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Unleashed Antiquer  作者: 圧倒的サザンの不足
存在の章
29/47

夢と現の狭間

 無意識と精神が曖昧に混ざりあい、温かな風が頬を撫でる。

 ほんの僅かに漂う草の香りに目を覚ますと、程よく目立つ雲が浮かぶ青空が広がっていた。

 ホテルで眠っていたはずが、今となってはどこかも分からない草の上で、弾力のある枕に頭を乗せながら寝そべっていた。

「あ、やっと起きました?」

 突然枕が喋り始め、驚きのあまり飛び起きると、短い白い髪に空色のヘアピンを付け、白いブレザーに青リボンを胸に着けた、足を露出させたまま正座をしていた少女が私を見上げ、小動物を慈しむような目を向けていた。

「あ……ぉ……、ぇ……ぃ……!?」

 体は自由に動くものの、声が上手く出せずに喉の不調を疑う。痛みや違和感はなく、不思議に焦りを見せていると、目の前の少女は私に手を向けていた。

「私は喋っていいと許可した覚えはありませんよ?好き勝手に吠えようとする人間風情に口轡をつけてあげたのです。感謝してください?」

 少女は誇らしげに正座したまま動かず、図としては私が見下ろしているのにも関わらず、高圧的で圧倒的な余裕を見せていた。目の前にいる私の命は彼女の手の中にあるのかと錯覚してしまうほどに。

「人間の世界では声が大きいほど偉い。なんて馬鹿げた風潮がありますが、今はまさにその通りで、声を出せる私の方が偉いのです。なので手始めに、私への忠誠を誓うために這いつくばって私の足を舐めてください」

 自らの白い素足をポンポンと叩くも、ずっと下等生物を見るような目に、抵抗意識を持ち始めていた。

 しかし、それも長くは続かず、少女は指を私へと向けてから自分の足へと下ろす。それと同時に体が勝手に動かされ、顔が白い両足に埋まり、意識と反して美しい足を唾液で汚してしまっていた。

「んっ……ふふっ、そう、そうです。いい子ですね。頭を撫でてあげましょう。愛玩動物にはしっかりとご褒美をあげなくてはなりませんからねぇ」

 誰かも分からない人の足を舐めさせられ、抵抗することも出来ずに頭を撫でられる。時々色っぽい声を漏らしながら楽しまれるこの行為に、この侮辱ともとれる行為に屈辱を覚えさせていた。

「さて、もう頃合でしょう。喋る許可を与えます。存分に私への忠誠を言葉にしてみてください」

 先程まであった体の自由を取り戻し、すぐさま濡れた太ももから飛び上がる。草原に向かって唾を吐き捨てると、少女は残念そうに呆れてため息をつく。こちらは積もる不満を口にしたいとふつふつと怒りが湧き上がっているのに。

「ここまでしても自分の立場が分かりませんか?これだから世界の頂点に立っているなんて思い込んでいる人間は困りますね」

「お前、何者なんだよ……!ここはどこなんだ!」

「質問は一つずつ。全く、相変わらず人間はせっかちですね。もう少し余裕というものを持ってください」

 彼女は蔑むような目を向け、懐から取り出したハンカチで濡れた痕を拭う。目の前にいる少女の足を枕に使われてから、一貫しているようでしていないその優柔不断さが、嘲られているようにも感じた。

「貴方の質問に答える前に」

 少女は私に両手を伸ばして言う。

「あ、貴方を膝枕していたせいで足が痺れました。立ち上がらせてください」

「はぁ?」

 今までの上から目線な態度もあってか、素直に助ける気も起きない。そして、声が出せるようになった今。彼女の持論からお互いは対等な立場となっていた。

「あ、待ってください!置いていかないでください!本当に足痺れちゃって動けないんです!」

 自業自得、因果応報なんて言葉を頭に浮かべ、呆れて言葉も出ないまま彼女から遠ざかるように草の上を歩く。

「後生のお願いですからぁ!うにゃぁぁぁぁ!!」

 人を癒すような、安らぎをもたらす喚き声を遠ざけるために、逃げるよう走らせる.

 不思議なことに、彼女の声が遠のいている気が微塵も感じられないが、追いかけて来る様子もない。どれだけ走っても端の見えない草原、静かに動く雲……いくら走らせても頭から離れない声に嫌気が刺し、ふと地面を見下ろすと、まるで壁に向かって走っているかのように、同じ場所を踏み散らしていた。

「どうなってんだこれ……!」

 見えない壁から数歩下がり、勢いをつけて衝突覚悟で飛びつく。土を削り、見えない壁に殴りかかろうとしても、腕は壁をすり抜け、足が先程と同じ場所を踏んでいた。

 わんわんと泣きながらも、視線を時々感じさせる彼女の元へと観念して足早に歩き出す。

「ぐすん、ぐすん……さぁ、早く、私を立ち上がらせてください」

 涙の形も見せなかった演技派なわがままお嬢様に肩を貸し、フラフラになりながらも立ち上がらせる。それと同時に、彼女は痺れた足を無理に動かし、歩き始めた。私はただ、支えとなって彼女の隣を目的もなく歩くだけだった。

「初めからそうしていれば良かったものを……最近の人間は脳無しなんですか?」

 この場に置いて行ってやろうか。なんて思ったが、ここがどこかも分からないうちはそれこそ脳無しのやることだった。

「ここにいる限り貴方は私の飼い犬です。愛玩動物はご主人様に従順でいなければなりません。今こうして私に肩を貸しているように」

「はぁ、わかったから、私の質問に答えてくれ」

「いいでしょう。元々私がここに連れてきたのですからね。あ、少し屈んでください。歩きにくいです。身長高いんですから、低い方に合わせてください」

 あまりの注文の多さに腹を立てながらも、渋々腰を落とす。すると彼女は腰を曲げて歩くこの姿に滑稽さを見出したのか、クスクスと見下すよう笑い始めた。

「では、まずはここはどこか、ここは貴方の夢の中、厳密に言えば天の国です」

「ってことは私死んだのか!?」

「むぅ、急に大声出さないでください……びっくりしたじゃないですか……貴方は死んでなんかいません。まだ死なれては困ります」

「ならなんで」

「天の国で釣りをしていた私が貴方の夢を釣り上げたからです」

「じゃぁ、私は今寝てるだけなんだな?」

「そうですとも。ここは天の国にある貴方の夢を映し出した草原、そして私は貴方の夢に入り込んだ美少女天使さんです」

 美少女であることに否定は出来ないが、明らかに人間にしか見えない自称天使さんは、惨めなことに、自慢げに話すも、足が痺れて肩を借りていることが全てを台無しにしていた。

「次に私についてですね。コホン、私は、天の神アグニマ=カイロスとその妻、エンデ・ルテア様から命を授かった、五聖守護天使の末っ子のアッコンシェと言います」

「アッコンシェ……変な名前だな」

「はぁ!?名倉伊黎よりかは断然高貴で高名な名前ですが!?」

「なんで私の名前知ってんだよ!」

「あっ、しまっ……」

 翼と輪を見せない自称天使のアッコンシェは慌てて口を手で塞ぎ、顔を真っ赤に染めあげ、照れ隠しに私の腹を蹴りあげる。痺れもあるせいか、守護天使と名乗る割にはあまりに虚弱で、軽く小突かれる程度の力しか感じられなかった。

「はぁ、なんでこんな人を監視対象にしてしまったんでしょうか……もっと誠実で可愛げがあって、かつ天使懐っこい人が良かったですね……それこそレイカくんみたいな……でもあの子じゃ、ややどころかかなり不安ですね。やはり貴方で正解ですか」

 本人は隣でブツブツと聞こえないように熟考しているようだが、口に出ていることが全て私の耳に入っている。途中レイカの名前が出てから、監視されていたことに真実味が帯びてきた。

「私じゃ不安だったか?」

「へ?いえ、なんでもありません。ですが聞かれてしまったのなら話すしかありません。これからのため、信頼関係は築いて行かなければなりませんので」

 そう言い、アッコンシェは私の肩から腕を引き抜き、軽い足取りで私の前へと立ち塞がる。向けられた彼女の目は、今までの侮蔑や慈悲や嘲笑のものではなく、真剣で真っ直ぐな目をしていた。

「名倉伊黎君、これからの成長を見込んで、私の天使生をかけた頼みがあります。貴方に拒否権はありません。強制です」

 彼女は黒くくすんだ、右に二枚、左に一枚の翼を広げ、淡く青い光を放つ輪を見せた。

「この腐りきった天の国を、楽園へと戻す手伝いをしてください」

「さて、今回も私です。次回のUnleashed Antiquerは」

「アッコンシェ……順番じゃないのか……?」

「今貴方は天の国にいるのです。その間の貴方の身の回りのことは全て私が絶対、私がやりたいと思った時、貴方は従わなければなりません。わかりました?」

「分かりません」

「なんで分からないんですか」

「なんで分からないといけないんですか」

次回、Unleashed Antiquer 堕天の国のアッコンシェ

「いいですか?貴方の飼い主は私なんです。つまり貴方は飼い主である私に従うのが常なんです」

「ならアッコンシェは私に何か恩恵くれるんだよな?飼い主なわけだし、まさか愛玩動物にはご飯も娯楽も必要ないなんて」

「あ、もう時間切れのようです。それではまた」

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