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軍神の娘  作者: 雨宮玲音
第壱章 越相同盟
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第1話 義信事件

 天文23年(1554年)に駿河今川氏、甲斐武田氏、相模北条氏との間で甲相駿三国同盟が結ばれた。今川義元の娘の(まん)*を武田信玄の嫡男の義信に、武田信玄の娘の小梅こうめ*を北条氏康の嫡男の氏政に、そして北条氏康の娘の春*を今川義元の嫡男、今川氏真に嫁がせた政略結婚を基盤とした軍事同盟であった。


 しかし、永禄3年(1560年)5月19日に桶狭間の戦いにて今川義元が織田信長により討ち取られるとこの三国同盟に動揺が生じた。その動揺は国外だけでなく国内にも生じた。後を継いだ今川氏真には父親である義元ほどの力はなく、翌年に今川家の人質であった松平元康が離反。永禄6年(1563年)に遠江国で「遠州忩劇」と呼ばれる国衆の反乱が起こる。今川家は東海道の覇権を急速に失っていった。


 一方武田家では永禄8年(1565年)9月に信玄の四男、勝頼の正室に織田信長の養女のしょう*を迎え入れて甲尾同盟を結んだ。それに加えて同年の10月に今川氏真の妹の万を嫁に迎え入れていた嫡男の武田義信が信玄暗殺を企てたことにより甲府の東光寺に幽閉し、廃嫡。正室である万とは強制的に離縁された。これにより甲駿同盟は実質消滅したと言え、これらの出来事は甲相駿三国同盟にヒビを入れることになる。


 永禄10年(1567年)ー


「義信さま、まいりましたわ」


「その声は万か。全く。お前と言うやつは廃嫡された上に離縁されたというのにこのような場所に来るなんて」


 東光寺で幽閉された義信には大大名の元嫡男とは思えないくらい貧しい衣食を強いられていた。そのためやせ細って視力も悪くなっていたため自身の妻の存在を確認するには声で聞き分けるしかなかった。


 一方の万は離縁はされたものの実家である今川家に戻されていなかったため頻繁に夫の義信の幽閉先である東光寺に来ては何かしらの食べ物を持ってきていた。


「夫がどのような状態になっても支えるというのが妻の役目に存じます」


「万……もっとこちらに寄ってはくれぬか?」


「はい……」


 夫婦仲は良好で娘を1人生まれていた。


その*もお屋敷で待っております。ですから、あなたも気を強く持ってください」


「ああ。元々そのつもりだ。万や園のためにもそれがしは父上いや、武田信玄を討つためにも頑張るからな」


「まあ、剛毅なことですわね。それなら園も安心ですわね」


 お互い目を合わせると笑いあった。この時だけ時間が止まったかのようにゆったりと時間が動いていた。


 暖かく空気に包まれていたのもつかの間、義信は同年の10月に自害*。翌月の11月に万はまだ幼い娘の園を連れて実家の今川家に帰された。


「兄上、ただいま戻りましたわ」


「おー万か。大きくなったな!」


「わたしはもう幼き頃のように頭を撫でられて喜ぶような歳ではございませぬわ」


「そのようなことを言っても我が妹はいつでも可愛いものよ!」


 夫を亡くした上にすぐに実家に帰らされた万には兄の氏真に挨拶する気すら失せていたが一応礼儀というものがあるため鬱々とした心を抱えながら娘の園と共に氏真に挨拶をした。


「その隣のが万の娘の園か。近こう寄れ園よ。我がそなたの母親の兄の氏真であるぞ」


 指名された園はものすごく嫌な顔をした。まだ年端の行かぬ園とて万と似た感情だったのだから。


「氏真様、万姫様も園姫様も疲れているのですよ。少しはお休みにさせては?」


「そうであったな。ご苦労だった。春、部屋に案内しろ」


「はい。かしこまりました」


 春*は北条氏康の娘で甲相駿三国同盟の際に政略結婚のために今川氏真の正室となった。たまたま一緒にいた春は二人の心情を読み取って気を使った。


 万が実家に戻って間もなく今川家を揺るがす出来事が再び起ころうとしてた。

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