2話 血と脂
この項目に限らないが、ステータス画面のパーティー登録の表示にはなんの解説も無い。タカヒロ風に言うと『洋ゲー並みの塩仕草』だ。
「パーティー登録、わざわざ示されてるってことは意味があるんだろうな」
「ゲーム的にはパーティー間でダメージ受けない、とかスキルポイント共有とか、居場所の共有とか? チャットとか通話はさすがにないかぁ?」
「しよう。そのスキルポイントの共有は死んでも無駄にならないってことでしょ?」
やたら死ぬ気満々な平山。
「どっちかと言うと撃破成果のみ、てのが一番ありそうだが」
「ゲーマスイコール開発で、あのピエロだろ? クソ仕様な気がするよな」
結局、選択肢が無さ過ぎる。俺達は村井もタカヒロが説得してパーティー登録した。
すると、ステータス画面にパーティーメンバーの名前と、位置も縮尺不明のマップ詳細の無い円形図に表示できるようになり、HPとMP量も確認可能に。さらに『撃破ターゲット報酬総量』の項目が出て、パッシブスキルに『味方からのダメージ半減』が表示された。
「最低限度だなぁ。半減ってっ、性格悪っっ」
「やっぱ撃破報酬のみ、っぽい。まぁ平山、協力するメリットはあるよ」
「・・これさ、『撃破報酬がパーティー内で分散する』てことよね? 振り分けられそうだけど」
俺とタカヒロはなんの解説も無い基本、塩な表示を見直した。
「ソロも強いルールだな」
「あと仲間内のヒエラルキーが強い、集団対戦オンゲーで治安悪いとこのヤツらみたいノリもありえんぞコレっ。苦手だわ~」
クソルールな上に癖強い。だいぶ億劫になってきたぜ・・
「あの、その前に、お腹空かない?」
イジけて座って爪先を見ていた村井がバツ悪そうに言いだし、内心ナイス! と言ってやりたかった。
そう、水分と栄養が必要で、テンションだけでそれをスルーしてやってけるワケないからさ。
メシはしつこく鑑定したそこらで生ってるファンタジー果実だけにした。変な味だが十分英気を養えた。
今のパワーなら枯れ枝の摩擦で火を起こせそうだったが、居場所が知られそうだった。
そっから俺達は取り敢えず地球と同じに見える太陽もあったし、24時間で1日が進行する前提で時間を予測し、仲間の位置表示の縮尺を大体だが計った。(3段階に拡大できたから焦った)
続けて経験値なんかはなにもなかったが、戦闘に慣れる為に、森にいたスライム(全然可愛くない人喰い不定形生物!)を狩ったり、猪みたいなファングビーストてのを狩ろうとしたが強過ぎて逃げたりして、どうにかコンディションを整えた。
浜から逃げて5時間は経ってる。空の様子からたぶん今は午後2時から4時ってところだ。
42人いた。が、残ポイントターゲットは35人に減っていた。
「ただの鬼ごっこなら隠れてたらいいが、日暮れまで『暗視』のパッシブを取ってないとよっぽど運がいいか明るい内に距離取らないと詰む可能性が高い」
異世界でも夜は来るはず。
「この件は毎日来る。スキルツリー的に全員暗視は2ポイントで全員取れる位置にある。2ポイントがどれくらい手に入るかもわからないが、まずは暗視を取ることを日暮れまでの目標にしよう」
「それって人殺しするってことだよね?」
「キコ」
タカヒロが宥めたが俺に聞いてる。タカヒロは味方で平山は良識派だから、俺がプチゲーマスみたいな位置になってんな。
「そうだ。クソでもこれから殺るしかない。ただし日暮れで間に合わないと見たら、迷わず可能な限り人のいそうな位置から離れよう。相手もそうリスクは取りたくないだろう。誰だかは知らないけどさ」
村井はどうにか納得してくれた。
「平山とタカヒロ、俺と村井さんが組んで、俺達が陽動だ」
平山の固有装備はロングボウ、銅の矢×50、ショートソード、鋼の額当て、鎧下、鋼の胸あて、鋼のすね当て。弓道部で、今はプロアスリートのフィジカルがある。攻撃の要だ。
タカヒロの装備はレイピア、護拳付き短剣のマインゴーシュ、頭巾、オープンヘルム、鎧下、鎖帷子、オープンフィンガーグローブ、鉄の小手。概ね護衛向き。
村井はメイス、細身のピンナイフ、ラージシールド、頭巾、オープンヘルム、鎧下、鉄の前掛けだ。いわゆるタンク、壁役だな。平山と組ませてもいいが、村井じゃ後衛に奇襲してくる相手に対応できないだろう。タカヒロと組むとタカヒロが過剰に村井を守ろうとするだろうしな・・
「どうするの? 木の上から見た感じだと、北の高台か最初の浜の近くに人が多そうだけど?」
これについては俺とタカヒロの意見は一致してた。
「高台だ。浜はスキルポイントの差で最初に運試ししたヤツらのカモにされるだけだ」
日暮れまで数時間。今度は俺達が運試しする番だ!
移動は慎重に行った。平山の指示だ。平山がいつでも弓で応戦できる条件でゆっくり進む。時間は惜しいが、俺達の持ってる材料で使えそうな物が『時間』くらいしかなかった。結果、
「いた」
元々いい視力が高まってるらしい平山がハンターの目付きで小声で呟いた。位置を修正すると、全員相手を把握できた。
3人組だ。卓球部モリヤマ、わりと仲いい体操部の湯本シンジ、派手で巨乳のヒダカハルカだ。脈絡無い組み合わせ。たまたま連れ合いになったんだろう。運悪く、全員近接武器しか持ってない。
返り血の跡等が無いし、おっかなびっくりした様子だ。まだポイント取ってないな。
「おがっち湯本と仲良くなかったっけ?」
「どうしようもない。向こうもだろ?」
「ヒダカさん、あまり話さないかな」
「私、ヒダカさんに『なんか豚骨ラーメンの臭いする』てネタにされたことある」
・・誰もモリヤマのことはよく知らなかった。
一応サイコパスじゃないはずだから5秒くらい俺達は迷ったが、殺ることにした。
俺と村井はこっそり近付いて前後に分かれる。俺が死角の背後の木の幹に投石する。ギョッとしてモリヤマ達が振り返ると、前から大きなラージシールドを構えた村井が突進する。
「豚骨ラーメンじゃないよぉーっっ!!」
3人がいよいよ大慌てしたところで側面から俺が突っ込む。
「湯本っ、悪い!」
「尾形っ?!」
俺が湯本、村井がヒダカにぶつかり、フリーになったモリヤマが近い俺に不用意に持ってたアラビアンっぽい曲がった刀で斬り付けようとした首を、平山の矢が射貫いた。援護込みで詰みだな、と思った瞬間、湯本が想定外の行動取った。
いきなり持ってた薙刀みたいな武器を捨てて、3回転捻りで飛び上がって、離脱すると、茂みの中、平山達の方に走りだした。鉈みたいな予備武器持ってるっ。
「絶交だ! お前のパーティーもめちゃくちゃにしてやるからなっ」
「くっ、そっち1人抜けたっ! 身軽だぞっっ」
今から追っても無理だ。クソっ。俺はヒダカに向き直った。
「ふーっ、ふーっっ」
「なんだよぉっ、殺す気かよぉ?! ブタぁっっ」
ヒダカは大斧持ちだが左腕を興奮状態の村井に潰されて号泣していた。
もう、味方にしても戦力にならないか・・
「尾形ぁっ、ヤらせてやるからこのデブ殺してあたしを代わりに味方にしてくれよぉ? あたし、上手」
村井が吠えて片手持ちになったヒダカの斧を払い除け、俺は剣でヒダカの首を跳ねた。簡単過ぎて、戸惑う。
「お前のファン、クラスに結構いたよ」
「淫売っ! クソ女っ! バカっ!」
思ったよりずっと好戦的だった村井はしばらく猛っていた。
平山とタカヒロは近接に持ち込むまでに平山が一撃当てられたこともあって無事、湯本を仕止めていた。手負いに鉈で、弓の援護のあるレイピアとマインゴーシュの二刀流に勝つのはかなりしんどい。
獲得したスキルポイントは9ポイントだった。区別無く、1人3ポイントだ。合流した俺達はその場で1人2Pの暗視と3Pで取れたパッシブ『殺意探知』を平山に取らせ、使えそうなモリヤマ達の装備を拾って、その場を離れた。
高台自体を無理して押さえる必要は無い。残ポイントターゲットはいつの間にか27人に減っていた・・
大体の位置取りと、平山の殺意探知スキルで一先ず安全そうな辺りまで逃げて来ると、俺達はストックしてたファンタジー果実を食べて水分と栄養だけは取った。塩分も欲しいが、何か塩気の強いハーブか岩塩でも探すしかないだろう。
「殺っちまったなぁ」
タカヒロがぼんやりと言った。顔の返り血が乾いてる。
村井はもう吐かず、代わりに何かブツブツと「アイツが悪いアイツが悪いアイツが悪い」と言っていて、タカヒロも下手に触れない様子。
平山はなんというか、劇画タッチの表情になっていた。
自分はよくわからない。思ったよりまともな人間じゃなかったのかもしれない。
夕暮れになっていた。空を怪鳥の群れが飛んでる、と思ったら小さな竜の群れだった。色味が変だが暗視パッシブのお陰で昼間のようにハッキリと見れる。夕や明け方や屋内のちょっとした暗がりでも有効な『人権スキル』ってヤツだなこりゃ。
「これからどうする? 後退で仮眠を取って、夜の内に暗視スキル取り損なったパーティーを狩るべきだとは思うが」
「尾形君、思ったよりずっと酷薄な人だよね? 敵じゃなくてよかった」
平山、手厳しい。
「まぁ、もっと動揺するかとは自分でも思ってたよ」
「おがっちが冷静じゃなかったら、俺達がモリヤマ達と同じことになってたって。残ってよかったかどうか微妙だけどさっ」
呟き続ける村井を見ながらヤケクソ気味に言うタカヒロ。
しばらく皆、無言だったが、いよいよ空が暗くなってくると平山がため息をついて、口を開いた。
「八つ当たりだね。ごめん。先に仮眠取るよ、寝るとスキル使えなくなると思うから、よろしく」
「うん。平山さん、おやすみ」
「うん・・」
平山さんは寝苦しそうに横になり、しかしすぐに寝息を立てだした。限界まで疲れてたんだろう。
村井も落ち着いてきて、タカヒロにもたれてさめざめと泣いていた。
勝つに勝ったが、クソゲーはクソゲーだな、てね。
俺は、モリヤマ達から奪った衣服の切れ端で、手入れの仕方のよくわからないロングソードからヒダカの血と脂を拭い始めた。