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75. 初期装備の疑惑

「いや、さっきのカッコだとほら、スカートも短いし、胸もとも気になるだろ? だからこっちの方がいいかなって――コレクションの一つで、あっちで実際にある学校の制服とかじゃないし」


 コレクションの一つってことは、もとになったフィギュアがあるんだろうけど、このデザインの制服を着たフィギュアは、イザムの部屋で見たことがない。見たことがない、ってことは後生大事にしまってあるうちの一つなのだと思う。

 せっかく手に入れたのに普段から見える位置に飾らないのはなんでかわからないけど、そういうものらしい。


 そして実際にある学校じゃないってことは、これを着ているせいでどっかの学校の生徒だと思われるようなことはないってことなんだろうけど(そもそも現実の世界から来ている人がいて、制服から学校を見分けられるなんて、そんな可能性自体限りなく低いんだけど)、ごにょごにょがなんだかとっても気になる。


「これ、着てても大丈夫なの?」


 疑いの目を向けると、すごく嘘くさい無邪気な表情。


「大丈夫、大丈夫。かわいいし、すごく似合ってるよ! あ、でも、これはちゃんとした格好だし、僕に同じ服を着ろっていうのはなしにしてよ? さ、ほら、ご飯食べに行こ。みんなを待たせちゃうし――ああこれも、一応治しとこうかな」


 白い光でイザムの頬についたわたしの赤い手形が消えた。せかせかと部屋から出そうとする態度が、疑わしい。

 そして一人称が「僕」。絶対怪しい。


「イザム、これ、本当に着てても大丈夫なの?」

「大丈夫だよ! かわいいって」


 廊下から声が返ってくる。

 確かにデザインはかわいいし、イザムが着せたにしてはごく普通の格好だから、それはいいんだけど。


「確かにさっきのよりは普通なんだけど、なんか、騙されてるような気がするんだよね……」


 気がする、というよりは、ほぼ間違いないと思うんだよね……。


 でも、教えてくれる気はないらしい。こうなると、おそらく聞いても無駄だ。


 首を振りつつ、部屋を出たイザムの後を追いかける。


「あのさ、今日何をしてたのか、ご飯の時に聞いても大丈夫? もしアルフレッド様やタイガくんには言わないほうがいいなら聞かないけど」


 いろいろ思うところはあるけれど、とりあえずお腹に収めて、それを聞かないと。

 イザムは話題が変わったことに安堵した様子で、廊下で立ち止まってわたしが追い付くのを待っていてくれた。


「いいよ、うまくいったんだし、どうせすぐ知ることになるから」


 にこにことご機嫌なのは、この制服のせいなのか、それともその何かがうまくいったせいなのか。


 さっきのセクハラのせいで落ち着かないのはわたしだけらしいのが、くやしい。


 階下につくと、アルフレッド様とタイガくんはもう中にいて、窓ぎわで立ったまま雑談をしていた。家の仕組みについて調べるうちにずいぶん仲良くなったみたいだ。


「アイリーン様、今日はずいぶんかわいらしいですね。よくお似合いです」


 わたしの姿を見て開口一番、アルフレッド様が褒めてくれた。本当に、お世辞もエスコートも板についていて、違和感なしだ。さすが王子様。

 おかげでさっきまでの落ちつかない気持ちがちょっと減ったよ。


「ありがとうございます」


 お礼と一緒にお辞儀をして顔を上げたら、信じがたいものを見た、といった表情のタイガくんがわたしを見ていた。


「それ……その、あの、それって……」

「タイガ、しーっ!」


 慌てたように背後からイザムが遮る。


「でも、それ、え……? 僕の気のせい?」


 タイガくんの狼狽うろたえぶりがすごい。それがわたしの格好のせいだと思うと、なんだか怖い。

 やっぱり何かあるんだ。


「……イザム? これ、何の制服?」


 斜め後ろを振り仰ぐと、イザムがさらに斜め後方に視線を泳がせた。


「ちょっと、ごまかそうとしないで白状して。今度はわたしに何を着せたわけ!?」


 目の前で拳を作って見せると、目を合わせないまま答える。


「や、え~と、その……学園物の恋愛ゲームのコスです」

「内容は?」

「普通、だよ? 学園内で、恋愛するやつ」


 普通、ってそんなはずないじゃん。超・残念男子でしょ。


「へ~? そうなんだ?」


 明らかに信用していない口調で一歩近づくと、イザムが一歩下がった。まだ目を合わせない。


 これだけ怪しいのにまさかまだしらばっくれる気?


「どんなゲーム? やったことあるんだよね? 少なくとも、目が悪いからって殆どゲームなんてしたことがないはずのタイガくんが知っているような、有名なゲームだよね?」


 言い逃れは許さない。


「や、そんなに、有名って程では……アイリーン、ちょっと目つきが怖くなってるよ?」

「内容を話す気はないってこと? 別にいいんだけど、だったらタイガくんに聞くし」


 くるり。


 拳を下ろし、向きを変えてタイガくんに向き合うと、タイガくんがさささっとアルフレッド様の背中に隠れた。アルフレッド様はわけがわからないといった顔でわたしとイザムを見比べている。


「無駄だよ? 悪いけど、ジョブ的にもタイガくんじゃ、わたしからは逃げられないし」


 首だけ出したタイガくんの視線が、わたしの後ろのイザムに向かって、それから小さく首を振った。


 黙ってろって、ジェスチャーでもされたのか。


「じゃあ、こうしよっか。タイガくん、そのゲームの内容通りにわたしと遊ぼ? どんなゲームだったのかな~?」


 一歩、二歩、三歩進んだところで、止めようとしたイザムが声をかけてきた。


「アイリーン、タイガを脅すなよ。怯えてる」

「一緒に遊ぼうと思ってるだけで、脅してないよ? わたし、恋愛系がメインのゲームってやったことないんだよね。イザムは教えてくれるつもりないみたいだから、知ってる人に聞かないとわかんないし」


 もう一歩進んだら、後ろからイザムに肩をつかまれた。


 タイガくんはそれ以上わたしが近づいてこないことを確認して、ほっとした表情になった。でもアルフレッド様の後ろからは出てこない。


「あの、僕は別にやったことがあるわけじゃないです。目に負担がかかるし……イラストを見たことがあるだけなんで、詳しい内容まではわかりません。それにアイリーンさんとゲームごっこもしません。カエルにされたくないですから!」


 大急ぎで付け加えた最後の一言からすると、怯えてるのはわたしの背後にイザムがいるせいじゃないだろうか。


 むむむ。これじゃ教えてもらえない。


「だったらなんでびっくりしたのかな? びっくりするような理由があるんでしょ?」

「や、それは、……そう、なんていうか、完成度がすごくて。アイリーンさんってそこまできっちり美少女ゲームのキャラクターの真似をするようには見えなかったから、だから驚いただけで」


 話しながらちょっとだけ顔を出したタイガくんがほっとしたのがわかった。たぶん「完成度が高い」の言葉で背後のイザムが喜んだんだろう。


「『美少女ゲーム』? それってどういうゲームなの? それに『そこまで、きっちり』って? どのへんがきっちり?」


 わたしの質問にタイガくんがまたちょっとだけ顔を出した。


「『美少女ゲーム』っていうのは、かわいい女の子たちに囲まれて、好みの子を育てつつ恋愛を楽しむゲームで、あ、別に必ずしもエッチなことが目的のゲームってわけじゃないですし、『きっちり』っていうのは、リボンとか、制服の感じとか、とにかく雰囲気がよく似てて」


 って、話しながら見てるのはイザムの方で、確認しながら喋ってる感じがすごい。

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