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名もなき怨讐の影・前

こんにちは、遊月です!

日曜日といえば、そう、ヒーローの勇姿に胸を熱くする日ですね!


ここからは、バトル多めの展開が続く……かもしれません。

本編スタートです!!

 吉田(よしだ)栄一(えいいち)は、目を疑っていた。視線の先に広がる光景は、彼にとって信じたくないもので、同時に暴君の圧政や厚顔無恥な者による横暴な振る舞いに匹敵するほどに、許してはおけぬものであるように見えた。

 何故だ、何故ここまでの理不尽が許される?

 もしも運命を左右する神がいるとしたら、何故自分たちに対する処遇をあの男(、、、)のものと反対にしなかったのか? 吉田は心の底から憤り、思わず傍らを走り抜けるネズミの腹を鉄板の仕込まれた安全靴で蹴り飛ばしてしまうほどだった。それだけでは飽き足らず、そのネズミを追い回して遊んでいた近所の子どもから取り上げた光るドリル状の剣を模したおもちゃを地面に叩きつけて、踏み壊してしまった。それを非難がましい目で見つめてくる子どもを地面に組み敷いて、騒ごうとした彼を実力行使で黙らせても尚、彼のあの男(、、、)に対する怒りは治まらなかった。


「……なんだ、まだいるのか。さっさとズボン穿()いて帰りなさい、風邪を引くぞ? おもちゃも親御さんに買い直してもらったらどうだ」

 しかし、ふらふらと立ち上がってこちらを見る子どもにそう言い付ける吉田の顔は、紛れもなく人の痛みを知る、好々爺のそれだった。


 そして吉田は、路地裏からふらりと躍り出て、視線の先にいる男を追う。胸中に、道中たまたまぶつかってきた幼児の頭をブロック塀にめり込ませてしまうほどに苛烈な復讐の炎を宿しながら。後ろから我が子の変わり果てた姿を見た親のような、狂った泣き叫び声が聞こえるが、関係あるものか。

「うちの子だって、二度と戻ってこないのだ……二度とッ!!!」

 ようやく中学受験に向けてコンディションを整えて、これからというときに戻らなくなったのだ……そんな鼻垂れ坊主のひとりふたりと一緒にするな! そう叫び出しそうになりながら、吉田は尚も追う。


 そしてとうとう、追い付いた。

 見てしまった、見てしまったのだから仕方がない。

 どこかのテーマパーク帰りだろうか、お揃いのネズミ耳をつけて幸せそうに寄り添い歩く少女と、化野(あだしの)義明(よしあき)の姿を…………。


    * * * * * * *


 吉田の孫、英嗣(えいじ)は、化野義明に殺された。不甲斐ない息子の家から引き取り、直々に育て上げた、まさに吉田の思想の結晶ともいえる――ゆくゆくは彼が経営し、退陣しても尚強大な影響力を持ち続けている会社を引き継がせようと考えていた、大切な子だった。

 それがある日、突然家に戻らなくなり、それから1週間後に見つかったのが見るも無残な死体だった。


 英嗣は、まず胴体を3枚に(おろ)されていた。

 それからくり抜かれた目玉を口の中に入れられ、その代わりにあるはずだった舌は2枚に引き裂かれて両の眼窩(がんか)に挿し込まれていた。そして英嗣の胃からは彼自身の脳や耳、他にも彼自身の分泌物が多数入っていたらしい。孫が生前どれほどの屈辱を味わったのかを思うと、吉田自身が受けているかのような歯軋りが止まらなかった。

 そして心に誓ったのだ――必ずこの下手人として名前の挙がった男、化野義明に報いを受けさせてみせると。

 それからの吉田は変貌した。

 苛烈だがどこか理知的に経営を続けていた彼だったが、孫の死後は会社の資金を投入して私兵を募ったり、ボディガードや探偵などを使い、ありとあらゆる事柄を化野を探すことに費やすようになった。しまいには息子の財産を全て取り上げ、会社の役員たちの給与すらも減らし続けた結果、会社という形は成り立たなくなり、とうとう彼の経営していた商社は倒産の憂き目にあった。


 それでも、弱みを握っておいた私兵たちは今でも存分に使役できるし、構わない――そう思いながら、吉田は化野を探し続けていた。それでも見つからず、捜索は難航していたが……。


 ある日、ネット掲示板を漁らせていた探偵から、報告が入って来たのだ。

 化野義明を見つけた、と。


   * * * * * * *


 なんということだろう、心血注いで“作り上げた”孫を奪った男が、何故そうも幸せそうに過ごしているのか。吉田は思わず杖を握り潰しそうになりながら、どうにか堪える――その結果として全身の筋肉が膨張し、上着の下ではインナーがズタズタになってしまっているが。

 思い返す、孫が変わり果てた姿で見つかってからの日々を。

 孫についてよくない話もたくさん聞かされた、学校でも出来の悪い同級生を下僕同然に扱ったり、塾では解説に不適切なところのあった講師を笑い者にして休ませたりもしていたらしい、と。しかし、それらについて追及されるのは全て吉田にとっては心外なことだった。

 格上のものが格下のものを淘汰していくのは当たり前のことで、何故それを咎められなければならない? 1度勝ってしまえば相手をどう扱おうと、それは権利を持つものの自由ではないか。孫が死んでからの日々は、吉田自身にとっても屈辱の日々であった。


 その日々に、終わりを告げる……!

「やれ」

 小さな声で吉田が命じると、物陰に控えていた狙撃班が化野を狙い始める。彼らの狙撃は正確無比だ、(あやま)たずにやつの心臓だけを狙い撃つだろう――医師の診断書さえ書き直させれば問題もないのだ、と吉田はほくそ笑む。


 しかし。

 化野は、思いもよらない行動に出た。


「すまない、美玲(みれい)ちゃん。今日はここで終わりにしようか」

「え?」

「どうやら、お客さんが来るみたいなんだ。つまらない話ばかりになってしまうから、美玲ちゃんはおうちで遊んでいてくれるかい?」

「は、はい……で、でも、梨田(なしだ)さん」

「ん?」

「あの……、また会えますよね?」


 傍らの少女の言葉に、梨田と呼ばれた化野は少しだけ黙る。そして膝を折り、「当たり前だろう?」と優しく――まるで恋人との睦事のあとに囁く甘い言葉のように、少女の瞳をまっすぐに見つめながら答えた。その返答に安心したように、少女は近くの家へと走っていった……きっとあそこが少女の家なのだろう。

 あの化野が、子どもを無傷で帰すなど……! 吉田は我が目を疑った。


 しかし、それだけではないのだ。

 化野が子どもを家に帰すとき、近すぎるふたりの距離に少し動きを躊躇った狙撃手に『構わん、撃て』と吉田は命じていた。どうせ大したことのない親から生まれたどこにでもいる子どもだ、ひとりくらい消えたところで問題などあるまいし、あまりうるさければ家族ごと消せば済む話だと思っていたからだ。


 だが、その命令が実行されることはなかった。

 何故なら、化野がこちらを一瞥すらせずに投擲(とうてき)したメスのような刃物によって、銃を構えていた狙撃手たちの眉間が貫かれていたからである。

 続いて差し向けようとした、ヤンキーに扮した傭兵たちにしてもそう、今は声もあげずに片目を押さえて(うずく)っている。赤い中にほんのり黄色も混じった液にまみれたメスが、その到達範囲と苦痛を物語っている。


 そして。

「失礼、どうやら落とし物をしたようだ」

 連れていた“兵士”たちを、一瞥すらすることなく全滅させた男が、艶のある声とともに、吉田の前に表れた。


「久しぶりだな、化野」

「あだしの? 嫌だな、僕は梨田ですよ」

呵々々(かかか)、何を言うかと思えば。その物言い、私の孫が聞いたらすぐに貴様を(くび)り殺しておるだろうよ」

「…………、」

「なんなら、お前が執心しているあの娘から先に手をつけてもいい。まだ孕めるわけではあるまいが、まぁ栄嗣を産むことしかできなかったあの愚息よりは使い勝手のいい子を産ませてやるとも」


 その瞬間を、片目を負傷して吉田の傍らで蹲っていた傭兵・笹本(ささもと)悠太(ゆうた)は後にこう語る。


 吉田翁の侮辱的な発言のあと、恐らくあの地域の気温は20度ほどは下がった――と。

前書きに引き続き、遊月です!!

今回もお付き合いありがとうございます。吉田翁、かなりやばい人になってますね汗

この戦い、もはや超次元……!!!


また次回もお会いしましょう!

ではではっ!!

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