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64. シンデレラとカエルの王子様と人魚姫とオズの魔法使い

 わたしたちが踊るのをやめて席に戻り、ヘンリック様とヴェッラさんがまたフロアに踊りに行ってから、タイガさんは演奏をここの人たちに任せた。


 タイガさんにシンデレラのお礼を言って、イザムが笑う。


「後は、十二時前にシンデレラをここから連れ出さないと。俺、悪役な。ひとまずシンデレラをかっさらって、嘲笑を響かせて、立ち去る予定だから」


「え!?」


 何その計画!? 


 話が急に展開し過ぎて目をぱちくりさせていたら、イザムが悪い顔で続けた。


「出て行く前に、大魔導士の弟子らしく、アルフレッドをゲーロにする。王様はこの前の剣士がゲーロになったとこは見てないし、いい薬だ。息子の嫁にふさわしい娘を見つけたと思ったら目の前でかっさらわれて、ぬか喜び。しかも息子は片方ゲーロ。戻すための頼みの綱の娘も俺たちの手の内。

 まあ、息子は送り返すけど――なかなかいい筋書きだろ」


 間違いなく生き生きしてる。


「ゲーロのまま置いて行くわけには行かないから、アイリーン、拾って連れて来てくれる?」


 え。


「それは……ゲーロじゃないとダメなの? 王女様に『ゲーロにしないで』って頼まれたんでしょ?」

「頼まれたけど、引き受けてはいない。ここはやっぱりゲーロだろ。この前みたいにじわじわと変態させると気持ち悪いから、あっさり変わるようにするし、後で戻すよ?」

「それでも……ガマなんでしょ? 触りたくない……せめて籠が欲しい」

「あ~、そっちか……」


 う~ん、と腕を組んだイザムにタイガさんが聞いた。


「脱出計画なら僕も一緒に連れて行ってもらえませんか? まだいろいろ聞きたいこともあるし」

「脱出計画ってほどのことじゃないし、普通に遊びに来ればいいだろ。歓迎するよ?」


 イザムはタイガさんとしっかり仲良くなっていたらしい。


「いや、僕は自分では出られないっていうか、実はここに来てから半分軟禁みたいな状態で……最初は冬だから寒いし、雪が解けるまでって話だったんですけど、ずるずる引き止められてちょっと困ってたんです。

 結局春の宴で余興を披露するまではって話になったんですけど、それも終わったし、僕、できるだけ早くあちこち見て回りたいんです。ここに留まるかどうか判断できる時間は少ないし。

 その辺も含めていろいろ話したいし、教えてもらいたいこともあって。ヴェッラは王子様と楽しそうにやってるし、とりあえず彼女はこのままお城でいいんで」


 そう言った顔がなんだかちょっと深刻そうだ。


 イザムも眉を寄せて考える表情になった。それがぱっと嬉しそうな顔に変わる。


「カエルは平気? 触れる?」


 突然の質問に、タイガさんは即答した。


「はい。普通に平気です」

「来るのは本当に一人だけでいい?」

「はい」

「じゃあ、準備ができ次第、あそこのシンデレラをかっさらって、王様をバカにして、王子様をカエルにして、アイリーンを連れて帰るから、一緒に来てカエルを回収してもらえる?」

「はい」


 いろいろ言われてるのに、タイガさんは平然と即答した。なかなか度胸がいいね、この人。


「アイリーン、イヤリングをつけ直すからちょっとこっちに。ペンダントはこいつに貸す。二人とも念のために俺から離れ過ぎないように気をつけて。あと、シンデレラを攫うのにシュヴァルツたちを呼んであるし、シンデレラには軽く抵抗するふりをするようにって言ってあるから、そのつもりで」

「シュヴァルツさんたち?」

「悪い魔法使いの手下だろ? 羽があって空を飛ぶやつがいたじゃん。カカシとブリキ男とライオンが出てきて女の子と犬をさらってく……あれの役」


 またしても得意気だけど。


「……まさかとは思うけど、オズの魔法使いの? ……あの不格好な羽の生えた不気味な……あれの役をシュヴァルツさんにやらせるつもりなの?」


 あれは控えめに言っても、気持ち悪い黒い猿だったような気がする。

 クール執事のシュヴァルツさんには似ても似つかない。天と地以上の隔たりがあると思う。


「そうそう、それ。ちゃんと羽も出して飛んでいくように伝えたよ?」


 って、わたしが気になってるのはそこじゃないし。


「アイリーンの祖父さんは、首から上しかなくて声だけ聞こえる偉大なるオズの魔法使い役だな」


 それってなんていうか、もういろいろ物語要素が入りすぎてカオスじゃないの――?


 仕方ない。自分の役どころだけでも確認しておくか、と大きく息を吐いた時、フロアがざわついた。


 顔を向けると、広間の中央でアルフレッド様とヘンリック様が対立しているように見えた。

 アルフレッド様の背後に隠れるようにシンデレラ――じゃなくてローゼリーア様。

 ヘンリック様の隣にヴェッラさん。

 ヘンリック様が何か言ってアルフレッド様の方に――いや、後ろのシンデレラに手を伸ばす。


 アルフレッド様が身体でそれを遮った。


 ヘンリック様が王族の席を振りかえると、王様が頷いた。

 それを見たアルフレッド様の目に、はっきりと怒りが見える。

 ヘンリック様がもう一度アルフレッド様に向き合って、シンデレラに手を伸ばした――シンデレラが一歩下がる。


 どうやらダンスのパートナーを交換しようとしているのだと気がついた。


「イザム、あれって――」


 隣に目をやれば、会心の黒い笑みを浮かべてイザムが立ち上がった。


「ちょうどいい、これに便乗して帰るぞ」

「え?」


 どういうことかと思っているうちに、タイガさんも立ち上がってコートを着る。


 対応早っ。


「アイリーン、悪い顔しといて。あの剣士をゲーロにした時のやつ。あと、雷いくよ」

「悪い顔? 悪い顔ね。了解。雷? え、雷なの? だったら耳を塞ぐものが欲しいから待って」


 遅ればせながら立ち上がると、イザムが小さな耳栓を渡してくれた。タイガさんにも渡して耳に詰めるように言う。準備が整うと、わたしの腰に左の手を回して歩きだした。右手にはいつの間にか現れた例の杖、向かう先は広間で向き合ったままの王子様sのところだ。


 イザムが近づくと、それに気がついた人々がさっと退いて道を空けた。


 黒い笑みと右手の杖を見て慌てて距離を取ろうとする人もいるし、血の気の引いた白い顔で跪く人までいる。


 だいぶ怖がられてるね。


 ヘンリック様も気がついて、一歩退いた。

 アルフレッド様が背後にシンデレラを庇う。


 おお、さすがだね。


 だけどイザムはそれを見て冷たく笑った。


 視線を王子様sから離し、黒い笑みのまま次に向ける先は、何事かと目を見開いている王様だ。

 イザムの冷笑が更に深みを増し、あたりが静まりかえった。


「師匠から伝言だ」


 それなりに離れているのにその声はしっかり王様まで届いたらしい。表情が変わった。

 ポケットから一枚の紙を取り出して放り投げる。床に届くなりその場に緑色の煙がもくもくと立ち昇り、しわがれた低い男性の声が広間中に響き渡った。


『孫娘たちに対するお前と息子の行動は不快だ』


 煙が薄れるとともに声の余韻もひいて、広間がまた静かになった。


「伝えたぞ」


 イザムの言葉に対し、王様には返事をする時間は与えられなかった。


 ガラガラガラドドーン!!


 聞き覚えのある大音響とともに地面が揺れ、悲鳴が響き渡った。


 厚い石壁で囲まれたお城の中にいるというのに、ごう、と風の音がして広間の扉が一斉に開く。

 その扉から背中にコウモリの羽が生えた黒スーツの男性が二人飛び込んできた――そしてそのうちの一人がシュヴァルツさんだと気づいた時には、もう二人ともシンデレラの腕を掴んでいた。止めようとしたアルフレッド様にイザムが向き合う。


「次はない、と言ったはずだ」


 呪文を詠唱するイザムから黒い靄と白い冷気のようなものが立ち上り交じり合う。黒い魔法陣が浮かび上がり、ゆっくりと登って行く。円柱状に登っていき、驚きに声もなく目を見開いたままのアルフレッド様の頭の上まで達するとピン、と音が弾けて陣が消えた。


 今回響き渡った悲鳴は犠牲者のものではなく、周囲の人々だったけど。


「帰るぞ、アイリーン」


 悲鳴をあげて逃げ惑う人たちをしり目にさっさと歩きだす。

 シュヴァルツさんたちがシンデレラの腕を掴んだまま飛び去って、目の端にタイガさんが拳大の茶色い生き物を拾うのが映った。

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