第18話 樹海降臨
快適な朝がやってきた。
アンリミテッド薬による反動も綺麗さっぱり無くなり、完全に元の状態に戻っていた。
前なら3日間くらいは動けなかったはずだが……シエラの作ったステータスアップの木の実の栄養素が驚異的な回復力を授けてくれたのかもしれない。
しかし、回復をしてすぐだがこのサリアの町に脅威が迫っているようだ。
アンデッドの大行進。
アニメだと5話辺りの内容だったろうか。魔王の手下である『カデム』がアンデッドを率いてサリアの町に向かっているんだったか。
「えへへ、可愛いですねー」
シエラ、俺の頭を撫でている場合じゃない。アンデッドの大群が来ているんだぞ。
「シエラ、おはよう」
「あ、おはようございます……」
「何やら外が騒がしくないか?」
「……あぁ、言われてみると……そうかもしれないですね」
気づいていなかったのか。それとだけど、そろそろ頭から手を離してくれていいんだぞ。
「何やら大事かもしれない。早速外に行こう」
「えぇ……も、もうちょっとこのまま……」
「いや、看病は大丈夫だから」
「……はぁい、わかりました」
ちょっと残念そうな顔をしているのは気のせいだろうか。いや、気のせいではないだろう。
この子って顔に結構出るんだよね。
ただ、もうちょっとアンデッド行進の時は人助けにやる気があった気がするんだけど。
いや、まだ、外の騒ぎの原因がわかってないからな。これがアンデッドの行進であるとわかれば彼女も動き出すだろう。
ベッドから飛び起きて、着替えて冒険の準備を整えて外に出る。すると町は大混乱状態だった。荷物をまとめて、逃げようとしている者、武器を持ってギルドに向かう冒険者、それらが入り乱れて大混雑である。
「すごい騒ぎですね」
「結構冷静だな」
シエラが思っている以上に冷静でちょっとびっくりしている。まぁ、俺も冷静な対応をしているのかもしれないけど。
さて、俺達は現在の事情を把握するためにギルドに向かっていった。ギルドには既に多数の冒険者が武器を持って滞在している。
「あ、ミクスさんですよね! 緊急依頼なんです!!」
この町での受付嬢、名前は何だっけか。あ、ルルさんだ。彼女とは何度かお話しした程度だが俺がBランクであることやシエラと組んでいる事から名前と顔はすぐに覚えていたらしい。
そして、シエラに対しても特に差別的な意識は持っていない良識ある職員だ。
「アンデッドの大群、その数1000! この町に向かってきています。どう考えても人為的なものであるのでアンデッドの対処と原因の究明が求めておりまして」
「分かりました。取り敢えず、アンデッド討伐には向かいます」
「ありがとうございます! 既にSランク冒険者であるルディオさんと他の冒険者が向かっています。ここにいる方々は万が一、先に出発した冒険者が突破された際の防衛も兼ねておりまして……ミクスさんは……前線をお願いしたいです」
「承知しました。私にできる事であれば」
シエラは後ろでフードをかぶって黙っている。ここで口を挟むと他の冒険者から見られたりするから息を殺しているんだろう。
アニメだと、受付嬢に事情をこっそり聞いて彼女も前線に出て討伐に向かうんだよな。ステータスアップ木の実でパワーアップしてるのもあって、なんとか戦うことはできていたはずだ。
「シエラ、大丈夫か」
「大丈夫です。一緒に行きます」
まぁ、アニメだとホワイトが一緒なんだけど……ホワイトはブラックと一緒に家で留守番をしている。
連れて行くか迷ったが、ホワイトの場合はここは連れて行かなくてもそこまで流れは変わらないだろう。
町を飛び出して、前線まで走って行く。走りながら思ったが俺のステータスも上がっているな。
昨日シエラが看病でステータスアップの木の実のすりおろし、と言うかジュースをくれたのが効いているな。
俺って22年間割と毎日鍛錬をして、ステータスを上げてたんだけど。こんなにあっさりと上がってしまうと何とも言えない気持ちになるな。しかし、それと同時にどこか体が落ち着かない感覚もあるのも事実。
やはり急激なステータスアップはデメリットもあるのか。ただ、シエラは割とすぐに適応できているのがやはり主人公体質があるってことだろうさ。
「ミクスさん、体は大丈夫なんですか? ペース落とした方が」
「いや、大丈夫だ」
走っている俺に対して心配をしてくれるシエラ。昨日も看病を沢山してくれたのに今日もしてくれるとは。
「シエラ、ありがとう。おかげで体調バッチリだからさ」
「わ、私のおかげ……へ、へへ」
ちょっと笑い方がぎこちない気もするけど、照れてるんだろうな。さて、結構走ってきた気がするけど、そろそろ前線だな。
アニメだともう少し、早い段階で依頼に向かってたんだけど……
今日は俺が体調が悪く起きるのが遅くなり、しかも彼女も暫く外の騒ぎに気づかなかったらしいのだ。
だからこそ、遅れてしまったわけだけど……彼女は本来よりステータスが速く、それで走ってきたから間に合ったな。
「あれがアンデッドの大群」
思わずシエラが呟いたが、確かに呟いてしまうほどに大量の軍勢がこちらに向かって進軍をしてきている。
肌の色が腐ってるように青かったり、目玉がなかったり、体が溶けているように人の形をかろうじて保っているだけのように見える。
そして、それに対して多数の冒険者が遠距離攻撃スキルで応戦をしているがアンデッドは止まることはない。耐久値に優れているから、アンデッドはちょっとの攻撃では倒せない。
だから、清水を沢山採取するような依頼が来てたんだけど足りないんだよね。それに加えてこのアンデッドの軍勢には清水が効きにくい。
魔王の手下が作った特別なアンデッドだとか何とか言ってたのを覚えてる。
「苦戦しているようですね」
「あぁ、ただ、ルディオが前に出て物理的に敵を倒しているな」
ルディオはステータスが高いからな。あいつが正直全部倒してくれるまである。アニメでもそんな感じだったし、シエラはここではサポート面で活躍していたイメージだ。
アンデッドを倒した後、ルディオの傷を薬草で癒すんだけども。その薬草の効果があまりに高くて驚かれるって言うのがあったのを覚えている。
他にも魔力回復ポーションの元になる木の実をルディオや他の冒険者に与えてその回復量に驚かれるんだよな。
スキルって、全てに共通するんだけど使おうと思うと魔力が必須だから、全員の魔力を大幅に回復させることで注目をされるんだよな。
まぁ、一部は黒髪青目の女の木の実なんて食えないと言うんだけども。しかし、彼女の魔力回復木の実のおかげでアンデッド1000体討伐が成功するのだ。
しかし、それでも彼女の実績を認めなかったり、恐怖の対象として見るものが多かった。
そこをね、ルディオ君が異を唱えるわけですよと。彼がここでシエラを庇ったり、してくれることでシエラの彼に対する印象が少し変わるんだよね。
因みにアニメを見ていた俺もルディオに対する印象が変わった。お前、結構やるじぇねぇか! よく言ってくれた!
と思わず俺は膝を叩いてしまったのも懐かしい。
「私達も参戦した方がいいですよね。ルディオさん1人ですし」
「そうだな」
ルディオは既に戦っているが、この時点であいつだけでアンデッド100体は倒しているはず。いや、流石のステータスの高さと強者っぷりだ。
本当にSランク冒険者は超強いな。
しかし、ずっと動いていると体力も魔力も枯渇してしまう。
アニメでもシエラが魔力回復の木の実を与えてたわけだし、参戦はしないとな。
そう考えていると早速、シエラが動き出す。
「では……」
ほほう、アニメでもルディオの傷を癒すことはしていたが戦うことはしていなかった。まさか、ここで戦闘に参戦するとはね。
正直、本来ほどの好感度はまだ互いにないからね。ここで共闘することによって、好感度アップしてくれると……
「木の枝……?」
俺は思わず、首を傾げ絵しまった。シエラはなぜか木の枝を持っていたからだ。はて? それを一体?
シエラはそれを地面に突き刺し、魔力を高める。
「樹海降臨」
なんか、物騒な名前を言ってない? そして、俺の予想通り、木の枝がどんどん伸びて1本の大木となる。
更にそこから、根っこが大量に地中から飛び出してきて一気にアンデッドの軍勢に襲いかかる。
木の津波、とでも表現すればいいだろうか。
おいおいおいおいおい。何だこの物騒な攻撃は……!? 俺も驚きすぎて、逆に声が出ない。
こ、こんなとんでもない攻撃って、本来のアニメでもあったかな?
「◾️◾️◾️ッ!!!」
「◾️◾️ーーー!!!!」
アンデッドに対して、巨大な木の根がいくつも、蛇のように地面を割って伸び上がる。
「う、嘘だろ……! あれは……全部、木の根……!?」
他の冒険者の1人が呟き、驚きのあまり全員が目を見開いている。
根はまるで意思を持つかのようにうねり、アンデッドの群れへと襲いかかる。
ゾンビの骨を砕き、肉体を絡め取り、体丸ごと握り潰す。
「◾️◾️◾️……!」
「◾️◾️っーーーーーー!」
悲鳴すら吸い込むように、木の根が全てを飲み込む。
アンデッドの残りの数は900体ほどだろう。それらが全て飲み込まれていく。その様子は、まるで森そのものが死者たちに鉄槌を下しているかのようだった。
「ちょ、ちょっと待って……。あれって、ただのスキルなのかよ!?」
「なんだよアイツ……あの人……一体どこの冒険者……」
「いや……あれは、黒髪に青い目……ッ!」
まさに圧倒的な力による蹂躙が目の前で行われた。えぇ、こんな必殺技とかあったかな……?
「……化け物かよ」
誰かの乾いた声が聞こえてくる。周りの冒険者が驚いているがまさに正しい反応だと思う。これは流石に無茶苦茶だろう……流石は主人公だな。
ここまで来ると圧巻だぞ。まさに人智を超えていると言う表現が正しい。
木の根っこも大木の根であるので太い。それがアンデッドの体に巻きつき、身動きを取れなくする。
そして、不思議なことに巻き付かれたアンデッドは次々に倒されて行く。そこまでの攻撃力があるのか?
「シエラ、あの根っこは……」
「清き森の湖、そこにあった木なので清水を吸っているみたいですね。それをスキルで増幅させて、縛り上げました」
「……あ、そうですか」
もうこの子、1人で全部いいんじゃないかな……? ルディオも驚いてこっちを唖然と見てるし。
アンデッドの軍勢が一瞬で全滅してしまったな……
これって好感度互いに上がってるのかな……? イベントを全部【樹海降臨】とか言う物騒な技が吹き飛ばしてしまった。
「ミクスさん! 私、頑張りました!」
「あ、うん、凄い。流石シエラだな」
「へへ、ど、どうも……へへ」
「あの樹海降臨って、いつの間に覚えたんだ?」
「いえ、何となくできると思って。前にミクスさんが私に架空の物語を教えてくれたじゃないですか。その中の根っこを相手に大量に向けるのからアイデアをいただきました」
「……あちゃー、俺のせいか」
前に色々話したことあったな。前世の漫画とか小説とかの話を……その中から再現できると思ったのをしたのか。
いや、出来るの!? 再現しようと思ったから漫画とか小説の技をパクったって……。
「な、なんだよ、あいつ……」
「見た目もあれだし、厄災の魔女なんじゃ……」
「最近街の中を彷徨いてるやつだろ。あんなの化け物じゃないか」
はぁ、周りの冒険者の反応が聞こえてくる。凄すぎる力はどうしても恐怖の対象になってしまうからな。
よし、ルディオお前が何か言ってやれ。アニメでも、ごちゃごちゃ言われた時に他の冒険者に言い返してやったろ。アンデッドの軍勢の時も薬草が凄いと褒めてたじゃないか。
「……ま、マジかよ……こんな力が……ただの人間じゃねぇのか、も、モモタロウ。お、面白い女だぜ……」
いや、衝撃すぎて唖然としちゃってるじゃないか!! 口をあんぐり開けてぼぉーとしてるぞ!!!
ここで庇ったら絶対好感度上がるだろうに……。だけど、アニメとかでもここまで急激に力が上がることもなかったか?
しかも、ルディオは最初からそこまで強いとシエラを評価してなかったし。そもそもアニメでこんな技、初期で使わないだろうからな。
ビビるのも仕方ないとしても……うーん、このままだと可哀想。だって、絶対周りの冒険者の声聞こえてるし、好奇な目線も分かってるだろうし。
「ミクスさんが無事で良かったです。さっさと帰りましょう」
それなのに俺を気遣い、何事もないような顔をしてるから見てて辛い。そんな強がらなくても、俺に気を遣ってるんだろうなぁ。
いや、分かってしまうぞ。同じパーティーからの長い付き合いだからさ……や、やめてくれ、その元気を装う表情は俺に効く……
「シエラ、最高だぜ。このアンデッド討伐は全部お前のおかげだ」
「え、あ、えと」
「今日は祝勝パーティーだな。最近、新しい調味料出来たし、お兄さんがご馳走しちゃうぜ」
「へへ、ど、どうも……へへ、あ、ありがとうございます」
うむ、元気をつけてあげようとして変な話し方になってしまった。しかし、ルディオ、次は上手く好感度上げてくれよ。それともやはり他国の王子かなぁ。
正直、ルディオはもうシエラの結婚相手脱落じゃないかと思っている。
シエラとの関係値がまだまだだからな。ただし、ルディオもまだまだこれからの可能性もあるし。ルディオendで物語終わるような気もしなくもなくもない。
今後は、俺もルディオに好感度アップするようなパスを出していくか。シュートは決めてくれよ!!
あ、そう言えばアニメ5話のアンデッド軍勢は、まだボスが残っているんだったな。
あのアンデッドの中には一体だけ大物が……
「◾️◾️◾️!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大量の木の根を破るように、そこから1体のアンデッドが出てくる。巨大な大剣を持っており、魔力量も他とは違う。
さて、あれがボスか。うむ、正直過剰戦力な気もするけど……
ステータスが上がっているシエラ、まだ余力のあるルディオ、他の冒険者も余力あるだそうし。
まぁ、シエラは樹海降臨で魔力消耗してるだろうし、俺も手伝うかな。




