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6-1

 まず結果の話をしようと思う。

 結論から言うとサンコイチは仲直りをした。


 まず市山。

 秋人と影山さんにしっかり謝罪した上でそれでも影山さんが好きだということで、もちろん百合的な意味でだが、秋人とは別れることになり「別れる」という一点に置いては市山の口から周囲に説明するということでケリが着いた。本人の意思で、過去の悪行もきちんと話すことにしたらしい。急にしおらしくなったので俺は全然こいつを疑っている。


 続いて秋人。

 秋人は市山の謝罪を受け入れ、自分も影山さんに謝罪をして和解。秋人のことが好きだったわけではないという市山の言い分を飲み込んで別れるという選択を許容。

 まあそれでも急に好きじゃなくなった、とはならないようで「しばらくは春陽のこと好きだと思うけど、許してな」とか笑ってた。影山さんのことを好きだったのは一応過去として本人の中では完結してるらしい。なんでこんな腹立つんだろうな。


 で、最後に影山さん。

 市山と秋人の謝罪を受け入れて仲直りを提案して和解。元々彼女は被害者にも関わらず俺ほど市山を嫌ってないし、秋人を見放してるわけでもないのでまあいつもの影山さんらしいっちゃらしい選択だなと思う。彼女が許せるっつーならもうそれでいいんじゃねって感じ。俺は納得してないけど別に当事者じゃないし。


 ついでに一条先輩。

 結局あの日あの場所に一条先輩は来なかった。普通に仕事があったらしくて、あ、芸能の方のね、学校に居なかったというなんでだよ来いよメインヒーロー様だろうがよ。「雪那が選んだことなら、俺はそれを尊重したい」とかマジで王子様ムーブかましやがって。ケッ。


 そんなわけで俺らは結託したにも関わらず市山と秋人に「ざまあ」は発生しなかった。別にしたかったわけじゃないけど色々と腑に落ちなかったのは確かだ。この世界の、少なくとも俺の見ている範囲では誰かがどこかで主役なわけで、影山さんほど見事な「負けヒロイン」がこういう大団円エンドになる例は今まで見た事がない。最近アニメやってたけど負けヒロインには負けたあとのストーリーがあるもんで、和解だの仲直りだの丸く収まるだのはラブコメとして成立しないのだ。


 いや現実世界だし仲直りってことはあるかもしんないよ? けど俺が飲み込めずにいるのはそれぞれの主役格に座っている男二人が原因だ。「楠井秋人」と「一条夏樹」は読み切りで使い捨てにできるほど安いキャラじゃない。


 俺の勘が告げている。

 仲直りエンドは、多分第一章だった。


 少なくとも全三十巻あったら今は恐らくいいとこ五巻あたりだ。つまりまだ続く。




◆◆◆




 経験則ってのは大切だ。仕事でもそうだろう、ベテランはすげえってのは通ってきた修羅場の数が違うからそうなる。その点俺はラブコメの神様に愛されてるからねモブとしてですけど。

 つまり、俺の予感は的中した。


「来月、文化祭にゲストが来るんだけど……その……」

「察した」


 ポン、と一条先輩の肩を叩くと先輩はがっくりと力なく項垂れた。顔が白い。死ぬの? 俺がモブキャラだとは別に誰にも言わねえけどつか言ったところでだからいわねえだけだけどここまで分かりきってるともう笑うしかねえよな全然面白くねえのにな。何に笑えっていうんだろうな。俺のピエロ具合かな。ゴミかよ。


 ちなみになんで俺が一条先輩とサシで話しているかというと、週一昼休みに影山さんが市山と飯食うようになったから。

 ご存知の通り一条先輩は友達がいないので俺が一緒に飯を食っているとこういうわけである。生徒会室で。


 んで、ゲストらしい女は芸能関係の知り合いで、ジュニアモデルの頃からの付き合いだという。そんでもってその女は一条夏樹の婚約者を自称しているそうだ。はいっ! 役満! あがり! 四槓子! 大三元! 九蓮宝燈! 国士無双! やっぱ笑うしかない。ほかにどうしろと。


「こんなこと雪那に知られたら」

「いつものカッケー夏樹先輩♡ムーブはどうしちゃったんすか、自信持って。大丈夫、影山さん一条先輩のことすげー好きだから」

「神坂くんに慰められてるの意味わかんねえ俺も」


 ハッ倒そうかと思ったがすんでのところで我慢した俺マージで偉すぎるから今日はローソンでしこたまスイーツ買って帰ろ。あと一平ちゃんも買ってこ。

 そも負けヒロインスタートの女はしれっと幸せになったら面白くねーんだからこれはまあ正しいシナリオだよなとしか思わん。いせファンが一転、古き良き少女コミックだろ。白泉社みてえじゃね?


「どーせバレっから、どーんと構えときゃいいんすよ。俺は雪那が好きだ! 守る! ってやってたでしょ前回」

「それは相手が俺とは無関係だったからで」

「つかそのジュニアモデルの知り合い? ってどんな人なんすか、俺でも知ってる?」

「……isuruだよ、さすがに知ってるだろ?」

「いする? さーせん、全然わかんなかった」

「isuruのこと知らないのか!?」


 嘘だろ! と前回のクール全開スパダリハイパー完全無欠イケメン生徒会長芸能人様は見る影もない動揺っぷりだ。第二章のメインキャラになったからこういう意外性を掘り下げられたんだろうなと思う。俺もあんまり信じたくないけど「こいつ、こんなところあったの?」みたいなのはよくある話だ特に主役格の男ほど多い。そのせいで俺はそいつを友達だと思ってたけど全然知らねえことあるな……と思って己の友達付き合いに悩んだことがあるくらいだ。

 まあ結論俺の友人選びや付き合い方には全く問題ないんだけどね。


 閑話休題。


 isuru、というのは本業モデルの実際はタレント活動をしているらしく年齢は一条先輩と同じで今高校三年生。ジュニアモデルの頃からその才覚を顕にしていて業界ではかなりの有名人みたいだ。最近はティーンガールズコレクト……TGCとか言うんだっけ? なんていう俺でも知ってるファッションショーでは必ず登場するティーンのカリスマらしい。今月のファッション誌を適当に検索したらほぼ表紙。うーんすげえ。関係ないけどTGCってトレーディングカードゲームじゃね?

 本名は、甘井駿河。苗字と名前を繋げてイスルだそうだ。ちなみにこの駿河っていう名前は父方の実家が名士で屋号がどうとかそんなやつらしい。なるほど幼なじみってのは本当みたいだ。


「別にイベントに来るだけならいいでしょ、転校してくるわけじゃねぇんだし」

「でもなんか、嫌な予感がするんだよ」

「気持ちは分かるけど」


 イベントのステージで大々的に結婚宣言とかな、あるあるだよな。俺そういう漫画読んだことあるもん、多分ちゃおとかなかよしあたりで。どっちかというと女児向けターゲットの漫画によくあるやつな。まあ芸能活動なんて肩書きついてる時点で一条先輩はそういうイベントから逃げられないんだろうし。


「俺になんかあったら、頼むから神坂くんは俺を見捨てないでくれ」

「う、うん、まあ先輩がやらかさなきゃ俺は特に」


 げっそりしてる。主人公も大変なんだな。

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