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閑話 神坂優という男は

顔も名前もないモブの女の子たちから見た神坂という男子生徒についてです。


「それ俺やるよ」


 最初にした話、あいさつですらないそれはこちらに気を使った発言だった。


「悪いよ、私が頼まれたやつだし」

「でも右手ケガしたろ体育で」

「なんで知ってるの?」

「佐々木が保健室行ってきたほうがいいよって声かけてたじゃん。ってこれ立ち聞きか! 行儀わりーな俺!」


 ごめーん、と笑う神坂とは普段は交流がない。彼自身は普通のクラスメイトだけど(これは楠井みたいにあからさまに顔がいいとかそういうのじゃないからという意味で)普段、神坂がつるんでるのはいわゆる一軍だからである。まあ筆頭が楠井っていうのはあるかもしれないけど、たしか二人は入学式から友達になったって言っていた。

 神坂は気まぐれで適当なノリのいいやつ、って感じだ。テストは赤点なこともあれば満点なこともあって、遅刻はしないけど居眠りはしている。ピアスはつけてないけどネクタイはしてたりしてなかったりするし、仲間内でぎゃーぎゃー騒いでることもあれば一人でぼーっとしていることもある。

 でも怖い人じゃないし、嫌な人でもない。むしろ親切だ。私だけじゃなくてクラスの女子のほとんどがそう思っているんじゃないかと思う。


「ほれ、貸せって。どこ持ってきゃいいの?」

「えっと、2階の第1資料室……」

「おっけー、教室戻ってたら? 俺置いてくるし」

「えっ、いや、それは……私も行くよ。ドア、開ける人間いたほうがいいよね」

「まじか! サンキュー!」


 前の授業で借りていた大型の教材の箱を軽々持ち上げて神坂は言う。私にはちょっと重かったけど、ひょろくても神坂の筋力はきちんと男のそれであるらしい。すたすたと歩きだす神坂の一歩うしろをついていくことにする。

 神坂はよく喋る。よくまあそんなに話題が尽きないものだと思う。楠井との話だけじゃなく、近所のゲーセンとか、新しくできたらしい店とか、果ては授業やいつ読んでるのか本の話まで多彩だ。なんとプラモが趣味らしい。知らなかった。女子は興味ないよなーとか言うけど、プラモ自体に興味はなくても神坂の話は面白いと素直にそう思った。


「両手塞がってたからドア係助かったわ」

「いや、元はと言えば神坂が荷物持ってくれたからだし」

「そう? いやー俺いいことしちゃったな!」


 ケラケラと笑う神坂は誰に対しても概ね同じ態度でいる。楠井はやっぱり一番仲がいいからなのかあたりが強い気がするけど男同士ってそんなもんなのかな? 空いていた棚に荷物を押し込んで資料室を出るともう次の授業まで3分もなかった。


「やばっ、早く戻ろ」

「いや保健室行ってきなって、俺せんせーに言っとくし」

「たいしたことないよ」

「授業中に痛くなるよりよくね?」


 はよ行け、といった身振りをされて神坂はそのまま来た道を戻っていく。なんだろう、グループの人間といるときはゲスい話題で話しているのも見かけるし聞こえてくる。それでも神坂が誰かを値踏みするような話(かわいい子ランキングとか)は一度も聞いたことがないし、いつも誰かを助けているような気がする。この間だって市山さんと楠井が話していたときに影山さんがどうこう~みたいな話をしていたのを聞いた。立ち聞きなんて行儀わりーとか言ってたけど私だって同じように神坂の話を聞いていることがある。

 あの時は、影山さんがやったであろうなにかを市山さんがさも自分がやったみたいな話し方をしていたんだっけ。真偽は知らないけど、神坂はそれを否定するでもなく、影山さんもいたよねみたいな言い方をして彼女のことも褒めていた。市山さんはなんか嫌そうな顔をしていたけど影山さんが嫌いなのかな?


 今だって、神坂は保健室まで付き添おうかとかそういう少女マンガみたいなことはしないけどクラスにいたほかの男子は私が荷物を持ってることにだって気付いてなさそうだった。自分がやる作業じゃないし、市山さんみたいに可愛い女子がやってるわけでもないから助けるほどでもないのだろう。私だって同じ立場なら多分声をかけないだろうし。

 けど神坂は声をかけてきた。

 あまつさえ、自分が代わりにやると買って出たのだ。しかも私が手をケガしたと気付いて。


 ……神坂って、彼女とかいるのかな。

 そんな話は聞いたことがないけど、教室では話さないだけかもしれない。他校生と付き合ってるとか、中学の彼女とまだ続いてるって人は珍しくないし。

 いや別にいいけど神坂に彼女いたって。私には関係ないけど。好きとかじゃないし、うん。全然そんな風に思ってない。いいやつなんだよな、と思っただけだ。

 頭を振って雑念を追い出す。今はとにかく神坂の親切を受け取って保健室に行くことにしよう。







「あ、ちゃんと保健室いったんだ。なんともない?」

「うん、心配してくれてありがとう。神坂が気使ってくれてさ」

「あー神坂、そういうところあるよね」


 楠井とかは、まあ顔は綺麗だし運動もできるから目立つけど所詮は男子高校生だからそういう気遣いはあまり見かけない。市山さんみたいにグループの中にいる子とか可愛い子にはするんだろうけど、まあ現実世界の高校ってそういう場所だ。ちょっとくらいカッコイイのがいたとして結局他人だし、私たちはドラマの主役じゃないからこれが普通。自分の人生では自分が主役だけど、それだけだ。


「ちゃんと冷やした?」

「わっ神坂! うん、あの、ありがとう」

「荷物? あれ結構重かったもんな」


 お大事にぃ、なんてへらへら笑って神坂はいつもの輪に戻っていく。なんだろう、あの適当さとのちぐはぐ感は。あれも神坂の気まぐれなのだろうか。


「神坂、いいやつじゃん」

「ね」


 そう、いいやつだ。主人公っぽくは、ないんだけど。

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>気まぐれで適当なノリのいいやつ  うん。神坂くんをこう評する顔無しモブ女子高生視点… 洞察力のあるこの娘はある意味贄の素質がありそ♢ ぷぷぷ。神坂くん、卑屈になっている場合ではなくってよ笑〜  作者…
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