74. 新しい初期装備
イザムの部屋から出ると、すっかりいつものように落ちついたシュヴァルツさんに迎えられた。
「階下に皆さんのお食事の用意ができています」
そう言う姿は、髪の毛一筋乱れていない。うん。
夕食ってことは、今日はもう出かけない。
いったん部屋に戻って着替えるか、このまま行くか、ちょっと悩んだ。着替えればそれなりに時間がかかるし、イザムやみんなを待たせたくないけど、タイガくんとアルフレッド様も一緒なんだから、この胸もと開きすぎ&超ミニスカートでご飯タイムは合わないなって思う。
やっぱこのままはダメだな。
廊下で立ち止まったわたしに合わせてイザムも足を止めた。
「あの、先に行って? 着替えてから行くから」
自分の部屋の方を指さしてからそっちに向かったら、なぜかイザムがついてきた。
「わたし着替えたいんだけど……先に行ってて?」
クローゼットのドアに向かおうとしたら、中に入ってきたイザムに片手をつかまれて引き寄せられ、そのまま後ろからやわらかく抱きしめられた。
「何? どうしたの、なんかあった? 急に心細くなっちゃったとか?」
力の入らない優しい感じだし、すぐ出られそうだから別にいいんだけど。
「ちょっと残念だなぁって思って。俺的には結構気に入ってたし」
「何が? 何の話?」
「うん――アイリーンの初期装備。二人だけの時はよかったけど、さすがに他のやつらも一緒だと、ね」
腕の中でくるりと回転して向き合うと、腕が緩んで両肩に手が乗せられた。その状態で、言葉の通り惜しむようにわたしの格好を見てから、イザムが一瞬目を閉じて、開けた。もう一度両腕ごと抱き寄せられる。
ミニスカートと胸が半分出てるような黒ビスチェのままで人前に出なくて済むように、この露出過多な衣装を変えるつもりなんだと思った。
正直とってもありがたい。
リラックスして、待つ。
両肩を抱いた腕がゆっくり下がっていく。確認するように、腕に、肘に、背中に、手を下ろしながらゆっくりなぞっていく。今回はずいぶん慎重だ。
なんか、変? って思ったのは、イザムの両手が腰を越え、さらに脚の方に下がっていったからだ。あの、雪遊び用の服を揃えてもらった時だって、こんなふうに触られたことなんてなかったのに。
手が下りるにつれて同じように下がってきていたイザムの頭は、わたしの頭に並んだあとでまだ下がるみたいで、なんだなんだと思っていたら、指先がむき出しの太ももをかすめた。でも、止まらない。触れられたところがさわさわと震えるみたいな感じがして、身体が固まった。
「ちょ、ちょっと、待って?」
そんな確認が必要なもの――全身にぴったり張り付くようなレザーとかなら、着せられるのは嫌だ。そう思って抵抗しようと身をよじる。
「あの、イザム? わたしあんまり特殊な格好は――」
「は~♡」
やめて欲しいって言おうとしたら、なんか気の抜けた声と一緒に吐息が胸もとにかかった。
「な、にをして……」いるのかと問うまでもない。
大きく開いた胸もとに頬が触れた。両手がそのまま下に向かおうとする。
「この感触、最高。見納めになる前に、一回……」
イザムの鼻先が左胸のホクロを掠めて、ざわっと鳥肌が立った。
バッチン!
無理矢理引き抜いた右手で、体勢の悪い中、できる限りの平手打ちをお見舞いし、緩んだ腕から逃げ出す。胸の前でシャツをかきよせて睨みつける。
気を許したわたしがバカだった。
「次やったらわたし、二度とここには来ない」
「何? なんで!?」
頬をさすりながらびっくりした顔してるけど、なんで、はこっちの台詞だ。
「当たり前でしょ? 何いきなりセクハラしてくれてんのよ!」
「嫌だったんなら、もっと早く止めてくれればよかったのに!」
心外だとでもいうような顔と台詞に目と耳を疑った。
「は? 嫌に決まってるでしょ!? なんで嫌じゃないなんて思ったのかわかんないし!」
いったいどうして、突然そんな判断をしたのか、ちっともわからない。
ギッと睨んだら、ちょっとひるんだようで、イザムは目をそらした。
「……おとなしくしてたから、大丈夫なのかと思ったのに……」
だからってなんで、そうなった。
「服を変えるつもりなのかと思ったの!」
「服は変えるつもりだったけど、やるときはちゃんと言ってから、って言ったのは自分だろ!? 最初に泣かれてるし、そこは懲りてるよ」
「それって、そもそもなんで嫌だと思ったのかがわかってないってことじゃん! あの時はあんたが勝手にわたしの身体を見たと思ったから嫌だったの! なんで今みたいに触られて平気だなんて思うわけ?」
「さっきあっちに帰る前に抱きついてきたのはそっちだろ? そっちこそどういうつもりだったんだよ?」
「どういうつもりもないよ! 置いて行かれそうだって思ったから、って言ったじゃん!」
「あんなの、言い訳だろ? お前が嘘ついたのに、俺が気付かなかったと思うなよ。好きでもないやつに抱きつくのか、お前は?」
「違うし! そういうふうに取られるならもう抱きついたりしない! 絶っっっ対しない!」
そのまま睨み合う。
確かに置いて行かれそうだっていうのは、言い逃れ的なところがあったけど、こんなことをされたかったわけじゃない。
心配したのに。
「あ~もう! くそ! 変えるぞ!」
さわり、と身体が震えて、着せ替え魔法を使われたんだと気づいた。イラつきながらもミニスカビスチェは変えてくれたのか、ってちょっと感心した――のは一瞬だけ。
「ちょっと……これ、どこの制服!?」
だっ、と鏡の前に駆けよれば、ダブルボタンの濃緑のブレザーの襟元には、外に出すタイプの開襟のセーラーカラーの白いシャツ。胸もとにはワインレッドのリボンで、膝丈と言うにはほんの少しだけ短めの濃紺のフレアスカート。さらに見おろせば膝下の紺のハイソックスにローファー。
あきらかにどっかの学校(しかもお嬢様系の学校)の制服っぽい。左胸の下には校章と思われるワッペンがついていて、胸ポケットにはペンが一本。ずいぶん設定が細かい。
両サイドをねじって後ろでまとめたゆるふわハーフアップの髪形は、さっきまでのストレートのポニーテールとは全く違って、やわらかくておとなしい印象を与えていた。心なしか身長も今までより低いような気がする。
露出は膝小僧以外ほぼない。本当にさっきまでとは全然違うけど、なんか自分の学校の制服じゃないってだけで違和感がありすぎだ。
ばっと振り向くと、さっきまでのイライラはどこへやら、ちょっとにやけた顔でこっちを見ているイザムがいた。
「どこの、制服?」
「や、どこのって、それはえ~と……ごにょごにょ」
久しぶりに出た、ごにょごにょが。
ジト目で睨むと、イザムが明後日の方向を見た。




