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23. 学校

 そんなわけで着々と異世界生活には慣れていったけど、三日に一回、っていうのはけっこう頻繁だってことがわかった。

 異世界に行くことがじゃなくて現実世界で勇と顔を合わせるのが。

 小学生ならともかく、ラブラブの恋人同士でもあるまいし、三日に一回遊ぶなんて、なかなかしない。

 毎回勇の家にお邪魔するのもなんだか申し訳ないような気がしてそう言うと、「うちの母さん、お前が嫁に来るかもって期待してるくらいだから、困ってないよ。ほっといていいんじゃない?」と、斜め上の返事が返ってきた。


 そういうのが困るんじゃないかって話なんだけど、困ってないならいいか? でもやっぱなんか違うよね? そう思っていたら、勇が別の手段を提案した。


「学校の帰りとかに行くことにする? うちの部室なら都合もいい――見てもらいたい物もあるし」

「どこからでも行けるの? 部室って、他の人たちは?」

「行けないこともないよ。僕にとっては馴染みのある場所だから戻るのも簡単だし。まあ、人はいないときの方が無難かもしれないけど、基本的に向こうに行ってるのは一瞬だから大丈夫じゃないかな。いろんな資料もあるし、一回覗きに来たらいいよ」


 いろんな資料? なんだろう。


 そんな会話を交わした翌日の放課後、わたしはさっそく『異世界研究同好会』なる不思議集団の集う第二美術準備室を訪れた。


 美術室の隣の隣。キャンバスやイーゼル、石膏像とかがある第一準備室とは違って、本や写真といった紙の資料が置いてあった。

 その一角が、美術部部長の趣味の「デッサン&勉強用」の大量のフィギュア置き場になっている。部長さんは同好会の会長も兼ねているのだそうだ。

 そんな第二美術準備室では、部長さんがひとりで灰色のフィギュアに真剣な表情でカッターを当てていた。わたしたちが部室に向かったのが帰りのHRが終わってすぐだったせいか、他の部員の姿はない。


 高三にしては細身で柔らかい印象の部長さんは真面目そうで、制服も着崩したりしていない。

 挨拶をして、広いテーブルの向かい側に座る。丁寧にカッターを動かし続ける表情は真剣そのものだった。

 つい気になって、こんなにたくさんのフィギュアを持ち込んでいいのかと聞いたら、フィギュアの制作者になりたいので将来のためにも必要だし、デッサンの練習用に貸し出すから、と先生を説得したのだそうで、実際半分ほどは自分で作ったものだという。

 実際の人物像と違って想像の人体の体型を作成しているため、全方向から見て違和感のないフィギュアを作るのはとても高度な技術がいるのだ、と、穏やかながらも熱のこもった力説をされた。

 勇が横でうんうんと頷く。 


 よくよく見てみれば、資料の棚にも日本画や油彩の本に混じってイラストや漫画の描き方とか、フィギュア制作、3Dキャラクターの造形、ゲーム作成などの雑誌や漫画、それに冒険小説なんかも並んでいた。


「うちはどうしても女子からは敬遠されがちなんだけど、けっこう真面目にやってるんだよ。単に制作だけを好むなら美術部の方でもできるけど、ゲームとかファンタジー要素が入ってくるとそれだけじゃ語り切れないんだよね。で、同好会ってわけ」


 部長さんとそんな話をしているうちにちらほらと会員が集まり始めた。勇はそれぞれに紹介してくれて、そのあとはそれぞれに本や雑誌を開きながら趣味の話に花を咲かせていく。

 ごく普通の放課後の過ごし方で、なんとなく近寄っちゃいけないようなイメージを持っていたことを申し訳なく感じていると、勇が部長さんに「借りますよ」とことわってからコレクションの中から三体取り出して目の前に並べた。


「こういうのは、どう?」


 突然並べられたフィギュアは勇の好みのナイスバディのお姉さんタイプではなくて、ウエストこそキュッと絞ったデザインだけれど、どれもかわいい女の子タイプだった。


 黒白のメイドさんコスチュームのスカートは膝丈で、膨らんだバルーン袖に白襟のシャツ。真っ白い短いエプロンと靴下に、黒のローファー。

 そのとなりは不思議の国のアリスタイプで、頭に水色の大きなリボンがついていて、ふくらはぎまであるAラインのスカートの裾にはひらひらした白のレース。靴もエナメル系の水色で統一されている。

 もう一つはいわゆるゴスロリで、最初のメイドさんコスチュームと似ているけれど厚底のブーツとコテコテのヘアセットとチョーカーがあるところが全然違う。


「わ! これはかわいいね」


 台座を持ってくるりと回す。フィギュア本体を持つと怒られるのは勇で学んだ。


「……でも、これって難しくない? 特にスカートのところとか、ふんわりしているのはかわいいけど、すごくひだがあってレースもいっぱい使ってる。」


「よくわかってるじゃん。でもまあ、好き嫌いの範囲で答えてよ」

「好き嫌いって言われれば、ミニスカビスチェよりは……う~。だけどますますファンタジーだし、何より靴が……ローファー以外はどっちも歩きにくそう」


 矯めつ眇めつしながらちょっと実現不可能じゃないかと思っていると、横から他の部員の声が割り込んだ。


「何? コスプレすんの!?」

「え! 本物作んの?」

「藤本さんが着るの? うわ、いいな~」

「何のイベント? いつ参加すんの?」


 急にワイワイと盛り上がってしまった。


「や、着ませんよ! こんな格好したら大変だろうなって思っただけで……」


 訂正すれば、一様にがっかりした顔をされた。

 でも、そんな顔をされても困る。


「せっかく女の子なんだし、着たらいいのに」

「そうだよ。きっと似合うのに」


 口ぐちに言ってる。なんだか、どこかで聞いた台詞だ。


「いやいや、自分で着たらいいじゃないですか。男性用のコスチュームで」

「「男が着飾ってなにが楽しいんだよ……」」


 返ってきた返事にそれも聞いたことがあるなあ、と思っていたら、メイドのフィギュアを手に取った勇が、「ほらな」としごくまじめな顔で言った。


「ほらな、じゃないよ。他人事だと思って。だいたい自分は着ないくせに人に着せようってのがそもそも変だと思わないの? しかもこっちの希望無視とか、ありえないし」

「だから好き嫌いを聞いたんだよ」


 今さらだよ。


「自分が着る設定じゃなかったらどれだろうと気にしない。勇だって自分が着るってなったらどう思うの、それ?」

「男はメイドになったりしないだろ!」


 ガシッ。


「なれないわけじゃないよね、佐野君?」


 勇の両脇からにこやかな微笑みを浮かべた部員たちの腕が伸びていた。


「藤本さんは、自分は着ないくせにって言ってたんだから、佐野が着たら着てくれるってことだよね~?」

「「え?」」


 勇と声が重なった。


「いや~、楽しみだなぁ。次のコスイベって何があったっけ?」

「次ならTGSじゃない?」

「イベ待ちしないで遊びに行けばいいんじゃない?」


 なんだか話が進んでない? しかも悪い方向に。

 座ったままで勇を振り仰げば、ぼさぼさの髪の毛の間から見える顔から血の気が引いている。


「ちょっと待って!? 勝手に話を進めないで! そもそもが着たくないって話だから!!」


 慌てて止めれば、「「えええ~、そんな!」」って、『そんな!』はこっちの台詞だよ!

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