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3話 夜襲

暗視パッシブを使った夜襲自体は上手くいった。


森の中ではあっても普通に焚き火を焚いて見張り番を立てて野営していた手芸部のミヤマ、確かテニス部のタニモトタイキ、それから釜崎グループにも避けられてた相撲部の須藤(すどう)フジオの3人組。


デカ過ぎて孤立気味の須藤とミヤマはわりと仲良く、タニモトとミヤマは同じ中学だったか塾だったかでよく話していてミヤマ経由でタニモトは須藤とも多少話せた。


この3人組は必然がある。必然性があるってことは結束が固い。つまり、


ヒュッ。軽い音。


最初に兜は被っていたが焚き火の前で座って番をしていたタニモトが平山の矢を首に受けて即死した。まともには戦わない。


こっから起き出したミヤマと須藤の内、須藤に俺と村井が襲い掛かり、後ろでミヤマがあたふたしている内に今回は前衛に出てきてるタカヒロが背後の暗がりから小柄なミヤマを仕止めた。


後はタカヒロが焚き火を蹴って消して、須藤を攻略するだけ、だったんだが・・


「ゴォオオオッッ!!!!」


獣のような須藤の咆哮。装備は金槌型の武器を二刀流で持ち、暑い革の鎧にフルフェイスの兜、太い小剣もベルトに差してる。


激怒した須藤のパワーは想像を絶した。元々相撲部だ。格闘の心得があり、190センチくらいの巨漢。それにアスリート並みのフィジカル強化バフが入り、怒りでアドレナリン全開っ。

フルフェイスに加え、ビビりながらもタカヒロが焚き火を蹴り崩して明かりが殆んど消えて視界がかなり悪いはずなのに、こっちの物音や気配? を察して猛然と襲い掛かってくる!


平山の矢もフルフェイスのカバー範囲が広くすでに動いてる須藤の首は上手く狙えず、やや高い位置の茂みにいて下半身を狙い難く、金槌を振り回す腕も難しい。


胴体や肩は革鎧が厚く刺さりきらないようだ。盛り上がった筋肉と脂肪も厄介なんだろう。


武器が細身のタカヒロは暴風のような金槌に上手く手出しできない。

例によって興奮状態だった村井も須藤達には思うところが無かったらしいのと、一撃盾に食らった金槌のパワーにすっかり萎えて、腰が引けてしまっていた。


「お前ら絶対殺すっっ!!」


怒り心頭の須藤。うん、完全に須藤が正しい。だが正しくてもさっ。


「タカヒロ、こっちは余裕無い。平山は遠い。スキルポイント使え!」


「おっ? おおう」


タカヒロは転げるように下がり、ステータス画面を開いた。


「コレか? コレでいいよなっ?」


どれだよ。一応打ち合わせはしたが、候補が多い。なにかのスキルを取ったタカヒロはその場でぴょんぴょん跳び跳ねてタイミングを計り始めた。なんだその動き??

と、うっかり近い間合いで小枝を踏み折った拍子に反応した須藤が突進してきたっ。

ロングソードを叩き折られる! 最悪っ。


「どぉっ?!」


相手はそう見えちゃいないっ、横に飛んでストレージからモリヤマの曲刀シミターを取り出して構え直す。軽いが、須藤相手にゃ細いなこの剣!


ヒュッ!! 音が近いっ? 矢が即、須藤の右腕の露出した関節部に刺さり右の金槌が落ちた。茂みから出て近くから射ってたっ。須藤は血走った目で平山を見たが、


「任せろよぉ!」


なにをするつもりかと思ってたタカヒロが真っ直ぐダッシュで須藤に間合いを詰めるっ。オイオイ?

だがタカヒロの動きは想定を超えていた。達人の剣捌きでレイピアとマインゴーシュを操り、左手1本になった須藤を圧倒し、兜の下の顎の隙間に切っ先を滑り込ませて引き抜き、流血させて須藤を仕止めた。


「『二刀流スキル』か? 武器専パッシブ強いな」


「はぁはぁ、潰しが利かないけどさ」


「大柄な相手や武道経験者は倍々危険だと思った方がいいね」


歩み寄ってきた平山は前のめりに息絶えた須藤を哀れそうに見ながら言った。


「ミヤマさん、大人しい子だったのに・・」


ヘタり込んだ村井はまた泣きだした。


3人倒して得られたポイントは9で、タカヒロが二刀流スキルを3ポイントで先に取ってる。俺は平山と同じ殺意探知を、平山は治療行為の効果が高まる『治癒』を3ポイントで取った。


これで前衛組と後衛組で両方探知でき、休息時の回復効率と安全性が増し、タカヒロ単独での近接決定打力も獲得できた。


須藤のパーティーから拾える物を拾い、とっとと立ち去ろうとしたところで、


「残ターゲット数、凄い減ってる!」


平山に言われ、見直す。スキルを取る操作をした体感5分程前は26人いたが、一気に21人に減っていた。


「焚き火は目立ってた、離れよう」


俺達は急ぎ足でこの場を離れだした。



保証は無いが事前に目星を付けてた安全そうなエリアの内の1つに向かって移動していると、俺と平山はスキルで探知した。


「いるな。2人!」


「そんなに強い殺意じゃない。警戒? くらいかな?」


森の向こうに対し、俺達が構えだすと、


「待った! 待った! 暗視と殺意探知かな? 4人ってズルいよね? 護衛付きの弓道部とかっ、チートでしょ?」


探知した気配じゃないヤツがいる。ちょい苦手なヤツ。生きてたか・・


森の向こうから、矢対策に木の陰の側をキープしつつ、3人の人影が現れた。2人は殺意あり。

殺意の無いヤツは、元サッカー部でクラス委員長のヨネダケンセイだ。右足が悪いはずが普通に歩いてる。スキルか? 他2人はサッカー部でヨネダの親友のフクモトとヨネダの彼女の吹奏楽部シロサワだ。


また必然性のあるパーティーで、関係性がより濃い。


「焚き火してた間抜けな人達は尾形君達が殺ったんだよね? マズったなぁ。ここでやり合うのはよさないかな? たぶん4人いる君達が勝つだろうけど、損害は出ると思うよ? 僕らも暗視とか、最適なスキル取ってるから」


タカヒロが口を開こうとしたが、遮って代わりに俺が話す。タカヒロは、右足故障する前のイケイケだったヨネダに1年の時1年間ガッツリ嫌がらせされてる。挑発に乗り易い条件がある。


「構わない。残り人数的にも打倒だろう」


「お互い、なるべく距離置こうよ? 他にカモい人達いるだろうしね?」


「ああ、それもそうだな。じゃあな」


「それじゃ。平山さんと、村井さんだっけ? あと・・あ、いたんだ真坂君も。なんか変なことになっちゃったけど、またね」


ヨネダ達は去っていった。


俺達は予定を変更して、言葉少なに、このルートを避けてかなり遠回りで安全そうなエリアまで抜けた。



目当ての森の少し開けた場所まできた。やや低い位置に水場があり、ヤバいモンスターが近くにいなくて、ここから逃げられるルートが複数ある。


俺達は目立ち過ぎたミヤマ達の失敗も踏まえ、念入りにまだ時間があるはずの夜明けまでの野営の支度を始めた。


焚き火を隠す為に植物を組み合わせたデブリハット(テント的な)と開け口側の衝立も作る。


表示は無いが、スキル表示を鑑定するとこれに関しちゃ詳細が読み取れる裏技を俺達を発見していて、治癒スキルは治療効果の飲料なんかにも適用されるのを把握済み。


集めたファンタジーなハーブ類で茶を入れるだけで効果があるはず。塩分のあるハーブや油分のある実もゲットしていた。

耐熱性のある『カグリ』という大きな団栗みたいな非食用ファンタジー果実の殻を渋抜きすると鍋代わりにできる。


平山は割り切っていたが村井のストレスは相当だろうし、身綺麗にしたり身体を温める機会を作る必要があった。まぁ村井をダシに俺達が休みたいだけなんだが・・


黙々と作業していると、不意にタカヒロが唸るように言い出した。


「ヨネダは気を付けた方がいいよ。あのパーティー、絶対ヒエラルキーの強いパターンだ。暗視以外はポイント、絶対ヨネダに集めてるってっ」


脚を故障してからもフクモトはヨネダの子分みたいな立ち回りをしている。家も近いらしい。シロサワは元々ヨネダの追っかけみたいなことをしていて、故障でヨネダの人気が落ちてようやく彼女ポジの収まってる。『重い彼女』だ。


「ああ、わざわざ出てきて煽ったのも、凌げる自信があったのと、想定範囲の反応を俺達がするか測ったんだろう。性格的に右脚がスキルで直ったのをタカヒロに見せつけたかった、ってのもあるんだろうが」


「あんにゃろ~っ」


「タカちゃん、関わらない方がいいよ」


村井に宥められるタカヒロ。


「脚は、私のツリーの先に『単発視覚再生』がある。それの脚バージョンかも?」


平山はヨネダに対して印象が無いようだ。


「ヨネダは確かに危険だ。次、機会があったらあのパーティーは優先して潰そう」


故障してからはタカヒロのことはスルーしていた。さっきは偶然かち合ったんだろうが、その上でわざわざ来た。迷惑以外の何物でもないが、相当だ。

普通ならまともに関わらないのが一番だが、ここじゃ、殺るしかないだろう。


それから村井にスキルを込めてハーブドリンクを作ってもらい、酷い味だが温まり滋養満点でステータス的にもHPとMPが全開して身体が軽くなった。


身体を消毒美肌効果のファンタジーハーブエキスの湯で拭き、交代で焚き火の前で寝ることもできた。

兜と頭巾も取り、鎧下だけで横になる。温かい。本当に、温かい。

リスクを感じなかったワケじゃないはずの須藤達が、甘い対策で焚き火してしまったのがよくわかる。


「はぁ・・」


眠りに落ちる。



夢、というか記憶を思い返していた。


体育の時、体育館で脈絡無く「びよ~んっ」ておどけて軽々と股割きしてみせて笑わせてくれた湯本シンジ。

夏、制服の胸元が緩く、俺が廊下ですれ違い様に目のやり場に困って前方不注意で消火設備にぶつかってしまい「なにしてんの~?」と笑ったヒダカハルカ。

卓球部のモリヤマは取り敢えず雨天屋外体育の代わりにやった卓球の授業で無双してたな。まぁ授業後、釜崎に「こいてんなよ? チビ」て肩パンされてたけど・・


モリヤマより小さいミヤマとデカい須藤とイケメンで一軍行けそうなのに2人に付き合うタニモトタイキの3人が昼、一緒に弁当食べてるのはいい光景だった。


・・・皆、殺っちまった。


他にいいやり方あったろうか? クラス全員、副担やバスの人達もパーティー登録するとか? いやそれだと『スカ扱い』で谷底ENDにしかならない。


わからない、わからない、わからない。


今は深く考えるのはよそう。

だが、忘れてしまうのは違うか。ただ覚えてるだけってのも結局酷薄なんだろうが。

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