派遣じゃナイト
俺はドーファー・ンソリハ王国に騎士として派遣されている。今やこの国も財政が枯渇していて、一部の特権階級騎士以外は派遣で賄われている時代だ。しょぼい家柄の俺は正式な国の騎士になることができなかったが、腕っ節を認められて、この国ご厄介になっていた。
俺の朝はトリトン大臣のご機嫌とりから始まる。
「トリトン大臣。今日のお召し物は素晴らしいですね、よくお似合いです」
俺がそう言うとトリトン大臣の顔がにわかにほころび出した。どうやら聞いて欲しかったらしい。
「うむ。わかるかね。これはだな。かのジパングから取り寄せた大変貴重なものなのだよ。商人の話によると向こうの言葉で言うと初回限定生産版とかいうものらしいぞ。ほれ。これを見たまえ。袖にシリアルナンバーが彫られておるだろう。しかも001と掘られてある。まさにわしにふさわしきものなのだ」
なんだか限りなく怪しい品ではあったが、ここはあえてスルーすることにして、大臣を誉めることにした。
「さすがは大臣殿。お目が高くていらっしゃる。このソーフォ・ンソリハ王国広しと言えども大臣に並ぶほどのおしゃれさんはおりますまい」
大臣は満面の笑みを浮かべた。ちょろいもんだ。
「そうか。そうか。はっはっは。お前はなかなか見所のあるやつだな。よし国王にはわしの方から良いように申しておく。では職務に励むのであるぞ」
「はい。ありがたくお言葉頂戴いたします」
俺は大臣が見えなくなるまで頭を下げていた。
「よし。これで今日の職務の80%は消化したな」
こういった上司のご機嫌取りも派遣騎士が生きて行く上で重要なのである。
その後は特に何事も起きることはなかった。今日も平和だったなと俺は思っていた。
「魔物だあ!! 魔物が出たぞ!!」
王宮の外から声が聞こえてきた。俺は応援に駆けつけることにした。
外に出てみると巨大なグリズリーが3体王宮の近くに現れていた。王宮の門番や他の派遣騎士も応戦しているようだったが正直相手になっていないようだった。
そこに聖騎士が現れた。正騎士とも言った方がいいだろうか。この王宮の正式な騎士だ。俺とは身分がまるで違う。
「なんてでかいグリズリーだ。さすがに俺はこれほど大きいのは見たことはないぞ。全くこんな所まで降りてくるなんて旗迷惑なやつだ」
そう言うとその聖騎士は俺の方を見てこう行った。
「何をぐずぐずしている派遣。行ってお前も加勢して来ないか。全くなんのためにお前らがいるのかわかっているのか」
その聖騎士は苛立ちぎみに俺にそう言った。少し頭に来たがここで怒るほど俺は人間ができていない訳ではなかったのでここは我慢した。
「はっ!! 申し訳ございません。早速加勢に行って参ります」
その聖騎士は鼻で笑って俺を促した。行くって言ってるじゃねえかよ。このくそ野郎が。
俺は風のように走り、グリズリーに迫った。見ると何人かはグリズリーにやられて倒れていた。なんて使えないやつらだ。
目前まで迫るとグリズリーはとてつもなく大きく見えた。どこぞの平屋建てくらいの大きさがあるみたいに見えた。
「どうした。このままではやられてしまうぞ」
俺は他の派遣騎士に叫んだ。
「いや。余りの大きさに躊躇してしまのだ。ほら俺らさ。派遣だろ。怪我なんてしたらたぶん保障とか利かないだろ」
派遣騎士Aは思いっきり保身に走っているようだった。仕方ないここは俺がやるしかない。ここで目立って正式な騎士に。までは無理かもしれないけど何か特別報酬があるかもしれない。
「おらあああ!!」
俺はグリズリーの正面は避けて背後からグリズリーに飛び込んだ。さすがに俺もできるだけ怪我はしたくない。
ズシャア
門番に気を取られていたグリズリーを俺は切りつけることができた。グリズリーはたまらず大きな体を倒した。そこに俺は飛んで入ってグリズリーの腹に剣を突き刺した。そうすると他の派遣騎士たちもこのグリズリーに向かって剣を突き立てた。仕留めたのは俺だぞ。
「よし。次に向かうぞ。加勢してくれ」
俺は声を張り上げて協力を仰いだ。了解した。とかなんとか言っていた。俺は次の獲物に向かっていった。他の派遣騎士たちは俺の後ろに付いて来ていた。
俺はグリズリーの爪をうまくかいくぐりうまく懐に入ってやつの腹を切りつけた。グリズリーは悲鳴をあげてよろけだした。そうすると待ってましたとばかりに他の派遣騎士どもが切りかかり、グリズリーを倒した。
「よし。討ち取ったぞ。討ち取ったのはこのサイベス家が息子イワンだ」
「何を言うか。討ち取ったのは。この俺だ」
派遣騎士Aだの、Bだのはなんだか手柄を巡って揉め出した。
その小競り合いを見ているうちに門番が3体目のグリズリーに倒されしまった。
「何をやっているか。今は後一体倒すのが先だぞ!!」
俺は派遣騎士達に叱咤した。だがやつらはまるで聞いていないようだった。あいつらは頼りにならん。俺が行くしかない。俺は最後のグリズリーもなんとか倒すことができた。
最後のグリズリーを倒すと先ほどの聖騎士がやってきた。こいつは今まで何をやっていたんだ。
「お前たちよくやってくれたよ。あのばかでかいグリズリーを倒すとはな。特にそこのお前!!」
聖騎士は俺に向けて言葉をかけてきたようだった。
「は!! いかがなさいましたか?」
「お前の働きはしかと見させてもらった。よい働きだったな。俺から特別に報奨金をやろう」
そう言うと聖騎士は金貨を2枚ほどくれた。しみったれたやつめ。
「ありがとうございます。聖騎士殿のお心遣いありがたくいただきます」
「おお。なんとかなったようだな」
大臣が降りてきたようだった。俺は聖騎士から離れて他の派遣騎士と共に整列した。
「ランスロット殿ではないか。これはお前がやったのか?」
大臣は聖騎士に向かって言い出した。ちなみにランスロットとは聖騎士のことだ。そのランスロットこと聖騎士さんは俺をものすごい目で睨んでから言い出した。
「はい。私ランスロットがこのグリズリーめを倒しました」
聖騎士はやたらとおおげさに言い出した。
「さすがは聖騎士であるな。このことを国王に報告しなくてはならない。ランスロット付いて参れ」
「はっ」
聖騎士は大臣とともに行ってしまった。結局手柄は全てランスロットのものとなった。だって金貨もらっちまったんだから言えないだろ。
「まあ金貨もらえたんだから儲けもんだろ」
誰かが声をかけてきた。俺と同じ派遣騎士のようだった。その男はやたらと古臭い鎧をつけていたが顔立ちが気品に満ちていてあまり鎧は古臭くは見えなった。
「む。そなたは?」
「俺か? 俺はセントカナ家のサルマーニュだ」
「セントカナ家と言えば古くからの名門じゃないか。なぜこんなところで派遣などやっているんだ」
俺は思わず驚いてしまって名乗ることを忘れてしまった。
「ああ。確かに名門ではあるんだが、なにしろ今の時代だ。特に俺たちセントカナ家は財テクに関して余り得意ではないのだよ。剣の腕だけ磨いて、挙句の果てにはこのありさまだよ」
サルマーニュは自嘲気味に笑った。それから彼と色々話しながら王宮へと戻った。
それから何日か経ったある日俺の所にある噂が飛び込んできた。この国が他の国に吸収されるという噂だ。現国王は今の財政状態にほとほと嫌気がさしているらしく。かねてより他の国に誘いを出していたらしかった。そして、一部の人間だけを残して他の正式な王宮の人間も切られるということだった。ということはつまり俺たち派遣は当然切られるという訳だった。俺たちのことは噂にすらならなかった。
ある日一人の聖騎士が騒動を起こした。
「どういうことですか。国王私は納得できません」
どうやらこの間のランスロットとかいう聖騎士が切られることになってらしく抗議しているらしかった。かなり多くの人がこの様子を見守っていた。あいつも切られるのか。可哀想に。
話を聞いているとランスロットは家柄がどうとか、この国にどうのように貢献をしたとかを長々と話していた。国王はひどく機嫌が悪そうだったが、黙って聞いていた。しばらくするとランスロットの怒りが頂点に達したらしくなんと国王へと切りかかろうとした。俺は彼の前に立ちふさがり剣を飛ばしてやった。
「な。何をするか。俺は聖騎士だぞ」
「お前こそ何をやっているんだ。国王に向かって」
「ああ!」
ランスロットは自分の過ちを悔やんで座り込み俯きながら震えだした。彼は他の聖騎士たちにどこかに連れて行かれた。
「そこの者。この度のこと大変感謝する」
国王は俺に向けて感謝の言葉を向けてきた。
「私は大変感激した。よってそなたを正式な騎士として認めよう」
国王はとんでもないことを言い出した。正式な騎士に認めるだって?
「こ。国王それはまずいんじゃないでしょうか?」
大臣が慌ててこの発言について問いただした。
「いや。私はこの者をこの国の正式な騎士として認めることにしたぞ。今日からお前はこの国の正式な騎士だ」
国王は立ち上がって俺に対して言葉をかけてきた。ついに俺が正式な騎士になるときが来たのか。俺はこの機会を逃すまいと受け入れることにした。
「国王私、この国のために頑張ります」
俺は念願の正式な騎士になることができた。その日の夜はとてもいい夢を見ることができた。
翌日やけにばたばたしているので、外に出てみると何やら王宮の人間が色々なものを持ち出して外に出て行っているのが見えた。その中で派遣騎士のサルマーニュが見えたのでこの事態について聞いてみることにした。
「これは何事だ?」
サルマーニュは銅像を背中に担ぎながらこちらに視線を向けて言った。
「何って国王一家が夜逃げしたんだよ!!」
「な。なんだって!?」
あまりの出来事に衝撃をうけてしまった。聞いてみるとどうやら噂があったこの国の吸収の話が無くなってしまって、期待を裏切られた国王はついにやる気を失って逃げ出してしまったという話だった。
「んで。俺も金目のものでも持って退職金代わりにしようとしている所だよ」
見てみると他の人間も色々なものを持って退職金代わりにしているようだった。
「お。俺の正式な騎士にするという話はどうなるんだ」
「たぶん適当なこと言われたんじゃないのか。昨日の今日だったらもう夜逃げすることは国王の中では決まってただろ。お前騙されたんだよ」
「俺が……騙されただと」
信じられなかった。正式な騎士になれると思っていたのに。しかし国王は逃げてしまったのだ。俺はそのことを受け入れると。とたんに憎しみが浮かび上がってきた。
「あの。おしゃれ髭めええええ!! ぜってえに許さねえ。あの髭ぜっていに切り落としてくれるわ」
俺はもう日々の生活とかいつかは正式な騎士になるということ全てがどうでもよくなっていた。とにかくあの髭を切り落とさないと気がすまなかった。
「派遣をなめるんじゃねええ」
俺は国王を探し出すために走り出した。輝く太陽が俺を照らしつけ鎧を輝かせた。まるで俺のこれからの前途を祝福しているようだった。
ご拝読ありがとうございました。ファンタジーを書いて見ました。コメントなどをいただけると大変励みになります。ありがとうございました。