ロマンティックえんぴつ
人気のない静かな廊下を歩き、ガラリと音を立てながら教室の扉を開ける。するとそこには、いつものように九条さんがいた。
微睡みの空気がただよう教室の中で、1人窓辺の席に座っている九条さん。外から差す光が、ちょうど御光ように彼女を照らしている。その眩しさに僕は思わず目を細めた。
いつもと変わらぬ朝の風景。この景色を見るたびに、僕は頑張って早起きをした今朝の自分を褒める。
コロコロコロカラン
コロコロコロカラン
いつもは静かな教室に、今日は何かが転がる音が響く。音の出所を辿れば、それは九条さんの机の上だった。
「おはよう、九条さん」
自分の席に荷物を置きながら、僕は九条さんに声をかける。僕の席は九条さんの隣。特等席だ。
「おはよう、大島くん」
「何してるの?」
コロコロと繰り返しえんぴつを転がしている九条さん。僕は好奇心を抑えきれずそう尋ねた。
「おまじない」
「おまじない?鉛筆を転がすことが?」
「うん」
そう頷いて九条さんはまたえんぴつを転がしている。こ気味よく繰り返されるその動作は不思議と見てしまう魅力がある。一体、何のおまじないなんだろうか。
「何のおまじないなの?」
「んー、ひみつ」
そう言った九条さんはまたえんぴつを転がす。
コロコロコロカラン
コロコロコロカラン
カタッ
ふと、九条さんがえんぴつを転がす手を止めた。九条さんが僕を見る。どきりと心臓が高鳴った。
「ねぇ、大島くん。お願いがあるんだけど」
「な、なに?」
「1限目の国語の教科書、忘れちゃって…見せてもらえない?」
珍しい。九条さんが忘れ物をするなんて。でも、頼ってもらえるのは嬉しかったので僕は素直に頷いた。
「いいよ」
「ありがとう」
1限目。僕は九条さんと机をくっつけて、一緒に教科書を眺めた。いつもより近い距離にいる九条さん。ちょっとドキドキする。
コロコロコロカラン
ふと九条さんが僕の方にえんぴつを転がしてきた。自然とそのえんぴつに目がいく。
ピタッと止まったえんぴつの側面に書かれた文字を見て僕は固まった。
すき
思わず九条さんを見る。僕と目が合うと、九条さんは悪戯が成功した子供のように笑った。
僕は急いでえんぴつを手に取ると反対側の側面に文字を書き足す。そして、九条さんの元へ転がした。
ぼくも