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半年後……

 そして、あっという間に半年が経った。


「ふふ、大漁、大漁」


 王都から馬で半日の森の中、セシリアは笑顔で剣を収めていた。

 彼女の足下には、たった今狩ったばかりのサーベルタイガー二頭の死体が転がっている。


『収納』


 短く呪文を唱え手を向ければ、巨大なサーベルタイガーの死体は、二頭ともその場からかき消えた。

 代わりに増えたのは、セシリアのアイテムボックス内の表示だ。サーベルタイガーの欄が七頭から九頭に増えている。


「これで当分サーベルタイガーは狩らなくてもいいわね。……あ、でも九頭じゃ切りが悪いから、もう一頭狩って十頭にしておこうかしら?」


 サーベルタイガーは、牙や毛皮が人気の魔獣だ。高値で取引されるのだが、いかんせん強い。

 単独でサーベルタイガーを狩れる冒険者は数少なく、セシリアはその中のひとりだった。


「十頭まとめて売れば、当分生活費には困らないわよね? 冒険者としての足場は固めたし、そろそろ叔父一家への復讐を本格的にはじめたいんだけど」


 セシリアは、ニヤリと頬を歪めた。





 半年前、大人の姿のまま回帰してラネル伯爵家から逃げだしたセシリア。

 その後の冒険者登録で、予想どおりチートを発揮し登録即Sランク認定という前代未聞の記録を打ち立てた彼女は、今や押しも押されもせぬトップ冒険者となっていた。

 魔法は全属性すべてにSクラス以上の適性があり、スキルも『剣神』や『神の射手』等々、ひとつでもあれば国の英雄になれるレベルがてんこ盛り。


(……いくらなんでもサービスし過ぎじゃないですか? 神さま)


 とくに聖属性魔法は前代未聞のSS判定が出て、大騒ぎになりかけた。

 咄嗟に光魔法で視覚操作をして「SS」を「B」に書き換えたので事なきを得たのだが、誤魔化せなかったらと思うと冷や汗が出る。


(だってSクラス以上の聖魔法使いは、問答無用で教会に召集されちゃうんだもの。その上SSクラスなんてわかったら、即聖女認定されちゃうわ)


 聖女となれば王族にも匹敵する身分となれるのだが、セシリアは聖女なんてお断り。

 そんなことになれば、彼女の身は尊き存在として教会から出ることが叶わなくなるからだ。


(それじゃ、復讐ができないじゃない)


 もちろん、聖女という至高の存在となり、ラネル伯爵家を教会の力で没落させることは可能だ。

 聖女となったセシリアが、たった一言「ラネル伯爵家は嫌いです」と言えば、他になにもせずともラネル伯爵家は聖女に疎まれた家として、勝手に消えてくれることだろう。


(でも、そんなのつまらないわ。とどめは自分のこの手で下さなきゃ)


 それがセシリアの望みだった。




 

 Sランク冒険者としての実力は十分つけた。

 今のセシリアなら、叔父一家を物理的に叩き潰せるだろう。


(まあ、そんなに簡単に済ませてやるつもりはないんだけど)


 セシリアが家を飛び出して半年。ラネル伯爵家は、今のところ変わりない。


(私がいなくなったっていうのに)


 そう、変わらないはずがないのに、変わらないのだ。

 叔父は、あくまでセシリアの後見人。ラネル伯爵家が伯爵家たり得るのは、セシリアの存在が大前提のはずなのに。


 本来であれば、叔父はセシリアがいなくなった時点で、その事実を国に届けでなければならなかった。そうでなくとも、子どもがひとり行方不明になっているのだ。しかるべきところに連絡し子の行方を捜すのが当然というものだろう。

 しかし、ラネル伯爵家から行方不明者捜索の依頼はない。


(そんなもの出せるはずがないわよね。そうすれば伯爵邸に調査が入るのは必至だし、少し調べれば私を虐待していたことが明るみにでてしまうんだもの)


 ギルドに調査させたところ、ラネル伯爵家にはいまもシナモン色の髪と草色の目をした少女がいるらしい。

 叔父は、セシリアによく似た少女をどこからか連れてきて身代わりにしているのだ。

 同時に叔父は、闇組織にシナモン色の髪と草色の目をした八歳の少女の捜索も依頼していた。


(そんな子、絶対見つかりっこないのにね)


 今、叔父の心境は、如何ばかりか?


 きっと焦って内心戦々恐々としているに違いない。


(だから、ここらでもう一手。……そうね。ラネル伯爵家に忍びこんで当主の印章でも盗んでこようかしら。それをサーベルタイガーに()()()()()から討伐し、ギルドで解体してもらっても面白いかもしれないわ)


 伯爵家の当主印は、当主の資格を持つ者しか開けられない小箱に入って金庫に保管されている。当然開けることのできない叔父は、印章が紛失しているかどうかも知ることはできないだろう。

 ラネル伯爵家の印章を持ち出すことができるのはセシリアだけだ。印章が死んだサーベルタイガーの胃から見つかれば、行方不明になったセシリアもサーベルタイガーに食われたと判断するに違いない。


(叔父にとってはあってはならないことよね? だってセシリアが死ねば、保護者失格として後見人の立場を失ってしまうんだもの。同時にラネル伯爵位も領地共々国に没収されてしまうわ。そんなこと絶対我慢できないはずよ)


 身代わりの娘もいるし、叔父はセシリアの死を認めないだろう。

 しかし、世間もそうとは限らない。疑惑の目が叔父に向けられるはずだ。


(フフフ、魔獣の胃から出てきた印章について、叔父はどんな言い訳をするのかしら?)


 真っ青な顔で汗を拭き拭き弁明する叔父の姿を想像すると、ニヤニヤ笑いが止まらない。

 叔父を精神的に痛めつける、いやがらせ第一弾としては、十分なものになりそうだ。


(よし! そうと決まったら、さっさと王都に戻ろう)


 サーベルタイガーを倒すのは、その後だ。


 セシリアがそう思った瞬間、切羽詰まった悲鳴が聞こえてきた。



「うわぁ~! 誰か、助けて!」



 それは、セシリアを新たな運命と引き合わせる声だった。


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