第23話 婚約者からの手紙
魔族との決戦を終えて、俺は肩の荷が大分降りた。
アニメでミクスと言うキャラが死んだのは、魔族に操られてシエラを襲ってしまったからなのだ。
だがしかし、その魔族は今やシエラに葬られている。つまりは俺はもう、死亡フラグ、ざまぁ展開に恐れることはなくなったわけだ。
いやー、嬉しいねぇ。これからは安全だね!
まぁ、なんらかの強制力で急にまた死亡フラグ的なのが立つ可能性がゼロは言い切れない。だがしかし、安全度が上がったのは喜ぶべきことだ。
残りはもうシエラを育て上げて別れるだけで終わりだろう。それにシエラも大分育ってないか?
俺の役目はほぼ終わりであると思っているのだけど……一応どこまで俺が付き添うのかは検討の余地ありだな。
ステータス平均20000くらいだと前言っていた。これが50000、いや、70000くらいになったら、離脱してもいい気はするんだよな。
アニメだとワンクール最後で17000くらいが平均だと言ってたし。あ、今の時点でアニメワンクールの時よりはステータス超えてるのか。
ただ、念には念を入れるってのもあるからな。少しだけ高くしておくのもありだろう。
それにシエラはすぐ70000だって超えるだろうさ。だって、ステータスが上がる速度がシエラはとんでもないからね。
とにかく、朝も昼も夜もよく食べ……いや飲んでいる。
今も元気に、片手でりんごに似た木の実を、軽く握り潰してジュース状にしている。
もう見慣れたけど、見た目美少女とのギャップ半端ないな。
「ごくごく……ふー、この1杯から1日が始まる気がします」
もはや、毎食のルーティーンになってるらしい。ボディビルダーのプロテインかよ。
それでいてスキルが進化したからなのか、木の実によるステータスアップの幅もかなり上がっているらしい。
俺もステータスアップの木の実を勧められるが、あまりに急激にあげると体がうまく動かない時がある。細かい力加減が上手くいかなくなったり、手応えとかがズレてきたりね。錬金スキルって、割と繊細な作業だし、感覚が大事なのだ。
だから、自身のステータスとかが上がり、特に魔力が上がると感覚のズレが大きくてスキルが失敗する確率が通常よりも上がってしまうのだ。
と言うか大体の人間が急にステータス上がれば調子を逆に崩すだろう。大量に食べてステータス上がっていつも通りに過ごせるシエラと言う主人公が特異な才能なのである。
それに俺はそこまでステータスをあげたいわけでもないからね。現時点で生活には困ってないし、ステータス操るのが下手になって錬金の研究が滞ってしまう方が問題だ。まあ、せっかくなのでちまちまとはもらっているが……あくまで錬金の練度の邪魔をしない範囲でだ。
そう、俺にとっては錬金の研究が止まる方が嫌だ。だからこそ、今すごく困っている。
──Aランクになると、貴族からの婿入りとか勧誘が増えるからだ。
なんで嫌なのか。それは貴族の付き合いとか面倒だし、優雅な暮らしとか言っても俺が自分で飯作った方が優雅で美味しいし。それに元貴族だから知ってるが、良いことばかりではないし、貴族には貴族なりの苦労があるし、付き合いも面倒なのだ。
そう言うのが多いと錬金の研究とかも止められるだろうし。そんな暇なさそうだし。だから、嫌なんだ。
そんなことを考えながらである。
魔族との死闘を終え、休養もあけた今、俺はギルドに向かっていた。
なぜかと言うと、ランク更新の際に預けていたライセンスを回収するためだ。
更新は俺だけでなく、シエラも一緒にしたので2人で回収しにギルドに向かっている。
「ミクスさん、Aランク冒険者はやっぱりすごいです。周りからの羨望の眼差しもひしひし感じます!」
「そうかな」
「はい! 特に私が羨望の眼差しで見てます!」
「どうりでシエラの方向から強く感じたわけだな」
シエラってやっぱり天然なところがあるよな。正直、ちょっと面白いし、可愛らしいと思うわ。前世の高校時代に会ってたら恋していたかもしれない。
「ランク昇級おめでとうございます。はいどうぞ。ミクスさんはAランク、シエラさんはBランク昇級になっていますね」
冒険者ライセンスを返却された。そこにはAランクと記載されており、俺は思わず渋い顔をしてしまう。
「それと今回はミクスさんがAランクになられたことで、これまでのランクとは何が違うのかご説明します」
「はい」
大体は知っているが、あちらも仕事。邪魔する必要もないだろう。
シエラもゆくゆくはAになるだろうし、知るべきことだしな。
「そもそも冒険者ランクとは『実力の証明』であり、同時に『国家とギルドによる管理指標』なんです。冒険者とは国の戦力でもありますので、高ランク冒険者を野放しにはしておけないんですよね。それに高ランクの実力あるのに、低ランクのフリをされると他の冒険者が依頼を取られてしまうので昇級は断れません」
「そうだったんですね」
シエラはあまりその辺の事情には詳しくないようだ。まぁ、今まではGランクだったからね。
「あの、とんでもなく大事なことなんですけど……どうしてAランクになると貴族から誘いが多くなるんですか!?」
「シエラさん、すごい圧ですね……。え、えっとですね。そもそも冒険者と言う実力者集団を国としてちゃんと抑え込めなきゃいけないんですよ。それでBランクまでは大体の貴族の英才教育をうけた方なら抑え込めますが、Aランク以上は難しい場合も多いんです。そうすると、今度は逆に取り込もうという動きになるんですね。その境目がAランクです」
「なるほど……」
「だから、Aランクを超えると急に声がかかるんです。貴族は見栄っ張りが多いですからね。Aランクが婿になったら自慢もできますし、子供もAランク相当の実力者になる可能性が高いと。それに加えて、ミクスさんは元貴族なんですよね? そうなると遺伝子的にも優秀である可能性が高いので声がかかります」
面倒な話だよ。だから、Bランクくらいが丁度良いし、断りやすいと思っていたのにこうなったからな。
ステータスの上がり幅とかレベルアップの速度は遺伝があるらしいからね。
「大変、分かりやすい説明ありがとうございました」
「いえいえ、それではこちらで説明を終わらせていただきます」
さて、面倒になった……とはいえ用事はこれで終わりか。
一旦宿屋に帰ろうか。シエラ。
「はい!……で、でも貴族から声かかるとか、そ、そうなんですか?」
「いやあ、シエラが思ってるほど、そんなにはおきないと思うぞ」
シエラはえらく気にしてるようだが、婿取り云々も、いうほど頻繁にあるわけじゃない。そういうこともある、というだけだし。
そもそも、俺はAにあがったばかり。知名度も、名声も全然足りてない。
そんな話はあったとしても、当分の間は無縁だろう。
……と、思っていたんだけどなあ。
次の日、その職員がわざわざ宿屋まで来て、俺だけを部屋の外に呼び出し、届け物を渡してきた。
「ミクスさん、元婚約者さんから手紙届いてます」
「えぇ……」
ミクスと言うキャラ、俺のことなんだけど没落貴族という設定がある。モンスターに領地が全部滅ぼされてしまい、そのまま没落っていう流れなのだ。
それがあったから性格が悪いキャラなのか、どうなのかは知らん。
そんで、元婚約者……いや、知らない、覚えてないっていう方が正しいかもしれない。
俺は転生して赤子の頃から前世の記憶はあった。とは言っても何もかも覚えてるわけではない。領地滅ぼされた時、モンスターから命からがら逃げて、すぐに冒険者になって、そっからも荒事に巻き込まれて今に至るからな。
記憶が色々ありすぎて思い出せん。
名前とか顔を見たら思い出すかもしれんが……
「それで手紙がこちらです」
「……はぁ」
ギルド職員から渡された手紙をまじまじと見る。あんまり見たくないんだけども……
差出人はユルレ・リューゼンと記載してある。
あれ、ユルレ・リューゼンって……名前知ってるぞ。俺の婚約者かどうかは全く知らんけど
アニメだとシエラと友人みたいになるキャラじゃなかったかな?
丁度、ミクスが死んだ後の第7話に登場するキャラクターだったはずだ。【サリアバザー】と言われるイベントで2人は出会うはずだった。
サリアの町で行われる【サリアバザー】。要するには商人や冒険者、それぞれ自慢の品を自由に売買するフリーマーケットみたいなもんだ。
ただ、これは所謂、前菜みたいなもんなんだ。本番は【交易祭】と言われる他国との大規模な祭典に出す店をここで選別してたらしいのだ。良い店は良い評価をもらえて、交易祭に出せる。
交易祭に出せて良い評価貰えたら、それだけ品も売れるし、今後も売れるからね。だからこそ、気合い入った人が多いんだ。
それはさておき、その交易祭に出す品を決めるのが【ユルレ・リューゼン】なのである。
ここの部分が重要で、シエラの今後の人生を変えるイベントなのだ。だからこそ、嫌われたり、不備があるといけない。
さて、どうしたもんか。
基本的に貴族の誘いとかは全部無視して、シエラを育てたら国外逃亡、自力追放してやろうと思っていたんだけど。
ユルレ・リューゼンからの頼みだと無碍にはできないな。シエラが俺がここで無碍にしたせいで評価下がる可能性があると嫌だ。シエラは今のところは俺と一緒にいるわけだしね。
ユルレ・リューゼンも本気で俺と結婚したいとか思ってるわけじゃないだろうし。まぁ、Aランクだし元婚約者だったとかもあって声をかけてるだけだろうな。
「はい、結婚するつもりはありませんが……会うだけ会ってみます」
「そうですか。貴族って結構融通聞いたり、いい暮らしできると思いますけど。喜んで貴族になる冒険者もいるんですけどね」
まぁ、融通が効いたり生活が楽になるって言うのは正しいだろうさ。しかし、権利がある分、責任があるのも事実だろう。
Aランク以上の冒険者は貴族として取り込みたい。これがあるってことは貴族には身体的な強さも求められてるってことだろうさ。
しかし、これもよく考えれば当然だ。冒険者なんて荒くれ者だし、野に放ちすぎてれば自由を履き違えて好き勝手する奴らが現れる。救済の光みたいなね。
だから、そう言うのを律してコントロールするにも単純に実力が必要ってわけか。もしかして、ルディオがわざわざSランク冒険者とかやってるのも、貴族の権威とかを見せつけて、調子に乗るなよって念押しに来てるのかもね。
剣術大会とか舞踏大会とか、優勝するのは貴族が多い。賞金豪華だから冒険者も多数参加してたけど。
あれも権威を見せつけて貴族には逆らうなよ的なイベントだったのかもね。それが功をなしてるのか貴族には流石に喧嘩を売らないようにしようとか考えてる冒険者は多い印象だ。
あ、救済の光のイザベラは貴族の娘だけど俺喧嘩売ってたな……いや、あれは別に仕方ないか。シエラにごちゃごちゃ言ってからさ。
「まぁ、会うだけ会ってみるか。元婚約者と書いてるから結婚関連だろうけど……」
俺は国外逃亡するから、丁寧に断ろう。将来は喫茶店とか飲食店を開きたいのだ。貴族とかの生活が融通きくのは正しいだろうけど、俺からしたらデメリットが多いんだ。
さてと、手紙を見ると既に明日の待ち合わせ場所が書いてある。明日って……気が早いなぁ。あれ? でもアニメだとユルレって既に婚約者がいたとかじゃなかったか?
うーん、あんまり詳しくは知らんけど……結婚も予定があるって聞いてたけど。どうなのかな?
1クールの時だと結婚とかはしてなかったけど……居たとか言ってたけども。まぁ、知らんことを考えても仕方ないな。
取り敢えず、シエラには留守番しててもらおう。わざわざ連れて行く必要もまだないしな。
◾️◾️
「あ、シエラ、ちょっと留守番頼めるか?少し人と会う予定ができてな」
「いえ、構いませんが……。急ですね。一体どんな方ですか?」
「ああ、なんか、俺の元婚約者って人がきたらしくて」
は?
私は思わず、時間が止まったような感覚に陥りました。まさか、婚約者……婚約者と言いましたか?
え、あえ、え……
わ、私もう、生きていけないかもしれません。どうしましょう……もう生きていけないかもしれません。
『落ち着きなさい! 元婚約者でしょ! きっとミクス様がAランクになったから声をかけてきた貴族がいたんでしょ。ミクス様没落貴族らしいから、改めて声がきただけよ。落ち着いて、落ち着いて』
『せやな。ワイの主人はそう言うの受けるタイプやないから大丈夫や。落ち着くんや』
は!? そ、そうでしたね。冷静に物事を判断すればそのような判断になるでしょう。危なかった。確かにミクスさんが急に婚約とか受けるはずがありません。
ミクスさんは私と同じで飲食店の夢を持っていましたし。婚約のはずがありませんでした。
「は、はい! お留守番してますね! ごゆっくり!」
「うん。それじゃ」
私は笑顔でミクスさんを部屋から見送りました。ミクスさんは少し面倒そうな顔で部屋から出て行きました。
『あら、偉いじゃない。ちゃんと笑顔で見送るなんて』
「甘くみないでください。好きな人に不機嫌な姿を見せないくらい当たり前です」
『素晴らしいわ。それでどうするの? 一応、尾行でもするの?』
「甘くみないでください。ミクスさんの話を盗み聞きするなんてはしたないことはしません」
『な、なんてできた子なの』
「でも、友達がたまたまミクスさんの話を聞いててそれを後々聞くのはアリだと思います」
『……あぁ、アタシに行ってこいって言ってるのね。まぁいいけど、毎日、アタシとダーリンにステータスアップの木の実たくさんくれてるし』
そんなつもりなんて、少しもありませんでした。しかし、友達が乗り気らしいので私は笑顔で見送ることにしました。
まぁ、流石にミクスさんが急に婚約とかはないでしょうね。それに相手の方も別にミクスさんが好きとかではないでしょう。
取り敢えずAランク冒険者に声をかけただけなのでしょう。愛ならば私は誰にも負けません!
ホワイトちゃんの報告をしばらく待ちましょう。
『ミクス様は乗り気じゃないけど、相手の方がだいぶ押せ押せな感じだったわね』
は?




