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Unleashed Antiquer  作者: 圧倒的サザンの不足
魔王の章
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人魔血盟

 傷跡ひとつない右手を見つめ、テーブルの下の絨毯の上に転がったナイフを手に取る。指先を切り、流れ出た血を互いに舐めさせることで行う血の盟約、形式上既に私とミーアとの間で同盟は果たされたが、彼女の我儘によってより正式な形で執り行うこととなってしまった。

「人間、私の茶番に付き合わせてしまって申し訳ないとは思っている。しかし、今後、世界に示すためには不可欠なことなのだ」

 血の盟約をロマンと言っていた彼女はどこへと消えたのやら、いつの間にか二本目のナイフを取り出し、その鋭い切っ先を自らの人差し指に向け、私が自傷する覚悟を決めることを待っていた。

 右隣に座るエルピスに目をやると、期待よりも、何か気がかりなことがあるかのように、ミーアの考えを見透かそうとナイフの刃先と彼女自身を見つめていた。

 綺麗に磨かれたナイフの側面に、まだ表情が曇っている私が映る。この同盟を結べば、魔族領での命は保証される。しかしそれは今となって考えてみると、人間を裏切るという行為にほかならないのでは無いのか、私一人で変えられるものかと後ろ向きになってしまう。せめてミーアの思い描く未来予想図さえ分かればと思ってしまう。

「ミーア、ひとつ聞かせてくれ」

「どうした」

「私と同盟を結んだ後、ミーアはどんな世界を作りたいんだ」

「どのような世界……か、この私にそんな大それたことを語る資格はないが、そうだな、人間がいつか許される世界を目指したい」

「……わかった」

 私はナイフを持つ左手を右手に近づけ、指先を鋭い刃でゆっくりと裂く。金属の冷えた痛みに熱が込み上げ、一滴の血が外へと流れ出ていく。それを見たミーアもナイフで自らを傷つけ、互いの指先を口に含ませる。

 口内にはミーアの指、指には生暖かく湿った口内の感覚がはっきりと感じられる。彼女は恥ずかしがっている様子など微塵もなく、揺るぎない決意と確固たる自信に満ち溢れていた。

 時間にして十数秒、傷口を舌で圧迫し、血を止める。口から離した後には傷ついた指を握りしめ、同盟が結ばれてしまったという事実が次々と乗せられていく荷物のように重荷となっていく。

「さて、これで同盟が形式上でも正式にも果たされた。これからは我々魔族が貴様達を守り、貴様達は我々魔族を人間の侵攻から守る。互いが互いを助け合う関係となった」

「ああ、改めてよろしく頼むよ」

「一ついいでしょうか、魔王ミーア」

「エルピスと言ったな、なんだ?」

「誰かこの部屋の近くにあと一人、居ますよね」

 彼女が確信を持ってミーアを鋭く見つめる。それはあまりに唐突で、その場で周囲を見渡すも、私達四人と一柱以外、この場には誰も居なかった。

「仮にいたとして、何か問題でもあるのか?」

「いいえ、ですが、もしもそのこの場に姿を見せていないもう一人が魔族だとして、この場でラクイラさんが血の盟約を拒否してしまったら、ミーアさんは口約束だけの同盟を簡単に破棄し、その魔族に私たちを襲わせる。なんてことができたのではないかと思ったのです」

「何言ってるんだいエルピスちゃん、ここに来る前にサキュバスちゃんが言っていただろう?ここにいる魔族はボク達を襲わないって」

「ええ、ですがそれはこの部屋に足を踏み入れるまでの話だとしたら」

「エルピス、さすがに疑いすぎだ」

「まぁいい、気づいてしまったのなら仕方がない。本当なら隠し通す気でいたが、そこの人間と同盟関係になった以上、包み隠さず見せてやろう」

 ミーアはエルピスの勘を賞賛しながら立ち上がり、周囲の装飾と何ら変わりのない、何も無い暗い色の壁に手を触れ、軽々と押し開ける。その先には光がなく、無限に続く吸い込まれるほどの暗闇が座ったままでも、冷ややかに伝わってくる。

「着いてこい。そろそろ起きているはずだ」

 テーブルを支えに立ち上がろうとしては再び能力(存在消滅)を無意識のうちに使ってしまい、体勢を崩す。転びかけたところでエルピスに肩を組まれ、闇の向こう側へと消えていったミーアのあとを追いかける。

「エルピスさん、よく気がついたよね、もう一人いるって、いつからなの?」

 暗闇の中を壁伝いに歩き、階段を降りている中で、レイカが私の服の裾を掴みながら訊く。

「いつから……なのでしょう、気づいたらこの近くにもう一人いるって気がして……なんと言い表しましょうか、物越しに人影が映って見えたと言うべきか、気配が増えたと言うべきか」

「へー、すごいね……僕にもそんな力が欲しいなぁ」

「力なんて、あって損するだけですよ」

 それから何度も転びかけるレイカの体を支えて階段を下り、床続きとなった一本道を歩くと、最奥の白いランプが道を照らし、扉の前で待つミーアの姿があった。

「今度はこちらが驚かせる番だな。貴様達の仰天する顔を拝ませてもらおう」

 彼女はそう言ってランプの真下にある鉄扉の鍵を開け、両手で自分の体重を利用し、重々しく引き開いた。

 扉の奥には、正面の壁の高いところに人一人が通り抜けられないほど小さな窓が一つだけでその部屋は天井に設置された光源が部屋全体を照らしている。その窓から差し込む光は全くと言っていいほど役に立つものではなく、この部屋を照らす光はそのたった二つだけ。

 部屋の中心にはダブルベッドがぽつんと一つ置かれ、それを囲って見守るように大量の人形が置かれている。一般家庭に置かれている冷蔵庫やコンロはあるものの、娯楽になるようなものは一切置かれていない、ただ寝るためだけのような十畳ほどのワンルームが広がっていた。そしてこの部屋の中心に目立つよう置かれているベッドの上で、エルピスの言っていた「もう一人」が、蹲りながらすすり泣いていた。

 起きたばかりか髪が跳ね、布切れを繋ぎ合わせて作った継ぎ接ぎの服を部屋着に使い、露出している四肢には肉付きがあまり見られず、骨がうっすらと浮き出ている状態の、()()()()()がそこにいた。ミーアはそのすすり泣く声を聞き、慌てて鉄扉から手を離し、その子の元へと駆け寄って行った。

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