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9話 終わりに吹く風

心臓の鼓動がうるさいくらいだ。

楽しい。そう思っている自分はいた。


・・相手の選択肢も絞るべきであるし、ここで受けにだけ回るのも押し負けているような気がした。

俺の方向からも平山に向かって走る。


サーベルはガタガタ。片手剣適応の武器はもうこれだけ。ラージシールドも傷んではいるが、こっちはまだイケる。

武器専片手剣と盾。ソウルエッジ。パリィ。ストレージに鉄の籠手、ダガー、カタール。ウォーハンマーが1つ。兜や鎧は無事。俺の持ち札。


平山は今出してるのはロングボウと矢筒に矢が10本程度。多少傷んだスモールシールド。ストレージにショートソード。クロスボウとその矢がおそらく7本前後。村井のピンナイフ。ロンデル2本。円くそこそこ大きいターゲットシールドも持ってるが取り回しが悪いからかまだ使ってはいない。

戦闘スキルは武器専弓と盾。シューティングスター。あとは・・なんだ? 4ポイントでなにを取った??


集中し過ぎてスキルでもないのに平山の突進がゆっくり見える気がする。


パリィ? 武器専『短剣』? 回復系スキルは確か平山のツリーに『単発視覚再生』があった気がする。可能性は低いが、目への攻撃は一度限り無効化される。


諸々の可能性はあるが確実で変更できないのは、距離、走って勢いが付いている。俺が微妙に速度調節すれば、ちょうど平山がその時俺がいる足場よりやや低い足場に来たタイミングを合わせることができる、その状況!

剣の間合いには遠いがストレージによる『設置攻撃』は相手の勢いと高さの違いで当てられるっ。


衝立設置は何度も見ていてもヨシカワ戦の決着は衝立と煙幕と俺の身体でよく見えなかったはずっ。

ガードが回避か? どちらにせよ一手遅らせられる。と歩幅を調整しだしていると、


「!」


絶妙のタイミングで俺の右足を狙って矢を射ってくる平山。左の盾で受けると走り難くなり速度調整し辛い。俺は仕方無く痛んでサーベルで払う。さらに欠け、傷む刀身。

こっちからも近付いていてよかった。この調子で削られ続けていたら御破算だ。


ストレージ攻撃の間合いに・・入った!


俺は残り1本のウォーハンマーを直撃コースでストレージから引き出したのだが、ゴッ!

平山は当然のようにストレージからだしたターゲットシールドを当ててそれを受け、さらに盾と段差で身を隠し、向かって左手側に1回転して弓を構えながら姿を表したっ。

殺気! MPの躍動! クロスボウの短い矢を『4本』弦につがえているっ。


シューティングスターは散弾射ちできたのかっ? いやほぼ槍の間合いのこの距離だからか! 殺気は俺の腹の辺りの2ヵ所と頭部に2ヵ所を捉える。


ハメ合いで競り負けたっ。だがまだだ! 火力は落ちてるはずっ。腹の2撃はラージシールドで受けきれる。問題は頭部。サーベルで2撃受けると刀身がもう持たない。1撃は兜で逸らせられないでもない、か?


ドッ! 放たれる散弾のシューティングスター!! 俺は確実性と剣の保護込みで早々にソウルエッジを発動しつつ、腹への2撃は盾で受けっ。頭部への2撃は1撃をサーベルで払い、もう1撃はギリギリ首を逸らし、兜で弾いた。


「くっ」


金槌で小突かれた勢いでオープンヘルムを跳ばされが、凌いだ。サーベルは切っ先の辺りから3分の1は砕け、ラージシールドもバキバキだが、凌いだ! 仰け反り、復旧する一連の動作の間。ソウルエッジは切れたが、もう1発撃てるっ。


「おぉっ!!」


互いに迫るっ。が、平山は段差を上がりながらまた弦を引いてた。つがえているのはピンナイフ! 普通の距離なら当たるもんじゃないが、この近間っ。矢より重いのが来る。


武器専でどうにか角度は付けられたが、ラージシールドは砕かれた。即、両手に鉄の籠手と左手にダガーをスィッチっ。

もう近接の間合いだ。ここまでで平山は俺を倒しきれなかった。スモールシールドとショートソードを構えた。やはり武器専短剣かっ。


一足、完全に正しくここだ、という位置に踏み込み、最後のソウルエッジを打ち込む! 平山は武器専の超反応でスモールシールドを合わせたが、剣と盾は粉砕した。破片で互い頬や耳が傷付く。盾を相殺、できた。


平山は左手にロンデルをスィッチ。俺は右手にカタール。パリィは武器専短剣で打ち消されても、籠手と近接の練度、多少だが体格差がある。


俺の勝ちだ! 君はもう帰るんだっ!


最後の打ち合いが始まる寸前、平山は、


「?!」


唐突にショートソードと出したばかりのロンデルを棄てた。


諦めた? いや、そんな目をしてない。引き続き迫ってきてる。『格闘』スキル? タカヒロのツリーには確か『拳闘』があった。他のなにか特殊な? いや、どっちにしても無理がある。兜は失くしたが鎧を着てる。素手の方が早い? こっちも短剣と刺突用の格闘武器だ。勝てないと見て、賭けに出たのか?


もう交錯する。俺は切り替え、現実的に、装備している左右の短い刃で平山の指を落としに掛かった。素手でも打撃はパリィできる。・・いや、打撃以外の格闘技は?


初日の使いそうにないと見た格闘スキルの鑑定結果は、例によっての塩表記でそこまでの想定は細々とは書かれていなかった。


本能的に指を狙う寸前『腕を取られるリスク』に備えようとした、その時にはっ、蛇のようにしなった平山の左右の手は俺の両手首を違う形で取っていた。

同時に俺の身体は俺自身の突進の勢いがそのまま回転運動に変換された形で宙で1回転し、背は足場の地面に、頭巾だけになった後頭部はなにか地表の突起・・おそらく低い結晶に打ち付けられた。


果実を砕いたような音がした。痛みより冷たさを感じ、身体が痺れ、視界が暗くなりだした。

背中まで、液体が染みてゆく。


「はぁはぁ・・パリィを取っていて、『尖った』物があちこちあって、『柔術』スキルの解説に『打撃はこのスキルの恩恵を得られない』とあった。逆もあるだろうし、組み技もパリィするって、他と比べて、3ポイントだけでできることじゃないと思った」


理路、整然。笑いたかったが、もう表情を動かせそうにない。平山はもう1本のロンデルを抜いていた。


「平山、さん、勝て、なかった・・ご、め」


涙が出てきた。不甲斐なかったのか? 悔しかったのか? 彼女のこれからを思ったのか? いっそピエロの悪ふざけで全部嘘なら、もうこれで終われるのに。


「尾形正一(しょういち)君。あの浜からずっと」


真っ暗だ。彼女の匂いと体温が近付き、温かい物が何粒も何粒も、顔に落ちてくる。


「どうせなら、他の人に殺させるのは惜しいって思ってた。さよなら」


さよなら? 違うだろ? 最低でも自分は・・復活権を『一枠』他に譲る気か? 村井? 俺? ナカダ? 闇の中、混乱して、


スケイルメイルの継ぎ目を抜け、心臓に衝撃を感じた。



──────



・・

・・・

・・・・あっ。


「おお? なんだよ、おがっち。急にビクってすんなよっ」


俺は、平山イズミ、いや平山出海(いずみ)さんの葬儀会場にいた。いや、来たんだ。


修学旅行から帰って、休みが明けたら亡くなったと知らせられて驚いた。就寝中の心臓発作だったらしい。喪主の父親は特徴の薄い人だったが、憔悴していた。


年齢や健康状態的に特異だったらしい死亡診断を終え、会場や火葬場を抑えるのに苦労して、この一週間あまり諸対応にほぼ1人で応じていたはず。


学校が用意したバスの会社が修学旅行と同じだった為、あの時の運転手が今回もドライバーをしていて、参列もして神妙な顔で手を合わせていた。バスガイドも着てたがこっちはタクシーで面倒そうに来て、運転手と不仲なのか遠目に運転手を見付けると逃げるように焼香だけ済まして帰っていった。


学校側の仕切りは担任が急に休職した為、副担任の高城先生がしていた。


元々すぐ辞めてしまうんだろうな、て印象だったけど、髪をベリーショートにして、化粧も薄くなり、普段から簡素なスーツ姿になり、今もSP職の人のような喪服の着こなしをして、なんだかテキパキと立ち回る人になってる。

また、なぜかバスケ部の吉田タイカイと新体操部のハコダとバレー部の村上が高城先生の側近のように振る舞うようにもなっていた。どういうことだか? 色々憶測を呼んでいる。


同じクラスの生徒側の仕切りはクラス委員よヨネダケンセイだ。右足が悪く、慇懃無礼で苦手なヤツだったが、最近嫌味が多少薄くなり、元々取り巻きをしているサッカー部のフクモトと吹奏楽部で彼女のシロサワを顎で使うような素振りもやめていた。


3人組。と言えば手芸部のミヤマとテニス部のタニモトタイキと相撲部の須藤フジオの3人は最近益々仲良く、『平山さんを偲んで』タニモトの家の庭でバーベキューしたりしたそうだ。平山ダシにするなよ・・


卓球部のモリヤマ、体操部の湯本シンジ、巨乳のヒダカハルカも最近よくつるんでる。湯本とは元々俺が仲良かったが、「尾形とは越えられない鉄の壁を感じる」と理不尽な宣告をされ、すっかり距離を置かれていた。俺がなにをした??


図書部の松江は急にDIYにハマりだし、調理クラブのヨシカワはロールプレイ気味に「私のターン!」と宣言する感じでやはり急にカードゲームにハマりだしていた。


仲いい松江とヨシカワにはもう1人グループメンバーがいた気がするが・・誰だっけな? 他のクラスの生徒かもしれない。いや、この間読んだ漫画の設定だっけ?? まぁ、いいか。



クラスの人間模様が急に変わった気がする。良いのか悪いのか、皆、変わろうとしだしたような?

他に妙な変化だと、意外と予備校には通って成績はいいクセにヤンキーぶっていた釜崎は突然『先端恐怖症』になり、休学して通院しだした。同じグループのヤツらも所在無げに大人しくなった。

釜崎達にイビられてたウノダショーヘーもあっさり定時制高校に転校して、今は隣の市まで通って『古流槍術道場』の門下生になったらしい。鍛え方のベクトルに癖がある。切っ掛けは不明だが、強くなろうとしているんだろう。


隣に座ってる軽音部の真坂タカヒロとは以前よりよく話す、というか親友的な? 気がしている。彼女のぽっちゃりした村井とまでよく話すようになった。


なんだろうな? それでも、とてもなにか、欠けてしまった気がする。


そりゃそこそこ話し、俺の、夏の日のイメージだった、平山の葬儀だから、当たり前なんだろうけど。


「番だ、行ってやれよ」


「私達も後から」


村井は泣いていて、タカヒロも涙ぐんでいた。


見よう見まねで、焼香し、渡された白い花を手に、棺の中の平山と向き合う。死因と技術の発達で、とても綺麗な顔をしていた。


「勝手だよな、平山さん」


自然と口に出た。もう涙は出ない。俺は花を置いた。



──────



闇夜に風が吹き荒び、葬儀会場を見下ろせる近くのビルの屋上のフェンスの上に、学生服の上から『不可視効果』の法衣(ローブ)を纏った平山出海がいた。傍らの宙にイァルマッフゥルフゥ神も浮かんでいる。


「5回戦まで勝ち進めたのに、本当に自身の復活はよろしいんですかぁ? あるいは記憶を切り離した分体だけでもオッケーですよぉ? ヒホホホ」


「・・ケジメと覚悟が必要だ。それよりも、保留していた4回戦勝利の報酬。確かにもらうぞ?」


「ヒホホホ。なんと不遜。あるいは犠牲的な! よろしいのですかぁ?」


「特別な奇跡は必要無い。あったとしても、命を愚弄する、お前達とその摂理を! 必ず破壊してみせるっ。お前はその最初の一柱(ひとはしら)だっ!」


「いいでしょう。譲りましょう。この、終わりに吹く風、イァルマッフゥルフゥ神の神の座を。あるいは押し付けちゃいましょうかねぇ? ヒホホホ、ヒホホホホホッッ!!!!」


嗤う神は黒い風となって弾け飛び、その破片は平山出海の左手にまた集まり別の形の道化の仮面に変わった。


「全てを打破する真の勇者を育ててみせるっ!!」


仮面を身に付け、新たなイァルマッフゥルフゥ神の御姿を得る平山出海であった者。


「私のゲームで! イハハハハッッ!!!」


死の道化はけたたましく嗤い、黒いつむじ風と共に異世界へと消えていった。



──────



・・・マグマの池に無数のミスリルの柱の立つ奇妙な空間で対峙する、2人の勇者と2柱の神をそれを囲む闘技場客席の神族魔族その他様々の種族の最高位層の者達が熱狂し、声援と罵倒を送っていた。


闘技場の神の内、1柱はぬいぐるみのイモムシに竜の翼が生えたような姿の地神ラーシュ。対するもう1柱は風神イァルマッフゥルフゥ。

風神が従えた勇者は仮面を付けた身体が変質し正気ではない様子の異形の戦士。

地神が従えた勇者はチキュウ世界の忍者のような格好をした、ナカダフミコだった。


戦いを解説、実況する神もいた。


「いやぁ、ついに代替わりしたイァルマッフゥルフゥ神が準決勝まで勝ち進めましたね!」


「手段を選ばず使役する勇者を強化しまくるドS神ですっ。現役勇者時代のブロマイドはプレミアが付いてますよぉ?」


「一方で以前は弱過ぎるワリには毎回魂をキープして再挑戦を繰り返す『ネタ枠勇者』だったアキコタナカを使役するラーシュ神! まさかここまで勝ち残るとはっ」


「ラーシュ神は『他の神の勇者選定の儀』の中から好みの敗北者を勝手に復活させて自分の勇者とし、この『神々の祭典』に参戦させた上で、その魂が砕け散るまで戦う様を鑑賞するドM神ですっっ。好感度、低いですよぉ~?」


「いやどちらも興味深い! 果たして決勝に勝ち残るのはどちらでしょう?!」


ナカダと風神は互いに進み出た。


「イハハハッ。しつこいにも程があるぞ? アキコタナカ。いい加減、無に還れ」


「ま、負けまくったけど、もう全てのか、神の育成の癖を覚えたぞっ! お、お前こそっ、いい加減にしろ! ヒラヤマっっ、お前の、や、やり方はっ、違うと思うぞっ??」


「・・手段を選んでいる時点で話にならない」


戦闘開始の角笛が吹き鳴らされた。


「勇者021番、構えろ」


「ギギッ、願イ、叶エル!」


イァルマッフゥルフゥ神は禍々しい大鎌に変化し、異形の勇者に装備された。


「ラーシュ! へ、変身だっ!」


「あ~い」


ラーシュ神は『オラクルMPバックル』に変化し、ナカダに装備され、ナカダはバックルの力で鎧と仮面の戦士に変化した。


ナカダのマフラーがイァルマッフゥルフゥ神が起こす死の風にたなびく。


「わ、私は不屈の戦士アキコタナカ! 世界も、お、お前も、救ってやるぞっ?!」


大歓声と罵倒の中、地と風の神の使徒は激突した。

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