3-2
「神坂、秋人とケンカでもしたの?」
「ケンカじゃねーよ? 友達やめただけ」
「友達やめただけ??????????」
とりあえず一条先輩とは連絡先を交換した。影山さんには先輩から話しておいてくれるそうだ。別に影山さんは復讐とかざまぁとか望んでないかもしれないんだけど、メインヒーローたる男が「黙らせたい」と言った以上やるだろうし俺は既に巻き込まれているのでやるよ。だってムカつくからな! 秋人と友達やーめぴ! って思ったのに次は一条先輩だよ! 俺は男には興味ねえんだよ! なんで人生で釣れる大物が全部男なんだよ。理不尽。まじで理不尽。俺だって可愛い女の子の相談のってそのまま付き合いたい。俺が相談のると大体相場が決まってて「やっぱ神坂に相談してよかった。ありがとう……私、告白してくる!」こうである。なんでだよ。どう考えても俺が主人公枠だっただろうがクソ。
「なんかあった?」
「俺はな? さんっざん秋人に、あんとき影山さん頑張ってたな、影山さんのおかげだな、って話をしたわけ」
「うん? うん」
「みんなも言ってたろ、あれそれは影山さんだよなって」
「うん」
「それをあいつはあろうことか、市山が全部やってくれてる市山は優しいからそばにいて欲しいとか言うわけ」
「……つまり市山と付き合ったのが嫌なの?」
「市山と付き合ったことはどうでもいい! 好きにしろ! 俺は俺の話を一ミリも聞いてなかったあの脳ミソが嫌なんだよ!」
「あぁ……」
俺は元々、秋人の友達なので読者目線的に「影山ちゃん離れて正解だわ!」とかそんな風には思ってない。なんなら影山さんが報われて欲しいから秋人とくっついてほしかったな〜くらいに思っていた。何度も言うが秋人は別に性格が悪いわけじゃないし頭も悪くない。性格が悪いのは市山だけだ。
秋人は少女漫画のメインヒーローくらいのスペックは持っているのでどっちかというと優良物件のはずなのに市山が絡むと急にザコになるのまじで何なん意味わからなくね? メインヒロインである影山さんの言うこと成すことなにもわからん呪いにでもかかった? それ絶対術者市山だろ俺にはわかるんだわ。俺知ってる魅了の魔法とかいうのがあるんだよなまあそれは架空ナーロッパの話であってここは現代日本だししかも今令和ですけどね!
「あの耳は飾りかよ! ピアスつけてる暇あるなら耳掃除しとけよと思うだろ!? なあ!? 俺はおかしいか!?」
「お前はいつものがおかしい、今はむしろ正しい」
「急にディスるのやめろそのセリフは俺に効く」
別に俺は秋人と友達やめたところでなにも困らない。そりゃ一番一緒にいたのは秋人だったかもしれないけど、残念ながら俺はモブなので友達なんて沢山いるのだ。わりとこれは自慢できる長所のひとつだと思う。俺、人と比べて多分かなり友達多い方。
友達やめるったって嫌いだー! って感情じゃないから難しい。本当に嫌いとかそんなんではない。呆れたっつーか付き合ってらんねえみたいな感じの方が近いかもしれない。こいつと話すの無駄だわはい終わりー、みたいな。
「けど秋人、ずっと神坂のこと気にしてるみたいじゃね」
「俺にはカンケーないね。大体な、ケンカしてるわけじゃねぇから仲直りとかそういうのじゃないわけ。お前もあんだろ、こいつと話すの無駄だなって思ったこと」
「まあ、あるなあ」
「そーゆーわけよ」
ナーロッパの王子様の側近でマトモなやつってのもこういう気持ちなのかなあとか思ったり。まあでもああいうキャラは友達であり部下でもあるだろうし、国のために見捨てられない見捨てたくないって気持ちとかも持ってるんだろうから俺よりは情が厚いかもしれないなと思う。
こうやって並べると俺が薄情みたいな気がしないでもないが今までの第二話現象と比べて今回は明らかにめんどくせぇにおいがするので俺はいつまでも泥船に乗っていたくない。大体、十年来の付き合いなのに影山さんがどんな性格なのか把握できてない秋人って普通に問題あるだろなんであんなに市山贔屓なんだよそもそも市山の好感度のが高いとか?
とにもかくにも「ざまぁ」作戦だ。もはやあいつらがハッピーだろうが絶望しようがあんまり興味もないんだけど一条先輩が黙らせたがっていて俺はうっかり友達なんかになっちまったもんだからモブらしく働く必要がある。必要があるっていうと語弊があるけど、抵抗しようとやることはあんまり変わらないので諦めて素直に流れに身を任せて長いものに巻かれるほうがいいという経験談だ。
それに俺は影山さんが泣いちゃったとこ見てるしな。俺の前、じゃなく一条先輩の前だから泣いてたにしても努力してるクラスメイトがしんどい思いしてるのわかってて見過ごすのはあまり気分がよくない。あと俺が影山さんをちょっと贔屓にしてるのは影山さんは俺に挨拶してくれる人だからだ。好感度ってそんなもんだと思う。ちなみに市山は自分から挨拶しないタイプなんだけどこれだけで人間性語れると思うんだよなまじでカスだろあの女。
「まあでもあんな風にジロジロ見られんの気分悪いよな」
「秋人が神坂のこと好きみたいだよな」
「俺はBL展開は求めてねえんだよ!」
ただでさえ起こりえないロマンスをこの期に及んで秋人に潰されてたまるかふざけんじゃねえぞ! 大体市山と影山さんのことがなくても他の女子から「これ秋人に渡しといてほしい」ってイベント頻発してんだわ! そりゃそうだよなサッカー部で目立つし顔もいいもんな! 友達が評価されるのは嬉しいって気持ちとふざけんな自分で渡せやザコみたいな気持ちを死ぬほど味わったわ! 許さねえ絶対に許さねえ 絶 対 に だ !
「おい秋人! この際だから言っとくぞ!」
がたっ、とわざとらしく大きな音を立てて立ち上がる。次の授業まであと2分、教室にはほとんどのクラスメイトが揃っていてみんな何事かと俺と秋人を見た。俺は廊下側の前から三番目、秋人の席は教室のど真ん中なので自ずと視線も集中する。
「俺はお前の人の話を聞かねえところが嫌なんだよ! なにかにつけて優優ってあけすけに相談してくるんじゃねえ! この際だからはっきり言う! 俺はお前と友達やめます! だからこっち見るのやめろ!」
半分はやけくそ、半分は八つ当たりである。なんだなんだと教室を覗き込んでくる他クラスのやつもいてここだけ見たら俺はすごく嫌な奴なんだがこの際もうどうでもいい。入口で呆然としてる先生まじごめんね呼び出すなら放課後で頼むわ!