ロストメモリア(2)③
日の沈みかけ、後ろの席に無意識に目をやる。あの日から凪沙が飽きもせずほぼ毎日誘っていたが、二ヶ月が過ぎた頃から姿を見せない日が不規則的に訪れていた。
単なる体調不良か、最初はそう思っていた。しかしここ最近、この数週間、俺の下校はこれまでに戻っていた。
彼女の欠席が続いて三週間が経ったある日、何の因果か、クラス全体のじゃんけんで最後まで負けた俺が授業プリントや宿題を届けに彼女の家に出向くことになった。こんなことは教師がやるものではないかと苦言を呈したが、「忙しい」のたった一言で門前払いされてしまった。便利な言葉だ。
「凪咲、いるか?」
住所すら教えてくれなかったが、初めて一緒に帰ったあの日の記憶を頼りに住宅街を歩き、「舞原」と刻まれた表札が掛けられた家のインターホンを鳴らす。彼女どころか、家の人すら扉を開けてくれないことに疑問を抱きながら、回れ右をして別の「舞原」を探そうとしたところで
「あ……伊黎」
この家の二階にあるベランダから身を乗り出して見下ろしていた凪咲の声が俺の名を呼んだ。
「入ってもいいか」
「うん、入って、鍵、開いてるから」
いくら夕方でも不用心にも程があるなんて呆れながらも勝手に玄関の扉を開けて家に上がる。
玄関の正面にある階段の踊り場で、元気そうな凪咲が切羽詰まった表情で急かすように手招きをする。不思議に思いながら端に映るリビングルームへ意識を向けると、床に一升瓶を散らかしながら、ソファの上で凪咲の父親であろう人物がテレビをつけっぱなしにしながら大きないびきをかきながら眠っていた。
あまり音を立てずに階段を上り、凪咲の部屋へと上がる。扉を閉めたところで彼女がホッと一息こぼし、自分のベッドの上にボスッと音を立てて脱力しながら座り込んだ。
「ごめん、伊黎、お菓子も何も出せなくて」
くつろぐつもりはなく、さっさと要件を済ませようとファイルを取り出したところで凪咲がベッドの上で見下ろしながら申し訳なさそうに言う。
「いや、いいよ、すぐ帰るし。はいこれ、休んでた分の宿題」
「あ……ありがとう」
「それじゃ」
「ま、待って」
重いカバンを背負い、用事が済んだから出て行こうとしたところで制服の袖を掴まれて止められる。振り向くと、入学当初に見せた虚ろな目とはまた違った、弱りきった目をした彼女が寂しげにしがみついていた。
「お願い、もう少しだけ居て」
「俺だって宿題が」
「ここでやっていいから」
どうせ家に帰ったところで誰もいないのだから、多少帰宅が遅くなっても問題ないだろうと鞄を下ろしてファイルの中から出された課題を丸テーブルの上に広げる。俺の分を広げるだけで半分以上が埋め尽くされてしまったが、彼女は嫌な顔を一つもせず、クリップで止められたプリントをベッドの上に投げ捨ててから今度は俺の正面に座った。
「凪咲はやらないのか?」
渡された紙束に目もくれず、課題を取り組む俺を凝視する彼女に痺れを切らしてそう尋ねてみた。
「意味ないから」
「そうか」
きっと、明日も来ないのだろう。単に面倒くさがるだけな彼女の一言が俺を寂しくさせる。まだ学校に来ては俺と下校していた凪咲は入学当初からは考えられないほどに生き生きとしていたが、今では生気がまるで感じられず、疲労困憊に陥っているように見える。
「俺、これ終わったら帰るから」
「うん」
ゆっくりと進む秒針、ゆったりとした静かな呼吸だけがこの部屋に響かせる音。凪咲はそれから何かを話そうとはせず、こちらをじっと見つめている。
「なぁ、凪咲」
「何?」
「どうしてそんなに俺を眺めてるんだ」
「生きてるなぁって思って」
「時々意味わかんないこと言うよな」
「……わかんないか」
以前に凪咲は俺がすぐ死ぬなどと悲壮感漂わせて言っていたが、今度は俺が生きていることをほのかに艶めかしくつぶやく。
「私が学校行ってない日はね、君が死んでない日なんだよ」
「はぁ?」
「実はね、ちゃんと学校には行ってるんだ。君や学校の人達がみんな覚えていないだけ」
「何言ってるんだ……?ここ数週間、毎日来てなかったじゃないか」
「嘘はついてないよ……本当に毎日行ってた……君を死なせないために」
「あぁ、わかった。からかってるんだな」
「違うよ」
「俺がすぐ死ぬとか、生きてるとか訳わかんないことばっかり、まだ能力が発現してない俺を、お前も裏では笑ってんだろ!」
「違うって!本当のことなの!」
「お前言ったよな……灯織の代わりになるって……俺の傍に居てくれない癖に、よくもそんなことが言えたよな!」
「待って伊黎!帰らないで!お願い!話だけでも聞いてよ!お願い……お願いだから……信じてよ……」
その日の夜、普段なら寝付けるはずの時間に目が冴えてしまっていた。夕方の凪咲とのやり取りが延々とリピート再生され、苛立たしくも、罪悪感に蝕まれる。頭に血が上っていたなんて言い訳に出来ない。俺は一体、何様のつもりだったのだろうか。
「許してくれねぇよな……」
どんなに謝ったって許してくれないだろう。凪咲の気持ちを踏みにじってしまったのだから。そんな自分への怒りを鎮めるべく、真夜中に月明かりと街灯が照らす中を宛もなく散歩する。近くに公園などなく、気づけば毎日のように通っている神社の前に立っていた。そしてその本殿前の石段には、膝を抱えて顔を伏せて座っている凪咲がたった一人、こんな真夜中に部屋着姿でうずくまっていた。
「凪咲?」
あまり顔の見えない暗がりの中、恐る恐る呼んでみると、声に気づいたのか、驚いたかのように反射的に顔を上げ、立ち上がってはその場で気まずそうに目を逸らす。石畳を歩き、石段の上に立つ彼女の前で歩を止める。近づいてもなお彼女はこちらを見てくれはしなかった。
「凪咲……その」
「ごめん、伊黎」
「え……?」
「分かってたんだ。私の力について話すと決まってみんなを混乱させてしまう。最初から君に干渉しなければ良かったんだ。だから……ごめん」
「謝るのは俺の方だよ!言い訳にもならないけど……いつの間にか頭に血が上っちゃって、凪咲の話も聞かずに飛び出しちゃって……折角俺と仲良くしてくれてたのに、全部俺が台無しにして……俺の方こそごめん」
柱に張り付く鈴虫の鳴き声と風が優しく吹く音が聞こえてくる中、互いに次の一言を言い出せずにいると、いまだ冷え込む寒さからか、凪咲が小さくくしゃみを一つ。
「良かったら……家来るか?」
彼女は小さくコクりと頷き、手を差し出した。
「寒いから、手、繋いで欲しい」
「……わかった」
これが贖罪になろうとは一切思ってはいない。それでも、彼女の中に開けてしまった隙間を少しでも埋めるべく、小刻みに震えるその手を温めるように、包み込むように握りしめる。
家に帰るまで、会話のようなものは一切なく、ただお互いが離れないように手を繋いで歩くだけ。凪咲を家にあげる頃には夜もさらに更け、真夜中につける電気が一層眩しく感じられた。
「その……本当にごめん」
「……うん」
それからまたしばらく会話が途切れる。かと言って何か切り出せる話題もなく、このまま彼女をここに泊めてしまっても問題ないだろかと考えていたところだった。
「凪咲」
「なに?」
「どうしてあの神社に?」
あまり聞かれたくないことを聞いてしまったのか、バツの悪そうな表情をしながら俯き、静かに呟いた。
「家出してきた」
「家出?どうして……」
「君が出ていった後、お父さんが起きちゃって……酒瓶を投げつけられたり、体を殴られたりして……」
「俺のせいか……」
「違うの……うちのお父さん、起きたら酒飲んでテレビ見るか、私でストレス発散することしかしないから」
「最低だな」
「うん、伊黎の親は?」
「……さぁ、分からない」
凪咲は「そっか」と哀愁を込めて静寂へと零し、それからまた無言の時間か訪れる。夕方の出来事があってからか、崩れかけていた壁が再び出来上がってしまった。
「ねぇ、伊黎」
そろそろ眠くなってしまった頃、凪咲が唐突に切り出す。
「ん、どうした?」
「しばらくの間、ここに置いてくれないかな」
「しばらくって……二、三日?」
「……一ヶ月くらい」
「いい……けど……」
その間、凪咲の父親はどうなってしまうのかなどと考えてしまった。彼女の家に上がる時、玄関やリビングを見てみると、そこに生活感などまるでなく、ゴミ袋が散乱し、一階全てを父親が占有しているかのように見えた。そこが完全にテリトリーで、外界からの干渉を許さない雰囲気が漂っていた。
「それじゃぁ……寝よ」
「あ、あぁ」
一人用の布団に一つの枕を共有して横になる。遠慮なしにこちらに背を向ける凪咲に緊張しながら、そんな彼女を意識の外にやろうと同じように背を向けるも、普段とは全く違う環境で眠ることに動揺を隠せなかった。
「くっ……はぁ……すぅはぁ……」
夜明け前、今日は休日だから時間に縛られずぐっすり眠るつもりだったが、仕切りのないこの家の中で、か細く、苦しげな声が子鳥のさえずりよりも早く朝を告げた。
重い瞼を擦りながら開き、すぐ隣にあったはずの体温が感じられず、上手く思考が巡らないまま体を起こすと、朧気ではっきりしない視界の中で凪咲が台所に立ち、刃物を持っているのが見えた。しかし、それは、決して調理をしているようではなかった。
「凪咲……?何してるんだ……?」
純粋な疑問から彼女の名を呼ぶと、ピクリと体を跳ね上がらせ、持っていた刃物が床に落ちる。ガシャンと立てた大きな音で脳がようやく覚醒し、落ちた包丁の切っ先がほんの僅かだが、赤く染まっているのが見えた。
「あ……伊黎……おはよう」
凪咲は慌てて捲っていたパジャマを元に戻し、何食わぬ顔で包丁を手に取った。
「泊めてくれたお返しに……朝ごはん作ろうと思って」
わずかにだが、布地に染みた赤い点が、彼女の白い部屋着に目立って映る。初めからプリントされていた柄物のそれではなく、まるでついさっき汚れたもののようだった。腕から指先に滴る赤い雫が、何よりの証拠だった。
「俺、あまり朝ごはん食べないから……」
「ダメだよ、ちゃんと食べないと」
「それより……まだ早いからこっちに来てくれないか」
「え、いや、私もう目が覚めちゃったから……」
凪咲は顔を赤く染めながら露骨に嫌がる。彼女が腕を抑えると、赤いシミが広がり、やがて指先の雫が流れを止めた。
「なら、俺から行く」
布団から立ち上がり、後ずさっていく凪咲を壁際にまで追い詰め、雫が垂れ続ける左腕を掴む。
「痛っ、離してよ」
「そんなに力を入れたつもりはないんだが」
すぐに振り解ける程度の力でしか掴んでいないものの、それでも彼女は痛がっているフリではなく、歯を食いしばり、苦悶の表情を浮かべながらこめかみから頬へ、頬から顎元へ、一筋の汗を流した。
「腕、見せろ」
「だ、ダメ!見ないで!」
とうとう凪咲は、自分の左腕を掴む私の右腕を掴み、両手が塞がれる。苦悶とともに涙を浮かべ、何度も止めるよう懇願する。これは好奇心でもなければ正義の一心でもない、一種の義務感。今ここで叫び声を上げれば赤の他人が助けに飛んでくるだろう。それでも彼女は一向にそうせず、抗う力も徐々に弱まり、崩れ落ちるかのように、彼女の右腕が離れていった。
気の毒だとは思いつつも、赤く染った白い布を捲り、素肌を露わにする。
「凪咲……お前……!」
深浅短長様々な裂傷に大小凄惨な打撲痕、つい最近つけられたであろう傷からは真っ赤な血が滴り落ちようと肌の上をなぞっている。
「我慢……出来なかったの……!何度も君が死ぬのを見て、お父さんには毎日殴られて、お母さんはもうずっと帰ってきてなくて、学校の誰もが相手してくれなくて、誰に助けを求めたらいいのかわからなくて……!」
布の下にあったボロボロな腕を離し、凪咲がその場で崩れ落ちる。当然俺に気の利いた言葉がかけられるはずもなく、そんな自分に、そこまで追い詰めていた凪咲に呆れるほどに怒っていた。
「自分を傷つけてる時だけが一番生きてる感じがして」
「どうしてもっと自分を大切にしないんだよ!」
「だって……誰も私を見てくれないから……もうどうなってもいいかなって」
悲観的になっていたはずだったが、自分のことを諦めては笑っている。彼女の言う「誰も」には俺も含まれているかもしれない。そう思うだけで、怒るには十分すぎた。
「だったら俺がお前のことずっと見てやる。お前が自分を大切にしない分、俺がお前を大切にしてやる。俺が生を実感させてやる。だから……二度と自分を傷つけるんじゃねぇよ!」
気づけば、座り込む彼女は俺の方を見上げ、捲られた左腕に雫がぽたぽたと流れ落ちる。やがてそれは彼女の血液と混ざり、床を汚す。
「意味わかんないよ……!なんで伊黎がそんなこと言えるの!」
「俺と凪咲は友達だからだろ!」
遮られていた雲が晴れ、登った朝日が彼女を照らす。朝露に濡れた彼女の表情は、今まで見た中で一番晴れやかなものをしていた。
「ずるい……卑怯だよ……卑怯者だよ伊黎……!いつもは否定するくせにこういう時は友達だって言ってくれるなんて……ずるい……ずるいよ……!こんな友達……知らない……!」
「初めて話した日に抱きつく友達も、俺は知らないけどな」
「なんのことだか……さっぱりだなぁ……!」
キラリと輝く涙も最後の一滴が流れたところで、消毒液と包帯を取り出して彼女の腕を治療する。血に汚れた服を脱がせ、替えの服はタンスの奥に詰め込まれたシャツを着せる。やはり多めのサイズだったようで、捲らなければ手を出すことが出来なかった。
「……伊黎の匂いがする」
「汗臭いって意味か?」
凪咲は目を伏せて微笑み、首を横に振って応えた。
「違うよ。ちょっとだけ、興奮する」
「変態かよ」
「かもしれない」
互いに気持ちが鎮まり、そんなたわいもない話で、彼女の家出から一度目の朝を迎えた。
「あ、そうだ。伊黎」
普段は取らないはずの朝食を二人で準備している中、ぎこちない手つきで調理を進める彼女が訊く。
「どうした?」
「この前の授業でさ、能力の伝染ってあったよね」
「あぁ、未発現の能力者と非能力者に、発現済みの能力者が血液を与えることで、能力を与える。だったか」
「……君にだったら、いいよ。私の時間遡行の力、分けてあげる」
「いいのか……?」
「必ず同じ力が宿るとは限らないみたいだけど……仲間はずれよりはいいと思って」
凪咲はそう言い、自分の指先を洗っておいた包丁で浅く切り、血を一滴ぷっくりと押し出す。
「はい、舐めて止血して」
「絶対にもうしないでくれよ」
「うん、約束する」
問題点として、感染病が挙げられるが、非能力者が能力者となるためには相応のリスクではある。それでも俺は、彼女が向けた人差し指を口に含み、舌で止血する。
「どう?何か変わったかな」
口を離し、体に特に異変を起こさないことを確認する。信じていたという訳ではないが、僅かな可能性がなくなってしまったことは残念ではあった。
「まぁ、そのうち出てくるだろ、ちゃんと手洗えよっておい!」
「ん?」
淡い期待すら寄せぬまま朝食の準備に再び取り掛かろうと包丁に向かった時、視界の端で凪咲が先程の指を自分で咥えている姿が見えた。
「何やってんだ」
「いや……まだ止血できてなかったみたいだから……あっ、関節キスだね」
「か……からかうんじゃねぇ!」
「あはは、顔真っ赤」
それからというもの、吹きこぼした鍋を見て慌てふためいたり、カッコつけて卵を片手割りして殻の破片を中に落としたり、砂糖と塩を間違えたりと、ハプニングだらけな朝食の準備を終え、この家で初めての、孤独ではない朝食を迎えた。
「「いただきます」」
豆腐とわかめの味噌汁に卵焼き、野菜の皮まで使った野菜炒めに白米と言った、朝から食べるには量が多すぎるような品数を、二人で食べきり、休日を過ごし始める。
「伊黎、あれからどう?何か変わったことは?」
食後に何かをするでもなく、ただ退屈な時間を過ごす中、凪咲は俺の横でくつろぎながら訊いてきた。
「特に何も……それより、ちょっと出かけてくる」
「どこに?」
「あそこの神社、お参りしてくる」
「わかった」
どうやら彼女は留守番をするようで、俺のタンスの中を漁りながら手を振る。横になった状態から起き上がると、普段とは違う体の動きに違和感を覚え、体勢を戻してから再び同じ行動をとった。やはり何かが違う。まるで、自分の見ている世界が早送りされたかのよう。
「どうしたの?」
「いや…なんか、周りの動きが早く見えるような気がして」
「ちょっと動いてみてよ」
凪咲に言われるがまま、手足をふり回したり、その場でくるくると一回転してみせる。やはり普段より景色が早変わりし、目がおかしくなってしまったのかと疑ってしまう程だった。だが、彼女は微笑みを向けていた。
「おめでとう伊黎、どうやら目覚めたみたいだよ」
「は?え?」
「君の能力は、身体速度の変化っぽいよ」
「なんだか地味だな」
「もしかしたらまだほかにも出来るかもしれないね……これ持って力を入れてみて」
そう言って凪咲が渡してきたのは食後に交換したばかりの包帯、あまり汚れていない部分を触り、指先に力を込めると、使用済みで血に汚れていた包帯がまるで新品のように、真っ白いものへと戻っていた。
「物体の時間を早くしたり戻したりする力なのかな…」
「ということはだ」
これまた彼女の左腕を掴み、先程と同様に力を込める。もしも凪咲の仮説が正しければ、彼女の傷をなかったことにするか、治すことだって出来るはずだった。
「すごい……」
彼女の包帯越しに手を置き、しばらくして包帯を外してみると、今朝あったはずの血の跡や傷口、痣までもが全て消え、綺麗な透明感のある肌が露になった。
「これでまた一つ、恩ができてしまったな……」
「そんな大袈裟な、ん?またって?」
「何度も俺の命、救ってくれたんだろ?」
「信じて……くれるんだ……!」
「やめろ泣くなって、抱きつくな!あぁもう!」
どんなに拒んでも彼女は聞く耳を一切持たず、神社へ出向くことを許さないように強く抱きついては猫が自分の匂いをつけるかのように俺の体に頬擦りをする。そんな動物的な行動が灯織を脳裏に浮かべさせ、彼女が甘える時にしていることを、そのまま凪咲に……この愛らしい猫を抱き寄せ、背中と頭を優しく撫で始めた。