6-2
「Hey! 夏樹! 会いたかったよ〜!」
「おまっ、なんでここに……!」
「婚約者の学校に来たらダメなんて法律ないよ?」
「婚約者じゃない!」
あーあ。
隣でぽかんとしている影山さんだが、俺はこうなることを見越して一条先輩には特になんの報告もせず「こういう女が居るし、多分来る」と伝えてある。よかったな一条先輩、俺に感謝しろよマジで。
isuruの母親はヨーロッパ人らしい。ダブルらしいハッキリ美人な顔立ちもあって、彼女はその活動範囲をアメリカにまで広げているガチの売れっ子らしく、リアクションがややオーバーでハグやキスも日常茶飯事だという。
「夏樹の友達かな? こんにちは!」
「こっ、こんにちは……! わ、本物の、isuruちゃん……!」
「知っててくれてうれしー! ありがと!」
影山さんはイマドキな感じじゃないけど、それでもisuruを知ってるようだ。やべぇ俺モブらしく生きてるんだから賑やかし的に有名人知っとかないとよくなかったかもしんない。いや待て、しかし影山さんが詳しいなら俺はボケボケっとした回答してもいいのか。いいよな。
「こ、今月の雑誌買いました。セレナーデの新色ネイルすごく可愛くて」
「だよねだよね! あたしも自腹で買っちゃったもん。あっ、名前は?」
「ゆ、雪那です。影山雪那」
「雪那ちゃん! よろしくね! えっと、きみは? きみも夏樹の友達?」
「うす、神坂優です。すんません、俺モデルさんとか詳しくなくて」
「仕方ないよぉ、あたしのやってる仕事女の子向けだしさ! よろしく、優くん!」
距離の近いタイプってのはわかった。フレンドリーな人だな。俺は知ってるぞ、こういう女はねちっこいことはしねぇんだ。なんせ自分に自信があるからな。むしろ影山さんが身を引こうとする展開がもう見えた。
「前にも言ったけど俺は彼女がいるんだよ、だからこういうのはもうやめてくれ」
「彼女ってこの子だよね? 雪那ちゃん!」
「なんで……はぁ、わかってるなら……」
「でもごめん雪那ちゃん! あたし、昔から夏樹のこと好きで、だから諦めらんないの」
「駿河っ!」
「あたしが夏樹を好きなのはあたしの自由じゃん!」
「な、夏樹先輩、isuruちゃんの言う通りですよ」
「雪那まで!」
俺こっそり帰っていいかな。いつもいつもなんなんだよ俺全然当事者じゃないのに何を見せつけられてるんだろうなほんとに。いくらラブコメの神に愛されててそういう現場に居ることが多いって言ってもな、いや慣れるよ実際、慣れるけどそれはそれこれはこれなんだわ。
ぎゃーすかやってる三人だが、まあ俺の友達ってことで主役が影山さんなのは間違いない。多分どっかで一条先輩とisuruさんが急接近するイベントが起きるんだろうけどそんときに影山さんの背中を押すようなことするのが俺の仕事だ。ハラハラする展開とオチの見えてる少女漫画、いつものやつだ。そして売れる内容だ。やっぱ俺少女漫画原作の仕事とかしようかな。
「〜〜っ! 神坂くんもなんとか言ってくれ!」
「俺!? 俺が何を!?」
急に話を振られて普通に驚く。全然聞いてなかった。助けを求めて影山さんを見るとつまり「俺は彼女一筋」「あたしの気持ちはあたしのもの」「二人の意見はどちらも正当、言い争うだけ無駄」という話をしていたらしい。圧倒的に影山さんが正しいだろどう考えても。
「いやー、俺は一条先輩とisuruさんの事情とか知らねえし……別にisuruさんは影山さんを社会的に殺そうとかそんなんじゃないんスよね?」
「そんな怖いことしないよ!? 大体、夏樹がモテるのは昔からだもん。あたしも雪那ちゃんも、お互い以外にライバルいっぱいいるって」
「それはたしかにそうかも……そもそも夏樹先輩のこと見に来る子とかもいるし……」
なにそれ初耳なんだけど一条先輩のモテってそういうレベルなんだ。オタクくんの言ってた夢小説じゃん。夢小説ってなんだかよく知らないけどとにかくモテる男と付き合うやつだよな?
まあ、俺からしたらややヘタレな一面もあるイケてる先輩って感じだがモデル活動に関しては本物で街中で先輩が出てる香水だか口紅だかの広告は全然見たことがあるし女の子たちが写真を撮っていたのも見ている。ちなみに広告のサイズはあれだよ、新宿のコンコースとか渋谷のハチ公前とかああいうレベルであってショボイ小さい枠じゃないかんね。
今更不思議になってきたなんでそんな人と友達やってんの俺? はは先輩頭抱えてら。うける。
「あ、あのさぁ、あたしライバルだけどさ、雪那ちゃんとも友達になりたいな」
「えっ、でも私一般人だし……isuruちゃん友達たくさんいるんじゃ?」
「夏樹の話出来るような友達いないよ、それにあんま学校も実は行けてなくて」
「先輩、一条先輩、しっかりしてよ、俺をこんな空間に取り残さねーでくれよ、なあ」
チャットアプリとSNSのアカウントを見せ合いっこしてる二人はどこにでもいる女子高生のそれだ。先輩が特に止めないということはisuruさんにはマジで悪意がないからなんだと思う。
それはさておき一条先輩はなんでもいいからさっさと帰ってこいよいつものスパダリオーラはどこやったんだよ俺を助けろよ影山さんに発揮出来るなら俺にも発揮しろ。俺はオサナナサンコイチの現場に来なかったこと絶妙に恨んでるからな。
「あたしたち、ライバルだけど、でもそれはそれこれはこれってことで」
「は、はい、よろしくお願いします」
「タメ口でいいって! あたしなんか最初から雪那ちゃんとか呼んじゃったし」
「えっ、全然! 全然嬉しい、っていうか」
「先輩! 一条先輩! 早く帰ってこいよ顔だけ野郎になってんよ今! なあ!」
胃が痛い。ヒロイン共闘パターンは俺はまだ見たことがないので正規ヒーローが居ないのがこんなにやりづれぇとは知らなんだ。秋人って凄かったんだな、ちょっと認識改めることにする。




