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68. 今後の方針相談会

 まるで高校生の修学旅行か合宿のよう――髪の毛の色を考慮しなければ――だ。


 イザムの部屋の暖炉の前に並べ直したソファに、白のTシャツに紺のハーフパンツで裸足の男子が三人+マキシ丈のワンピースにショールとスリッパのわたしが座って座談会の構えだ。


 暖炉正面の三人掛けのソファにわたしとイザム。シュヴァルツさんたちが運んできた一人がけのソファを両脇に置いて、そこにアルフレッド様とタイガさん――くん、かな。本来は年下らしいし。


 わたしだけ服装がマダムのワンピースなのは、紳士のアルフレッド様が頬を染めて(ちょっとかわいかった)苦情を呈したからだ。着替えて戻ると、ちらっとわたしの方を見て、自分と同じ格好をしているイザムとタイガくんの方を見た。


「ほらな、大丈夫だろ?」


 そう言ったイザムに何が大丈夫なのかを聞くと、自分の腕と脚が出ていることが落ちつかないらしい。

 ハーフパンツから脚が出ているのは男女ともにごく普通、っていう環境で育ってるわたしたちとは、基本的な感覚が違う。


 ……わたしの初期設定、膝もっと出てるんだけど、あれ見せたらかなり引かれるかも。


「ヴェッラの格好は大丈夫だったんですか?」


 ミニスカビスチェのことを思い出していたら、タイガくんが心配そうに聞いた。


「あの方は職業ですから、一般の方とは違います」と、アルフレッド様が答える。「私は城の中ではお会いしていませんが、あの方も普段はあの格好ではないのでしょう?」


 問い返されたタイガくんが、思案顔になった。


「あ~、まあ、練習中はもうちょっと隠れてることの方が多い……かな。衣装もいくつかあるみたいだったし」


 ダンスの練習……肌は隠れていても体のラインはたぶんバレバレなやつじゃないだろうか。


「それに、女性は衣服のデザインがいろいろありますから。私が気になるのはむしろ自分の格好です。アイリーン様が不快でないのならいいのですが」

「全然? 向こうでは普通だし」


 わたしはそう答えたけれど、アルフレッド様はやっぱりそわそわしているように見える。どうしても居心地が悪いのかと思っていたら、気になることがあったらしい。


「あの――あの方のことは城に置いてきて本当によかったのですか? その――あのまま兄の妻になってくれると思いますか?」


 ヴェッラさんのことか。

 心配そうに聞いてきたアルフレッド様には悪いけど、ラブが育つ可能性は低いんじゃないかと思う。


「無理だろ。目の前で他の女に乗り換えさせようとするような親がいるんだぞ? しかもそもそもが踊り子だ。王妃様になりたかったら、最初からお姫様とかで来るだろ」


 イザムがずばっと切り捨てた。タイガくんも頷いた。


 だよね。


 イザムが首を横に振ってからアルフレッド様を見た。


「そうだ、聞こうと思ってたんだけど、そもそもなんで配偶者にしようとするんだよ? 災厄と闘うだけなら別に単なる仲間だっていいじゃないか」


 服も現実仕様になったせいか、すっかり取り繕うことをやめて、態度も言葉使いも元通り、というかむしろ適当になっている。


「……いろいろ、事情がありまして」


「そこ(・・)だよ。こっちの事情とそっちの事情があるだろ? ある程度情報を公開しあって摺り寄せないと、協力のしようがない」


 口をつぐんだアルフレッド様を見て、イザムがソファの上に胡坐をかいて、タイガくんの方を向いた。


「タイガ、この世界の事情ってどのくらい知ってる? ここに来るとき何か聞いたか?」

「いえ、特に何も。何かあるんですか、ここ」


 深刻な顔になって、イザムに向き合う。


「俺が聞いた話だと、この世界は千年に一度、恐ろしい災厄に見舞われるらしいんだよ。それを退治するために、その時期は俺らみたいにこっちに来るやつが増える。こっちの世界の住人は俺らみたいなのと手を組んで、その災厄を追い払って、世界にはまた千年の平和が訪れる――ここの人たち、みんな親切だったろ? 城での待遇もよかっただろ? 災厄退治に協力してもらう目的があるんだよ」


 タイガくんが目を見張った。何も知らないらしい。


「僕――吟遊詩人――楽師ですよ? 戦うなんて無理です。ただでさえこっちの目はほとんど見えない、ポンコツだし」


 眼帯をつけた右目を指さして、ふるふると首を振った。


「俺だって魔導士だ。戦えないわけじゃないけど、あくまでも支援ジョブだし、物理攻撃はからっきし――今はアイリーンがカバーしてくれるけど、それだっておまけみたいなものだ」


 ちらっとわたしのほうを見る。


「そもそも俺は何かと闘おうと思ってここに来たわけじゃないし、魔導士のジョブを選んだのも偶々だし、現実世界でできなかったことをこっちでやりたい――人の目を気にせずに生き物のことを調べながら、静かな暮らしを楽しみたい――それが俺の野望だ」

「イザムさん、それ、野望って言うには結構地味です。現実世界でも普通にできるんじゃ……」


 力説するイザムにタイガくんが不思議そうに言う。確かに言葉だけ聞けば、その通りだ。


「俺にはそれが難しかったの。ここでやっと好きなように暮らせてたんだよ。周りの人の頼みごとを聞きながらうろうろして遊んでるうちに勝手にレベルアップして、力がついてきたら周囲が婿に来いとか城に行けとかって煩わしくなってきて」


 そこで一度言葉を切って、アルフレッド様を見てため息を吐いた。


「大魔導士のところに転がり込んだら、そっちはそっちで王様から災厄を追い払うために協力しろ、協力しないならこの世界から追い出すって言われてて。しかたなく師匠は、『自分は歳だから代わりに俺を教育する』ってことで協力するって返事したんだぞ? 

 そしたら今度は仲間を集める旅に出ろ、ってうるさくなって。旅に出たらやりかけの研究が止まっちゃうから、アイリーンを婚約者だって設定で仲間にしたの――アルフレッド、先に言っとくけど、お前の親父に今の情報流すなよ? 迂闊なことを喋ったらゲーロじゃすまないぞ。

 ちゃんと協力してる、って証拠にアイリーンを城に連れてった途端に、そこの王子サマが『他に好きな奴がいるくせに』ちょっかい出そうとするし、断ったらヘンリックを押し付けようとする。

 俺にあのちっこい王女様を押し付ける気もあったようだし、タイガがまだ来てない頃、あんまり失礼だからゲーロにしてやった剣士がいたんだけど、あの時アルフレッドが王女様をあいつから隠したってことは、あの剣士が王女様の結婚相手になる可能性もあったってことだ。

 つまり王室は喉から手が出るほど結婚相手が欲しいんだよ。

 今日だってヘンリックはヴェッラさんに付きっ切りだった。目標が定まったようだからヘンリックは片付いたと思って、残ったアルフレッドにこれ以上煩わされなくて済むように、ってシンデレラを連れて来れば、今度はヴェッラさんの目の前で乗り換えさせようとする始末だ」


 そこまでずらずらと並べて、ぐっとアルフレッド様の方を見た。


「お前たちの結婚観、一体どうなってるんだ? 話せる範囲で構わないから全部話せ。こっちも話してないことはいろいろあるけど、聞かれれば話せることは話すし。

 そもそも災厄ってなんだよ。どうやって戦うんだ? 勇者って誰だよ? もう来てんのか? 来てないのか? 待ってちゃダメなのか――? 

 協力するつもりでアイリーンを呼んだのに、どうしてお前の親父はちょっかい出そうとするんだ? シンデレラだってそうだろ? お前の相手になると思って変身させてみれば、なんでヘンリックと踊らせようとするんだ? その直前までヘンリックはヴェッラさんに付きっ切りだったのに。どういうつもりだ」


 畳みかけるように聞かれて、アルフレッド様が返答に困った。


 その間にタイガくんが口を開いた。


「王様、酷いですね。っていうか、イザムさんとアイリーンさんってどういう関係ですか? 僕、アイリーンさんのお祖父さんがイザムさんの師匠だってのは聞きましたけど、婚約したのってお祖父さんの強制じゃないんですか? お祖父さんってすごく怖い人なんですよね?」


 今度はわたしとイザムが顔を見合わせて黙った。


 どうする? って眉毛で聞かれたから、お好きにどうぞ、って両手を揃えて説明は任せた。イザムはさっきも、自分が大魔導士本人だってことを話していないし。


「この王子サマがな~。どこまで正直になれるかまだイマイチだから全部は説明できない」


 ポリポリと頭をかきながら、アルフレッド様を見る。

 アルフレッド様の方も弱った顔で眉を下げた。


「私としてはもうどっぷり魔導士様側ですけれど……先に三人に一つ聞いてもいいですか」


 わたしたちを順に見つめる。

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