつものことだ。さて、このサリアバザーって、
救済の光のフィオナが参加してるんだよね。彼女は商人の娘だから、バザーに参加してるのも納得なんだけどさ。
ここで、シエラとフィオナが一悶着あるんだけども……。いや、シエラも大変だよね。次から次へと色々やってくるんだからさ。
「あらぁ? もしかしてぇ、追放された無能カップルのミクスさんとシエラさんじゃないかしらぁ?」
おお、タイミングが良すぎないか? それにしても久しぶりだな。会いたくなかったけど。
「フィオナさんですか。まさか、ここに来るなんて……(カップルに見えてるのは嬉しいですけど。ここで喜ぶのは違う気がしますね。それはそれとしてカップルと思われたのは嬉しいです)」
シエラも複雑な顔をしているな。
さて、どうなるかな。




