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閑話 神坂優という男は2

 ああいう男から見てもかっこいい男ってすげえよなと思ったのを覚えている。

 俺は断じて同性愛者ではない。付き合うならグラビアアイドルの海原みなもちゃんみたいな女の子がいいと思っている。それはそれとして母と姉二人と妹がファンクラブに入るくらいには男アイドルや俳優が好きなので、家の中には雑誌やポスターが溢れており、かっこいい男の要素を判断するだけの目もまあまあ持っている。おかげで俺と親父は肩身が狭い。


 それはさておき秋人だ。秋人は入学式のときからまわりがちょっとザワつくくらいのツラをしていた。まあたしかに、ゆるくて優しいタッチのマンガのメインヒーローみたいな雰囲気がある。学校というのは制服という一律同じ格好なので入学式なんかは特に顔の善し悪しが分かりやすい。

 男女別に分けられた列で、まあそこはイケメンかどうか関係なくみんなそわそわしていて落ち着かなくて、だからだと思うけど秋人はそこで神坂に声をかけたらしい。理由は隣にいたから。


 見た目の話だけでいえば、秋人に比べて神坂は凡人だけどコミュ力においては群を抜いていた。まあだから、秋人が声掛けてきたあともすぐ打ち解けてたしまわりも巻き込んでたようだけど。かくいう俺もその一人だ。

 話が逸れた。秋人のことだ。


 秋人には幼なじみがいた。市山と影山。どっちもタイプの違う美人で、ちょっと三人で固まるとそこだけキラッキラする。まあ何故かその輪に神坂もいたりするんだけど。

 仲良いんだな、と思ってた。少なくとも俺は。俺自身は市山とも影山ともあんまり話さないから秋人経由でなんとなく話を聞く程度だったし。そんな三人に難色を示していたのが他ならぬ神坂だった。


「俺友達選びしくったかもしれん」


 驚いた。神坂は普段他人の事を口にしない。いや話題はある、誰々とどこに行っただの何をしただの、ゲームやマンガの貸し借りをしたとか、でもそれだけで、神坂の口から他人のネガティブな話っていうのは後にも先にも俺はこの時しか聞いていない。俺以外には言うのかもしれないけど、まあそれはいいとして。


「どしたん」

「市山が多分秋人のこと好きじゃん?」

「せやな」


 これは完全に同意した。なんせ市山は分かりやすく秋人秋人〜って感じなのだ。市山狙いの男もいるにはいるけど多分付け入る隙はない。でも幼なじみならそんなこともあるんじゃねーのの範疇かなと思わんでもない。


「影山さんも多分そうなんだよな」

「ほう」

「で、秋人じゃん? あいつは()()だろ」

()()、ねぇ」


 神坂の言いたいことは分かる。要は秋人が煮え切らないのが嫌なのだろう。幼なじみで居続けたいと突っぱねるでもなく、市山か影山のどちらかが好きだと宣言するでもない。二人とも好きだ! っていうならそれはそれで潔いけどそういうのもないのだ。気付いてないのだとしたら少女漫画よか異世界転生の主人公だよな。「え? なにか言った?」ってやつ。秋人なら勇者召喚されても見栄えが良さそうだな。


「ああこいつら秋人のこと好きなんだなぁ、と思いながらそれを見ている俺の気持ちを十文字でどうぞ」

「めちゃくちゃ気まずい」

「ぴったりじゃねえか」


 にへら、と笑ってみせた神坂の顔は見慣れたもんだった。イケメン野郎に美人のハーレム状態がムカつく、のかと思ったけどそういう訳ではないらしい。

 神坂は良いやつだ。他人が気づかないような雑用を進んでやってたりするし、誰かの助けに入ることも多い。一緒に出かけたときだって、たとえば電車で席を譲るとかが一番早いのがこいつである。その神坂が断じた一言に俺は衝撃を受けた。おかげで前日に一夜漬けした今日の日本史の内容が飛ぶくらいには。


「俺、市山嫌いなんだわ」

「…………えっ!?」

「驚くことかよ?」

「いや、なんか……神坂がそんなん言うのがびっくりした、っつーか……」

「俺だって好き嫌いくらいあるわ」


 そりゃそうだろうけど、と思ったのを飲み込む。わかってたはずなのになんとなく神坂はそういうこと思わないのかもしれないって頭があったのは否定できない。こいつの人あたりの良さって天然のタラシかと思ってたけどもしかして全部ちゃんと考えてやってる、とかじゃない……よな?


「まあちょっとした愚痴って感じ。ごめんな、忘れていいぜ」

「えー……あ、あのさ神坂、それ溜め込んでない? 俺全然話聞くしさ、気の利いた事は言えないかもしれないけど」

「なんだよ、良い奴かよ」


 ありがとなー、なんて気の抜けた物言いをする神坂を見て心臓がギュッとなる。良い奴はお前だよ。いつも誰かのこと真っ先に助けに行くのも、気まずい空気を切り替えてくれるのも、こっちに気を使わせないギリギリを保ってるのも、全部全部お前が良い奴だからだろ。


 秋人とは仲良いのかもしれないけど、それを差し引いてもいつも一緒じゃね? って思う。これは神坂から寄って行ってるわけじゃないので秋人が神坂にべたべたし過ぎなんだよな。その上、市山と影山もついてくるんだからちょっとどころじゃなく面倒臭い空気の中に居るのかもしれない。


「助けて欲しい時は言うからさ、頼むな、達也」

「お、おう! まかせろ!」


 男から見てもかっこいい男はすげえけど、男から見て可愛い男ってどういうことだよ。俺は付き合うなら海原みなもちゃんみたいな巨乳でカワイイ系の女の子が良くて、断じて同性愛者じゃないっつーの!

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