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2-1

『上坂くんへ 昼休み生徒会室に来て欲しい 一条』


 先輩、俺の名前「神坂(かみさか)」なんすよ。

 音が同じだから上って書くって思ったのだろう。あの完全無欠ハイパーイケメンウルトラ秀才生徒会長芸能人でもそういうミスすることあんだなあ、と下駄箱にあったメモをブレザーのポケットに突っ込んだ。

 十中八九、週末のあれの話だろう。俺は一条先輩と個人的に交流があるわけじゃない。影山さんのことがあって初めて話した相手が俺に用があるとするならば、もう想像に難くねえな。


「ゆ、(ゆう)、おはよ」

「おー、はよー秋人(あきと)


 おどおどと話しかけてきた秋人は俺が挨拶を返したことにあからさまにホッとした顔をした。いやお前俺のことなんだと思ってんの? 友辞め宣言はしたけど挨拶返さないほど人間終わってねえんだわ。まあチャットアプリとSNSはブロックしたけど。


 あの後聞いた話では、結局秋人も市山もカラオケには来なかったらしい。まああの空気でじゃあカラオケ行くか! イエーイ! ってなってたらちょっと人としてどうかなとは思う。秋人はアホかもしれないけど嫌な奴ってわけではない。市山? 市山は嫌な奴。


 これは俺の想像だけど、市山は別に秋人が好きなわけじゃなくてどっちかというと影山さんに執着してるだけな気がする。なんでそんなことになってんのかは知らねえし、知らねえつかどうでもいい。

 まあだから影山さんが秋人を好きじゃなかったら秋人とそんなベタベタしなかったんじゃないかと思う。なんでこんな風に思うかというと既に中学で前例を見ているからだ。カスがよ。どいつもこいつも。

 大体週末の市山のリアクションが全てだろ。あいつは影山さんが秋人を好きだと思ってたから秋人に絡んでただけで、一条先輩が出てきたとなると次のターゲットは一条先輩なんだよな。


「あのさ優、春陽(はるひ)雪那(ゆきな)のことなんだけど」

「俺お前と友達やめたのでその話は聞きませんノーセンキューもう俺を巻き込むな市山とよろしくやってくれちなみに影山さんと一条先輩の関係はマジで知らねえから俺に聞くなよ」


 ノンブレスで言い切って下駄箱からダッシュで逃げ出す。今まで友達をやめたパターンは存在しないが、そもそも主人公野郎の恋路が毎回上手くいくかというともちろんそんなことはないので、今回みたいにおよそ失敗に分類されるパターンがある。平たく言うと失恋なんだけど。


 で、現実世界って失恋したら連載終了でもゲームオーバーでもねぇから普通に別の女子が絡んでくるようになるんだよな。もちろん俺の友達が女子の場合も全然あるので、フラれた矢先に別の男が俺じゃダメかなって来るパターンも見ている。

 何が嫌って、俺はこれを第2話現象と呼んでるが本当になんで続くか意味がわからん別のマンガ始めんのやめろ。せめてキャラクターの続投をやめろ俺を使うな。俺じゃダメかなってダメに決まってんだろボケカス。俺が準レギュラー枠を退場するまで一生すっこんでろ。

 と、まぁそんなわけだ。俺にだって思うところくらいある。


 今回は秋人を主人公と仮定して、でも失敗パターンなのかというとちょっと怪しい。なんせ「秋人の」恋愛としては上手くいっている。だって市山と付き合うまでいってるんだから。

 問題になるのは影山さんの身の振り方と一条先輩の登場だ。あきらかに市山が奪い取ったとわかる形なのに影山さんが泣き崩れてないのが今までにないケース。もちろん影山さんが泣かなくていいならそれに越したことはない。よっ、一条先輩! イケメン!


 なにが困るって、つか俺が困るのがそもそもおかしいんだけどそれはいつものことだからいいとして(全然よくないけど)。なろう系あんま読まないんだよな。だからざまぁ作品にあんまり詳しくない。俺の好むなろう系は大体電撃文庫とかオーバーラップとかになってる、というので理解されたい。


 ただ知識としてほんのりわかることがある。いせファンのざまぁ、悪役令嬢、追放みたいなやつは本編の冒頭で主人公(悪役令嬢)を追い落としたはずが、成功していくのでさらに畳み掛けて失敗するのがスタンダードなのである。


 俺の拙い知識でまとめると、クソ正ヒロインが市山、悪役令嬢が影山さん、正ヒロインに篭絡されるアホ王子が秋人、悪役令嬢をかっさらう隣国の王子が一条先輩、ということになる。あってるか? あってるってことにしとこ。

 どちらにせよ今日まで培ってきた少女漫画知識だけでは足りないということだ。いせファンランキング、スコップするか。


「あ、おはよう神坂くん」

「影山さん! おはよー」


 週末の覚悟を決めた顔とは打って変わって、今朝の影山さんはどこにでもいるハッピーな女子高生の顔だった。うんうん、やっぱ恋愛成就した女の子はいいわ俺まで幸せになる。その相手は俺じゃねえけど!

 きっと一人で沢山悩んで、一条先輩に甘えていいのか葛藤して、それでも自分で選んで色々決めたと思う。いやどうだろ俺そんなに影山さんのこと知らんけど、まあ今までもそうだし人間大体そうだろ。うん。


「先週は……ありがとね。あの日すごく悩んでて迷ってて辛くて、でも神坂くんが私のこと見ててくれたのもすげーなって笑ってくれたのも、嬉しかった」

「俺はなんもしてないよ、たまたま見かけただけで頑張ってたのは影山さんじゃん」

「そうなのかなぁ。けど頑張ったって誰も見てないって思ってた。一条先輩に、誰かが見てるよって言われたときだってそんなわけないって思ったの」


 ケッ! 結局一条先輩だよちきしょー! あのキラキラフェイスと爆イケボイスで「大丈夫、誰かが雪那をちゃんと見てるから……俺もね」とか言うの想像に難くない。まあ、まあいいそれは。うん。いいよいつものことだし。それに一条先輩の言ってたらしいことは別に間違ってない。頑張ってたら誰かが見てるし評価する。孤独な時でも他人の目なんてのはそこかしこにあって、意外と人は一人じゃないもんだ。


 まあ俺は? 評価される側じゃなくて、その評価する側に 立 た さ れ て る ん で す け ど ね ! 影山さんだけじゃなく、今までもそうだ。疑われた女の子を「でもその日どこそこ居たよな?」とか「あーあれ手伝って貰ったんだよ!」とか言う役。そりゃね、女の子助ける方が男助けるより楽しいよ手軽にヒーローになれるから。でも俺にロマンスは訪れねぇ! ふざけやがって!


「そういや俺、一条先輩に呼び出されたんだよ。こえーわ、なんかしたかなー」

「お礼、言いたいんだと思う。俺が来るまで神坂くんがいてよかった、って言ってたから」

「影山さんならともかく一条先輩にお礼言われんの変じゃねー? ……付き合うことになったん?」

「あ、わかる? えへへ、実は、うん」

「よかったね」

「ありがとう」


 よ く ね え わ ! 一ミリもよくねえわ! 結局俺は顔のあるモブだよふざけんなよ世界! 相手が一条先輩じゃなかったら飛びかかってる自信がある。いいけどね別にいつものことだし! いいとは思ってねえけど! はークソ!

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― 新着の感想 ―
 連投失礼しますペコリ。 >完全無欠ハイパーイケメンウルトラ秀才生徒会長芸能人  な の に! きっと下駄箱には『神坂』とあるはず… 笑〜  一条パイセンもちぃとばかし舞い上がってるのでしょうね〜? …
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