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「わたし、もう二人といるのやめることにしたの」
で す よ ね! はいわかってましたーこうなることわかってましたー! わかってたけど回避できませんでした! 俺に恨みでもあるのか世界。
時刻は放課後、場所は廊下。
秋人、市山、俺やクラスメイトの何人かがカラオケ行こうかと固まってたところだ。
俺は行かないって言ったんだけど、だべるくらい付き合えよ〜と連れてこられて、のこのこ来たら秋人はいるし市山はいるし、でも影山さんはいないしで「うわ終わった」と思ったね。
昨日の友辞め宣言のせいでなのか秋人は俺のほうを気にしていて、でも話しかけていいのか迷ってるっぽかった。俺よりここにいない影山さんを気にしろ。お前これから超後悔イベント始まるから。そんでそこに一条先輩来るから。
そんなこと考えてたら案の定、出てくる影山さん。
市山がなんてことないように「雪那も行こうよ」なんて言ってるが俺は知ってる、市山はそんな優しくてかわいいやつじゃない。
あれはいわゆる、「ごめん、でも……私も秋人がずっと好きで……でも雪那も大切な幼馴染だから、これからも三人でいようよっ」みたいなやつなのだ。性格悪いぞ市山。
「ううん、今日はいいや、わたしはやめておくね」
「そっかー影山こないのか、また誘うわ」
「うん、ありが「それって私のせいっ?」……なに、春陽」
で、た、よ、「それって私のせい」そうだよお前のせいだよ、と言いたいのを飲みこむ。まわりは何事かと息をのんで三人の動向を見つめている。
市山はここで「雪那の気持ちわかってたのに」的なことを言い出して、影山さんが失恋したことをさも自分のせいみたいに言うのだろう。
予想される反応としては、
①秋人が「春陽のせいじゃない! 俺だって…」って言いだす。
②「ごめん雪那、俺知らなくて」って言いだす。
③「なんで今なんだよ……」って被害者面する。
ここまで鉄板想像できるなら俺は少女漫画家になれるんだろうなあ、といつも思う。いやならねーけど。日常生活これなのに仕事にしたくねえ。無理。
影山さんがちらりと俺を見る。昨日のあれのこと考えてんのかな。でもここで俺がでしゃばる必要はない、多分一番いいタイミングで一条先輩が来る。俺がやればいいのは空気を読んでない発言を一言だけでいい。
「ねえっ、雪那ごめんね……私っ」
「そうだよ、だからわたし、もう二人といるのやめることにしたの」
こうして冒頭に戻ってくるのだ。
たった一日でよくここまで思い切れたもんだと感心する。今までは別のヒーローがいたって、それでも多少みんな引きずってた。そりゃあ好きだと思ってたんならそうなるだろう、くらいの感想は俺だってある。
影山さんは見たことないタイプだ。強いなあ。
「どうしてそんなこと言うの?」
「だって春陽が私のこと見下すから。ねえ、秋人、去年の合宿も、秋人の入院も、春陽はなにもしてないって知ってた? 私もう疲れたんだよね、二人といるの」
わー! 初めて見るパターン! これは最近流行ってるざまあってやつだろうか。異世界ものでしかないと思ってたけど現実世界でも起こりえるもんなんだ!
俺の趣味嗜好に寄ってるような気がしてならないが、多分時代の流れなのだと思う。毎回そうだ。そのときのはやりに近い恋愛劇をいくつも見てきてるからな!
「あー、やっぱあれって影山さんだったんだ! ほら、去年の夏にさぁ」
思い出したように俺がそう口にする。秋人が見なかった、彼女の功績。市山に盗られた努力の数々。俺はそれをさも偶然に一度だけ見ましたよ、みたいな言い方をすれば影山さんは少しだけ泣きそうな顔をした。
大丈夫、ちゃんと知ってる。
影山さんが頑張ってたこと、秋人が知らなくても。
そんでもってそれは俺だけじゃない。みんなが知ってる。みんなが見てる。市山がなにしようと、他人の目の所在までは決められない。
次々にあれも影山が、それって影山さんだよね、これ影山じゃなかった? とざわつく。八人もいるので結構な動揺になってみんな市山と秋人から一歩引いた。
「へー、すげーな影山さんって!」
俺がまた空気をぶった切ってそういうと、影山さんは泣きそうな顔のまま少しだけ笑ってくれた。
「ま、でも秋人は市山が好きだってはっきり言ってたもんなー。よかったじゃん、影山さんが二人に気使ってくれるみたいだし」
「え、なに神坂どゆこと?」
「だってさー、疲れたとか市山を悪く言って、影山さんは自分が性格悪いテイで二人から離れようとしてくれたわけだろ? それは気使わせてる秋人たちのためだろ? 急に距離置くと心配かけるし、気を遣わせるからっていうとそんなことないっていうに決まってるから」
なー影山さん、ってなにも考えてない感じで声をかける。言いよどんだ彼女は動揺してるに違いなかった。まあ、それは秋人も市山も一緒なんだけど、まあ……もう幼馴染には戻れないなと冷静に考える。
秋人、お前絶対影山さんを逃がすべきじゃなかったぞ。
「雪那、遅いから迎えにきた」
「先輩……」
「あ……、あー、かみさか、くん?」
「先輩昨日ぶりですねー!」
「え、神坂って一条先輩と知り合いなの?」
「いや、昨日初めて話した!」
名前を呼ばれた、ということは一条先輩の中の俺は「無害」判定なのだ。よかった。やっぱりとどめの一言は発しておくに限る。
「雪那、もう行こう。俺おなかすいちゃった」
「は、はい」
「じゃーね、雪那の先約俺だから」
ハイ少女漫画展開―――! わかってましたありがとうございます。
なんで……!? とか呟いている市山に、呆然としている秋人。あーあ、いやわかりきってたじゃん、と思って思考を止める。わかってたのは俺だけだったわ。
ってか、俺帰るって話してたんだよな。みんなが唖然と二人を見送ったのを見てまた俺は空気を読まずに発言する。
「もう帰っていい? 俺今日ゲームのアプデなんだよ」