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作者: 齋藤 薫

私は、自分を欺瞞の中に生きている。物心ついた時から、ネットでも現実でも顔のことばかりが話題に上がって、友達と一緒にいる時も「推し誰なの?」とか、「あの人かっこいいよね!」など、見た目に関する話題がほとんどで、それでもうまくやっていかないといけないから、息苦しいのを我慢して、「たしかに〜」など当たり障りのない返事をしてやり過ごしている。

中学生の時に発症した〈醜形恐怖症〉に悩まされ、今では前よりもマシになってきたが、やはり自分の顔が気になり、どこへ行くにも鏡は必須だし、高校からでメイクが許可されていたので、メイク道具もかかさず、さらにはマスクを着用していないと外の世界で歩けない。どうしてそうなってしまったんだろうと、いつも寝る前に深く絶望し、トラウマを思い出し続ける。

「お前、寝てんの?ちゃんと目開けろよ」

「なんだよその髪型、ちゃんと整えてこいよ」

こんなもの、今思えばたかが知れている。ただ、中学時代に同級生から投げられたそのような心無い言葉たちは、精神的に未熟な私を壊すには十分すぎる言葉たちだった。

大学生の時は、幸か不幸か、未曾有の世界的なウイルスでほぼ大学に通学することなく、全ての授業がオンラインで実施されるため、人と会うことが少なく、快適だった。もともと、人と関わること自体に意味や興味を見出せず、苦痛を感じていた中で跋扈する誹謗中傷。それに加えて、自宅で生活することを余儀なくされた毎日は私をどんどん後ろ向きに、自分の世界に閉じこもることを促した。

 そんな私であったが、彼氏がいた。初めての一人暮らしや、苦痛な友人関係、そんな毎日に疲れ、自分の癒しを求めた結果だが、〈マッチング〉アプリを使って、その人とは出会った。

「みんな、どうやって今の彼氏と出会ったの?」

「いやさ、まじでバイトもやってないし出会いないんだけどさ、まぁだからこそっていうか×××っていうマッチングアプリはじめてさ、そしたら多分男の方も出会いないんじゃないかな。結構いい人多くてさ、正直普通に生きてたら今の彼氏であってないんだろうなぁってくらいの掘り出し物で、やってみなよ。顔可愛いから大丈夫だよ!」

そう友人に聞かされ、結局私も〈マッチング〉アプリを始めることとなった。

始めてすぐからたくさんの反応【いいね】があり、その中から毎日いいなと思った人と連絡を取るようになっていた。

アプリでの会話を経て、今の彼氏初めて対面で会ったのはアプリを始めて二週間ほど経過した後のこと。

「こんにちは、よろしくお願いします。僕、こういうので会ったこととないし、あまり女性慣れもしてないですが、頑張ってエスコートするので!」

「こんにちは、こちらこそです…」

最初は全く期待してなかったと思う。今まで彼氏もできたことがなかったし、というかアプリを使って会うことに嫌悪感すら抱いていたし。

「あなたの真面目なところとか、一生懸命悩みにむき合いながら、それでも強く生きようとする人間性が好きです。付き合ってください。」

交際までは、トントン拍子ですぐに私は初めて男性と付き合った。多分、告白の時に容姿のことを言われたりしていたら、断ってはいたと思う。しかし実際そんなことはなく、また断る理由もなかったので、交際することにした。それからは毎日がとても幸せだったと思う。


そんな初恋のことを思い出しながら、アラサーを目前にした私は〈屋上〉に立っていた。その時の彼は、バイクの運転中に、相手の不注意で車にはねられ、この世を去った。私は彼のことをまだ愛している。容姿や造形に左右されずに人を判断し、私を愛してくれた。

私も今から、行くね。

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