追放
「ようこそ、選ばれし勇者達。
私は、皆様を召還した、カリーナ帝国を含む、この地域を統べる、神仏の代理人の1人。ニンムシュと言う者でございます。
今、この世界は、悪しき者達の手に堕ちようとしております。
私としては、選ばれた存在である皆様に、私が治める地域のみならず……この世界を救って頂きたいのです。
そこで、皆様には、取り急ぎ、【計測の玉】を、お渡ししていきます。
因みに、この【計測の玉】で、皆様が、
何れぐらい素晴らしい方々なのかが、具体的に判明する筈です。
ですから、どうか、ご協力の程、宜しくお願いします。」
気がつけば、体育館ぐらいの広さの部屋に居た。
そして、体育館のステージ台のような場所から、綺麗な、お姉さんが透き通るような、よく通る声で語りかけて来た。
周りを見渡したら、直ぐ隣に嫁が居るのが確認する事が出来た。
そして、僕達と一緒に召還されたであろう人達が、100名ぐらい居る事も分かった。
嫁は、体育館のステージ台のような場所から語りかけて来ている、綺麗な、お姉さんをジッと見つめながら、僕の手を握ってくる。
そして、その手が……小刻みに震えている。
その理由は分からないが……
何となく、体育館のステージ台のような場所から語りかけて来ている、綺麗な、お姉さんが、僕達にとって好ましくない存在のような気がした。
そんでもって、不思議なのは、
僕達以外に召還されたであろう人達が、トロ~ンとした目をしながら、体育館のステージ台のような場所から語りかけて来ている、綺麗な、お姉さんを見つめている事だ。
「『自動設定(不壊タイム)』×4」
僕は貰いたての異能の能力の1つを、嫁と自分に使ってみた。
これで、少なくとも……いきなり殺されるような事にはならない筈だ。てか……そうであると……信じたい。
■■■
「皆様に【計測の玉】が行き渡りましたね。
この場に、ご家族や、ご友人達と一緒に来られてる方も大勢、居られるかと思います。
そういった方々の【計測の玉】と、ご自身の【計測の玉】を合わせて下さい。」
【カチン】
僕と嫁は、取り敢えず、自分達に配られた【計測の玉】を合わせる。
【カチン】・【カチン】・【カチン】・【カチン】
【カチン】・【カチン】・【カチン】・【カチン】
【カチン】・【カチン】・【カチン】・【カチン】
あちこちから、【計測の玉】を合わせる音が聞こえてくる。
■■■
「では。
【計測の玉】が赤色のみの方。
申し訳、ございませんが……我々の手違いで召還してしまった、選ばれていない存在でございます。
とはいえ……【計測の玉】が赤色のみの方に落ち度は、ございません。
私の治める土地で、民の一員として暮らしていけるよう、3ヶ月間程、支援させて頂きます。
申し訳ございませんが、その間に、生活基盤を整えて下さい。
具体的な支援等につきましては、そこの者が中心になって行います。
ですから……彼女の元に集まって下さい。」
「【計測の玉】が赤色のみの方!
こちらへ、お集まり下さいませ!」
中世のヨーロッパを舞台にしたファンタジーの世界に出てきそうな、革の鎧を着こんだ、人懐っこそうな、お姉さんの呼び掛けに、
赤色のみの光を放つ【計測の玉】を持った人達が、トロ~ンとした目のまま、彼女の元に集まっていく。
◇◇◇
「では、次。
【計測の玉】が、赤色と黄色が混ざっている方と黄色のみの方は、
我々の手違いの方々と、召還する程の方々か?と問われれば微妙な方々になります。
とはいえ……【計測の玉】が赤色のみの方と同様、皆様に落ち度は、ございません。
私の治める土地で、民の一員として暮らされるのか、
末端の者として、この世界を救う為に働いて頂くのかにつきましては……
要相談になりますね。
具体的な事につきましては、そこの者が中心に行います。
ですから、彼の元に集まって下さい。」
「【計測の玉】が赤色と黄色。及び、黄色のみの奴は、俺の元に集まってくれ!」
中世のヨーロッパを舞台にしたファンタジーの世界に出てきそうな、金属の鎧を着こんだ、イケメンのお兄ささんの呼び掛けに、
赤色と黄色。黄色のみの光を放つ【計測の玉】を持った人達が、トロ~ンとした目のまま、彼の元に集まっていく。
◇◇◇
「次に【計測の玉】に青色が混ざっている方。及び、青色のみの方。
青色以外の色が混ざっている方の中には、我々の手違いの方々も混じられているかとは思いますが……
青色のみの方々については、我々が求めていた勇者様となります。
但し、緑色が混ざってる方。もしくは、緑色のみの方は別です。
我々の仲間になる資格はありませんので、追放刑に処します。
そして、喜ばしい事に、
今回に限っては、誰かと【計測の玉】を合わせるまでは緑色ではなかった方が居ない。という事ですね。」
体育館のステージ台のような場所から語りかけて来ている、綺麗な、お姉さんが、そう言いながら、僕と嫁を睨みつけてくる。
確かに、僕と嫁の【計測の玉】は、どちらも緑色のみだ。
ただ、僕も嫁も、望んで、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)に来た訳でもない。
彼女が、僕達のなにを気に入らないのかは分からないが、【計測の玉】が赤色のみの方と同様、僕達にも落ち度は無い筈だ。
【パァァァァァーン】
そんな事を考えていると、僕と嫁の【計測の玉】が、光り輝き始めた。
◇◇◇
「パパ。
また、何処かに転送されるみたいよ。
持続設定(無敵タイム) を掛けて。」
「『持続設定(無敵タイム)』×2」
僕の手をギュと握りしめながら話す嫁の言葉に、僕は理由も聞かずに従う。
「棚ぼたで管理人や管理者にさえも成れる資格を得た、似非アサグどもが!
深山の奥底で野垂れ死にやがれ!」
体育館のステージ台のような場所に居る綺麗な、お姉さんが、そう言いながら、下卑た笑みを浮かべていた。
■■■
「敵意は、無いでございまする。
1年程、先輩にはなりまするが……拙者達も同じ境遇の者でございまする。」
気がつけば、嫁の手を握ったまま、学校の教室ぐらいの広さの場所の端に居た。
「えっ?えっ?えっ?
まさか……う~ん。う~ん。う~ん。」
嫁が、
僕達に話しかけて来た、サラリーマン風の男と、女子高生風の女の子を見ながら、何かを必死に話そうとしている。
「お姉さん。
自分自身だけやのうて、他人に対しても、
元の世界(アン ナブ キ シェア ラ)の名前を言われへんルールになってはるらしいよ。
せやから、ウチの事は、ヨロズコ。
こん人の事は、ゼロイチと呼んでくれたら良えよ。」
女子高生風の女の子が、そう言いながら苦笑いしている。
「知り合い?」
「はぁ?
この女の子は、1年前、突然、マネージャーと共に姿を消した。って、ニュースになっていた芸能人さんじゃん。」
僕の質問に嫁が驚いた顔で答える。
「そう言えば……そんな事件があったね。
確か、ネットの掲示板とかでは、
失踪した芸能人さんのマネージャーさんが、失踪した芸能人さんに惚れていて……
彼女を富士樹海でも連れ込んで無理心中を図ったんじゃないか?って言う噂が飛び交ってたけど……
どうやら、ガセネタだったみたいだね……」
「そう。それ。そのニュースの人よ。
てか、パパは……本当、人の顔を覚えるのが苦手よね……」
嫁が、呆れた顔をしながら、僕を見ていた。
◇◇◇
「はぁ?
ウチのマネージャーが、ウチに惚れてはった?
なんやそれ?
そんなん、絶対にありえへんわ。」
女子高生風の女の子が、そう言いながら不機嫌な顔をしている。
「えっ? そうなの?」
「自分達(クルサル & サモナブ)の時は、どんな感じやったんかは分からへんけど……
ウチの【計測の玉】の色が、
勝手にウチを召還しはった、ニンムシュちゅう名前の糞女が嫌う緑色だと分かった途端、
ウチの【計測の玉】との接続を解除しはったんや。
もし、ウチを愛してはったんやったら、そんな事しやんやろ。」
女子高生風の女の子が、不機嫌そうな顔で話す。
「けど、まぁ……今となっては……
そのお陰で、こん人と、二人っきりで生活する事が出来たから良かった。って、思ってるんやけどな。」
女子高生風の女の子が、そう言いながら、サラリーマン風の男をチラチラと見ている。
「そのお陰で、拙者は、
魔法使いに成り損ねてしまったでございまする。」
「黙れ。」
女子高生風の女の子が、真っ赤な顔をしながら、サラリーマン風の男を睨みつけていた。
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