をろちreturns
〈盗人の夜目に映れる初夏の爽 涙次〉
【ⅰ】
永田です。今回も(便宜上)一人稱小説。
早いもので同人誌『季刊 新思潮』、次號の原稿集め、廣告取り、の時期となつた。
前回オマケとして載せた、谷澤景六の〈魔境〉も、掲載豫定の作品。テオ=谷澤は詩に凝つてゐて、恐らく彼の頁を埋めるのは、詩であらう。
じろさん=此井晩秋、主にSNSに發表した、140字詩となる、と云ふ。
こんな散文詩がある。
〈小石〉此井晩秋 平原と空の境目はない。夜は黎明を抱いて靜まり返つてゐる。足下の小石を拾つて、どこか遥かな彼方へと消えゆけばと投げる。石ころが一つの星と變ずる。私の他には誰もゐない。寒さは要するにうそ寒さである。何故に人間は夜目が利かない?私は綿毛をたつぷりと戴く蒲公英を踏んでしまふ-
【ⅱ】
私は、先の「さいたま新聞」掲載のコラムに手を加へたもの、それから「s, のこと」。これは枝垂哲平が決してネクロフィリアックでない、と云ふお話。おこがましいが、私が書いてやらねば、心階政氣の文章に叛論する者がゐないので。
で、原稿が出揃つたところで、私はGPX・popz110(modなら、これ! タイ製のスーパーカブ的バイク)に跨り、廣告掲載主を探しに出た。
方々で、あんたカンテラ一味の人かい? と訊かれる。特に、埼玉(私の地元)では、東京を拠點としてゐるカンテラ一味、テレビでしか見られない、遠い存在なのである。色々、相談事を受けた。
その内容は逐次カンテラに報告したのだが、その中で特に彼の氣を惹いた案件あり-
【ⅲ】
その相談、ざつとかう云ふ事。「私の娘を、をろちが食べに來る。それは、前世の約束だつたと云ふ。酒でもてなしたり、色々(をろちの)氣を逸らさうとするが、最終的に、私の眼前で、娘はばりばりと食はれてしまふ」そんな夢に魘される每夜が續く、だうにかして貰ひたい、と云ふ話である。
「フロイトの『夢判断』にも出て來ない、所謂『非類型的』な夢だ。正夢やもしれぬ」と、カンテラ學のあるところを見せた。魔界も「ニュー・タイプ」の時代。仕事の取り方も柔軟に、と云ふカンテラ、「ちと八岐大蛇を思はせるが、まあいゝ。兎に角この話の主に會つてみやう」。カンテラ、じろさん、埼玉出張と相なつた。
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〈スサノオは髙貴の生まれ要するにぼつちやんであるそんな神代だ 平手みき〉
【ⅳ】
詳しい話- 結局、前世の約束、と云ふのを依頼主の心に植ゑ付けたのは、ある占ひ師だと云ふ。その夢の大體が、占ひ師の誘導の儘に、依頼主の脳裏にインプットされたものだと云ふ事が、分かつた。その占ひ師、よく当たるとカリスマ的な人氣で、埼玉の住宅街、出入りする家數知れず、と云ふ。
カンテラ、じろさんとゝくと話し合つた。「これは、その占ひ師に当たつてみるしかないね」
で、彼らの邂逅。カンテラ「げ、夢田」*-「げ、カンテラ、此井!」‐「をろちは貴様であらう! 世間は誑かせても、俺たちには通用せぬぞ」-夢田、カンテラに斬られた後、何故か蘇生を果たしたのだが、流石に都落ち・笑、してゐたらしい。夢田は、依頼主たちの見た惡夢で掻かれる、冷や汗をぺろぺろ舐めて露命を繋いでゐた...
* 当該シリーズ第6話參照。
【ⅴ】
「しええええええいつ!!」カンテラ、即坐に斬り斃したのだが、後の説明が大變だつた。依頼主の意にそぐはぬ結果、なのである。依頼主は、カンテラたちよりも、占ひ師としての夢田を支持してゐた... と云ふ譯で只働き。
-永田さんの取つてきた仕事は、鬼門だよ。私、有難くない烙印を押されてしまつた。
とは云へ、今號も『季刊 新思潮』は大賣れ。現代詩の一つのエポック、と迄云はれた。「詩人先生がた、お惠み下せえ」カンテラいぢけて(ふざけてだらうが)、さう云つたものだ。私は忸怩たる思ひだつた。
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〈空腹のをろちも食はぬ蛇苺 涙次〉
お仕舞ひ。