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Unleashed Antiquer  作者: 圧倒的サザンの不足
王国の章
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白露の城下町

 白く、人の何十倍もの大きさもある壁に入口がぽつんとひとつ、そのたった一つの入口に気の乗らないリヒトと私は番兵の検問の番を待っていた。

「なぁ兄貴、この招待状、どんな奴に配られるか知ってるか?」

 目の前にはまだ百人近くもの待機列が続く中、辛抱たまらなくなったのか、やや疲れと心労を交えて尋ねてきた。招待状は魔王ミーアから渡されたものであるため、考えたことがなかった。

「条件なんてあるのか」

「皮肉なことにな。この招待状を貰うためにはそれなりに名のある家系や高い地位、力や知恵と言った実力を持った者である必要があるんだ。お前んところの名倉家も相当するんだ」

 高い地位を持つものにも与えられる招待状、王になるための招待状は魔王にも与えられるのかと私の中で合点がいった。それと同時に、一族の王にも与えるという懐の深さと言うべきか、侵略すら厭わないと言わんばかりの無秩序さと言うべきか、そんな寛容さに感服させられて身の毛がよだつ。

「リヒトもそれなりに名が通っているのか」

「俺個人がじゃなくて、俺の家系がな……灯篭音って聞けば皆恐れる家柄だ」

 歯を強く噛み、ガリガリと音を立てて俯くその仕草を見ると気の毒に思えてしまう。以前、リヒトが存在(エル)の血族の力を持ったのは名倉家が元凶だと言っていたのも相まって尚更同情してしまう。

「そんなに厳しいところなのか」

「そうでもねぇ、灯篭音家に生まれてなければ楓やナズナさん、アルカルテに会えなかったって思うと……いや、俺もこの列に並んでる奴らみたく普通の家に生まれたかった」

 リヒトはそう言って列の先は後から並んだ人々を品定めしながら言う。つられて私も見てみると、リヒトが言ってた条件に当てはまるような人は、素人目から見ても数えられる程しかいなかった。

「これ全部地位や力のある人達なのかな、途方もないな」

「毎年そうらしいんだが、雇われた奴らが参加者の九割を占めているんだ」

「つまり名のある家系や地位のある人間が招待状を受け取り、金を払って代役を送り込んでるってことなのか」

「招待状に宛名がなかっただろう?それはそういう代役が使われることを見越してのことらしい。俺もこの招待状は親父から受け取ったものだしな」

 傭兵を使うことが正攻法なのか裏技なのかは分からないが、その方法自体に感心して一人一人の体躯や背負った武器を見つめていると、リヒトの真後ろに並んでいた子供に目が止まった。彼の影に隠れて見えていなかったが、その背は私の胸板辺りに頭をつける程で暗いベージュ色の髪をした少女だった。今朝方船で見た少女とは全く別人であった。

「……私に何か用ですか」

 目が合うなり彼女は私に静かな怒りを向けた。背丈が自分より小さく有利に思えてしまったからか、放たれた威圧に身動ぎをして慌てて目を逸らした。斜め十字に背負われていた二丁のライフルや軍服姿に圧倒されてしまったからかもしれない。腰に下げられた複数の拳銃、背中のライフル、一人で扱うには過重すぎるのではなかろうか。思わず口を塞いでしまうほどに畏怖と敬服を抱いていた。

「あの、前進んでいますが」

 そう機械的に彼女に言われて前を向くと、気づけば残り十数人、資格を手にして空いた隙間を歩いて進む。資格がなく無念に帰らされた人達がいれど、多くは門をくぐって壁の向こうへと行ってしまう。一人、また一人と進んでいくと私の番がそう間もなくやってきた。

 何を言われるもなく、何百人も捌いた疲れからかやや見下すかのような態度を番兵から向けられる中、招待状を出すと奥へと通される。直後にリヒトも通され、難なく壁の向こうへと足を踏み入れた。そこは港町とは雰囲気がガラリと変わり、祭りであるにも関わらず静寂に包まれて向こうの騒ぎ声が響いてしまっていた。

 ゴーストタウンを思わせるほどの静けさの中歩いていると、奥の方から金属を響かせる音や興奮の声が耳に入ってくる。不気味なほどの静寂からの人気に足が勝手に走りだし、私達も好奇心から誘われて無意識に向かっていた。そして一つの家屋とは全く別の作りをした建造物を前にして立ち止まる。

『第一グループを生き残ったのは──────!』

 実況らしい声が正面のモニターから発せられ、白露の城であろう建造物をバックにした、城下町を円形で囲む壁を縮小したような作りの闘技場のようなこの建造物の周辺には、港町と比べて賑やかさは劣りながらもモニターを見上げる人々が一喜一憂し、次への期待を膨らませ花を咲かせている。港町の人々は祭りそのものを楽しんでいるようだったが、壁の内側の人々はモニターから映し出される光景を楽しんでいるようだった。

「兄貴、先に謝っておくぜ」

 入口らしきところで役員が私たちの到着を待ち続ける中、リヒトが芯の通った野太い声で言った。

「俺はここの王にならないと生きて行けねぇ理由がある。もしも兄貴と当たろうとも、手加減するつもりは一切ねぇ、むしろ殺すつもりで兄貴にこの槍を向ける」

「血族の力も使うつもりなのか」

「兄貴と別れてから今日までの数ヶ月、復讐することばかり考えていたんだ。王になって復讐する。兄貴に恨みはねぇが、出し惜しみはしねぇ」

 これまでの能天気そうで陽気な彼からは一切思い浮かばない程の根強い覚悟に奮い立たされ、私も体に確かな力が入る。

「私も王になるためにここに来たんだ。リヒトには悪いけど、踏み台になってもらう!」

「はっ!これでお互い恨みっこなしってことだ」

 死合いの契りを交わし、闘技場で再開しないことを願って招待状を役員に渡す。役員は私とリヒトの分それぞれを受け取ると、番号が書かれた紙を交換として渡して来る。私のは四、リヒトは五と書かれていた。

 リヒトは同番でないことにやや残念がっていたが、それは口だけで、どこか安心したような穏やかな寂しさを浮かべながら一人先に闘技場へと入っていった。そんな背中を静かに着いていくと、大きく見えていたはずの姿がいつの間にか縮こまって、不安や怯えに蝕まれている気がした。角を曲がっていく姿を最後に、激励に名前を呼ぼうとしたが、覗かせた横顔からは悔しさと喪失感が漂い到底口を出せる気がしなかった。きっと勝ち残ってくれるだろうと、その時は自分に言い聞かせていた。

 案内板にしたがってリヒトとは反対の角を曲がっていくと、本会場から響いてくる爆裂音や屋内にも吹き荒れる豪風に会場が湧き上がる。反射的に耳を塞いでも頭の奥でかち割れそうな程の耳鳴りが響いた。目の前がチカチカと点滅しながらも奥へ奥へと歩みを進めていると、歓声が少し遠く聞こえる気がするところに四とだけ書かれた看板が目に付いた。

 何も考えず扉を開けると、窓のない狭い密室に見るだけで汗をかいてしまう程の暑苦しい人の集まり。鋭く研磨された刃物や改造が施されたように見える道具を持つ筋肉集団が私の前で肉壁として入室を拒んでいた。それでも人の集まり、僅かな隙間に腕や足を入り込ませ、かろうじて呼吸ができる位置に潜り込むことに成功した。それでも入口は手を伸ばせば届くところにあった。

『第二グループを生き残ったのは──────!』

『第三グループを生き残ったのは──────!』

 この狭さに苦言を呈したり、赤の他人同士雑談を交わしたりしている中、興奮気味な実況の声が微かに聞こえ、どの声も気づけば無へと帰って張り詰めた空気が漂い始める。そんな中、私はあの数ヶ月で身についた力が誇りや自信に結びつき、重苦しい緊張の中、私はただ一人微笑んでいた。

「王になるのは、()だ」

 誰へでもなく一人囁いた時、入口が勢いよく開かれ、吐き出されるように歩いてきた廊下へと抵抗虚しく嵐の中の船のように流されていく。ガタイのいい人らにもみくちゃにされながら歩いていくと、閉鎖的だった通路が一気に開け、天から太陽が射し、見下ろす観客からの視線が刺さる円形のステージに私たち第四グループは立っていた。

『来たる第四グループはこれまでと同じく百人!生き残れる猛者は二人!戦々恐々たる戦士は奈落に、狂瀾怒濤たる殺人鬼は背中を刺され、勇猛果敢に攻め生き延びた者は一人としておらず!そんな無法地帯のステージで生き残るのは誰だぁぁ!!』

 闘争を煽り、観客を沸き立たせる実況の声に、私の隣に立つ見知らぬ人も心を燃やす。ふと背中に冷たい風が吹き込んで足元を覗くと、実況が言ってたことは誇張でも何でもない、奥底は真っ暗闇の奈落が作られ、円形に作られた会場で背中を守るはずの壁が穴の向こうへと作られていた。前に進めば戦場、後ろに戻れば奈落の底、来た道はいつの間にか消えてしまい、固唾を飲んでしまう。

 密かに感じていた不穏な予感は、これにあったのかと先程抱くべきだった緊張が私を襲った。それでも背中の大剣を抜き、自分以外の九十九人と戦わなければならない現実に目を向けた。

『選ばれる戦士も残り半分!新国王決定戦、予選第四グループ、開始ぃぃ!!』

次回のUnleashed Antiquer

新しい国王を決める白露の大祭り、その実態は権力者が金をはたいて雇った傭兵たちの殺し合いのステージだった。足を滑らせてしまえば奈落の底、前にばかり気を取られれば後ろから血に濡れた刃。王になるためには、蹴落とし、欺き、殺し、屍の上で笑わなければならなかった。

次回、第四の殺戮

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