第3話 第1次医療崩壊
『第1話 武漢肺炎(Wuhan pneumonia)』『第2話 武漢症候群(Wuhan syndrome)患者の取り押さえ方』を投稿した後に、『プロローグ 道頓堀のオバタリアン』を投稿しています。
よろしければご笑覧ください。
「ワクチン打つくらいなら辞めます」
「……そうだよねえ。一応、私も立場上伝えただけだから。そこはわかるよね。じゃ、仕事に戻ってください」
「はい。失礼します」と、宿直明けの看護婦は出て行った。
6階東にある消化器内科病棟の看護師長は、人手も時間も足りない状況でのCOVID-19ワクチン接種に関する個別面談にうんざりしていた。
2年前の2021年、医療従事者へのファーザー(Father Inc.)のmRNAワクチン接種が2月に、大規模・職域接種会場でのマミー(Mommy,Inc.)のmRNAワクチンが5月から始まった歓迎ムードとは雲泥の差があった。
「来年はここの病棟も医療崩壊するかもね」と、師長は独りごちた。
2023年12月に入る頃になると、日本国内でもmRNAワクチンに対して厳しい目が向けられていた。COVID-19とCOVID-19のmRNAワクチンに関して、日本の政府・メディアへの信用と信頼はもうない。
2020年春、人に噛みつく武漢症候群がWHOから発表されると、世界中の医療現場ではパニックが起こった。地域差はあるが武漢症候群患者に噛まれると、1.1~9.2%の間で感染することがわかったからだ。
武漢症候群の患者に死亡したケースはなく、隔離しなければならない患者の人数だけが増え続けていた。回復したケースはまだ1例も報告されておらず、COVID-19患者に武漢症候群患者の占める割合も地域によって、0.02~0.4%と大きな差があった。
ワクチンが存在しなかった2020年、1.6-6%という高い致死率のCOVID-19に、武漢症候群の全容が明らかになると、それはCOVID-19と武漢症候群の感染率の高い地域で、第1次医療崩壊を引き起こす引き金になる。
病院や診療所、老人ホームなどから診療・ケア業務の従事者が逃げ出したのだ。
2020年9月4日、世界初のCOVID-19ワクチンであるズヴィズダーV(Zvezda V)のロシアでの発表を皮切りに、ウイルスベクター・mRNA・組換えタンパク質・不活化(従来型)ワクチンの発表が続いた。2021年から日本でも、ファーザーとマミーの2種類のmRNAワクチン接種が始まった。