第3話 追放された2人
はぁ……ミクスさんのクリームを塗ったパン美味しかったなぁ。
サリアの町に向かうまでに食べたミクスさんが作り上げたクリーム。あれはまさに絶品でした。
今まであんなに甘くて美味しいのは食べたことがないと断言できます。
あれ本当に美味しかったです!!
どう考えても世界の常識を覆すレベルの発明だと思うんですけど……あんまり吹聴をする気がないみたいでした。
確かにあんな技術が公になったら、大騒ぎかもしれないですし。貴族とかも囲いたがるでしょう。
そんなすごいのを食べさせてくれるだなんて、嬉しすぎます。この思い出は一生忘れないです!
10年かかったんですもんね……
「ミクスさんはサリアの町に行ったことあるんですか?」
「あぁ、あるよ。というか普段は寝泊まりしてる」
「え!? そ、そうだったんですか?」
「うん、救済の光とかが寝床にしてるところだと鉢合わせしそうだし」
そっか、ミクスさんもあんまり他のメンバーとは仲良くなかったですもんね。ミクスさんは自分の成長と、お金のためにパーティーにいたと言ってました。
そういえばプライベートとかは全然知りません……もし彼女とか、婚約してたりと、同棲してる彼女がいるとか……
「へ、へぇ……」
なにか、うまく特定の異性を聞き出す方法はないでしょうか? 今までこうやって落ち着いて2人で話せるタイミングは沢山ありましたけど……まだ聞き出せていない。
2人でパーティーも追放状態、で、でもこれ以上に聞けるチャンスはないかもしれない……
「あ、そ、そういえばミクスさんって、こ、恋人とかいるんですか?」
「え、いないけど」
「あ、そ、そうでしたか」
おおおお!!! 嬉しいです!!!
いや、嬉しいというのは失礼ですか……で、でも、こ、これは喜んで良いのでしょうか……もしかしたら、恋人がいないことで悩んでたりしたら申し訳ない……
その場合は私が……いや、黒髪青目の女なんて……告白されても嫌ですよねぇ……
でも、好きになってしまったんです。
正直、気になっているのは私だけではないはず……そもそもミクスさんはモテる。容姿はカッコよくて、ミステリアスだし、Bランク冒険者。
Bランク冒険者になったのは最近だけど……Cランクの時から人気があった。
ミクスさんは錬金スキルの達人とまで言われてました。それにそもそも錬金スキルって持ってる人少ないですし……
それもあってすごい人気でした。救済の光って、勇者スキル持ってるアルドが一部女性から謎に人気ありましたけど、周りからはだいぶ嫌われてました。
ですが、ミクスさんは男女共に人気あって、なんであんな人格者があんなパーティーにいるんだって疑問視されてるくらいでしたし。
彼に救われたという人は沢山いました。
そう、そういえば……私もあの日に救われました。その時から気になってしまったんですよね……
あの時のことは絶対に忘れない。
──1年くらい前でしょうか……
──救済の光にはギルバードと言われている、前衛クソ野郎が1人いるのです。
それは私が市場で買い物をしていた時でした。普段から黒髪とか青目のこともあるので、フードを被りながら過ごしています。
買い物をしている時、私のフードを急にとって公衆の面前で私の顔をギルバードは晒したのだ。
「おいおい、厄災が買い物してるぞーッ!」
「ちょ、ちょっと、やめてください!」
大慌てで私はフードを隠して、俯きました。私のフードを剥がしたのはギルバード、彼はわざと私の髪と瞳を晒したのだ。
自分から私のフードを剥がしたくせに……
「大丈夫ですか? ここには厄災の魔女と同じ特徴の女がいるので気を付けてください」
「え、は、はい。ありがとうございます!」
「オレがいますので、安心してください! 守ります!!」
「あ、や、優しいんですね!」
通り過ぎる女冒険者や、女性に自分が守るだと、大丈夫ですかとか声をかけて媚を売るようなクズでした。
不可思議なことにそういうワザとらしい演技に騙される人が多かったのです。
怒りと悲しさと、理不尽さとそんな最低なことをする奴が微笑むのが許せなくて……いつも、泣いていた。
救済の光に入ってから、ギルバードのこうした嫌がらせは多かった。黒髪青目が恐れられているというのを利用して、自分が正義を気取り他人から優位に見られようとしているのが私にはわかった。
でも、他の人にはわからないようで……正義を気取る彼の本性は。
周りには私は恐怖の対象でしか見えてないようで……
でも、だけど
「それ、マジでダサいからやめてくれない?」
救済の光にミクスさんが入ってから変わりました。私がフードを剥がされて、周りにいつものように周知されたのを見て……
そして、ギルバードが声を上げていつものように正義面をしようとした時……
「あ? おい、ミクス……新人のお前が何言ってんだ? こいつの肩を持つのか?」
「いや、持ってるわけじゃないけど。そのセックスアピールダサすぎでしょ」
「あ? せ、セックスアピール?」
「女にわざとらしく守るようなそぶりを見せて、モテようとする行為のことね。もうちょっと別のアプローチ考えた方がいいよ」
淡々と彼は告げたのです。その瞳から、一切の淀みもなく、ただ、真っ直ぐ意見をぶつけていました。
その日は、市場の花を買おうと思って見ていた時でした。花屋の店員は女性で、きっとその人に媚を売りたかったのだと思います。
ミクスさんが、ギルバートを止めると……周りの人もさらに注目をしてガヤガヤと騒ぎ始めました。
「おい、お前こいつを庇うのか?」
「庇うか……なるほど。客観的にはそう見えると思う。まぁ、それで正しいけどさ。このやり口、前もやってただろ? いい加減女も釣れなくなるぞ」
「……てめぇ、調子に乗るなよ? 上から目線で何様だ? 今すぐ殺すぞ」
「俺が上から目線じゃなくて、そっちが下から目線なんじゃない?」
圧倒的な頭の回転力から出る言葉に、痺れを切らしたギルバードは自らの背中にある戦斧を持ち出して、ミクスさんに振り抜きました。
やばい……
ギルバードは本当に力が強く荒くれ者、モンスターを一瞬でぶった斬るのを私も見ていました。だから、思わずミクスさんを案じてしまいました。
無論杞憂でした。
「錬金」
どこからともなく、本当にどこから出したのでしょうか。最初は持っていなかったはずなのに、ミクスさんの手には剣が一本握られていたました。
少し変わっているのは剣が柄の部分も全て鉄で、剣というよりは剣の形をしている鉄の塊であったこと。
それで軽々と戦斧を彼は受け止めていました。
これには、私も、ギルバードも周りの冒険者たちも、平民も驚いていたのです。救済の光はCランクの将来有望と言われていたパーティー。
だからこそ、注目もされていたというもあります。ギルバードの力の強さだけは誰もが知っていました。
にも関わらず、それを余裕綽々で彼は受け止めました。
「……まぁ、冒険者に喧嘩や荒くれ者はいるのは当たり前だよね。でも、次はないぞ。俺を安易に殺そうとしたんだ……次やったらマジで《《殺すぞ》》」
「……っ」
──ぴり
周囲の空気が張り詰めるのを私は感じました。ですが、最も感じていたのはギルバードだったのでしょう。今まで体格も大きくパワーがあった彼に逆らう輩などいなかった。
だが、明確に今……殺意を感じたのでしょう。
そして、それを周囲も感じたのでしょう。それっきり、私に対して石を投げる輩も少しだけ減りました。きっと、彼が私を守っていると勘違いをしたからだと思います。
私に何かすれば……あの錬金術師が出てくる……
密かにそんな噂があると聞いたことがありましたから。しかし、彼はそういうのは気にしないようでした。
さっき知ったことですが、彼は寝床は活動拠点の近くではない場所で取っているというので噂を聞く暇がなかったのでしょう。
そして、ギルバードはイライラを募らせながらその場を離れました。しかし、彼はミクスさんに苦手意識をこの日から持ったのだと感じました。
冒険中、あからさまに私に対して何もしなくなりましたから。前なら石を投げたり、背中を蹴ったりしていたのですが……
かと言って、ミクスさんを抜けさせるのも出来なかったのでしょう。錬金スキルは限られてますし、何よりミクスさんは本当に錬金術師として腕がありましたから。
前衛などもそつなくこなしつつ、ポーションも量産する。まぁ、この間追放したのはBランクに上がって知名度も高くなったからもっと良い錬金スキル使いが来ると思って安易に追放したんでしょうね。あのバカたちは……
「あ、あの、さっきはありがとうございました」
さて、私がギルバードをスカッと退治してくれたミクスさんにお礼を言いに彼の後を追いました。その後、頭を下げると……
「気にしないでいいさ。若いのに大変だねぇ。シエラさんは」
「え、えと、お気遣いありがとうございます」
「……」
きっと、私が涙目になっているのが分かったのでしょう。彼は急に手で拳を作りました。
「くーーーーー!!!」
「??」
そう言って力を込めた右手を私の前で開きました。すると……ミクスさんの手のひらから一つのお花が出てきました。
「じゃじゃーん! これはお花!」
「あ、ど、どうも」
「じゃじゃじゃじゃーん、今のベートーベンの運命ね」
「……あ、はい」
「あれ? 面白いはずなのに……あ、ベートーベン知らないよね。ごめんね。それより、これあげるよ」
それは錬金スキルで作った造花でした。彼は青い薔薇を私にくれました。
「これはね……青い薔薇なんだ。青くて綺麗だけどすぐ枯れちゃうからさ、造花にしたらずっと持てるなと思って」
「ど、どうも」
「花言葉は……夢が叶うとか、奇跡だね。何か良いことあるといいね」
そう言って、彼は背を向けて歩き始めてしまったのです。だから、私は思わず、彼を呼び止めてしまいました。
「え、あの、どうして薔薇を私なんかに?」
「ん? いや、理由はないな。なんとなく、誰かにあげたい時ってない?」
「え、ど、どうでしょうか? 私には分かりません……すいません」
「謝らなくて良いよ。まぁ、気まぐれみたいなもんだからお気になさらず。あ、迷惑なら回収するけど」
「い、いえ、欲しいです。薔薇好きなので……」
さっきも本当はお花を買おうと思って、町を歩いていたわけですし……
「あ、そう。それじゃ、明日もよろしく」
そう言って彼は去っていった。青い薔薇はまだ私は大事に持っています。
うん、今思い出したのですが……これは惚れてしまいます。もう、この時点で惚れてましたけど。
「サリアの町はあとちょっとだな」
「は、はい!」
ほぇー。どうしましょう、サリアの町について、はいさようなら! とか言われたなら立ち直れません。
な、なんとかもう少し引き伸ばしたいですが……私が言っても迷惑になってしまいかねません……
「そうだ、サリアの町は詳しく知らないと思うから俺が案内するよ」
「あ、ありがとうございます!!」
うわあああああああああ!!!!! 追放されてから良いことしかないんですけど!!!!!!
やったぁーーーーー!!!!!
追放って、基本悪いイメージだったのですが……今の所良いことしかありません!!!
面白ければ感想、高評価お願いします! モチベになります!