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3. こだわりの理由

「何、これっっっ!?」


 緑に差し込む光が美しい林の一角で、大声をあげて超ミニのスカートを押さえ、へたりと座り込んだわたしの後ろから勇――この世界では大魔導士イザム(灰色にくすんだ長いローブみたいなものを纏っていて、透明な石の嵌った木の杖のようなものを持っている)――の落ちついた声がした。


「言ったろ。シミュレーションゲームみたいなものだよ」

「違っ、違う! そこじゃなくて、これ、この、わたしの格好!! なんで、これ、こんな……」

「帰りに選んだやつの通りに設定したつもりだったけど、どっか違った?」


 ボサボサだったはずの髪はここでは艶々と滑らかに肩に落ちている。その髪をかきあげて、超絶ハンサムな顔を晒し、久し振りに見た一切作っていない笑顔、しかもニッコニコの笑顔全開でこっちを見ている幼馴染を前に、わたしはすぐには言葉にならない苦情を込めてその笑顔を睨みつけた。


 そこじゃない。

 わたしが言いたいのはそこじゃないっ!


 確かに、はだけた白シャツに黒のビスチェ。太いベルトに太腿ばっちりの超ミニのプリーツスカートに短いブーツ。髪型までフィギュアの通りのロングのポニーテールになってるけど、そこじゃない。

 わたしが言いたいのはそれを身につけているのが、わたし(・・・)! だってところで、そんなことは全然まったく百パーセント予想と違うし聞いてない!


「勇、あんた、まさかわざと黙ってたんじゃないでしょうね? ことと次第によったらただじゃ済まさないんだから!」


 涙目でギッと睨んだけれど、大魔導士様の満面の笑みはちらりとも揺るがなかった。


「よく似合ってるよ! すごくかわいい! 最高! 絶対似合うと思ったんだ!」


 ポイントがずれてるところもまったく揺るがない。


「違うっ! あんた、最初っからわたしにこれを着せるつもりで選んだの? それって最低! セクハラ!」


 自分が身に着けてみると、絶対サイズもしくはデザインがおかしいとしか思えない。

 露出万歳って仕様の白シャツの前を引き寄せてどうにか胸もとを隠そうとしてみるけど、フィギュア作成者の手抜きなのかイザムの意図なのか、腹立たしいことにこのシャツ、ボタンがない! 

 もちろんわたし自身はそんな細かい所なんてまったく気にせずにあのフィギュアを選んだわけで、どうなっていたかなんて記憶にない。


「セクハラなんて、違うよ。ちゃんと好きなやつを選べるように一緒に選びに行ったじゃん。それに、あの黒のレオタードとか、網タイツのやつとかはさすがに嫌かなって……いや、着て欲しくないって訳じゃなくて、着てくれるなら大歓迎だけど、ほら、目のやり場に困るし……いや、でもほんと、着てくれるならすごく、あ、でも、やっぱりダメかも」


 思い出したように赤面してるけど、それって遠慮する方向が違うから。しかも絶対わたしに着せること前提の赤面だし。


「わたしが言いたいのは、これを着るのがゲームのキャラクターじゃなくて、自分自身だってことを、どうして黙ってたのか、ってことなんだけど!」

「ええ~、そこ? それは、別にそんなに気にしなくても……別に誰が見るわけじゃないし……って僕は見るけど、別に本人を直接見てるわけじゃないし、そりゃ、今のアイリーン(キャラクター設定で勇がつけたわたしの名前だ)の丸々全部が僕の想像ってわけじゃないかもしれないけど……ごにょごにょ」


 言い淀みながらニコニコニコニコしてるんじゃないっ!


「気にするよ! 何言ってるのかちっともわかんないし!」

「だから、ほら、ここは僕たちが知ってる世界じゃないし、よく見てよ。ちゃんと見たら本当の自分とは違うってわかるだろ? ほら、立って」


 そう言って左の手を伸ばした。


 左手で胸もとを押さえたまま、右手でその手をとってどうにか立ち上がったけど、これってその手がなかったら一人で立つなんて無理。

 このスカート丈じゃ、絶対無理。

 っていうか、ただ立ってるだけだってかなり、無理。


 見下ろしてみれば確かに、わたしの記憶にある自分の姿とは違うことがわかった。

 そもそもわたしはちゃんと現代日本人の体型で、こんなに足は長くないし、黒のビスチェがよく似合うメリハリのきいた身体じゃない。髪の毛だって肩下までしかないはずなのに今は腰に届きそうなさらさらロングのポニーテールになっている。


 で・も! 


 だからといってフィギュアの通りかと言えばそうでもない。

 確かにお店で見たフィギュアのボンキュッボンなお姉さんには遠く及ばないかもしれないけど、本来の五割増しくらいに盛られた(何なのこの補正!)胸――その左の胸の普段なら絶っ対出したくない位置にはわたしの記憶にある通りのほくろがあるし、これがあるということはまったく別人というわけではないはずだ。


 それに何より、イザムがこっちを見れば、見られている感覚があって、その自分が普段なら絶対にしない露出過多な恰好をしている自覚があることだけでもう、もう、もう、もう! だ。


「これ、勇の目にはこの通りに見えてるの? もうちょっとなんとかなんないの……?」

「なんで? すごく似合ってるのに。もう現実世界でもずっとそのままでいて欲しいくら……すみません」


 ギロリ、と睨むとイザムがその場に土下座した。


「装備を購入してチェンジするまではそのままです。ごめんなさい、しばらく我慢してください。あと、名前はイザムでお願いします」


 謝ってるように見せかけて下から見上げられてるような気がする……最悪だ。

 だけど勇は小さいころから嘘つきではない――つまり、当面衣装の設定は変えられないってことだ。


 ううう。太ももがスースーして落ちつかない。


「とりあえず立って。その位置から見上げるの、やめて」


 そう言いわたせば、ちっ、と舌打ちをした音がした。

 睨んでも、この灰色魔導士はまたしてもどこ吹く風の満面の笑顔。その頭を踏みつけてやりたいような気がするけど、それさえ喜ばれそうで嫌だ。


「ねえ、これゲームなんだよね? どうなってるの? ここどこ? わたしたちなんでこんなとこにいるの?」

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