死して屍 拾うは誰ぞ
こんにちは、遊月です!
ヒーローは遅れてやってくる、そう、日曜日のお昼ですね!
あらかじめ断っておきますが、本編中に出てくる人物は、一般人です
それでは、本編スタートです!!
如月義夫は、今日も“ひと仕事”を終え、深い満足感のなかで小学校の敷地を後にした。あとは家に帰ってから、思う存分録画したものを見よう――収穫の予感にニヤけながら、虫の声も少しずつ涼やかになってきた街中を歩いていた。夏がまだ続いているためにプールの授業もまだあり、だからこそ、それは如月にとっても出張り時でもあるのだ。
「今日は3年生だったよなぁ、うんうん、ちょうどいい頃合いだ」
少しずつ身体も発達してきて、かといって、早ければもう大人の身体に近付き過ぎてしまっている4年生よりはまだ子どもの面影を残した体つきをしている――それが小学3年生だ。
まさに妙齢、ビデオ映えすることこの上ない年頃だ。そんな学年のプールなんて、もちろん水着姿を撮影するだけでもたまらないものがあるが、やはり隣接している更衣室も捨てがたい。ここでは誰もが無防備になる……丸裸だ!
まだ発達しきらない身体や、撫でたらコリコリといい手触りなのだろう肋骨、どことなく太陽のような香りのする肌、ほっそりとしているものの少しずつ肉のついてきた脚、男子との差が少しずつ芽生えてきた胸の膨らみ、処理しなくてはならないムダ毛も生えていないだろう脛や脇、そのどれもが如月の興奮を高めてくれる、素敵な宝箱のような部分だった。
離婚した元妻に娘の親権をとられて以来生きる気力をなくしていた如月にとって、小学生たちの盗撮はまさに命を繋ぐ希望のようなものだった。大体、離婚の理由だってこじつけじみたものだった。どうせ他の男と暮らしたくなったのだろう、なんだ、娘への暴行って。自分はただ、成長してきた娘とスキンシップをとろうとしただけだぞ? そりゃ、最初は血ぐらい出るだろうが、そんなの誰だって同じだろうに……。
「ったく、思い出したら不愉快になってきやがった、どっかで1発……、」
財布の中身を確認しながら如月がそう呟き、人気のない路地裏を通りかかったときだった。
「こんにちは、如月 義夫さん」
妙に艶のある声が、背後から迫ってきた。
マスコミ関係のやつらか? そう思って顔をあげると、目の前には海外の俳優みたいな風貌の男が立っていた。たとえ男であっても思わずクラッときてしまうような怪しい色気のある男が、親しげに、けれどどこか観察するような口調で、「今日もお疲れ様です」と言う。
「あ? おぉ、まぁお疲れ」
「今日はどちらへ?」
「ちっ、んなこと訊いてどーすんの、お前? やっぱ週刊誌とかのやつ? それとも報道のリポーター……にしちゃカメラとかいなぇもんな」
苛立ちながら、如月は男の背後を覗く。くそっ、こんなにイライラしたのは離婚した直後以来だ。何を思ったか、あの元妻が警察にまであれこれ話したのである。市の職員やら警察やら記者やらが飛んできて、やれ子どもの人権だの将来に残るトラウマだのそんな話ばっかりしてきたが、そんなこと知るかよ、ボケ!
自分は親で、あの娘はその子どもだ。なら自分の求めには応じるべきだし、そうやって成長を確かめようとしていた親心ってやつをわかってないのだろうか……イラついたから群がってきた記者たちはとりあえず家に置いていた木刀で殴って逃げた。
それ以来、追ってくるやつらはみんな木刀やらWASPナイフやらで切り抜けてきたが、そうか、こいつもそういう手合いか……?
「御自分の娘さんを奪われて、その穴を何かで埋めようとするお気持ちは、僕もわかりますよ。僕も大切な女性を奪われたりなんかしたら、何をしてでも彼女を取り戻してみせると誓うでしょうから」
「おぉ、そうかい。じゃあテメーもここで死ぬか? あ? 俺はその穴埋めをしてる最中なんだ、イラつかせんなよ、コラ」
如月は手に持っていたNRSを構える。もちろん、持ち方はナイフと同様だ、油断させてから一気にやっつけてやる、自分の楽しみを邪魔するやつらには何をしてもいいって、いま決めた! 如月は、下卑た笑みを浮かべながら「おら、さっさと退けよ」と絡む。
もはや如月には、目の前に立っているどこかスカしたようなこの男を倒さずにはいられなかった。だから退こうが道を譲られようが、問答無用で殺してしまうつもりだった――が。
「それは、NRS-2か。なら近寄っても変わらないね」
その言葉と共に、如月の腕にどこから飛んできたのか、ナイフの刀身が刺さっていた!
「ぐぁっ……!!」
たまらず得物を取り落とす如月、慌てて拾おうとするが、その手を思い切り踏みつけられる! しかも、男は無慈悲にも、踏みつけたまま思い切り靴を回転させる、まるでタバコの火を足で踏み消すひと昔前のサラリーマンのように!
ゴリィィッ!
「―――――――っ!!?」
指の骨の辺りから走る激痛に、思わず泣き声を上げる如月。そんな彼を尻目に、男は如月の腕に刺さったナイフを引き抜き、もう一度這いつくばる如月の手の甲を踏みながら、語り始める。
「スペツナズ・ナイフ。またの名を、バリスティック・ナイフ。かつてロシアの特殊部隊が使っていた、なんて触れ込みで売れたこのナイフを、こうやって生活のなかで使うことがあるなんてね。まぁ、あなたの持っているそれも、まず日本ではお目にかかれないような代物か」
如月の手から落ちたNRS-2を拾い上げ、男は刀身を自分に向けた。そう、NRSはこれが正しい使用法、何故ならこのNRS――ナイフ型消音銃の銃口は、ナイフのグリップ部分についているのだから。
「自分で鉛弾を受けてみたことはあるかい?」
「あ、あるわけねぇだろ!?」
言うや否や、如月はカランビットナイフを指に通して応戦する! 男の足首を刺そうとしたが、さすがに避けられてしまった!
「ずいぶん刃物がお好きなんですね、如月さんは……」
「ちっ、悪いかよ! こう見えても若い頃はアクション映画のファンでな、よくああやって誰かをぶっ潰してぇと思ってたのよ!」
「そうですか、僕も刃物には少し縁がありましてね? あぁ、もちろんあなたには使いませんがね?」
「知ってるよ、スペツナズ・ナイフなんて代物出してきた時点で、お前もただ者じゃねぇ、何者だ?」
「僕が使っていたのは、大体がメスや剪刀ですよ。子どもたちの中身を見るときに、本当に便利だった」
「へぇ、お医者様かい! ずいぶん血生臭ぇお医者様だな」
「さぁ……僕の行為は愛の営みだ、医療行為とはまた別物だけれど、少なくともあなたに使う気にはなれないな。ああいった道具は大事にしたいのでね、今となっては、あれで切りたいと思うのはひとりしかいないんですよ……あなたには、そのカメラを差し出してもらいたい」
「は? カメラ?」
「そう、カメラ。今日は近くの小学校で3年生が水泳の授業を受けた日だ。あなた、そのプールと更衣室を盗撮していますよね? その映像を、破棄していただきたいんだ」
「おいおいおいおいおいおいおいおい! なぁ~に言ってやがんだ、このトンチキがぁ! こいつはよぉ、俺の心の癒し、オアシス、ユートピア、終焉の洪水から逃れた預言者と動物共が辿り着いた新天地ってもんなのよ! それを手放せたぁ、テメェ何もわかっちゃいねぇ! それはつまりよぉ、俺に女児を撮影するなって言ってるって意味で、いいのか?」
「他は構わない、けれど、3年生だけはやめてほしいんだ」
「ほぉ、テメェの娘さんでも映ってるってか!? ちょうどいい、手をこんなにされてイラついてんだ、親父の不始末は娘にでも償ってもらおうかねぇ! どうせサツが来ようがなんだろうが、逃げれば関係ないんだ、ぶち破って散々泣かせてから体内の70%を俺で塗り替えてやるよぉ!」
「あそこには、僕の心に決めた女性がいる。彼女を、あなたの下衆な視線で汚されるわけにはいかないんだよ」
瞬間、如月には、辺りの気温が20℃くらいは下がったように思えた。それが、目の前にいる男の覇気によるものだとは、思いたくなかった。
だから、敢えて声を張り上げる!
「ハッ! なぁアンタ、名前は?」
「僕の名前は梨田ですよ、敢えて名乗る必要もないと思っていましたが」
「ほぉ~、余裕だな梨田さん。でもよぉ、そんなこと聞いたらよぉ、マッスマス滾ってくるってわっかんねーかなぁ!? ゼッテーその娘でヌいてやる、いや、それじゃ足らねぇ! 足りねぇよなぁ!?」
如月は、カタパルトから射出された戦闘機のような勢いで梨田に迫り、そのまま熱くなったアスファルトに押し倒す! そのまま髪を掴み、後頭部をさんざん打ち付けながら、笑う。
笑い、嗤い、嘲笑いながら、如月は、吼えた。
「こんないけすかねぇヤツの!? 惚れた女だろぉ!? じゃあよぉ、どうしてヤらずにいられんのよ、あぁ!!? ぶち抜いて、しこたま出してよォ、切って嬲って焼いて削って沈めて結んで壊して、もう野郎見るたびに俺を思い出して震えずにはいられねぇようにしてやるからよ、覚悟しとけや梨田さんよぉ!!」
笑う如月。
手を駄目にされたのは痛いが、それと引き換えにこの男にも同等の痛みを味わわせられるのならお相子だ、最高じゃねぇか!
しかし、次の瞬間、如月の胸には、彼自身の得物であるWASPナイフが突き立てられていた。
「……ぁ、え?」
「今、このボンベを起動させたらどうなるかな?」
梨田の言葉の意味がわからない如月ではない、それは……つまり。
「おい、まさか本気じゃないよな、やめろよ、やめとけやめとけ、やめ、」
真夏の路地裏に、男ふたりの声が響いた。
前書きに引き続き、遊月です!
毎度お付き合いありがとうございます、今回のtendencyはいかがでしたか? 何度も断りますが、如月義夫は犯罪者ではありますが、一般人です。
次回もまたお付き合いいただければ幸いです
ではではっ!!




