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軍神の娘  作者: 雨宮玲音
第壱章 越相同盟
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第13話 手習い後編

「藤九郎、こんなもん?」


「いえ、もう少し背筋を伸ばしてください!」


「うう……手厳しい……」


 ここ藤九郎という男、生真面目で信頼はできるが、自分にも他人にも厳しい。わたしが主だったりまだ数えで4つの子供だと言うのになかなか手を抜かない。でも、そこが彼のいい点だとわたしは思う。誰であろうと手を抜かない彼なら正直信用ができた。


「虎姫様、頑張ってください!」


「それがしたちも参加しますから!」


「与六、千代丸、優しい……」


 千代丸も与六もわたしを見かねてか良く一緒に素振りに参加してくれるようになった。2人もしっかりと成長していてそれぞれ数えで6歳、10歳となっていた。2人は現代で考えればまだ小学生だと言うのに逞しくイケメンに育っていた。流石歴史に名を残す名将達だ。ただ、この2人もわたしに容赦ないって言うのは悩みどころだけど。


「ほら。虎姫様も声をしっかりと出してくだされ!」


「はっ、はい! セイッ! ヤアッ!」


 藤九郎の教え方は厳しいとはいえ楽しいことには間違えなかった。他にも姫様として学ばなければならないことが沢山ある。けど、姫様は普段奥に引きこもってばっかだったりあまり体を動かさなかったりする。そうなるとかなり体は気だるくなるのでこの時間は結構遊びの時間だと考えても良かった。正直に言おう。体を動かした方が楽しい。これは間違いなかった。


「そろそろ休憩に致しましょうか」


 四刻半ほど経った時に藤九郎にそう声をかけられた。一見手厳しいように見える藤九郎だが休憩も高頻度に挟んでくれた。男と女の体力の差は歴然だ。そこまで考慮してくれる藤九郎……マジ神!


「はーい! 与六と千代丸も休すも?」


「そうですね。ほら。千代丸もまだやってないで休むぞ」


「えーそれがしはもう少しやっておきたいのですが……」


 千代丸も与六もわたしと同じく藤九郎に教えて貰っているが2人ともとても一生懸命だ。


「んーそうだな……与六と千代丸が勝負して千代丸が勝ったらいいよ! ……いいかな? 与六に千代丸」


「それがしは勝てるので構いませんが……」


「与六! それだとそれがしが弱々しいみたいでは無いか!」


「当たり前でしょう。千代丸がそれがしと勝負して勝ったことはあったか?」


「ぐぬぬ……」


「コラコラ。与六。人を変に煽るのダメって言ったでしょ? あと喧嘩はダメだからね。喧嘩はこの後の勝負でぶつける。いいね? 藤九郎、審判頼める?」


 与六の煽り口調が暴走する前にわたしは止めた。与六は後に石田三成と気が合うからなのか言ってることがすごく人のムカつくポイントを突っついてくる。これが導火線となって関ヶ原の戦いの時の石田三成達みたいにならないように気をつけなければならないけど。まあ、2人ともイメージするようなそんな険悪な感じでもないが。


「かしこまりました。与六、千代丸。位置につけ。……いいな? 初めッ!」


 藤九郎の合図で千代丸と与六は睨み合いながら隙を見極めた。


 一方わたしは縁側にゆっくり座った。正直2人の勝負は日常茶判事だ。


「2人とも励んでおりますね」


「あら、お船。来てたのね!」


 この子はお船。わたしの専属侍女となっていた。まだ彼女は数えで13だが、その父親の景綱から「是非我が娘も」と言ってつけて貰えたのだ。わたしは正直ほかの家臣が騒がしくなりそうだから断ろうと思ったらそうでもなく今のところ小姓の時みたいなしつこい文は一通も来ていない。与六と藤九郎曰く文武両道で上杉四天王の上に父上からの信頼もある景綱の娘と婿養子が雇われたのは当たり前だと家中に知らしめられたことでほかの家臣たちもわたしに文を出すのは躊躇したそうだ。さらに武名を知らしめて出世さえすれば雇ってもらえるのでは?と逆に家臣たちはやる気になって家臣たちのまとまりも良くなったそうだ。父上が手こずっていた揚北衆も大人しくなったそうだ。


 非常に短絡的でチョロいと思う一方これが後の歴史にどう影響するのやらと思うようになった。


「ええ。冷えたお茶とお茶菓子はいかがですか? ちょうど5つあるのですが……」


「食べる! お船も食べるの?」


「いいんですか?」


「もちろん! ……あ、もう勝負がついたみたいだね」


 お船と話している間に勝負がついたようだ。勝ったのは……


「千代丸殿が勝ったようですね」


「おーとうとう勝てたのか」


 子供というのは成長スピードがかなり早い。与六に普段煽られてるからか煽り耐性がついたようで、たまにほかの家臣らから煽られたり悪口を言われたりしても本人はそこまで気にせず逆に言い負かしたりしているようだということはわたしがこっそり見ていたので知っていた。ちなみにその家臣たちはわたしが父上にお願いして対処してもらったが(その後家臣たちがどうなったかはわたしは知らない)。


「千代丸も与六もお疲れ様」


「あ、虎姫様、とうとうそれがし、与六に勝てましたぞ!」


「くっ……今回のはたまたまだ! 次こそは勝ってやる!」


 与六も千代丸もまだ子供なのか負けず嫌いだ。


「ふふ。千代丸、おめでとう。でも、調子は乗らないで次回も負けないようにね。与六もこれにめげずに次回こそは勝つんだよ」


 2人を励まそうと出たのは矛盾しているような言葉だ。正直石田三成が嫌われたのは優遇され過ぎたと勘違いされたからだとわたしは思っているのでそれを逆手に2人を同時に褒めて励ますことにしている。2人ともわたしがこういうとすごく嬉しそうだ。


「はい。ありがとうございます!」


「次こそは必ず勝つので見ていてくださいね!」


 2人ともいい感じに精進してくれるので悪いことではないだろう。


「それと藤九郎も審判ありがとうね」


「それほどでもありませぬよ」


 もちろん藤九郎を褒めるのも忘れない。


「さてと、お茶菓子とお茶をお船が届けてくれたみたいだし休憩しない? あ、勝負に勝ったらって言ったんだけど、いいかな? 千代丸」


「構いませぬ。せっかく届けてくれたというのにその気持ちも無下にすることはできかねます」


 千代丸がいいと言ったのでお船も一緒に5人でお茶菓子を味わうことにした。


「というかここにお船がいていいのですか? 虎姫様」


「うん。いいよ」


「そうですか。ありがとうございます」


 何だか藤九郎、嬉しそうだ。まあ、一応夫婦になるんだし仲がいいことは良きかな。


「与六、どうかしたんだ? 茶菓子を食う手が止まってるけど。要らないの? 僕が貰ってあげるよ!」


「……あ! いるから! 千代丸、取らないでよ!」


「……そう?ならいいけど」


 与六の様子を見ながら考えた。んー一応与六もお船の後の夫だし、気になるのかな?……あー一応そういうお年頃だしね。


 顔を真っ赤にしながら千代丸からお菓子を奪い返している与六を微笑ましく思いながら軽く笑った。

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