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22. 衣装(コスチューム)は誰のため?

「あんたね……世の中は自分の思う通りには動かないものよ?」


 トントンと指で雑誌を叩く。


「自分はあの格好で好きなように動いていながら、『面白くない』って理由だけで自分のコスプレは却下して、わたしにあれを強制しようってのはおかしいと思わないわけ?」


 アイリーンの露出度に比べたら、このメガネ男子の襟元の露出具合なんて十分の一以下だ。

 

「こんな格好をした男が見たいやつなんていないだろ。むしろイタいやつにしかならないじゃないか」

「わたしの格好がイタくなかったなんて言わせない。しかもだまし討ちで着せたくせに!」

「黙ってたのは悪かったけど、あれはちゃんとかわいかったよ!」


 ぐ。

 予期せぬ褒め言葉のせいで会話に詰まった。


「すごくかわいかったし、僕の部屋着を着てたのもかわいかった。見逃したけどバニーだって絶対似合ってたと思うし、あの……その……ごにょごにょ」


 顔が真っ赤になった。つられて自分の顔も赤くなったのがわかった。絶対あのキャミのことだ。


「言わないで! っていうか今すぐ忘れろ! とにかく(・・・・)わたしは喜んでないし、絶対にこういうのは着ない」


 勇のお勧めらしい、ミニのフリフリワンピで片足を後ろに上げ、『やだ~っ』って感じで片手を口もとにあて、驚き顔で振りかえっている女の子の絵を指さすと、勇が「そんな。これなら太ももがすごく綺麗に見えるのに」って。

 冗談じゃないよ。


「……今日はもう帰る」

「ちょ、待って! 待って待って。もう言わないから。まだ話しておきたいことがあって」


 慌てたように両手を振ってから、手の甲を上にして握った片手を前に出してきた。


「何?」

「これ、持ってて」


 両手をおわん型にして差し出せば、コロンと手の中に転がったのはなんと異世界でイザムが買ってくれたはずのローズピンクのネックレスだった。


「え? これ……?」


 向こうの机の上に置いてきたはずだ。

 手の中のきれいな石をじっと見つめる。


「向こうにいる時の保険みたいなものだと思って。なくさないでね」

「うん……でも、これどうやってここに……」

「秘密」


 そう言って勇が首を傾げてわたしを見る。少し唇の端が上がった。


 なんだろう、目が優しくなった気がする。


 そういえばちゃんとした(見た目改悪してない)勇をまともに見るの、久しぶりだ。


 異世界では怪しいローブ姿で、髪もそれらしく整えたかなりの長髪だったけど、現実では横が顎くらいで後ろが肩に着くくらい。学校では単にもさもさしてる印象しかなかったけど、こうやってちゃんと手を入れて顔を出すと、けっこう似合う……いや、もともと何をどうしたって似合うのか。


 うん。そういうやつだったよね。


「つけてあげる。そっち向いて」


 ひとりで納得していると、手に乗せてくれたネックレスのチェーンをつまんでからわたしの肩を押して、向きを変えさせた。


「髪、上げて?」

「あ、うん」


 髪をひとまとめにしてから持ち替えて勇の手が通るように動かすと、金具を留めながらイザムが囁くように聞いた。


「嫌になったり……してないよね?」


 ああ、さっきからなんだか窺うような感じがあったのは、これが知りたかったからか、と腑に落ちた。

 異世界での割と傍若無人な感じの魔導士じゃなくて、本来の、わたしが知ってる勇らしい、心配と配慮。


「大丈夫だよ」


 そう言いながら笑顔で振り向けば、ほっとしたのか、勇の肩の力が抜けたのがわかる。こっちに戻ってから笑っていなかった勇が、ちゃんとした笑顔になった。

 

 ~~~~~~


 それから一時間ほど、アニメキャラの雑誌を見ながらああでもないこうでもないと衣装について論じた。


 2D(平面)のキャラが着ている衣装を実現させるのはかなり難しいらしい。それは単に勇の想像力の問題で、衣類はバックサイドも含めてできるだけ細かく想像できることが大切で、ダボダボのローブは想像力があまり必要ないのだそう。そういう意味では手の込んだひらひらフリフリの衣服よりは水着の方が簡単で、全てを考慮するとフィギュアが写し取りやすくて最適なのだと力説された。


 現実で着ている衣類などの私物を向こうに運ぶのも、自分の頭でしっかり想像できるか、慣れ親しんでいて問答無用で受け入れられる物でないと難しいらしい。中身の構造も理解している方がいいため、例えばシャーペンは難しいけれど鉛筆は簡単で、ジーンズよりは無地のTシャツの方が簡単なのだそうだ。

 だから勇が持ち込めるのは慣れた自分の私物で、わたしの物は無理。わたし自身がレベルアップして自分で持ち込めるようにした方が早いそうだ。


 ――そして向こうに転移した時のわたしはやっぱりあのフィギュアの衣装がデフォ。

 いろいろ付加してあるから外に出るなら極力あれで、って言われた。でも、あれが嫌なら着いてからマダムの店で買った衣類に着替えるのもありだそうなので、とりあえずはそれでいこうと思う。


 他にはクロちゃんと出会った時のことや、シルバーの縄張りに住みつくことになったいきさつについて教えてもらった。


 クロちゃんとは一年くらい前に会って、たまたま一家が住処にしていた洞窟がドラゴンに潰されかかっていた時に助けてあげたのだそう。その縁で、恩返しにと一家を離れて何匹かがついて来ることになったそうだ。使用人扱いで仲間も数匹出入りしていて、それまで一人旅だったのでとても嬉しかった、と勇が笑う。


 シルバーのところに辿りついたのは半年くらい前だそうだ。正体不明の強大な力を持つ放浪の魔導士がいると噂が流れ始め、魔法関係の依頼を持った使者があちらこちらからイザムを探してうろつくようになった。

 そのせいでのんびり放浪の旅を楽しみにくくなってしまったイザムが落ちつく場所を探していたら、偶々自分が最初に訪れた国だったドッレビートに、銀狼たちが住む『いい感じ』におどろおどろしい土地があって、中途半端な来客除けにもちょうどいいから住みつくことにしたのだという。

 勝手に入り込まれたシルバーたちの方はいい迷惑だったらしいけれど、わたしも見せられた雷の一撃で黙らせ、協力体制をとることで落ちついたそうだ。


 基本的に大きく関わり合うことはないけれど、狼たちは普段、イザムの館周辺も含め領地を警備して来客を追い払ってくれる。その代わりに毛皮を狙う猟師やドラゴンが来た時はイザムが追い払う――イザムの方が主だけれど、そのあたりは持ちつ持たれつの関係だ。

 猟師の方は齢三百の大魔導士という噂と、領地に近づくと起こるちょっとした怪異に恐れをなして、すぐに近づかなくなったし、ドラゴンは……今のところ現れていない。そう言ってにやりと笑う。


 なんだそれ……ドラゴンって、本当にいるのかな。


 自分からイザムに付いてきたクロちゃんは、使い魔とはいってもどちらかというと友人であり、自由なマスコット的存在で、本人が望めばいつでも家族のところに帰っていいけれど、シルバーはイザムと戦って負けた扱いのため、従属する立場にあり、イザムが命令した場合には従わなければならないところが違う。


 シルバーにとってのアイリーンは主人の客で、アイリーンがシルバーに何かを命令してもシルバーに従う義務はない。ただしそれがイザムのためになることだとシルバーが判断した場合は協力してくれる可能性が高まる。

 お出かけ前にもふもふした時のように、イザムの損得を自分で計算して動くこともあるが、行動の基本はイザムにある。


 今回仲間? になったイアゴもシルバー同様で、基本の従属契約はイザムが結んでアイリーンの命令には従うようにと命じてある。わたしと比べるとイザムの力の方がずっと強いし、慣れているとかで、そのあたりは全部お任せした。わたしもおまけ程度の契約を交わし、契約書に言われたとおりにサインもして、使い魔としては一応共有ではあるものの、優先されるのはイザムだ。その辺りははっきりさせておく必要があるらしい。


 いろいろ話して、次の日にもう一度会う約束をした。

 薄手のパーカーのフードを深くかぶって、色付き眼鏡というまたちょっと変質者っぽい格好になってから、勇は律儀に三軒隣まで送ってくれた。


「じゃあ、また明日」


 嬉しそうに笑う。


「おっけ。明日ね。それから、今後わたしに着せるつもりなら、露出までお揃いの衣装を着ることを覚悟しといてよ!」


 にやりと笑ってわたしは家の中に入った。

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