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Unleashed Antiquer  作者: 圧倒的サザンの不足
存在の章
38/47

決別

 全てを操る力を前に、リヒトは自らの武器であるはずの槍を手放して土だらけの地面に手をつく。自信満々に歯を見せるその目は、今のアルプスやELVISのように輝きを見せることはなかった。それでもエルは察したのか、ELVISが向けた刃を恐れず、口から血を流すほどに噛み締め、白銀色の瞳に、灰色の十字の光を灯らせていた。

「ふっ、そうか、お前は気づいたのだな」

「あぁ!!これは……こいつら兄妹には出来ねぇからな!」

 薄らと笑みを浮かべるエルと、土壌に手形を残したリヒトは満足気に立ち上がり、同時に館をかたどっていた瓦礫に向かって走り出した。

「足りるか?」

「んな事知らねぇ!でも、何とかはなる!」

「一体何をしようとしているのか分かりませんが……背中ががら空きですよ!!」

 純白の翼を広げ、空に佇むELVISは遠ざかるように走る二人に向け、横一文字に空を斬る。一見無意味な動きを見せた彼女の前に、その軌道になぞった半月の斬撃が形として現れ、疾風よりも速いそれは、二人の無防備な背中を切り伏せようとその形を大きくさせていった。

「兄貴!死神!悪ぃが時間稼ぎしてくれ!」

「急にそんなこと言われたって!」

「立ち止まっていたらリヒト達が殺される!行くぞアルプス!」

「ちょっ痛っ!」

 迫り来る斬撃と二人の間を阻むように大剣を投げ、地面に突き刺さったところで、力強く手を繋いだアルプスと共に存在消滅させる。

 大鎌を手にした彼女と共に真っ白な空間を走り続け、一際輝く白い光の中へ飛び込むと、二人の胴体を切り離すには十分すぎる程の斬撃を前に、刃を向けて立っていた。

「なっ……!馬鹿なことを……!」

 意表を突かれたと言うよりも、呆気にとられて汗を流す彼女を前に、風をまとった斬撃に切り上げるように剣をぶつける。

 ELVISと目の前で剣を交えているような重い一撃に押され、擦り跡を作りながら僅かに勢いを殺しだす。

「くっ……リヒト!まだか!」

「何言ってんだ!まだ二秒しか経ってねぇよ!無理しろ!!」

「はやくしてよぉ!!」

 斬撃がまとった風が、服を、肌を切り裂いて鮮血を流せる。走る痛みに柄を握る力が弱まるどころか、気を抜けば抜けてしまうほどに強まり、気づけば斬撃の押し出す力と均衡し、ヤケになって押さえつけるアルプスと共に、瓦礫を背に堪えていた。

「全く無意味なことを!貴方達兄妹が無駄に傷つくだけだと言うのに!!」

 ELVISが怒りに顔を濡らし、荒ぶりながら闇雲に空を斬る。その軌道が半月の形をした斬撃となり、全てが小さい形のまま高速で大きな斬撃へと集結する。

「お兄!私達も死んじゃうよ!」

「エルとリヒトが目の前で死ぬより、清々しい死に方じゃないか!」

「でも……まだ、死にたくない!!」

「それも……そうだな!!」

 アルプスの左目が黒く輝きだし、両手に持つ大鎌に、斬撃が纏っている風が吸収されていく。その光景を見る暇もなく、現身鏡と刻字がされた刀身に周囲の空気を吸い込み、斬撃のような風を纏わせる。

「存在繫縛!!」

付与(エンチャント)、逆さ風!」

 足元から小さな風が吸い込まれるように吹き荒れ、大きかった斬撃が少しずつ収縮され、やがて抑えが効かなくなった力が解き放たれるように、一つの斬撃が打ち消され、新たな二つの風刃がELVISを切り裂かんと飛んでいく。

「やった……!でき……た……」

 ひっくり返された状況に眼球が飛び出てしまいそうになるELVISは、その直後に地面に倒れ込んだアルプスを目の当たりにして狼狽えるも、迫り来る二つの風刃を一本のサーベルで抑え込み、存在掌握の下、容易く打ち消す実力を見せた。

「アルプス!!」

「兄貴!こっちは準備できた!あとは俺たちに任せろ!」

 リヒトとエルはアルプスに目もくれず、私たちの横を駆け抜け、ELVISを挟み込む位置で立ち止まる。

「えへへ……ちょっと、疲れちゃったみたい」

 今にも眠ってしまいそうな虚ろな眼で力なく笑う彼女に胸を撫で下ろしながら、視界の端に映る異物に目を向けると、瓦礫があったはずのそこには、木材やガラス、布片全てが灰色の塵となって、人が埋まる程の山を作り出していた。

「少々心もとないが……」

「あれだけありゃ一秒でも生き長らえるだろ!!」

 首を傾げるELVISを睨みながら、二人は塵の山に手を向ける。目を十字に光らせたエルと、変化のないリヒトが向けた山は、重々しく動き出しては宙に浮き、風の流れに沿うことなく岩塊のようにずっしりと硬く形を作り出す。

「合わせろよエル!」

「無論だ!」

 二人は同時に山だった岩塊をエルピスに向けて投げつける。ELVISは溜息を一つつき、塵の岩塊を至近距離で破砕させた。やはりダメだったかと落胆したが、二人は一向に気持ちを沈ませる素振りを見せず、リヒトは左右に、エルは上下に腕を伸ばす。

「む、これでは前が見えませんね」

 塵がかたどっていた岩塊が破砕し、領域内で分散していたものを容易く振り払うと、あの二人以外は目を見張った。

「そう簡単に外に出させるかよ!」

「これで終わりだELVIS!!」

 一瞬にして現れた巨大な灰色の四本の腕、その全てが地面から生え、ELVISの左右上下に手が動き、塵を逃さまいと、ELVISが作り出す透明な球体を隙間なく握り込む。

「そんなことしたって……!?ぐ、ぁ!あああああああ!!!!」

 四本の腕によってELVISの姿が完全に隠れると、偏屈に悪態をついていた彼女の声が一変し、逃げ道を無くした途端に断末魔を上げ始める。思わず耳を塞ぎたくなるような奇声にリヒトとエルは無慈悲にも力で抑えつけていた。

「やめて!!やめてくだ、さい!!あたま!あたまが、割れそうで!痛い、痛い!痛い!!痛い!!!」

 苦痛に叫ぶ声と共に、塵が体内に入って呼吸困難にさせる。その音に胸を締め付けるよりも、肩の荷がスっと消え去り、体が軽くなる。

「もうやめてくれリヒト!エル!エルピスが……死んでしまう!」

 ELVISの絶叫が音を支配する中、届いたのか分からないが、エルの目を輝かせていた十字の光がおもむろに消え去り、小さく萎んでいた球体から巨大な手を離して地面にそっと下ろした。

「あ、あ、たま、いた、いたい……ごめ……なさ……」

「……謝るのは我の方だ」

 喘息になりながら頭を押さえつけ、枯れた声を上げながらうずくまるELVISに、エルはそっと音を立てず歩き出す。灰を被った彼女の黒い髪を手櫛で振り落とし、慈しむように抱き寄せる。

「お前の不幸は我の身勝手だ。お前は偽りの女王になりえず、我が与えた力で嫌悪を抱かれ、翼族(パラスキニア)でありながら人間の元で、本の結末を迎えることもできず暮らし続けてきた……お前は何一つ悪くない、我を憎み殺意を抱くのも至極当然だ」

「な、なら、なぜ、私を、抱きしめて」

「お前が例えどれほど我を恨み、殺そうとしても、それでもお前は我の娘だからだよ。娘をこのように抱き寄せるのは悪いことか?」

「私は……()()()()を一生許しませんよ」

「それでも良い、我は許して欲しいなどと一切思っていないからな」

「……怒らないのですか」

「何を言っている。むしろ我は今のお前を見て嬉しく思っている」

「嬉しく……?何故……」

「お前はもう()()では無いからだ。助け合う仲間を持ち、帰る場所もある。一人で飯を食らい、義務感に苛まれながら生きる日々が終わりを告げたからだ」

「……今回だけ、こうして抱きしめるのを許します……次やろうとしたら、殺しますから」

「ははは、ならば存分に堪能せねばな!最初で最後の抱擁とあらば尚更だ」

「ずっと……会いたかったです……お母さん……」

 これまでの尖った声が丸くなり、和やかな空気が流れたこの荒野に、リヒトが嗚咽を漏らしながら涙を拭っていた。

「悪ぃ、俺、こういうの弱いんだよ……良かったな、姉貴……」

「っと、すまない。騒がせてしまった詫びだ。お前たちが帰る場所へ飛ばしてやろう」

 エルは固く抱きしめてくるELVISを愛撫しながら、私たちやリヒトを見渡しながら言う。その表情はとても穏やかで、初めの厳かな雰囲気など微塵もなく、しかし母親のような表情でもない、艶やかな笑みを浮かべていた。

「ほら、エルピス、帰ろう」

「……あと少しだけこうさせてください」

「アルプスも疲れたみたいだし……」

「なら、帰りましょうか」

「えらい素直になるな……お前の妹はELVISにとって特別な存在なのだな」

 エルは惜しみながらもELVISを手放し、穏やかな笑みを絶やさずに背中を見た。

「……名倉、か……そうか、彼奴らの子供か」

「私たちの親を知ってるのか?」

「あぁ、彼奴らは今どうしている?」

「さぁ、殺されたから分からない」

()()()()

「執行者に殺されたんだから、きっと大罪人だったんだろうな……」

「お前は……この世界を統べる者が正義だと思うか、全て正しいことだと思うか」

「それは一体どういう……」

「彼奴らも、そして我も、世界機関を悪しとする勢力の一部なのだよ」

 楓の言っていた両親の目的、エルの言う反世界機関勢力、もしも執行者によって殺された理由が反勢力だからだとしたら、この星を束ねる最高機関である世界機関は、正常なのだろうか。世界図書館も、歪んでしまっているのだろうか。

「さて、そろそろお前たちを返そう」

「……また、会えますか」

「お前が望むのならいつかは会える」

「なら、一生望まないことにします」

「……そうか、ならさっさと帰りたい場所を頭にうかべるのだ」

 倒れ込んだアルプスを背負い、エルピスと横並びになってミーアの待つ魔王城を頭にうかべる。靄のかかったあの塔のような城を投影すると同時にエルの冷たい手が額に触れ、肌を撫でる冷たい風が、一瞬にして熱を帯びた。

「さて、次はお前たちだな」

「その前にエル、ひとつ聞きてぇことがある」

「……彼奴らの事か?」

「ま、それしかねえよなぁ……エルは……兄貴やその妹のこと、どう見える?」

「あの妹は完全に我の血の力に目覚めた……しかし彼奴はまだ……」

「そうか、エルもそう見えるか……」

「時に、なぜお前はELVISに手加減をした?」

「俺のもう一つの力、知ってて言ってるのか?」

「お前はレゾンデートルを一度手放した。それが不可解でならない」

「……あいつらが悲しんじまうだろ」

「ねぇ、理仁、電話鳴ってる」

「あぁ?こんな時に一体……チッ……何の用だ。……は?んなもん誰が素直に……足枷?……クソが!」

「……やけに荒々しかったな」

「理仁、誰だったの?」

「……アルカルテ、帰るぞ」

「帰るって……いや、嫌だ!!あそこには絶対帰らない!!理仁も嫌でしょ?無視しようよ、ね?どっか遠いところ、行こうよ!」

「俺だって!俺だって帰りたくねぇよ!!なんであのクソ野郎のところに戻らなきゃならねぇんだ!やっとのことで俺たちは自由になったのに!なんで……なんで!どこへ行ってもあいつに縛られなきゃいけねぇんだよ……!!ふざけるな……ふざけるなぁぁ!!」

「……理仁と言ったか……その憤慨は何も無い場所に向けても意味をなさぬ。お前の中でも、何をするべきなのかわかっているはずだ」

「わかった口聞きやがってよ!!」

「我には分からぬ。分からぬがゆえ、背中を押してやることしか出来ない。許して欲しい」

「俺に、どうしろと」

「……レゾンデートルを持て、お前達を帰してやろう」

「すまねぇ、アルカルテ……力強くででも、お前を連れて帰る」

「やめて理仁!痛い!恐い!離して!」

「エル、早く俺たちを飛ばしてくれ、場所は灯篭音園庭た」

「わかった。だがその前に一つ、頭首に伝えておいて欲しい」

「手短にしてくれ」

「ALICEが生まれた」

「おい!それは本当だろうな!?嘘でしたじゃ済まされねぇぞ!!」

「頼んだぞ」

次回、Unleashed Antiquer 新章、王国の章 古都襲撃

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