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8話 あなたが少し好き

松江達も察して態勢を整えるのが上からだと丸見えだ。チラっと、上のナカダが動く影が見えた。殺気は出してない。般若面はずっと付けたままで完全に忍者だ。


ヨシカワを近くの結晶の後ろに隠し、松江が武器専の軽いクロスボウを構えつつ、俺達の位置が近付き平山のクロスボウの威嚇が始まると、といきなり自分の周囲に土台が折り畳みの『木製の簡易な衝立』7枚とそれの『重しの石』7つを放射状に出現させた!

クラフト系スキル取ってたのかっ? ストレージに収納できる形状も工夫! やるな。


また上がり直すか位置を大きく変えないと平山のクロスボウは無効! 持ち替えて殺気を出してシューティングスターの構えを取ったら逃げられる。

相手は隙間から安全に射ってくる! こっちは援護、反撃無しで無防備に足場を降りてる状況。ひっくり返された。だがっ。


「須藤みたいにはいかないけどさっっ」


俺は転がって近い足場の結晶の影に隠れつつ、装備をウォーハンマーにスィッチして両手で1本を持ち、思い切り下の衝立目掛けて投げ付けた。

慌ててヨシカワのいる結晶の陰に下がろうとする松江! 衝立2枚はウォーハンマーに砕かれ、この隙にクロスボウから弓にスィッチしていた平山はシューティングスターの構えを取っていた。

砕かれた隙間を抜いて、見えている松江の背の仙骨の辺りを発光する矢が貫いた。


図書部松江、脱落!


平山は結晶の側に移動しながら武器専盾を取ったスモールシールドを出し、MPポーションを飲み、上から迫ってるはずのナカダも確認しにかかったが上手く見付けられないようだ。


ヨシカワは石器槍ではなく、農業用フォークのような物を出したが、結晶の陰から出ない。ナカダを待ってるのか? もう少し間があるはずっ。


俺はヨシカワ達のいた大きな足場まで降りてきた。手近な衝立をもう一枚重しの利いてる逆側から蹴り倒し、転がってる松江を抜け、バックラーとグラディウスを構えて接近する!

衝立も残ってるしナカダも迫り、平山の援護は期待しない。傷んだグラディウスはここで使い切るつもりだっ。俺は片手剣の必殺スキル『ソウルエッジ』を取得してる。俺のMPで2発は打てる技だ。ゴリ押しで行く!


「ヨシカワさんっ、覚悟!」


変に親しくしたからやり辛いが、初見殺しだ。ナカダに技を見られても2体1の優位は取れる!


結晶の陰から半身、出たヨシカワはフォークで・・速いっ?


「串打ちにするからっっ」


「想定より、強いパターンっ」


ヨシカワの猛攻! 高城先生チーム戦での投擲はそうでもなかったが、投擲スキルは持ってないが『槍スキル』は持ってたか。確かにパーティー構成的に1人は近接できて当たり前っ。

それでもここでまごついてられない、俺はMP半分を消費し、ソウルエッジを発動! ほんの一時だがグラディウスが発光し、パワーと剣速のバフが入るっ。


一撃でフォークを破壊! グラディウスにヒビが入ったがまだバフが利いてるっ。トドメを・・殺気?!


「尾形君!」


平山の声。背後がつむじ風を纏った手裏剣が飛来! 必殺スキル?! 俺は必死でグラディウスを砕きながら勢いを削り、元々傷んでるバックラーも割られながらどうにか弾いた。


俺は間近のヨシカワの追撃に備えたが、ヨシカワは俺に構わず『上』を警戒した平山の近くに『玉』を投げ付け、炸裂させたっ。癇癪玉じゃない煙幕の玉だ! 平山は初動を封じられた。


「上手いなっ」


「今度こそ、下拵え!」


ヨシカワは俺の背後に衝立を扇型に出現させ、『袋小路』を造った。ストレージの使い方! フォークの柄を捨て、替わりに石器槍をスィッチしてくる。

俺は片手剣有効な小太刀とタカヒロの鉄の小手をスィッチした。呼吸を整える。背後で飛び道具戦の音が聞こえる。煙幕と『低い位置』で平山の方が不利だろう。


後ろにも横にも行けないので俺は前に出る! ヨシカワの武器専石槍っ。左手を添えて受け流すっ! 右の小手の装甲が擦れて火花が散る。

俺は迫るが、槍には近い間合いの立ち回りもあり、武器専でヨシカワはそれができる。石突きを利かせたカウンターの兆候! 俺はヨシカワの顔面の前にタカヒロのオープンヘルムをストレージから出して当てた。


「っ?!」


一瞬動きが止まった。俺は突きを調理クラブのヨシカワの喉に打ち込み、倒した。


「ストレージ戦法、参考になった」


もう刃がボロボロの小太刀と、重みがある小手をスィッチして、俺は村井のラージシールドと使い難いが片手剣適用のハチェットを装備した。


邪魔な衝立の陰から出ると、既に霧散しつつある煙幕エリオから出た平山は、やや高い位置の足場を飛び回るナカダと交戦中! 平山は弓を使いつつ腰のベルトに手製らしい留め紐に引っ掛けたスモールシールドを提げ、時折それを左手に器用に持ち替えて身を守っている。


ナカダは手裏剣は温存して小型のナイフやそれより大きい忍者のクナイを投げ付けていた。手裏剣程ではないが精度とパワーがある。投擲スキル取ったな・・


「一番やり易いのは?!」


注意しつつ寄りながら平山に呼び掛ける。


「上っ!」


端的。俺は素直に回り込んで上にジャンプで上がり始めた。結構心肺、足腰にキテるっ。HPポーションの飲み所いつだ??


「ふぅっ」


ナカダとおおむね平行の位置まで上がり切った。速攻、癇癪玉を投げ付けられ、慌てて別の足場に跳ぶ。

ナカダは平山には煙幕の玉を2つ投げ付け、俺には小型ナイフとクナイを混ぜて次々投げ付けつつ近付いてくる。近付いてくるのかっ。

精度とパワーが上がる! このままだと完封されるっ!


と、また違う種類の玉を高い位置に投げた。なんだ? 一応盾を構えて正解だった、次の瞬間閃光が放たれた。


目潰し玉だ。ちょっと目に入ったっ。怯んだ途端、殺気! アレだ。つむじ風のヤツっ、しかも近い。今、回避ガードは無理。

俺は大体の記憶でその場から足場があるはずの空間に飛び降りた。さっきいた場所を旋風の刃が抜けてゆくっ。俺はどうにか・・いや、高いなっ? ドン! と着地できたが、頭の芯まで響いた。


「目視で高さ計るの難しっ」


ヨタついた俺は腹を括ってHPポーションを半分のみ、再び上を目指した。向こうはMPポーションをもう使わざる得ないはずだ。


上がり切ると別位置に平山も上がってきていて、ナカダは結晶の陰にいた。飲んだな。

俺と平山は頷き合い、左右方向から結晶に迫った。

ナカダのパターンからするとどちらかを忍びの玉で牽制し、もう片方に迫ってくるはず。ナカダは・・平山に癇癪玉を2個投げ付けた! 来るっ。


飛び出してきた般若面のナカダは踊るように身軽に跳ねながら、また小型ナイフ、クナイ、銛を投げ、銛っ?


いきなり重い、捌ききれない銛の投擲をハチェットで打ち払ったが砕かれちまった。すぐボロボロの小太刀にスィッチするっ。間合いは近くなってる。


ナカダ忍者はスキルで? 回避したが復帰した平山に着地を狙われると、今度は閃光の玉を2個と癇癪玉1個を混ぜて投げ付け、俺が迫ると、不意の自分の目の前に木の衝立を数枚出してきた。姿が見なくなった途端、殺気が増大し『斜め下』から旋風の手裏剣が放たれた。落ちながら撃ってきた!


今度は速さが必要っ。俺は近くの結晶を蹴ってやや下の足場の結晶に跳び、足場を両断した旋風の刃を回避し、さらに着地を考慮せずにその足場の結晶を蹴り、落下するナカダに向かう!

ソウルエッジを発動した。空中ならMP回避等は使えないはずだっ。


ナカダはもう1発、旋風の手裏剣を放とうしたが右肩に平山の矢が刺さり、止められる。ナカダは左手に銛を出したが、光る小太刀が柄を切断し、ナカダの胴を深く斬り、小太刀は砕け、俺達は先にあった足場に落ちた。


「かっはっ」


クッションになってもらった形だが、ダメージは入った。


「ひ、平山は、さっき、倒せたのに、肩撃った。お、尾形にMP、使わせた。平山、は、強い、ぞ? もうちょっ、と、だった、なぁ・・」


般若面が割れた田中アキコで忍者のナカダはすっきりした顔で笑い、死んだ。


「ナカダさん。強かったよ。サシで勝てなかった」


俺はまだ柔らかく温かい、華奢で血塗れの、ナカダの上から立ち上がり、残り半分になったHPポーションとフルあるMPポーションをストレージから抜いた。


見上げると、平山が自分のHPポーションを飲み干し、投げ捨てるところだった。


「そっちも早く飲んで。4ポイントずつポイントを分けたら、パーティー登録を解消するから」


平山は冷たく俺を見下ろしていた。



確かイズミ、平山イズミ。弓道では関東でそこそこ有名らしい。父子家庭と聞いた。

高一の時、体育部共有のトレーニング室の前を通った時、女子部員が使う日だったのに暑過ぎたせいか出入口が開けっ放しで、男子よりかはマシだが汗臭いニオイと女子のニオイと熱気が廊下まで漂っていたことがあった。

モタモタしてるとなに言われるかわかったもんじゃない、と早足で抜けようとしたが、大きな鏡の前で、汗だくで、まだ短い黒過ぎる髪をヘアバンドで上げ、袖を捲った夏服の体操着の平山がイメージだけで弓を引く姿勢を確認していた。

これは、何年経っても思い出してしまうな。そんなことを思っていると、鏡の中の平山と目が合った。俺をすぐさま歩き去った。

後に学年が上がって、同じクラスになり、何事もなく、たまに当たり障りなく話すようになった平山は忘れているのかと思ったが、今はわかった。


そんなワケないな、と。



俺は3ポイントで打ち払いの『パリィ』を取った。残り1ポイントは天使にやる。パーティーは解消された。


「私は、・・あなたが少し好き。性的に」


「なにそれ? 心理戦?」


俺達は笑い合って、駆け出した。

もう後がないがサーベルをスィッチ。平山と弓、クロスボウ、どちらも矢の残数は少ないはず。


高所を取られている。多少無理しても上がる! 盾スキルとパリィまで取ってる。押し込むっ。

平山はクロスボウにスィッチしていた。牽制はしてくるが『射撃スキル』は取ってないようだ。弓も含めて補強してくるかと思ったがそうでもない。

当て感と殺気の隠し方、牽制の的確さはさすがだが、盾スキルとパリィで問題無く捌ける。なんだ? 他になにを取った?? いや、俺がパリィを取ったことを『見せられた』のか?


冷や汗かきながら足場を上がり続けると、こっちのルート選択の癖を途中で見抜かれたらしく、格ゲーの『置き飛び道具』の要領で、しかもクロスボウと小まめにスィッチしながらメイスとグレートアクスをぶん投げてきた! エグいっ。


「ううっっ」


捌けはしたが、頑丈じゃないサーベルを結構削られたっ。

それでも平山と同じ高さの目当ての結晶の陰まで跳び移れた!


「はぁはぁ、ふぅー・・」


呼吸を整える。平山の動きは2パターン考えられる。

立ち回り易い平行の足場を移動しながら牽制し、タイミングを見てシューティングスターで俺の盾か剣を砕く。あとは弓の残弾で料理するだけ。

もう1つは敢えて下に下がり、追ってくる俺の隙を突いて、さらにサーベルを削るか足等を狙う。リスキーだがチャンス自体は多いやり方。


平山は、


「ははっ」


笑ってしまう。平山は例の盾をベルトに駆けて弓を持つスタイルで真っ直ぐこちらに向かってくる。


ナカダも平山も間接タイプなのにガンガン近付いてケリをつけにくるの最高だ。


ああ、地球に、日本に、皆帰してやりたいな。心からそう思うよ。

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