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軍神の娘  作者: 雨宮玲音
第弐章 上洛
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第35話 景勝③

 何度か景勝の言葉の意味や景勝が考えていることを考えた。けど、それでもわたしの結論は変わらなかった。


「それでも、わたしは聞きたい」


「へ?」


 わたしの言葉が意外だったのか、そう言ってくるとは思わなかったのか、景勝はその瞳を大きく見開いた。


「わたしだって武家の子。命を懸けてまでも上杉を守りたいと覚悟を持って願うことは悪いことなの?」


「それは……」


「わたしも不安なの。景勝が死ぬんじゃないのかって。……でも、もし、景勝に何か考えがあるなら無理には聞かない。わたしは景勝の意思を尊重するし、無理にわたしの考えを押し付ける気はない」


 景勝が言っても言わなくてもわたしはどちらにしろ御館の乱回避に動かなければならない。わたしたちだけでなく他の人たちも守るために。


「……」


「……」


 沈黙は金なりなどというけれど、やはり静かだと辛い。何を話せば景勝がどうしてくれるのかよくわからない。そもそも景勝の表情は

元々無表情で、なにを考えているのかはっきりとわかるわけてもない。それでも、わたしは決して景勝から目を離さず、彼が口を開くのを待ち続けた。しばらく待ち続けていると景勝の目がゆっくりと閉じる。そして、またゆっくりと開いて口を開いた。いよいよかとわたしは身を構えた。


「わかった。虎の覚悟、しかと受け取った。ぼくの話に乗ってくれるか?」


 すごく真剣そうな眼差しで、冗談抜きで殺されるんじゃないかってくらい怖い。それでやると決めたのは自分だ。


「……わかった。聞かせて。景勝」


 景勝は近くに寄るように手招きしたので、わたしは遠慮なく近くに座ることにした。


「それで、何があるの?」


「虎、この間の三の丸での出来事は覚えているか?」


「うん。義兄上と景勝が険悪だったやつでしょ?」


「険悪……。まあ、そうだな」


 険悪だったのは言葉通りだろうけれど、なんとなく気まずいのか景勝はわたしの頭をなでてきた。


「あれ、実は一つの策なんだ」


「策?」


 策、それはつまり……そういうことだ。


「ああ。あえて険悪に見せる。そして、動き出した不穏分子をつぶす。それが策だ」


「その策は少し危険だね」


「ああ。ぼくもこの作戦を最初に聞いた時、そう感じた。だが、やり方は荒いが、合理的だとは思う。実際に何人か不穏分子に目印をつけることはできた」


 その不穏分子は何かしらの方法で粛清するのだろう。わたしのため、ひいては未来のわたしのためだとわかっているが、やり方が荒っぽすぎて不安だ。


「それでその話は義兄上にしたの?」


「うん。義兄上も危険だとは言ってたけど、全面的に協力的だったよ」


「そっか……」


 義兄上がそれでいいっていうのならいいけど……。そういえば、今まで聞いてこなかったけど景勝は義兄上のこと、どう思ってるんだろ……。こんな作戦を打ち出すぐらいだし、本当に険悪ってわけではないよね?この際出し聞いてみようかな。


「そういえば、景勝は義兄上のことをどう思っているの?」


「どう、って?」


「ほら、義兄上がこの城に来て大分経つじゃん? 景勝的には義兄上への印象とかってどうなのかなって……」


 御館の乱の原因の一つに景勝、景虎の不仲説というのがあると昔どこかの記事で見たような気もするが、本当なのか。わたしが見える限りでいうと可もなく不可もなくという感じだ。わたしは不仲説を取り除くためによく景勝を連れて三の丸に訪れていたが、そこまで目立った会話はなかったような気もする。仲が悪いわけでもないんだろうけど、そこまで仲良くするほどの仲でもないのかもしれない。


「ふむ、義兄上、か……。姉上をとても大切にしてくれる方かな?」


「そ、そうなんだ……」


 予想通りの回答だったけどなんだか残念だ。もっと仲良くしてもいいと思うのに。でも、景勝は基本無口無表情の堅物だから仲良くしにくいのかもしれない。


 いや、しかしあの義兄上に限ってそんなことあるのかな?そもそも景勝は自分の舅(上杉謙信)の娘の許嫁で、上杉家跡継ぎ第一候補なのだ。仲良くしないメリットが思い浮かばない。仮にその権力のために媚びを売らないにしても、景勝は景虎からしたら義理だが、弟にあたる。仲良くしない理由が思い当たらない。義兄上がまだ上杉家に馴染んでいなくて、仲良くできていないのか、もしくは景勝があえて仲良くしていないとか……?


 そんなわけないか。考えすぎか。


「ともかく、その策を実行するためにはしばらくの間景勝は義兄上に会いに行かないほうがいいかな?」


「ああ。非常に申し訳ないが、三の丸へ訪問するのはできなくなる」


「そっか……」


「でも、安心しろ。虎のお付きの者には必ず与六を同行させる」


「う、うん……」


 それはともかく、せっかく義兄上と景勝の二人で仲良くさせようと思ったけど、それも難しくなるのか。むしろこの作戦中は逆に景勝と景虎の距離は近くなるのかもしれない。そう願うことしかできない。


「それじゃあ、その作戦中はわたしは何も知らないふりをしていたほうがいいかな?」


「ああ。そのほうが助かるな」


「……わかった。そうしておくね」


 知っておく必要のないことを知ってしまったけど、もう後戻りはできないしいたし方がない。


……もう少し早く生まれてたら協力できてたのかもしれないのに。

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