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5-2

「春陽」

「ゆ、ゆき、な……!」

「あれぇ、いたの影山さん」

「うん、盗み聞きしてごめんね」


 俺なんてしょっちゅう誰かのなにかを盗み聞きしてるので痛くも痒くもないんだが、適当にいいよって笑っておく。最近ボケカスクソとか言いすぎててそろそろ顔が剥がれ落ちそうだったので助かる。忘れるなかれ普段の俺は人当たりのいい、お調子者の、無自覚にお助けをやるモブなのだ。別にそうありたいと思ってるわけじゃないけどね! カスがよ!(この世界に対して)


 つーか待ってなんで俺このトリオに囲まれたの? 最悪なんだけど。いや別に誰が悪いとかはないけど嘘俺を引き止めた市山と普通に話しかけてきた秋人が悪い。悪いってことにした。今した。


「今話してたの、聞いてたよ、私」

「ち、ちが……雪那、聞いて……」

「はっきり言うけど、気持ち悪いよ春陽」


 キッッッッッッッツ。

 え? なに、こわ。影山さんクールビューティだけどオドオド系イエスマンだったから影山さんが正面からこんなどストレートな物言いしてんのマジで怖すぎる何? 俺全然関係ないのにうっかり流れ弾で死ぬかと思った怖すぎる無理。美人の怒ってる顔すげえ迫力ある。


「き、きもち……わるい……?」

「だってそうでしょ。私の頑張り横取りして、私の悪評流して、挙句秋人とも付き合って、その理由が私のことが好きだから? なにそれ、ありえないんだけど」


 おっとよく見たら影山さんちょっと震えてんな。良かったいつもの影山さんだわ。ただ一人、立ち聞きしてたわけでもない秋人だけがなにもわからんという顔でオロオロしている。そりゃそうなるわ幼馴染の女二人がいつもと逆転した立場でブリザード全開だもんな。俺なら漏らしてると思うよ。


「えっ、春陽どういうことだよ」

「どうって、それは、その……」

「市山は影山さんが好きなんだと」

「はぁ?」

「だからお前はにっくきライバルなわけ。お前が影山さんと両思いになると市山は困るんだよ」

「困るって……だって雪那は結果として一条先輩と付き合ってるじゃん」

「誤算だっただけだろ。お前をどうにかすれば市山の中の計画はOKだったんじゃねえの」


 呆然、とはこういう顔のことを言うんだなと思いながら秋人と影山さん、市山の顔を代わる代わる見る。うーん、修羅場って感じ。ますますなんで俺がここに居るのかわからん辛い一条先輩どこでなにしてんのなんでこういう時にいないのメインヒーローだろあんた。


「ゆっ、雪那がっずっと私と一緒にいてくれるっていった……」

「そんな幼稚園のときの」

「そうだよ! けど、けどっ、私だけの雪那でいてほしかった。他の人好きになって欲しくなかった、とられたくなかった。けど雪那は可愛いし優しいから、絶対取られちゃうと思って、そしたら雪那が孤立するようにするしかなくて」


 思ったより頭の出来が幼稚なんだなこいつ。市山の言い分は分かったし、理屈も理解できるんだけど人間性の部分とか倫理とかその他の多方面から全っ然共感ポイントなくて無理すぎる。二〇〇〇年代のシチュエーションCDみたいなことやってんじゃねーよ。


「よりにもよって秋人にっ! 秋人が雪那のこと好きなの知ってたもん! だから、だから必死に……」

「ちょっ、それはっ!なんで雪那に言うかな……!」


 どうやら秋人と影山さんは両片思いだった時期があるらしい。一瞬傷ついたような顔をした影山さんだったけどすぐ元に戻ったのはやっぱり、市山を全面的に信用した秋人への信頼が地に落ちているからだろうし、彼女の傷跡を埋めたイケメンが既に存在するからなんだろうなとまあちょっといいこと風に言ってみたもののそのイケメンはやっぱいねえんだよなここに。早く来い。助けろ。俺を。


「だったら、最初からそう言って欲しかった」

「言ったら……かわったの?」

「わかんない。考えたことないし。けど少なくとも、春陽のこと嫌いになったりはしなかった」


 嫌い、というワードに反応する市山の喉がカヒュッと可哀想な音を立てる。そらそうだわ、好きだっつってんのに嫌いとか言われたらそうなるわ。春陽のこと嫌いじゃないの……なんて言ってたから本心ってわけじゃなさそうだけどまあ荒療治だと思えば可愛いもんだろう。うん。すげー怖いけど。全然関係ない俺まで怒られて詰められてる気分だけど。夢に出てきそう。多分泣く。


「ご、ごめ、ごめんなさい……ごめんなさいぃ……」

「私じゃなくてまず秋人でしょ」

「あ、あきと、あきとも、ごめんなさい」

「いや、うん……俺は別にいいけど……」


 そうだよなお前被害者ぶれる立場にねーもんな、と思ったので口を噤む。油断したらうっかり言う。


「俺は……、俺の判断と考えで春陽を信じたし好きになった。それは変わらない。それで雪那を傷つけた、ごめん」

「べ、べつにもういいよ、それは」

「うん。雪那ならそういうと思う、けどそうだとしても俺は雪那に謝らなくちゃ」

「……秋人が、そういうなら。うん。もういいよ」


 なにこの空気。えっ、なにこの空気。

 素直に謝ったらOKな感じなの? いやまあ、でもそうか、幼馴染だもんな。そうだよな……えぇ〜俺は全然納得してないよ? 事細かに書いてないけど市山のやってることってまあまあ結構かなりエグいくらい悪辣だったかんね? 俺知ってるかんね?


「春陽、仲直りしよう。もう怒ってないから」

「ほんと?」

「うん、これからはまた仲良くしよう? だからって先輩と別れたりはしないけど、でもちゃんと話そう。ね?」

「うん、うんっ……わかった……」


 いやいやいやいやいやほんとになにこれ一件落着みたいな空気まじで何????? 終わんないよね? ここで終わんないよね?

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