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社畜の日常

「オーバータイム!ルーレットスタート!」

ポップな音楽と共にルーレットが回る


(頼む……頼む……)

男はスマホを握りしめた


「おっしゃ!!一緒に冒険しよーぜ!」

赤髪の明るい青年が画面にうつる


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!またお前かよおお」

男はスマホを放りなげ椅子にもたれかかる

投げられたスマホは書類の山にぶつかった


「おい!山下バカお前!」

向かいに座っていた男が手を伸ばしたが、間に合わず書類の山は崩れていった。


「桑原さん…だってもうこれ…またこいつっすよ…」

山下と呼ばれた男は書類に目も向けず項垂れ スマホをかざした

その目は絶望の色しかない


「んだよ?なにやって…あー…」

桑原は残りの書類が崩れないよう整えながらため息をついた


「俺割りとそいつ好きだけどなー…性能いいし、声もいいじゃ」

「俺はバンリに会いたいんですよおおお」

桑原の声を山下が遮った

「だってもうこれ何回目ですかーー!?俺もういいよこいつ!はーーー無課金には冷てえ運営だな!あーーもう死ぬ死ぬ死ぬ!毎日欠かさずログインしてデイリークエストもやってなんでーーー」

「はいはいはい。安定の中毒ねー。それよりさっさとこれ何とかしろや」


「ういっす」

山下は一通り発狂すると黙々と書類を片付け始めた


「情緒不安定かよ」

桑原は呆れたが、情緒不安定になるのもしょうがないとあきらめ顔だ

時計の針は午前4時

外は真っ暗

人間がおかしくなる時間である。


「おら、さっさと仕上げて帰るぞ。せっかくの日曜に昼寝だけとかもったいねーだろ」

桑原は席に座り直し、パソコンに向かう


ムスッとしながらも山下も書類を重ね直すとスマホを伏せパソコンに向かう


しばらくは無言でタイピングの音が響く

しかし、この時間に無言だとかえって集中がきれるのか

桑原が口を開いた


「なーんかほんと休日出勤してまで仕事して寝るだけってやるせねえよな…唯一の楽しみはゲームくらいだしな」

桑原はちらりと画面越しに桑原を見たが山下は画面から目を離さない


「そっすね」


山下の返事は素っ気ないが、これは悪気があるわけでなく山下のこっちが山下の素なのである

発狂してるのがクレイジー山下なのである


(こいつ普段はぼーっとしんのに なんであのゲームのことになるとあんなんになるんだか。クレイジー山下だわほんと)


「なんすか?」

「や、お前なんであのゲームあんなハマってんの?」

視線を感じたのか山下が手を止めた


「そーっすね…んー…初回配信からおってて無課金でやってるから意地っすかね」

山下は前髪を少しいじりながら答えた

休日出勤とはいえ一応ワックスを塗ってきたが、徹夜になるくらいなら塗らなきゃよかったと後悔した。


「あー…俺もなんだかんだ情で続けてる感あるわ」

桑原はちらっと時計に目を落とし続けた

「あーおし、ここらで終わりにすっか。そろそろ俺も帰ってシャワー浴びてえわ」


「自分もあと少しで終わるんで先支度しててください」

「おう」

そんなやり取りをしているとオフィスに明るい光が差し込んできた


「おーまじかー新しい朝だ」

桑原から思わずため息がもれた


「桑原さん 徹夜の度に言ってません?それ」

山下は呆れ顔で帰り支度をはじめた


「え、しらね?新しい朝」

「いや知ってますけど」


そんな中身のあまりない会話をし、オフィスを出る


「そういや桑原さん 明日じゃなかったもう今日か。なんかオーバータイムのお知らせが夕方出るらしいっす」

山下は歩きながらスマホをスライドする


「ほー?起きてたらみるわ」

桑原は欠伸をしながら髪を整える。途中の仮眠のせいで髪が少し崩れているのを気にしているようだ。


「あー新しいイベントとかならいいんすけどねー。なんならバンリの新しいスキンとか実装されて欲しいっす」


山下のホーム画面にもなっているのが バンリと呼ばれるキャラクターだ。オレンジ色のボブヘアーに右側が編み込みがあり、編み込みの終わりには黄色いリボンを付けている。

バンリの青い瞳が山下を覗き込んでいる。


「待ち受けにするのはどうかと思うわ」

桑原は苦笑気味だ。

面倒見の良い兄貴肌の桑原にこんな顔させるのは山下くらいであろう。


「イベント勝ちたくて有休使った人には言われたくないっす」

山下のその言葉に桑原は携帯を落としそうになる

「おまっそれマジ言うなよ」


山下のことをいじれないくらいに桑原もなかなかにゲームにのめり込んでいるのである


会社ではなんであの真逆の2人上手くやってるのとよく話が出るが、2人は4年前から始まったスマホゲーム、

オーバータイムの数少ないユーザー同士であったのだ


「あーこのゲーム終わったらなんも楽しみないっすわ」

「いやいや他にもゲームしたりすればいいだろ」

「いやー他今更やる気しねえっすわ、この世界救うだけで満足っす」

山下はスマホをカバンにしまい軽くスキップをした


「社畜しながら世界救ってんのかよ」

桑原はそんな山下をみて少し笑いながら帰路についた








『社畜しながら世界を救う』

まさかこれが現実になるとは思いもしなかった。

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