反逆者の烙印
立ち上る黒煙、同胞を埋葬する魔族、僅かな復興を目指し奮闘に走る様を人間の私は魔王城の屋上から柵に寄りかかって見下ろしていた。高いところから見物するも、優越感など微塵もなく、あるのは己に対する失望と、目の前に広がる喪失感だけだった。
「人間、こんなところにいたのか」
人間の襲撃によって小さな魔族領が半壊滅してから数日、傷に倒れたミーアは神様の治癒あって一命を取り留め、今はわざとらしく全身に包帯を巻き付けられながら私の横で同じ光景を見下ろした。
「アルプスは今どこに」
「皆を手伝うと言って聞かぬからな、貴様の神を見張りに部屋に縛り付けてやった」
「神様をか……」
お気楽な監視役に思わず頬が緩み、このような焼け跡を前にため息混じりの笑みがこぼれてしまう。ミーアは訳も分からずと言ったような顔で首を傾げ、包帯だらけの体を柵に乗せた。
「人間、貴様にはこの光景、どのように映る」
「どのようにって?」
「圧倒的な力に希望を絶たれたか、それとも、凄惨な出来事に憤慨するか」
「笑うしかない。全く笑えないけど」
「今の魔族は人間を迎え撃つ術を持っていない。戦える魔族は皆、先を行ってしまった……私だけの力では種を根絶させてしまうのだよ」
目を伏せ、頬をつたる一雫がポタリと柵に落ちる。
「私は、魔王失格だ。たった一つの命すらこの手で守れぬなんて、王としてあるべき姿では無い」
「ミーア、目には目を歯には歯を、という人間の言葉がある」
「まさか……貴様」
「人間には人間を相手にすればいい」
ミーアの手が私の肩を掴み、彼女の瞳の奥に私の姿が映るも、すぐに霞んで消えた。力強く掴んでいたその手がするりと垂れ、首を振る。
「お前のような人間は少ない。異種族との関係を根絶する排他派の増勢が衰えを知らん」
「それでも、数少ない共存派を味方につけることが出来れば、僅かでも太刀打ちできるはず」
「……お前のような人間は少ないと言ったな、心当たりがあるのだよ。しかし、私が直々に向かえば混乱を招くことは必至だ」
ミーアは決心をつけたような厳格な面持ちで階段へと足をつける。
「アルプス達を呼んでくる。魔王の間でゆっくり話すとしよう」
魔王の白い頭髪が消えていくと同時に、底知れぬ不安が私を襲う。魂を抜き取られるような、全身がふわりと浮かぶ感覚に胸騒ぎが起こり始める。人間には人間をなどと口にしてしまった自分を恨みつつ、僅かに信頼を置きながらミーアを追いかけた。
縄に縛られ心底不満げなアルプスに、よく言えば自然の香り、悪く言えば泥の臭いを放つエルピスを椅子に座らせ、向かい側に座るミーアは一通の封筒を私に差し出した。差出人は書かれていないが、宛名にはミーアの名前が書かれていた。
「開けてみろ」
既に封が剥がされたそれを開き、二つにおられた中の紙を広げ、両隣の二人や後ろの神様に覗かれながら派手に王冠の絵が書かれたチラシらしき物を軽く眺める。
「以前、白露という国の話はしたな?」
「多文化共生の国、でしたか」
アルプスだけが当時の話が分からずポカンと口を開けながら頭を悩ませる中、エルピスは顎に手を当て考える形を取りながら思い出すかのように答えた。ミーアはほっと一息満足気に頷き、まっすぐとチラシの向こうの私を見つめていた。
「実は人間と魔族間の関係が悪化した後も白露とだけは国交が続いていてな、友好……とまでは行かないが、中立を保ってもらっている。それはその縁だ」
ミーアはやや陰鬱にため息をつきながら顎で指す。
封筒に入っていたこの紙には、毎年恒例となっているお祭りの宣伝が載せられ、この紙自体がそのお祭りの招待状となっていた。
「毎年毎年私宛に送られて来てな……魔王である私がここを離れるわけが無かろうに」
「じゃぁなんでこれをお兄に渡したの?」
「宛名は私になっているが、その紙は宛名のない招待状なのだよ。つまり、私がお前の兄に託せば、こいつはその祭りに出られるのだ」
「ふぅん」
「ミーアの言っていた心当たりって」
「あぁ、白露は多文化共生の国、故に法は他国から逸脱している。王が統治する国なのだが、その王の決め方がその祭りなのだ」
「腕っ節の強い人が王様になるってことなんだねー血縁関係とか面倒なことないし、歴代の王を見ていけば世代が分かるからボクは嫌いじゃないよ」
「神様……最悪独裁も有り得るんですよ」
「あっ、そっか……君は少年を独裁者にするつもりなのかい!?」
ずっと私の頭に体を乗せて眺めていた神様は私の手からチラシを奪い取り、そのままテーブルに叩きつけてやや呆れるミーアに剣幕を向ける。
「それは貴様の信者次第だ。こいつに内なる独裁願望があればそうなるだろう……しかし、まだこいつが王になると決まった訳では無い」
「むう、それもそっか……」
「でも、私が出たところで勝てる保証は」
「ならば、私が貴方の稽古をつけて差し上げます!」
騎士団長様からの申し出に一瞬胸が踊るも、翼族の訓練に人間が着いてこれるのかと不安が次々に積もる。
「そうか、貴様は確か団長とか言っていたな。ならば剣の鍛錬は貴様に任せるとして……そうだな、私は」
ミーアはそう言い止めて立ち上がり、先程まで座っていた席に手を触れると、その一点に冷気が集まり、背もたれから足まで瞬時に氷漬けにされ、原型をとどめぬよう破砕された。自慢げな魔王が使った見覚えのある力に空いた口が塞がらず、さらに、砕け落ちた氷の椅子に手を触れて氷漬けにされる前の状態に戻された光景に動揺と興奮が抑えられなかった。
「ミーア……今のって!」
「知らないのか?血を分け与えた者が能力者であれば、その力の一部が同時に分け与えれる。貴様と交した血の盟約により、どうやら私は貴様の一部を手に入れたようだ。尤も、血族の力を得られなかったのが残念でならないがな」
冗談交じりに軽く笑うその姿も、その奥には僅かな野望が垣間見え、手のひらに炎をボッと出して握りつぶす様にはさながら同類意識を芽生えさせた。
「それでは、剣術は私が、能力による特殊戦闘はミーアさんが教えるということで……」
「待て待て!ミーアの今の力は私のが元になっているんだぞ!?どうして私が教わる側なんだ!」
「ほう、貴様はあくまでも自分の方が使いこなせていると豪語するのだな?」
「そうだ!その力は私の力の一部に過ぎないんだ」
趣深く不敵に笑う魔王に、心のどこかで対抗心のような、プライドを踏まれかけている危機感が沸き起こって木製の椅子から勢いよく立ち上がる。
「同盟者となった以上、貴様の力量を知りたいと思っていた所だ。一つ、私と勝負といこう、あくまでこれは遊びだからな、楽しもうではないか!」
体のラインを隠すよう身にまとっていたオーバーサイズのローブの紐を解き、マントのように風になびかせながら、自信に満ちた笑顔と毅然とした姿勢で、足元から吹き荒れる風でテーブルや椅子が彼方へと吹き飛ばした。
余計な障害が一切ない中で、何かを悟ったエルピスが翼を広げ、縄に縛られたままのアルプスを抱えて空へと逃げる。神様も被害を察知したのか、御身を私の中へと隠し、安全地帯から届けられるエールに、気づけば闘志を抱いていた。
「遊びとは言ったが、それでも私は全力を以て貴様にぶつかるつもりだ。死ぬなよ、人間の反逆者!」
「一体誰のせいでこうなったんだか、でも、なんだか悪くない気分だ。むしろ晴れ晴れする。私も本気で臨まないと、死んでしまうな!」
余裕という名の強者の風格を放つ魔王ミーアに、背中の大剣を引き抜き対峙する。
もしも目の前の魔王が絶対悪の存在だったなら、もしも私が魔族絶滅を願う人間だったならば……
私とミーアは、今、笑っていられたのだろうか。
「行くぞミーア!」
「来い、人間!」
「お兄とミーアさんの一発勝負だよ!次回のUnleashed Antiquerは!」
「もう次回予告終わっちゃいましたよ!?なんで一足先に言ってしまうのですか!」
「だってー、次回予告なんてしなくても流れでわかるでしょ?あー、お兄とミーアさんが戦うんだなーって」
「もっとこう、茶番とかあるじゃないですか!」
「ない!」
次回、Unleashed Antiquer 魔王遊戯
「そもそもなんで次回予告で茶番なんてするの?」
「えっ、それは……はっ、最後にまともに次回予告したのって、いつでしたっけ」
「実はエルピスさんの真面目キャラはもうかなり前から崩壊してるんだよね」
「ぬぁあぁああ!!せっかく普通路線に引き戻そうとしたのにぃぃ!!穴があったら入ります!掘って入ります!!止めるなアルプスちゃんー!」
「ここ掘れわんわん!」




