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2/17

2.はじまりは

 それは数ヶ月前のことだった。


「まあ、私に縁談ですって?」


 リーゼは大きな目を、さらに大きくして一通の手紙を受け取った。隣国、プティット国のエリオット・リドリー公爵からだった。


「返事は少し待ってもらったら?」


 母は少し困ったように笑った。たとえ公爵という肩書きがあっても、リーゼの暮らしているレーヴ国の公爵とは格が違うとでも言いたいのだろう。


 近年のレーヴ国は栄華を極めている。新しい王妃は新しいものが好きで、多様な文化を積極的に取り込んだ。最初は随分と批判されていたようだが、おかげで快適に暮らせるようになった国民は、今ではすっかり王妃を支持している。ファッションもマナーも最先端のものを参考にしているため、外交も円滑にしてくれる。国民の多くはレーヴ国であることを誇りに思っている。リーゼも、リーゼの両親も例外ではない。


 もっと発展した国の公爵からの手紙だったら、両親は喜んで娘を差し出しただろう。でも相手は"田舎国"と揶揄されるような小さな国だ。

 しかも、一度顔を合わせてしまったらお断りするのは容易なことではない。貴方の顔が不満だと言っているようなものだからだ。そこは曲がりなりにも公爵という肩書きのある相手にできることではない。


 だが、リーゼは内心期待していた。プティット国といえば豊かな自然のある素敵な国だ。以前町に来ていた商人が話をしていたのを聞いたことがある。珍しい花が咲いていて、水も綺麗なのだと言っていた。まるで絵本の世界だ、と。


 リーゼは華やかな生活に少し飽きていた。町でも美しいと評判のリーゼには交際を申し込む男性も多い。みんなこぞって宝石や特注のドレス、毛皮、珍しい菓子などを持ってきてはリーゼの気を引こうとする。

 

 嬉しい、そう呟くと男たちは喜んで新しいものを次々と贈ってくれた。


 どこか遠い国で流行っているという、複雑なカットのダイヤがあしらわれたネックレスをそっと撫でた。夕べ、男が持ってきたときと同じで、ひんやりと冷たい。


「私、会ってみたいわ。リドリー公爵に」


 母は最初こそ複雑な表情を浮かべていたが、今では娘の縁談が進みそうなことと、相手が公爵だということに安心しているらしい。田舎といえども、その地位が公爵なら権力だけではなく、莫大な財産を持っている。


「……公爵家の夫人になるというのは決して簡単なことではないのよ」


「まだ、夫人になると決まったわけではないわ」


「……ええ、そうね」


 母は全く気が早い、そう思っていた。私はあまり事の重大さを理解していなかったのかもしれない。考え方が甘かったのだ、私はまだ子どものままだった。


 リーゼは薔薇の香りがする手紙を、抱きしめるように胸に当てた。甘美な香りを胸にいっぱい吸い込む。


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